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千年王国

閣下はノリノリ

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「あれ~?周りもついでに浄化したのに、死体が残っている魔物が結構いますね」

「うむ。そのようだな」

 レンは目の上に手を添えて、外郭の下を覗き込んでいる。

「ううぇ!?本当に食べ始めちゃった!!」

「レン。あまり身を乗り出すと危ないから、こっちに来なさい」

「は~い。今行きま・・うわぁ!!」

「レン!!」

 外郭下のオーガキングが、壁に体当たりをしてきたせいで、足元がぐらぐらと揺らぎ、レンがバランスを崩し下に落ちそうになった。
 
 慌てて細い手首を掴んで引き寄せ、大事には至らなかったが、番を一人で歩かせるのは危険すぎる。

 やはり俺が抱いて歩くのが、一番安全だ。
 俺の心も癒されるし、正に一石二鳥。
 今日はもう、レンを腕から降ろさないことにしよう。

「あ~びっくりした。アレクありがとう」

「ここは戦場だ、気を抜いてはいかんぞ?」

「はい。ごめんなさい。気を付けます」

 素直に謝る番に、下心満載な俺は、少しだけ、ほんの少しだけ心が痛んだ。

 しかしその直後、レンがへなへなと座り込んでしまった。

「あはは。加減を間違えたみたい。また、遣り過ぎちゃった」

「だから無理をするなと、何度も言っているじゃないか」

「ごめんなさい。でも、イケそうな気がしたんだけどなぁ」

 全然イケてないだろ。

 仕方ない。
 恥ずかしいかも知れないが、君が悪いんだからな。

「マーク。ロドリック。ちょっとあっち向いてろ」

「えっ?」

「あぁ・・・了解」

 ロドリックはなんの事か分からなかった様だが、マークは察したらしく、ロドリックの腕を引っ張り、少し離れたところで、後ろを向いてくれた。

「アレク? ムッ?ンン~~~~」

 こんな時に人前で!

 と怒られるだろうが、魔力の回復を優先するなら、体液の交換が手っ取り早い。

 前にパフォスが言っていたし、こんなところで致す訳にはいかんのだから、キスくらいは許してもらいたい。

 小さな歯列を割り、舌を絡ませ上顎を舐めると、驚きで見開かれていた瞳がトロン溶けて潤むのが見えた。

 抗議が込められた拳が緩み、互いの息が熱く溶けあった。

 果実のような唇を甘噛みし、逃げ回っていた舌を捕まえて啜り上げ、唾液に魔力を込めて流し込むと、キスだけでも快感を拾い上げた体が、フルフルと震えている。

 あ~。
 可愛いくて甘いな。
 こんな場合じゃ無ければ、ベットに引き摺り込みたいのだが。

 魔力を流し終わる頃には、レンの頬は紅潮し、濡れて溶けた瞳がぼんやりと俺を見つめ返していた。

「もう、本当に無理するなよ?」

「う・・・うん」

 腰砕けになった番を抱き上げ、マーク達を呼ぶと、二人とも頬が赤くなっていた。それに気まずいのか、俺と目を合わせようとはしなかった。

 しかし、再びオーガキングが壁に体当たりをし、歩廊が揺れると、二人の顔は引き締まり、外郭の下を覗き込んだ。

「攻撃が、さらに激しくなってきましたね」

「腹が減っているからだろう、これだけの数が集まっていて、共食いが起きていなかった方がおかしかったんだ。ロドリックたちが狩り取った魔物を、中途半端に口にしたせいで、飢餓感に目覚めてしまったんだろうな」

「・・・・あの子達、私達を食べる気満々って事?」

 まだ少しぼんやりとした口調だが、レンも現実に戻って来たようだ。

「そうなるな」

「分かっていても、エグいね」

「だな。だがさっきのはもう駄目だぞ?」

「うう。はい」

「何故、あんな方法を思いついた?」

「ん~~。前から色々考えてたんです。もっとみんなが安全に討伐できる方法は無いかなって。それでさっき虫の魔物の話を聞いて、試してみようと思って」

 あぁ。普段から俺達の為に考えていてくれたのか。

「そうか・・・次からは、さっきの半分くらいにするんだ。いいな?」

「え?じゃあ」

「こら。今は駄目だ」

「あっはい」

 この人は、まったく。
 今魔力を使い過ぎて、倒れそうになったばかりなのに。

「閣下。そろそろ結界を張っている部下達の限界が近いようです。少し休憩を与えないと、魔力切れで倒れてしまいます」

「分かった。限界が近いものを下がらせろ。回復薬の使用も許可する。これ以降の薬の使用は自己判断だ。休憩中は俺が相手をして、外郭の西側に追い込む。元気な者は、先に西側の増援に回す様に」

「了解」

 ロドリックが伝令を走らせに行き、残ったマークにクレイオスの居場所を聞いた。

「クレイオス様ですか?え~と・・・あっ居た。外郭の下で座り込んでます」

 まだアウラと相談中という事か?
 クソッ!!
 何時まで掛かるのだ。

「マークは待機、今は体力と魔力の温存だ。これ以上クレイオスを待てん。始めるぞ」

「了解」

「アレク頑張って!」

「任せろ」

 番の応援が有れば、この倍の数でも行けそうな気がするな。

 左腕にレンを座らせたまま、愛剣を抜き放ち魔力を込めていく。
 充分魔力が乗った所で、一歩横に踏み出しながら、剣を横に薙いで斬撃を飛ばし、空を斬った斬撃が魔物たちを薙ぎ払い、地面を抉り取って爆散した。

「わぁ~~!相変わらず凄いですね!!」

「そうか?」

「うん。魔物の皆さんには悪いけど、やっぱり。カッコイイ」

 番の賞賛は、いつ聞いても気分が良い。

「ねぇ副団長。今って怖がるとこじゃないんですか?」

「あれはあれで良いのです。レン様が良しとするなら、それが正義です」

「はあ。そうなんですね。団長は仕方ないにしても、レン様に関しては、副団長も大概っすね」

「うるさいですよ。貴方降格したいのですか?」

「うわぁ~~。職権乱用ここに極まれり」

 外野に煩い奴が居るが、今の俺は気分が良いから聞かなかった事にしてやろう。

 それに可愛い番が、俺が次に何をするのか楽しみにしているからな、次はもっと派手なのが良いか?

 その後は、レンが褒めてくれることで気分が乗った俺は、見える範囲全てに、竜巻を起こし、炎を放ち、雷撃の雨を降らせ、緩ませた土の中に魔物を飲み込ませた。

「すご~い。今のどうやったの?」

「こんなの、できないですよね?」

 等々、番の賞賛と、心が落ち着く番の香りのお陰で、今の俺はノリノリだ。

 結果、俺は一人で見える範囲の魔物全てを蹴散らし、生き残り俺を恐れ、逃げ出そうとする魔物達は、外郭の西側に追い込むことに成功した。

 レンは俺が倒した魔物を浄化したがったが、今日は長丁場になる筈だからと言い聞かせ、浄化はまた後日行う、という事で納得させた。

 それにしても、クレイオスとアウラの話し合いは、まだ終わらんのか?

 結局俺が、クレイオスの尻拭いをしてやることになったな・・・。

 この貸しは高くつくぞ。
 覚えてろよ、クレイオス。
 
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