獣人騎士団長の愛は、重くて甘い

こむぎダック

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千年王国

ご相談

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 くたりと手足を投げ出し、規則正しい寝息を立てる、番の白く滑らかな背中を撫でると、くすぐったかったのか番はコロンと横を向いてしまった。

 乱れて濡れたシーツと番の身体に洗浄魔法を掛け、薄く開いた唇に口づけを落としてから、番が目を覚まさないように、そっとベットから抜け出した。

 予備の団服に着替え、応接室に向かうと、そこには、ちょっとした修羅場が待っていた。

 腕を組んで椅子に座ったマークと、正座をさせられ腕を前に突き出したロロシュ。それをハラハラ、オロオロとしたエーグルが、何とか執り成そうと、マークの機嫌を取っている。

 見なかった事にしたいが、こうも堂々とやられると、気付かない振りは難しい。

「また。マークを怒らせたのか?」

「閣下あ~~」

 こんな時ばかり、情けない声で助けを求められてもな。

「マーク。これでは気が散って話が出来ん。ロロシュへの仕置きは後にしてくれ」

「チッ!」

 おい。俺は上官だぞ?
 舌打ちすんなよ。

 きりきりと眦を引き上げたマークが、ロロシュに顎を上げをて見せると、ロロシュは情けない顔で、腕を下ろし、よろよろと立ち上がった。

 椅子に座ろうとするロロシュに、マークは上官の許しも無く座ろうとするな。と冷たく言い放った。

 う~ん。
 これは根深そうだ。
 詳しい事情は・・・・
 聞かない方が良いだろう。
 知らなくて済むなら、ずっと知りたくないしな。

「何か報告はあるか?」

「外郭の結界は維持されています。魔物の方は、ヨナスの呪いと瘴気が浄化されたことにより、徐々に散って行っているようです」

「大方予想通りだな。他は?」

「例の神殿は、現在ショーンの部隊が封鎖しています。特に負傷者も居りません」

「外郭の魔物の討伐と、結界の調査は明日にしよう」

「結界も調べるのですか?」

「アーロンは身に覚えが無いと言っている。得体が知れない物を放置も出来まい」

「それもそうですね」

「大公子とヨーナム殿の様子は?」

「あの後、お二人で大公子の部屋に入ったそうなので、大公の最後を話されて居るのかも知れません」

 大公の身体から抜け出した、あの気味の悪いものは、レンの浄化で跡形もなく消えてしまった。残されたのは、大公が身に着けていた、衣服のみ。

 葬儀を執り行うとしても遺体が無いと言うのは、残された者達も複雑だろう。

「ヨーナム殿は、最後まで大公の変化に気付かなかった様だな」

「ヨーナムって爺さんは。元々大公の乳母だったんだよ。子供の頃から目の中に入れても痛くないくらい、可愛がってたんだと」

「それでよく、何も気付かないまま来たもんだな」

「たまに居るだろ?子供に自分の理想を押し付け、盲目的に子供を信じて、本当の姿を見ようとしない、アホな親がさ。あの爺さんはその典型だったみたいだ。大公子が大公の様子がおかしいと訴えても、忙しくて疲れているだけだと言って、いそいそと薬湯を作ってたらしいぜ?」

「なるほど・・・お前詳しいな」

「そりゃな?末息子をゴトフリーから助け出してからこっち、色々あの坊っちゃん達から、話を聞きだしたからな」

「公子達は、何処に閉じ込められていたんだ?」

「こことは別の離宮、つーか後宮の中だ」

「妾を囲える余裕があったのか」

「うんにゃ。今は正妃と後は二人だけだな。その2人ともがゴトフリーから送られて来た、例の蛇一族だ」

「軍部のパールパイソンか?」

「それだ。只一人は結構年が行っててな。先代の妾だったらしい」

「なんだ、話しは出来てないのか?」

「なあ。後宮だぞ?大公以外が入り込めると思ってるのか?」

「お前なら入るだろう?」

「まあ、そうなんだけどよ・・・・その話はあとで、閣下にだけ話すよ」

 ん?
 ロロシュにしては歯切れが悪いな。
 それに、この雄にしては、しおらしい。
 何を聞き出した?

