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千年王国

副団長も楽じゃない2

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『何事?!』

 カルが驚きの声を上げ、閣下と私は反射的に受け身を取った姿勢から、もう一度レン様の元へと走り出していました。

 しかし閣下が龍の身体を覆い隠した荊に手を掛けた時。浄化の光りで神殿の中は満たされて、荊は全て光りに還って行きます。

 そして ズズズ・・・。と地鳴りの如き重低音と共に、龍の身体が動き始め、次の瞬間にはその長大な躰が宙に浮かび上がりました。

 呆気に取られ見上げる私達の頭上では、瘴気に侵された鱗が浄化によって清められ、新たな鱗が生えだしているのか、古くなった鱗がぱらぱらと振り落ちてきます。

「レン!!おい!!レン!!早く出て来てくれ!!」

 宙に浮かぶ龍を振り仰ぎ、閣下は龍の角の辺りに必死で呼びかけています。

 龍の角と角の間には、今も檻のようにレン様を捕らえた荊が残ったままです。荊の中からはレン様の歌声が今も聞こえてきています。

 浄化に集中されて居る為、閣下の声や念話は、レン様に届いていないのかも知れません。

 レン様の浄化を受けたこの龍が、敵対行為を取って来るとは思いたくは有りません。ですが長期間レジスの呪いを抑え続け、更に瘴気に侵された龍が、正気である保証はない。

 レン様を取り戻そうと、閣下が焦るのは当然です。

「閣下?」

 あせった様子で周囲を見回した閣下は、何を思ったのか祭壇脇の倒れかけた柱に向かって、駆け出して行きました。

 そして最後の一歩で跳躍した閣下は、倒れかけの柱を蹴り、三角飛びで龍の背に飛び乗り、レン様に向かって龍の背を走って行きます。

「うはっ!閣下すっげ~」

 シッチンが感嘆の声を漏らす間に、閣下は龍の頭にたどり着き、レン様を捕らえている荊に飛びつきました。

「カル!同族でしょう?何とかしてください!!レン様を取り戻して!!」

『え?あぁ、分かった』

 カルは人型のままふわりと浮き上がり、宙に浮かぶ龍の目がぎょろりとこちらを見た気がします。しかし私はそれを確かめる事は出来ませんでした。

 何故なら、龍がぶるりと胴震いしたかと思うと、残っていた鱗を一斉にザラザラと落としながら、身体から光が発したからです。

 その光はレン様の浄化の光りを上回り、まるで小さな太陽が、突如神殿内に現れたかのよう。

 反射的に瞼を閉じ腕で顔を庇いましたが、それでも龍の発する光は強烈で、瞼を透かし紅い血管が見える程でした。

 やがて重さを感じる程の光りの嵐が過ぎ去り、瞼を開くとそこには、龍の背から振り落とされてしまったのか、呆然と天井を見上げる閣下の姿が有りました。

 何故か閣下に声を掛ける事が憚られ、閣下の視線を辿り天井を見上げると、そこには土埃に霞む青空・・・・?

 どうして?
 いつの間に・・・・?

