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千年王国

目覚め

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 アーロン様の角を掴み、浄化は全開。

 狭くて踊る事は出来ないので、歌だけは心を込めて歌わせて頂きました。

 今回は、おばあちゃんが好きだったフォークソング。

 それもレコードも直ぐに廃盤になって、グループも解散してしまった、超マイナーなやつを選びました。

 歌詞の内容は、纏めると。

 祖国は滅びてしまったけれど。
 大地は何処までも続いている。
 太陽は世界の全てを照らし。
 雨は優しく大地を潤し。
 滔々と流れる川は、海に流れ着き。
 逆巻く波が、全れの苦しみを洗い流してくれるだろう。
 だからどんなに辛くとも、太陽のように心を燃やし。
 果てしない大地を踏みしめ生きて行こう。

 という感じの、哀愁が漂いながら、なんとなく元気を貰える歌で、おばあちゃんが良く口ずさんでいた歌です。

 おばあちゃんが若い頃は戦後の復興期で、物は無かったけれど、みんなが希望を胸に頑張って働いていた時代なのだそうです。

「今の子は、物はなんでも有って、食べるのにも困らないけど、窮屈な事ばかりで可哀そうだよねぇ。人間はちょっと不自由なくらいが、楽しみが有って丁度いいんだよ」

 この歌を口ずさんだ後に、おばあちゃんが繰り返し言っていた言葉です。

 あの時は私も子供で、物は沢山あった方が良いし、不自由な暮らしより、お腹いっぱい好きなだけ食べられる方が、絶対良いって思ってた。

 でもヴィースに来た今なら分かる。

 スマホで動画を見ながら時間を溶かすより。アレクさんとのおしゃべりの方が楽しいし。不便な事も多いけど、それをどうにかするための道具作りも楽しい。

 ヴィースの人達は、みんな一生懸命に生きていて、その生活は元気で力強い。

 私はこの世界が好きだ。

 アレクさんが居て、マークさんやセルジュやローガンさん、ロロシュさんはちょっとあれだけど、嫌いではないし、騎士団のみんなもロイド様もアーノルドさんも。
 
 もう会えないウィリアムさんも、リリーシュ様も、大好きな人がたくさん出来た。

 魔物はいっぱいるし、浄化は大変だけど、可哀想な魔物を助けてあげられる力を貰えて、本当に良かったと思う。

 そんな思いを込め、アーロンさんの身体に纏わり付く瘴気と、ガーディアンローズの為に歌いました。

 アーロンさんの角に絡みついた荊が光りの粒に変化して、ふわふわと浮かび上がり、私の髪にじゃれる様に纏わり付いて来ました。

 喜んでくれるの?
 よかった。
 よかったね。

 ほんわかした気分になった私は、フワフワと踊る光に触れたくて、アーロンさんの角から手を放し手の平の上に光を乗せました。
その時、浄化の光りが弾け、目の前が金色に染まりました。

 なにこれ?
 今までこんな事なかったのに。

 これまでの浄化では、ブワーッと光りが満ちるって感じでしたが、今回のは何と言うか、光りの爆発?

 こう・・・スパーキングッ!!って感じ。
 と言ったら伝わるでしょうか?

 私も目を開けていられない程の、光りの洪水に、思わず縋り付いたのは、アーロンさんの角でした。

 浄化した本人ではありますが、この光の洪水がいつ治まるかも分からず、ぎゅっと目を閉じて、動揺してバクバクする心臓の音を聞いていました。

 私なんか変なことしちゃった?
 これ、いつ治まる?

 どうしよう。
 なんか足元もぐらぐら揺れてるし
 心なしか風が吹いて居る様な?
 地下なのに?
 あれれ、ピーピー耳鳴りも聞こえて来た。

 おかしいなぁ。
 魔力切れの症状とも違うし・・・・。
 あ・・・ちょっと光が納まったかも。

 恐る恐る目を開けた私は、目の前の光景を見なかったことにしようと、もう一度目を閉じました。

 きっと何かの見間違い。
 光りが強すぎて、目がおかしくなってるのよね。
 浄化した後でこれは無い。
 ない・・・よね?

 心の準備が出来ないまま、片方だけ薄目を開けて、前方確認。

 教習所なら一発で落とされるところですが、私が乗って居るのは車じゃなくて、龍の頭。握って居るのは、ハンドルじゃなくて龍の角です。

 薄目運転でも許されるはず。

「うそ・・・・」

 いつの間に、屋外へ出たのでしょうか?
 天井を突き破る音も、衝撃も無かったのに?

 高度は30mくらい?

 太陽の光が燦燦と降り注ぎ。
 アーロンさんの角を握る私の足元には、金色に棚引く鬣がキラキラと・・・。
 碧玉の鱗と相まってなんと美しい。

 空の青さが目に染みる・・・・
 とか言っている場合ではありません!!

「どうなってるの~~~?!」

『ようやく口を開いたか。人の子』

「へぇあ?あ・・・アーロンさん?」

『いかにも、アーロンだ。まずは浄化と、宝珠を返してくれたことに感謝する』

「は? いえいえ。秘宝を返したのは、カル・・・カエルレオスさんですから」

『カル・・・カルか。そうか』

 ん?
 アーロンさんは、カルを知っている?
 じゃあ、やっぱりアーロンさんは・・。
 カルのお父さんかお母さん?

「それであの・・・この状態は一体?」

『その前に確認だ。其方、アウラとクレイオスの愛子か?』

「愛子と言うか、愛し子と呼ばれていますけど」

『そうか・・・成る程・・・分かった』

 いや、一人で納得してないで、状況説明をお願いできないかしら?

「あの!すみません!下にいるあれは?魔物ですよね?」

『ん?魔物・・・そうかもしれないな』

 いやいや。見た目絶対魔物でしょ。
 なんかゲームのボスキャラ最終形態みたいな、巨大な生首ですよ?

 首?生首?

「あれって・・・レジス様だったりします?」

『まあ・・・似て非なるものだ。レジスでもあり別の者でもありだな』

 何?その禅問答みたいな答え。

「すみません。私、下に降りたいのですが」

『人の子には危ないぞ?』

「あそこで戦っているのは、私の夫なんです」

 やだ!
 髪の毛がうねうねしてなんか飛ばしてる?
 毒?消化液?
 治癒?浄化?どっちが必要?
 両方一辺が良い?

『樹海の王か?』

「え?ええ。神託ではそう呼ばれています。そんな事より、早く下に連れて行って!」

『えらく強気だな?だが人の子が行っても、危ないだけだろうに』

「大丈夫です。私、アウラ様の加護で能力マシマシなので。それに魔物の浄化は、私のお勤めですから」

『ふむ・・・アウラの加護か・・・だが其方まだ子供だろう?』

 カッチーーーンッ!!

「あの!!私大人ですッ!!あの人が私の夫だって言いましたよね?!聞いてました?寝起きでボケてるんですか?いいからチャッチャと下におろして!!」

 掴んでいた角を、グイグイ横に倒して、下に降りろとアピールです!!

『いたたたっ!! 分かった!! 下に行くから止めなさい!』

 分かれば宜しい!!

 ふんす!と鼻息を荒くする私に、アーロンさんは『まったく、クレイオスにそっくりだ』とかなんとかブツブツ言っています。

 そりゃね?
 ダディとは仲良しですから?
 似て来ててもおかしくないですよね?

『下に降りるから、しっかり捕まって居なさい』

「はい!・・・えっ?ウッ!!」

 ウッキャアアァーーーーーー!!!

 しまったぁ。
 早くって言っちゃった!!
 落ちもの嫌いなのにーーーーーーッ!!
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