獣人騎士団長の愛は、重くて甘い

こむぎダック

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千年王国

いちご

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 レンを抱き上げ、大公子の手から引き離すと、レンとマークには呆れた顔をされてしまったが、他の雄に番をベタベタ触らせる獣人がどこに居る。

 剣を突き付けない、配慮をしただけマシだろ?

 アーロンは知っていることは全て話したと、何故か不貞腐れいるし、大公子は相変わらず泣き通しだ。

 取り敢えずレンは浄化の疲れもあり、大公子も気持ちを落ち着ける時間が必要だという事で、一旦解散する事となった。

 アーロンには勝手にどこかに行くな。としつこく言い聞かせ。

 更に不貞腐れさせてしまったが、この偏屈な龍が何時まで俺達に付き合ってってくれるか、判断が出来ない。

 それにゴトフリー内の異常な瘴気の原因を調べる為、もう一度ヨナスの墓も調べ直したい。もしヨナスの遺体がヘルムントと同じ墓所に無いとするなら、墓所に選びそうな場所を、アーロンに見繕って貰う必要もあるだろう。

 俺達は宛てがわれている離宮へと戻り、部屋に落ち着く暇もなく、レンはシッチンとドラゴン達に治癒を施した。

 3人とも、回復薬を使用したお陰で、ある程度の回復はしていたが、全快とは行かなかった様だ。

 しかしレンが治癒を掛けると、シッチンの張れ上がった腕は、すっかり元通りになり、動きにも問題が無いとの事で、レンも胸をなでおろしていた。

 問題はドラゴンの子供達だった。

 怪我の状態の確認の為には、本性に戻らなければならず、部屋の中で二匹が同時にドラゴンの姿に戻れば、身動きもままならなくなってしまう。

 どちらか、一匹ずつ治癒を施さねばならないが、ドラゴン達は何方も自分が先だと言って喧嘩を始めてしまった。

 困ったレンは、二匹を同時に治癒するために、クオンとノワールを庭に連れ出し、そこで治癒を施すことにした。

 本性に戻った二匹の怪我は、シッチンの腕よりも直りが早い様で、ドラゴンの回復力の凄まじさを再認識させられた。

 しかし二匹は、レンに甘えたい一心からか。

「レン様ぁ。はねのつけねがいたいよ~」

「ぼくのはね、あながあいちゃってるよ~」

 とあっちが痛いこっちが痛いと、ピーピーと泣き言を繰り返していた。

 そんなドラゴンにレンは、優しくも辛抱強く付き合っていた。

「そうね。痛いよね。2人とも頑張ってくれてありがとう。でもねパフォスさんが言っていたのだけど、治癒で全て直してしまうのは、あまり良くないらしいのよ?」

「え~~?」

「そうなの~?」

「なんでも、小さな怪我ならいいけど、大きなけがをした時は、治癒で全部直してしまうとその部分が弱くなって、怪我をしやすくなっちゃうらしいの、2人ともまた怪我をするのは嫌でしょう?」

「うん」

「いたいのはいや」

「もし熱を持ったり、とっても痛くなったら、また治癒をかけて上げるから。今は我慢しようね?」

 と優しく諭し、早く良く成る様に、今日は早く寝る様に言いつけ、自分達の部屋に帰していた。

「子供と言うのは、ドラゴンでも手が掛かるものだな」

「そうねですねぇ。でもあの子達は素直で分かりやすいから。楽な方だと思いますよ?」

「まあ、確かにな。それより風呂の準備が出来ているぞ。おいで綺麗にしてあげよう」

「ありがとう。でも、魔法で出したお水だけど、なんか申し訳ない気がしますね」

「そうだなぁ。だがずっと埃塗れと言うのも、どうなんだ?」

「ホントそれ。やっぱりインフラ整備って大事ですよね」

 レンの髪を梳き、髪を洗う前に軽く埃を落としていると、また耳慣れない言葉が出て来た。

「いんふら?」

「インフラストラクチャー・略してインフラです。ヴィースではある程度の事は、魔法でどうにかなっちゃうけど、向こうでは魔法は有りませんから、水道、ガス、電気、道路や線路の交通網やあとネット環境なんかもインフラになります。こちらで使えそうなのは、道路整備と、水道でしょうか」

