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千年王国

副団長も楽じゃない1

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「レン!レン!そんなに焦って何が有った?!」


 カルのブレスからレン様を背中に庇いきり凛々しく立つ閣下は、まさに鬼神。

 レン様がうっとりと見つめる気持ちも、理解出来・・・・ないな。

 私には怖すぎる。

 ロロシュはあんな性格だし、何時も草臥れたようにだらしない格好をしているけれど、よく見ると優男だし、エーグルは文句なしの精悍な美男子だ。

 色々問題は有れど、私の番が閣下の様な恐ろし気な雄だったら、心臓に悪すぎる。

 レン様は、私の事を ”美人さん” と言って下さるが、閣下の事は世界一格好の良い理想の伴侶だと、恥ずかしそうに仰るのだ。

 閣下が鬼の形相で、威嚇を垂れ流している時でさえ、レン様は事も無げに閣下の眉間に指を当て ”綺麗なお顔に皺が出来ちゃうわよ?” と優しく閣下を宥められる。

 ひよこ達が、そんなレン様の様子を見て、 ”番マジック” と感心していたが、番だろうと、閣下にそのような態度で接する事が出来るのは、レン様だからこそだろう。

 閣下はお世辞にも美男とは言い難い方だし、レン様と一緒に居られると、レン様がお美しい分、それが強調されると言うか、大変残念な光景になる事も多い。

 しかしお互いを大切にされ、愛し愛され。
 互いを一途に想い合う姿は、まさに獣人の番としての理想のお姿だ。

 そんな閣下があれほどまでに、動揺するとは。

 こうしては居られない。
 レン様に何が有ったのか、確かめなければ。

「イス!シッチン達を頼みます!!」

「マーク!危険だ!!」

「問題ありません。彼方には閣下もカルも居ます。それよりも、シッチンとドラゴンの面倒を見てください」

「しかし!!」

「心配してくれるなら。シッチンの腕の応急手当てを終わらせて、直ぐに来てくれればいい」

 シッチンは、カルのブレスで崩れて来た柱の瓦礫からドラゴン達を庇い、左の腕があらぬ方向に折れ曲がってしまっている。本人は興奮しているからか痛みを感じていないようですが、それも長くは続かない。

 治療するなら痛みを感じていない、今のうちにした方が良い。

「分かった。頼むから無理はしないでくれ」

「ふふ・・。分かってます」

 閣下はレン様へ、同じ事を数えきれないほど、懇願していたな。

 自分が番から同じ事を言われる日が来るとは、なんともこそばゆい気分だ。

 アーロンという、龍に視線を戻し、走り出した先では、カルが床から延びる荊を薙ぎ払い。

 龍の上では、閣下がまるでレン様を狙うかの様に集まって来る荊を斬り伏せ、炎を操り、襲い来る荊を次々と塵に変えて行っている。

 安定した強さだ。

 鍛え抜かれた強靭な肉体。
 研ぎ澄まされた剣の技。
 膨大な魔力。
 人が到達できる最高峰まで、磨き抜かれた魔法の数々。

 この方のこの強さが、今の帝国を作り守って来た。
 この方こそが帝国の守護神だ。

「はあ?説得?魔物相手に?!そんな悠長な事をしてたら、あっという間に干乾びてしまうぞ?!」

 そんな閣下が動揺を見せ、レン様が囚われている荊に飛びつき、素手で茨を引き千切ろうとしているのは、中にいるレン様を傷つけない為でしょう。

 しかし、レン様にいったい何が?

「閣下!?」

 閣下は私の方へチラリと視線を寄越しましたが、直ぐにレン様が囚われている荊へ視線を戻してしまいました。
 恐らく、レン様と念話を交わして居られるのだろうが・・・・。

 全部声に出ていますね。

「君って人は!どうしてそうなんだッ!?」

 これは・・・・。

 はあ~~~。
 さっきの閣下の怒声と合わせると、レン様がまた閣下の容認できない、危険な事をされようとしているのですね・・・・。

 閣下が怒るのも無理はない。

 しかも、荊の中で全く反省していない、レン様の苦笑いが目に浮かぶ・・・・。

 閣下はまるで流れる血の様な赤毛をお持ちだが、このままでは種族そのまま、髪が白くなる日も近いかも知れない。

「なんとなく?!なんとなくで済む話じゃないだろ?!」

 おぉ!凄い!!

