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千年王国
信仰と真実
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「じゃあ。加護は与えていないけど、雨は降らせていたのね?」
『そういう事になるな。元々この地は雨の少ない土地だったのだ。砂漠とまでは行かんが、乾燥した土地でな。この地を囲む山を、雨雲が超えられず、夏の暑さと冬の冷え込みの激しい土地であったのを、我の番が雨雲を呼びこむことで、緑豊かな土地に変えたのだ』
「アーロンさんの番は、とても力の強い龍だったのね?」
『そうだ。強く美しい龍であった』
うっとりしやがって。
亡くした番を思い出しているのだろうが、今は話の続きを早くして欲しい。
「番自慢は後で聞いてやるから、話しの続きをしてくれないか?」
『本当にせっかちな雄だ。少しくらい思い出に浸っても良かろう』
「俺達はあんた達みたいに、長生きは出来ないからな。用事はさっさと済ませたい」
するとアーロンは、またヘルムントがどうのと、ぶつくさ言っていたが、話しをもとに戻すことは出来た。
『ヨナスが壊れてしまっていたと話したが、若い頃のヨナスはなよやかで優し気な雄であった。ヘルムントとの仲も良好のように見えたしな。只、一度怒らせると手が付けられず手を焼くのだと、ヘルムントはデレデレと話していた。だから我もヨナスが見かけ通りの雄ではないと知ってはいたのだ。だが内に秘めた恨みが、あそこまで激しいとは思いもしなかった。こんな事になるなら、クレイオスに与えられた予言を信じればよかった』
アーロンはヘルムントの死後、ヨナスとの交流はほぼ無かった事。ヨナスがレジスの墓参りに訪れるついでに、ごくまれにアーロンの住処へ訪ねて来る事が有った程度だったそうだ。
『ヨナスは己が魔族の血を引いて居る事で、子を持つことを諦めていた。ヨナスが子をもうければ、新たな争いの火種になるからとな。だがこれもヨナス本人の意思ではなく、レジスとヘルムントの意思であったようなのだ』
「ヨナスさんは子供を欲しがっていたのね?」
『そうであったのだろうなぁ。我が卵を持って現れた事も、自分だけ狡い。裏切者と責められたからな。番2人に子を持つことを反対されるのは辛かったのだろうな』
「え?番2人?どういうこと?」
『どういう事とは何か?ヨナスの初めの番はレジスだが?』
「え?え? レジスさんはお父さんよね?」
『だから?今はどうか知らんが、あの頃の王族の近親婚は普通であったが?ヘルムントとヨナスも従兄弟同士だったしな』
「でも・・でもレジスさんもヘルムントさんも獣人だったのでしょう?それなのに親子で番って・・・・どうなの?」
『相手が番かどうかの感覚は本人にしか分からん。レジスがヨナスを番だと言ったなら、番だったのだろうよ』
若しくは、亡くした番にそっくりの息子に、邪な思いを抱いたか・・・。
どちらにしても胸糞の悪い話だ。
『そしてな。ヨナスはヘルムントの求愛を受け入れたが、自分の番はレジス以外に居ないと思っていたようでな。あれほど仲睦まじく見えたヨナスとヘルムントだったが、ヘルムントの想いは、最後までヨナスには届かなかったらしい』
「そんなぁ・・・」
世の中の常識は、時代や場所によって大きく変わる。
変わらないのは人の想いだけだ。
『近親婚の是非はともかく、ヨナスが最後まで愛したのはレジス一人だけだった。魔族の苛烈さを持ったヨナスが、この地の者達を許すはずが無かろう。これは我がレジスの柩に縛り付けられて、初めて分かった事なのだが。レジスの頭蓋に込められていたのは、ヨナスの怨みだけであった。あの時既にヨナスの力は衰え始め、レジスの頭蓋に込められた呪いも弱まっていたのだろう』
「しかしヨナスは、この地の者達を自由にしたくなかった・・・・」
『そういう事だ。ヨナスは自分が死んだ後も、一日、一刻でも永く、この地の者を苦しめたかったのだ。だから我の身体を利用する事にした。ヨナスの邪法で我は身体から宝珠を抜き取られ、身動きの出来ない状態だった。そんな我にヨナスは怨嗟の言葉を吐き続けていたが、気が済むと我を置いてどこかに行ってしまった。宝珠を失った我はそのまま眠りにつき、今日までヨナスの呪いの力とされて居たのだ』
「そ・・・それでは・・アーロン様のお陰でレジス様の呪いが弱まったと言うのは」
『まったくの作り話だな。あの頭蓋にレジスの思念など欠片も残って居なかった。レジスはとっくに輪廻の輪に戻り、既に何度も生まれ変わっているやも知れんぞ?』
「で・・・ですが、雨。雨はどうなのですか?この国はこの数年、雨が全く降って居りません。それはアーロン様の宝珠ですか?大公家の秘宝として、祀られて居た石が奪われた後からなのです」
『我の宝珠が奪われた?宝珠は何処にあったのだ?』
「ヨナスとヘルムントの墓所の中だ」
『ヨナスがヘルムントと同じ墓所に?それは在り得んだろう』
「何故だ?」
2人が番であったなら、当然だと思うが?