「すいどう?水の道か?」

「はい。向こうでは水を安定的に供給できるように、ダムをえーと。川を堰き止めて、お水を溜めて必要な分を、放水して利用するんです。その水は水道局が管理していて、ろ過と殺菌をして各家庭や、建物に水道管を使って供給していました」

「水を管理するのか?金がかかりそうだな」

「はい。だから向こうでは、お水はタダではなかったんです」

「あ~。まあこっちでも。砂漠地帯やマイオールの時みたいに、水の売り買いはあるからな」

「向こうみたいに各家庭に、って言うのは無理だと思いますけど。王都や皇都みたいに人の多い処には地域に一つずつくらいは、水の供給場が有っても良いのかも知れませんね」

「なるほどな。さあ、髪は梳けた風呂に入ろう」

 レンを連れ脱衣所に向かい、埃塗れの衣を脱がせていると、何処からともなくピーピーと声がする。

「なんの鳴き声かな?」

「さあ、鳥でも入ってきているのか?」

「それにしては声が近い様な・・・・・あ」

 レンが脱いだ衣を持ち上げると、衣の袂から、それがひょっこりと顔を出した。

「なんだこれ?」

「なんでしょう?」

「「・・・・・・」」

 レンの衣から顔をを出していたのは、真っ白な花だった。

 それは手の平に乗るくらいの大きさで、白い花弁の中心。雌しべと雄しべががあるべき場所に、小さな顔が有り緑の葉っぱの腕と根の足が付いて居る。

「これ・・・皇都の温室に居た」

「あー。魔法局の魔法師が散歩に連れて来ていた。あれか?」

「似てますけど、ちょっと違う・・かな?なんかポケモンみたい」

「ぽけ・・・・」

 うん。異界の情報も、今日はお腹いっぱいだ。
 ここは聞かなかった事にしよう。

「どうします?」

「どうすると言われてもな・・・どうしたものか」

「取り敢えず。放って置く?」

「いやぁ・・・魔物の幼体だと拙いだろう?」

「そっか、そうですよね。魔物かも知れないんですよね?」

「しかし・・・・レンに懐いてないか?」

「私もそんな気が・・・なんかスリスリしてきますし」

「「・・・・・・・」」

「なんか、可愛いな」

「可愛いですね」

 ピーーー?

「「・・・・・・」」

 なんだコイツ?
 首を傾げて甘えて来るとか。
 反則だろ?

 ピピッ? ピーピッ?

「ハウッ! かっかわいい~~~!! なにこれ?なにこれ~~?」

 いかん。
 レンの心が撃ち抜かれてしまった。
 これは、引き離すのは無理じゃないか?
 しかし危険な魔物だったらどうする?

「あ~レン。君に懐いている様だし、取り敢えず名前を付けて、ティムしたらどうだろうか」

「その手が有りました。ティムしたら言う事を聞いてくれそうですし。そうしたら後でゆっくり調べられますね」

「うむ。俺達もいつまでも半裸でいる訳にもいかんからな」

「確かに。この格好は間抜けです」

「何か良い名は無いか?」

「う~ん・・・・白い花白い花・・・うめ?ハルジオン?白木蓮はもっと大きいし、ジャスミンは花弁がもっと細いし・・・なんかしっくりこない」

「見た目はブライアーっぽいが、これも違うな」

「リンゴ、アンズ、苺、野ばら」

「おっ?反応したぞ」

「ホントだ のばら? いちご?」

 レンの呼びかけの ”いちご” に反応した魔物の幼体は、レンの掌の上で親指に頭を摺り寄せ、淡い光を放った。

「ティムできちゃった。やっぱり魔物なんだ」

「なんだか分からんが、外で遊ばせておくか?」

「外に出していいの?」

「ティムしたんだ。呼べば戻って来るだろう?」

「それもそうですね」

 手の平から、床に謎の魔物を下ろしたレンが、外で遊んでおいでと言うと、魔物は素直に言う事を聞き、よちよちと歩いて外に出て行った。

「本当に大丈夫かしら?」

「まあ、大丈夫だろ。それより風呂だ、湯が冷めてしまう」

 それに俺も、早くレンの肌を堪能したいしな。
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