獣人騎士団長の愛は、重くて甘い

こむぎダック

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千年王国

怪獣マスター☆レン

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「レーンッ!!」

 何処だ?
 何処に落ちた?

 何処に居る?!

「レンッ!!返事をしてくれッ!!」

 何故、返事をしてくれない?
 なんで念話が通じない?!

 レンから最後に感じたのは、驚きと嫌悪感。

 まさか・・・。

 嘘だ?!
 そんな事、ある訳が無い?!

「ウオォォーーーーッ!!」

 俺は飛び出した勢いのまま、目の前の醜悪な化け物に剣を突き立て、落下する体に身体強化を掛け、水を吸いブヨブヨと膨らんだ魔物の身体を、一気に下まで切り裂いて行った。

 べしょりと零れだした消化液をマントで避け、そのまま引き千切って投げ捨てると、モサンの糸で織られたマントは、あっという間に溶けて消えてしまった。

 地響きを立て、地面に倒れたサンドワームの上に着地し。
 ぬらぬらと動く身体の上から、愛しい番の行方を捜した。

「レン何処だ?! レンッ!!」

 お願いだ!
 返事をしてくれ!!

「・・・あれは?」

 壁に向かい、消化液を吐き続けている他のサンドワームの身体の間に、見覚えのある荊がチラリと見えた。

 干ばつに堪え、生き残った荊だろうか?

 その場違いな青い葉から、目が離せなくなった。

 そして・・・。

 ドックン!!

 番を失う恐怖に凍り付いていた心臓が、大きく拍動し、俺の意思に関係なく、バクバクと脈打ち始めた。 

「クッ!ウゥ!!」

 急激に心拍が上がり過ぎたせいか、くらくらして、頭が回らない。
 目の前もボンヤリ霞んで見え始めた。

 サンドワームの身体に剣を突き立て、それに縋る事で、何とか座り込むことは避けられたが、足に力が入らなくなった。

 なんだこれは?
 何が起こった?

 俺はレンを、見つけなくちゃならないのに・・・。

 ザワッ・・・ザワザワ・・・・・。
 ザワザワザワザワ・・・。

 激しい雨音に混じり、何かが蠢く音が聞こえて来た。

 白煙を上げる程の豪雨に打たれ、ずぶ濡れで霞む目を音の方に向けると、さっきの茨が、枝を伸ばしていくのが見えた。

 あれは・・・・・。
 レジスの墓の荊か?

 朦朧とする頭で、考えられたのはそこ迄だった。

 ザワザワと揺れ動いていた荊の枝が、俺の足の下に横たわるサンドワームに絡みつき、どうやら養分を吸い上げている様だ。地面からも次々に枝が生え、消化液を吐き散らす全てのサンドワームに絡みついて行った。

 荊に絡みつかれギッチリと拘束された、サンドワームの身体に荊の棘が食い込み、緑色の体液が流れ出しては、雨に洗い流されて行った。

 しかし生きているサンドワームの方は、養分を吸われていないようだ。

 この荊は死んだものからしか、養分を吸わないのだろうか?

 そんな事をぼんやりと考えながら、周りの様子を夢見心地で眺めていると、ふやけた体を拘束された魔物達の中央から、荊の束が上へと伸びあがった。

 サンドワームの頭の高さまで伸びた荊が、ゆらゆらと揺れ、そしてポンッと場違いな音が鳴ったと思った次には、俺が腕を広げたよりも大きな、真っ白な花が咲いたのだ。

 その花は、無数の花弁を揺らし、真っ黒な二つの眼と、ぎざぎざの歯が生えた大きな口を持っていた。

 信じられない事に、この花はこの豪雨でもはっきりと分かるほど、レンと同じ香りを放っていた。

「なんだ・・・あれは」

 回らない頭と口で、そんな事をぼんやり呟いた気がする。

 そして、その花が恭しく捧げ持つように、丸く絡めた緑色の大きな葉を持ち上げ、その葉がはらりと解けると、葉の上に座り込んだ番の姿が現れた。

 レンの衣の袖は破けてなくなり、白い右腕がむき出しになっていた。

「レ・・・ン・・・」

 生きてた。
 俺の番が生きていてくれた!!

 胸の中は喜びで満たされたが、どうしても体を動かすことが出来ない。
 飛んで行って、番の躰を抱き締めたい。
 生きている温もりを感じたい。
 
 どうして体が動かない?