 天井に開いた穴の淵から、団員たちがこちらを覗きこんで居る姿や、さらに上の空を見上げて居る者も居ました。

 閣下の視線は天井ではなく、団員たちが見上げるその先に注がれて居ました。

 真昼の空に浮かんでいたのは、金色の鬣を棚引かせた碧玉の龍。

 陽の光を受けキラキラと光る鬣の上に、見えている黒髪は・・・・。

「レン様!!閣下、レン様が!!」

「ああ。どうしたものか」

「何を暢気な事を仰ってるのです?!カル!カル!!」

『なに?』

「なに?じゃないでしょう?!貴方早く行ってレン様を取り戻して来なさい!!」

『ん~~~。後の方が良いんじゃないかな』

「はあ?!貴方何を言っているのです?!」

 無責任で暢気な様子に腹が立ち、カルの肩を掴んだところで、閣下に肩を叩かれました。

「マーク落ち着け。落ち着いてあっちを見ろ」

「はあ・・・・ウッ!」

 閣下が顎で示した先。
 龍が守っていたレジス様の柩は。
 擦れていただけの蓋が完全に床に落ちて砕け、柩の中から無数の蛇が這い出して来ていました。

「あれは・・・・レジス・・・・?」

「だろうな。創世時代から熟成された呪いだ。今レンを呼び戻しても、レンの負担が増えるだけだ」

 閣下は破邪の刀ではなく、愛剣を抜き放ちち、空気を裂いて一振りすると、柩に向かい身構えました。

「シッチン!ドラゴン達の様子は?」

「もう大丈夫っす!!」

「お前は?」

「右腕だけなら何とか」

「お前とドラゴン達は上に退避。上に居る連中に迎撃準備と伝えてこい。後アンをこっちの寄越してくれ」

「了解っす!!」

「え~~?」

「なんで、ぼくたちはダメなの~?」

「2人はさっきケガしたばっかりでしょ。無理をするとレン様が悲しむっす」

「うう・・・」

「ほら良い子だから一緒に行くっす。良い子にしてたら後でご褒美上げるから」

「ごほうび~!」

「じゃあ。シッチンといく~」

 ゆるゆるな会話ですが、やはりシッチンは子供の扱いが上手い。

「シッチン!!ヨーナム殿も連れて行け!!」

「了解っす!!」

 ヨーナムは床にへたり込み、大公が着ていた服を握りしめたまま泣いていた。

 あの大公は、何故あんなことになったのか・・・。
 大公城へ戻ったら、全てが分かるのかも知れない。

「来るぞ!!」

 シッチンを見送っていた私は、イスの鋭い声に柩へと視線を戻しました。

 柩から這い出て来た蛇に持ち上げられるように、何かが起き上がってきます。

 しかしその質量は、柩に収まる様なものでは無く、更に巨大な何か・・・。

「・・・嘘だろ?」

「閣下達と一緒に居るとこんなのばっかりだな」

「本当に、最近はこんなのばっかりですね」

 勿論閣下が、この化け物の身体が全て這い出て来るのを黙ってみている訳はなく。

 バリバリと轟音を上げ雷撃を落としました。

 普通の魔物ならこの一撃で丸焦げですが、この化け物はうねうねと動く蛇たちによって、閣下の雷撃を防いでしまいました。

「なんだ今のは?結界か?それとも無効化したのか?」

「・・・私には、あの蛇が雷撃を飲み込んだように見えましたが・・」

「飲み込んだ?そんな規格外なことが出来る魔物が居るのか?世の中は広いな」

 何を暢気に感心しているのやら。
 イスはゴトフリーから出た事も無く、外の情報にも疎いところがある。
 どっかの誰かとは違い、その分純粋で、愛しくも可愛らしくも有るのですが、今ここでその天然ぶりは無用ですよ?

「取り敢えず。他の魔法が効くか、試してみないと!」

 すでに閣下は、二激目に火焔をぶつけています。しかし閣下の火焔さえ、あの蛇の前で搔き消すように吸い込まれてしまいました。

 イスが放った土魔法は吸い込まれこそしませんでしたが、余り効果が無いようです。

 私の放った氷結で、やっと半分の蛇を、凍りつかせることが出来ました。

「やはり蛇には氷です!!」

 勝ち誇る私に、イスは困ったような笑みを向け、閣下は呆れたように溜息を吐いて居られます。

 別に、特定の誰かを思い浮かべた訳ではないのですが。
 まあ。そう取られても仕方ありません。

 しかし、喜んだのも束の間。

「なんだあれは?」

「ふざけるなよ。反則だろ?」

 せっかく邪魔な蛇たちを凍り付かせたと言うのに、無事だった蛇が、炎を吐いて氷を溶かしています。

 無駄に知能が高い魔物は厄介です。

 しかも柩の中の化け物が完全に起き上がってしまいました。

 起き上がったのは、頭部のみ。

 しかも、大人が5.6人で手を繋いで囲えるくらいの、アホほど大きな、レジスの生首だったのです。
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