 マークの目もあるし、余計な事は言わないに限る。

 触らぬ神に祟りなし。ロロシュには軽く頷き返しておくに留めた。
 
「全く別件ですまんが、一つ相談に乗ってもらいたい」

「レン様に何かありましたか?」

「いや。レンに関係はあるのだが・・・レンがさっき魔物をティムしてな?」

「はい?」

「さっきと言うと・・・まさかアーロンの事でないですよね」

 あの偏屈な龍が、レンの従魔?
 想像もしたくない。

「有難い事に、もっと小さくて可愛らしい魔物なのだ。レンが心を鷲掴みにされてしまってな?引き離すのが難しそうだったから、試しにティムさせたら、契約できてしまった。だが、それが何なのかサッパリ分からんのだ」

「小さくて、かわいい?」

「こうな?レンの掌に乗る大きさの植物系の魔物なのだ。頭が白い花で、腕が緑の葉っぱ、胴体が茎の様なのだが、腹の辺りがぷっくりしててな。根っこの足でよちよちと歩くのだ」

「なんですかそれ?」

「聞いただけでも、かわいいですね」

「だろ?どこかでレンの衣の袖に入り込んだらしいのだ。ピーピーと小鳥のような鳴き声をしている。誰か、あれがなんなのか知らんか?」

「いやぁ~聞いた事ねえなぁ」

「風呂に入りながら、レンもアウラの加護で調べてみたのだが、何だわ分からなくてな。似たような魔物を、皇都の温室で見たことが有るが、それとも少し違うようだ」

「そうですか皇都の温室で・・・・・はい?なぜ!そのような場所に魔物が?!初めて聞きましたけど?!」

「あ~。魔法局の奴が飼っている魔物で、害は無いと・・・・」

「はぁ?! 魔法局?! またあの連中ですかッ?! 次から次へと変なものを集めて来て。報告もしないとは?!」

 昔の話だが、魔法局の魔法師がスライムの変種を、無届で飼って居た事が有る。
 そのスライムは、繁殖力が強く、あっという間に魔法局の建物から溢れ出し、その駆除をマークに任せたのだが・・・あの時は酷かった。

 あの一件は魔法局だけでなく、騎士団にとっても、創設以来最悪の悪夢と言っても良いだろう。そんなマークが、ロロシュの所為で気が立っているとはいえ、魔法局と得体の知れない魔物と聞けば、過剰に反応するのも無理はない。

 今となっては笑い話にする者も居るが、マークはまだその域には達していないようだ。

「落ち着け。あのスライムの時とは違う、ウィリアムから研究の許可を得ているそうだぞ。それにあの魔物は、役に立つ薬を作るのだ」

「本当でしょうね?」

 なんと言うか、恐ろしいな。
 その疑いまくった顔は怖い。
 そんな顔をレンが見たら、ショックを受けそうだ。

「う、嘘をついてどうする。温室の魔物は、トレントの亜種で生体だと言っていたが、大きさは膝くらいまであったし、花が全く違う。それにレンがティムした魔物は、顔が有るのだ」

「顔?顔ってドライアドみたいな、人間に擬態した顔か?」

「いや。もっとのっぺりと薄い顔だ。しかしそれがなんとも愛嬌があるのだ」

「のっぺり・・・想像できねえな」

「レン様と一緒に居るのですか?」

「いや、庭で遊ばせている。・・・そうか、お前達も知らんか」

「庭にいるなら、みんなで見に行こうぜ」

何故か,乗り気のロロシュだが。
マークの顔が、恐ろしいことになってるぞ?

「レンはもう休んでいる。まだ主人抜きで近づくのは拙いだろう。明日カル達も一緒に見て貰った方が良さそうだ」

「なんだちびっ子は、もう寝てんのか?・・閣下、まさかとは思うが、あんた来るのが遅いと思ったら、もう一発鳴かせて来たのかよ?」

「悪いか?」

「悪かないけどよ~~。なあ?」

 ロロシュに話を振られたエーグルは、頬を赤らめフイッと横を向いてしまった。
 
 本当にロロシュとエーグルは、性格が正反対だ。ひねくれたロロシュに、素直で初心なエーグル。

 ふむ。
 バランスが取れて、これはこれで有りなのだろう。

 
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