 完全に呆けた状態で、番を見守るしかない俺に気付いていないのか、荊の葉の下から番の白い腕が伸ばされた。

 すると荊の拘束が緩められたサンドワームが、順にレンの手に頭を押し付け淡い光を放つと、荊の下に大人しく丸くなって行った。

 この時になって初めて、レンが魅了を使い、サンドワームの群れをティムしたのだと気付いた。

 それにしても、この荊は・・・・・。
 まさか、いちごなの・・・か?

 サンドワームの群れをティムし終え、ホッとした様子のレンは、漸く俺に気が付いた様子で、俺の方を指差しながら、ペシペシと座っている葉っぱを叩いている。

 いちごと思われる、荊の花は真っ黒な目で俺の方を見ると、大きな口を笑いとも見える形に引き上げて、ゆっくりと俺の方へと身を屈めて来た。

 段々近づいて来る笑い顔が、小馬鹿にしている様に感じるのは、俺の僻み根性が強すぎるから、だろうか?

 そして俺の前にレンを差し出した、いちごらしき花は、もう一度ニンマリと笑たのだ。

 コイツ!
 やっぱり俺の事を馬鹿にしているな!
 確かに俺は、役に立たなかったが・・・。
 腹立つな!!

「アレク!」

 葉の上から飛び降りたレンが、俺の腕の中に飛び込んで来た。

 しかし、俺もレンもずぶぬれで、互いの体温を感じる事は出来ない。
 それでも、腕に馴染んだ番の感触は、何よりも俺を幸せな気分にしてくれる。

「良かった。心配したんだぞ。何故あんな危ない事をしたんだ?」

「ごめんね。でもアウラ様がそうしろって」

「アウラが?」

 チッ!!
 ポンコツ神め!

 レンの事を我が子と呼びながら、何故平然と危険な事をさせるのか、俺には全く理解できない。神故に無事でいられることを、知っているのかも知れないが。だったら先に情報を寄越せば良かろうに!

「アレク。怒ってる?」

 そんな悲しそうな顔で見上げられたら、叱る訳にはいかんだろ?
 
「怒ってない。アウラにムカついただけだ」

 そう言うとレンは、ホッとしたらしく、俺の腰をぎゅっと抱きしめてくれた。とても嬉しいが今の俺達はずぶぬれで、2人とも服が体に張り付いてしまっている。

 その・・・この状態だと、レンのけしからんお胸の感触が直に伝わってきて、俺的には嬉しいのだが、非常に困った状態になりそうだ。

 一応このでかい荊も気を使っているのか、葉っぱを重ねて、雨よけになってくれているが、レンの魅了を受けたばかりの俺は、苦しい状態になる寸前だ。

「レン、このままだと風邪を引いてしまうぞ」

 名残惜しいが、けしからんお胸を俺から遠ざけ、レンと俺の服を魔法で乾かし、むき出しになった腕を隠すために、俺の団服をレンの肩に掛けてやった。

「大きい・・・そして重い。アレクはこんなに重い服着てて平気なの?」

「そうか?重いと感じた事はないがな」

「やっぱ体格の差かしら。でもアレクも寒いでしょ?乾かしてもらったから、私は平気よ?」

「だめだ。腕が見えてしまう」

「腕?腕くらい見えたっていいじゃない?」

「・・・・・」

 そうだった。
 この人のいた国は、薄布一枚で人前で泳ぐような、破廉恥な事が罷り通る国だった。

「とにかく駄目だ。俺以外に君の肌は見せないでくれ」

「え~?腕もだめなの~?」

 番は不満そうだったが、レンの魅了が何処まで広がっているか分からない。そこにレンの白珠のような肌を晒したら、どんな騒ぎが起きるか。

 想像するだけでも腹が立つ。

 第一レンの綺麗な肌を眼にして良いのは、俺だけだ。 
 
「駄目だ。とにかく一旦向こうに戻ろう。マーク達も心配している筈だ」

「あっそうですよね。みんなに心配掛けちゃったよね。いちご私達をマークさんの所に連れて行ってくれる?」

「やっぱり、いちごだったのか」

「ね?びっくりよね?」

 ニコニコして居ているが、君がティムする魔物が、どんどん強大化しているのに気付いて居るか?

 あっ違った・・・クオンとノワールは、もっとでかくなるのだった・・・。

 レンはクレイオスやカルの事を怪獣とたまに呼ぶが、ならばレンは魔獣使いではなく、怪獣使い。という事になるのか?
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