『言ったであろう?ヨナスが最後まで愛したのはレジスのみ。他の雄と同じ場所で眠りにつくとは思えんな。雨については我にも分からん。無意識に我が雨を呼び込んでいたか、誰かが我の宝珠を利用して雨を降らせていたか。恐らく後者が正解だろうな』
「では!では!!ギデオン帝の侵攻から結界を張り守って下さったのは?!今も外郭に押しよせている魔物から、この首都を護って下さっている結界は、誰が張って下さったのですか?!」
言い募る大公子は、己の信仰を否定されたくない一心なのだろう。
信じていたの物が、全て偽りだったとは、思いたくはあるまい。
『知らんよ。我の宝珠を利用した誰かが張ったか、全く別の方法で結界を張ったのであろう。この際だからハッキリと言っておくが、我に其方達を助ける義理は何もない。更に言えば、我は其方達の先祖の犯した罪のとばっちりで、大事な我が子との時間を奪われ、永い間贄とされて来たのだ。それでも其方達を助けると思うのか?』
「アーロンさん。そんないい方しなくても良いでしょ?殿下は何も悪い事はしていないのよ?」
『む? むうぅ。確かにそうだが』
「殿下? このウジュカの人達が龍神信仰を、心の支えにして来た事は理解できます。それを全て否定されるは辛いでしょう。でもね、こう考えたらどうですか?このウジュカの人達は自分達の力で、呪に負ける事無く生き抜いて来た、力強く立派な人達なんだって」
「・・・・愛し子様」
「困ったときの神頼み。って言葉が有るけど。辛いとき苦しい時に神様に頼りたくなるのが人情ですよね?そうやって神様に頼って、本当に神様が手を貸して下さった人もいたかもしれない。でもね、全員がそうだとは思わないの。困難を乗り越えられたのは、その人たちが負けたくない、幸せになりたいって強く願い、頑張った結果だと思うのよ?」
「は・・・はい」
「この国の人達はとても強くて、立派な人達だと思います。貴方はそれを誇っていいの」
「はい。はい!ありがとうございます!」
俺の番は、良い事を言うな。
大公子も感激して、レンの手を握ったまま泣きくれているじゃないか。
・・・・・・
何時まで手を握っている積りだ?
そろそろ、手を放せよ。
『そういう事になるな。元々この地は雨の少ない土地だったのだ。砂漠とまでは行かんが、乾燥した土地でな。この地を囲む山を、雨雲が超えられず、夏の暑さと冬の冷え込みの激しい土地であったのを、我の番が雨雲を呼びこむことで、緑豊かな土地に変えたのだ』
「アーロンさんの番は、とても力の強い龍だったのね?」
『そうだ。強く美しい龍であった』
うっとりしやがって。
亡くした番を思い出しているのだろうが、今は話の続きを早くして欲しい。
「番自慢は後で聞いてやるから、話しの続きをしてくれないか?」
『本当にせっかちな雄だ。少しくらい思い出に浸っても良かろう』
「俺達はあんた達みたいに、長生きは出来ないからな。用事はさっさと済ませたい」
するとアーロンは、またヘルムントがどうのと、ぶつくさ言っていたが、話しをもとに戻すことは出来た。
『ヨナスが壊れてしまっていたと話したが、若い頃のヨナスはなよやかで優し気な雄であった。ヘルムントとの仲も良好のように見えたしな。只、一度怒らせると手が付けられず手を焼くのだと、ヘルムントはデレデレと話していた。だから我もヨナスが見かけ通りの雄ではないと知ってはいたのだ。だが内に秘めた恨みが、あそこまで激しいとは思いもしなかった。こんな事になるなら、クレイオスに与えられた予言を信じればよかった』
アーロンはヘルムントの死後、ヨナスとの交流はほぼ無かった事。ヨナスがレジスの墓参りに訪れるついでに、ごくまれにアーロンの住処へ訪ねて来る事が有った程度だったそうだ。
『ヨナスは己が魔族の血を引いて居る事で、子を持つことを諦めていた。ヨナスが子をもうければ、新たな争いの火種になるからとな。だがこれもヨナス本人の意思ではなく、レジスとヘルムントの意思であったようなのだ』
「ヨナスさんは子供を欲しがっていたのね?」
『そうであったのだろうなぁ。我が卵を持って現れた事も、自分だけ狡い。裏切者と責められたからな。番2人に子を持つことを反対されるのは辛かったのだろうな』
「え?番2人?どういうこと?」
『どういう事とは何か?ヨナスの初めの番はレジスだが?』
「え?え? レジスさんはお父さんよね?」
『だから?今はどうか知らんが、あの頃の王族の近親婚は普通であったが?ヘルムントとヨナスも従兄弟同士だったしな』
「でも・・でもレジスさんもヘルムントさんも獣人だったのでしょう?それなのに親子で番って・・・・どうなの?」