 閣下から漏れ出した魔力だけで、閣下の周りの茨が消し炭になって行く。

 私の援護も必要ないくらいだ。

 しかし、これ以上閣下に心配を掛けると、後で苦労するのはレン様なのに・・・。

 この状態だと、無事に帰ることが出来ても、3.4日はレン様のおそばには近づけなさそうだ。

「君は・・・・もういい!!これが魔物なら、全部焼き尽くせばいいだけだ!!」

 拙い!
 これは拙い!!

「閣下ッ!!お待ちください!!」

「うるさい!!今からこの荊を根絶やしにしてやるから。黙って見て居ろ!」

「いけません!!そんな事をしたら、中にいらっしゃるレン様も無事ではすみません!!」

「お前は、俺がそんなヘマをすると思ってるのか?!俺の魔力操作が未熟だと?!」

「そんな話じゃないでしょう!!荊の中でレン様がどんな状態なのか、分かって居られるのですか?!確実に安全な状態だと?!閣下が剣で茨を斬り捨てず、素手でレン様を外に出そうとしたのは何のためですか?!この荊が魔物なら、どんな動きをするか分からないのですよ?!」

「だが。このままにしていたら、レンがこいつに喰われてしまう!!」

 怒りに任せ、閣下が斬り付けた荊の下に、龍の鱗が見えましたが、瞬きの間に再び荊に覆い隠されてしまいました。

「ですが、レン様にもお考えが有るのでしょう?」

「マーク!!お前も分かるだろう?レンが取る方法はいつでも、自分の身を削るやり方だ!!お前はこの俺に!それを見過ごせと言うのか?!」

「私は閣下に、レン様のお考えを、尊重するよう申し上げているだけです!!」

 私だって閣下のお気持ちは痛いほどわかる。
 番持ちの獣人なら誰もが抱えるジレンマだ。

 でも、だからこそ。閣下には、レン様のお考えを尊重していただきたい。
 しかし閣下は、私の言葉を無視し、腕に炎を纏わせ始めてしまった。

 とんでもない魔力が、丸太の様に太い、閣下の腕に集まって行く。

「おやめください!!」

『さっきから何を揉めてるの?!そんな暇があるなら、早くレンを助けなよ!!』

 しびれを切らしたカルが、跳躍一つで龍の頭で登ってきてしまいました。

 カル迄参加したら、余計に話がややこしく成ってしまいそうだ。

「カル!後にして下さい!」

 カルが不服そうに口を開き、閣下の腕が炎を放とうと振り上げられた時。
 荊の中から、レン様の透き通る歌声が流れてきました。

 お声に張りがある。
 レン様は御無事だ。

 レン様が紡ぐ異界の歌に、聞き入る様にカルは口を閉ざし、閣下は腕を振り上げたままピタリと動きを止めています。

 どんな説得の言葉より、レン様の清らかな歌声が、閣下を宥めるには一番効果的ですね。

 レン様をとらえた荊の隙間から、浄化の光りが漏れ出し、舞い上がる光の粒同士がぶつかり合って、シャラシャラと微かな音を立てながら、空へと昇って行きます。

 天井までたどり着いた光が、スウーッと中に吸い込まれ、きっと外から見たら、地面から浄化の光りが、溢れ出てくるように見えるに違いありません。

 先程迄、しつこく湧き出して来た荊も動きを止め、刺々しい枝も光を放ち、浄化されて行きます。

 流石はレン様だ。
 何と慈悲深く暖かな光りだろうか。

 恍惚とした面持ちで、光の乱舞に見惚れていた私は微かな振動を感じ、足元を見下ろした時、私達が乗っている龍の身体がぐらりと揺れ、アッと思った瞬間、気が付いたら私達3人は床に投げ出されていたのです。

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