『相手が番かどうかの感覚は本人にしか分からん。レジスがヨナスを番だと言ったなら、番だったのだろうよ』
若しくは、亡くした番にそっくりの息子に、邪な思いを抱いたか・・・。
どちらにしても胸糞の悪い話だ。
『そしてな。ヨナスはヘルムントの求愛を受け入れたが、自分の番はレジス以外に居ないと思っていたようでな。あれほど仲睦まじく見えたヨナスとヘルムントだったが、ヘルムントの想いは、最後までヨナスには届かなかったらしい』
「そんなぁ・・・」
世の中の常識は、時代や場所によって大きく変わる。
変わらないのは人の想いだけだ。
『近親婚の是非はともかく、ヨナスが最後まで愛したのはレジス一人だけだった。魔族の苛烈さを持ったヨナスが、この地の者達を許すはずが無かろう。これは我がレジスの柩に縛り付けられて、初めて分かった事なのだが。レジスの頭蓋に込められていたのは、ヨナスの怨みだけであった。あの時既にヨナスの力は衰え始め、レジスの頭蓋に込められた呪いも弱まっていたのだろう』
「しかしヨナスは、この地の者達を自由にしたくなかった・・・・」
『そういう事だ。ヨナスは自分が死んだ後も、一日、一刻でも永く、この地の者を苦しめたかったのだ。だから我の身体を利用する事にした。ヨナスの邪法で我は身体から宝珠を抜き取られ、身動きの出来ない状態だった。そんな我にヨナスは怨嗟の言葉を吐き続けていたが、気が済むと我を置いてどこかに行ってしまった。宝珠を失った我はそのまま眠りにつき、今日までヨナスの呪いの力とされて居たのだ』
「そ・・・それでは・・アーロン様のお陰でレジス様の呪いが弱まったと言うのは」
『まったくの作り話だな。あの頭蓋にレジスの思念など欠片も残って居なかった。レジスはとっくに輪廻の輪に戻り、既に何度も生まれ変わっているやも知れんぞ?』
「で・・・ですが、雨。雨はどうなのですか?この国はこの数年、雨が全く降って居りません。それはアーロン様の宝珠ですか?大公家の秘宝として、祀られて居た石が奪われた後からなのです」
『我の宝珠が奪われた?宝珠は何処にあったのだ?』
「ヨナスとヘルムントの墓所の中だ」
『ヨナスがヘルムントと同じ墓所に?それは在り得んだろう』
「何故だ?」
2人が番であったなら、当然だと思うが?
『言ったであろう?ヨナスが最後まで愛したのはレジスのみ。他の雄と同じ場所で眠りにつくとは思えんな。雨については我にも分からん。無意識に我が雨を呼び込んでいたか、誰かが我の宝珠を利用して雨を降らせていたか。恐らく後者が正解だろうな』
「では!では!!ギデオン帝の侵攻から結界を張り守って下さったのは?!今も外郭に押しよせている魔物から、この首都を護って下さっている結界は、誰が張って下さったのですか?!」
言い募る大公子は、己の信仰を否定されたくない一心なのだろう。
信じていたの物が、全て偽りだったとは、思いたくはあるまい。
『知らんよ。我の宝珠を利用した誰かが張ったか、全く別の方法で結界を張ったのであろう。この際だからハッキリと言っておくが、我に其方達を助ける義理は何もない。更に言えば、我は其方達の先祖の犯した罪のとばっちりで、大事な我が子との時間を奪われ、永い間贄とされて来たのだ。それでも其方達を助けると思うのか?』
「アーロンさん。そんないい方しなくても良いでしょ?殿下は何も悪い事はしていないのよ?」
『む? むうぅ。確かにそうだが』
「殿下? このウジュカの人達が龍神信仰を、心の支えにして来た事は理解できます。それを全て否定されるは辛いでしょう。でもね、こう考えたらどうですか?このウジュカの人達は自分達の力で、呪に負ける事無く生き抜いて来た、力強く立派な人達なんだって」
「・・・・愛し子様」
「困ったときの神頼み。って言葉が有るけど。辛いとき苦しい時に神様に頼りたくなるのが人情ですよね?そうやって神様に頼って、本当に神様が手を貸して下さった人もいたかもしれない。でもね、全員がそうだとは思わないの。困難を乗り越えられたのは、その人たちが負けたくない、幸せになりたいって強く願い、頑張った結果だと思うのよ?」
「は・・・はい」
「この国の人達はとても強くて、立派な人達だと思います。貴方はそれを誇っていいの」
「はい。はい!ありがとうございます!」
俺の番は、良い事を言うな。
大公子も感激して、レンの手を握ったまま泣きくれているじゃないか。
・・・・・・
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