獣人騎士団長の愛は、重くて甘い

こむぎダック

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千年王国

龍ってやつは

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 ほれぼれする程、完璧なフォームから投擲された槍は、蜷局を巻くアーロン目掛け、うなりを上げて飛んでいった。

「「「あっ!!」」」

 確かにアーロンの身体に秘宝を触れさせるためには、荊が邪魔だ。
 しかし、普通に考えて全力で槍を投げつけるアホが居るか?

「お前、何考えてるんだ?!」

『何?何って荊が邪魔なんでしょ?チマチマやってたらいつまでもアーロンに近付けないでしょ』

「そうだが!その通りだが!」

 ものには加減と言う物があるだろう。

「カル。アーロンに槍が刺さったらどうする気ですか?」

『どうもしないよ。このくらいで槍なんて刺る訳無いじゃない』

「そうかもしれないけど、万が一って事も有るだろ?」

『もう!マークもエーグルもなんなの?私はアレクとレンの言う通りにしただけじゃない!」

 カルの槍は周囲の荊を塵に変え、アーロンの身体に刺さるかに見えたが、確かにカルの言う通り、槍はアーロンの身体の寸前で、荊に絡め取られ床にガランっと落ちてしまっている。

『あのさ。みんな私の事を馬鹿にしてるみたいだけど、私だって何も考えていない訳じゃないんだよ?ヴァラクだか何だか知らないけど。あの呪具も瘴気も、アーロンを必要としているんだから、ちょっとやそっとの攻撃なんて、庇うに決まってるじゃないか!』

 言って居る事は正しいのかも知れないが、遣る事が一々心臓に悪い。せめて一言断ってるれたら、心の準備も出来るのだがな。

「カルお前の考えや行動は理に適っているし、ドラゴンや龍なら当たり前の事かもしれない。だがな俺達には、突拍子も無い事に見える場合もある。それに見ろ」

 俺はカルの槍が、荊を塵に変えた辺りを指差した。

「な? もう元に戻っているだろ?だがお前が先に一言でいいから俺達に、相談するか指示を出してくれていたら、今頃アーロンの傍にたどり着いていたはずだ。だが実際はこの通り、また最初からやり直しだ」

『そんなの、アレク達がボーっとしてるのが悪い』

「そうかもしれん。だが俺達はドラゴンでも龍でもないし、魔族でもない。俺達はお前達や魔族に比べたら脆弱で、お前達と同様には出来ん。ましてや人族のレンは、もっとか弱い」

『そうだけど・・・』

「お前が何を思って、レンの傍に居るのかは知らんが、レンを護りたいのなら、俺の言った事は覚えて置けよ?」

 何故かシュンとするカルは、体がでかいだけの子供の様だ。

 タッパは俺と変わらんのに・・・・。
 どうもいかん。
 頭を撫でてやりたくなる。

 頭の中でレンの忍び笑いが聞こえる気がするが、流石にこの状況で笑ったりしないよな?


「お説教は、終わりましたか!?」

「お?おぉ!すまん!!」

 俺とカルが話している間、マークとエーグルは、足元から生えて来る荊と悪戦苦闘していた。

「閣下が脆弱なら、私達は虚弱です。さっさと荊をどうにかしてくれないと、本気で死にますからね!!」

 これはいかん。
 マークを怒らせると後が怖い。

「カル。さっきのをもう一度できるか?」

『出来るけど、ちょっと待って』

 そう言えばカルの槍は、向こうに投げっぱなしだったな。何か別の獲物を出すつもりなのだろうか?

 しつこい荊を駆除しながら、アーローンへ近付こうとしている俺たちの横で、カルがヒョイと腕を振ると、次の瞬間にはカルの手の中に、愛用の槍が納まっていた。

「お前のそれ。本当に便利だな」

『レンも同じ事を言っていたけど、2人とも空間魔法の才能が無いから、真似は出来ないよ?』

「・・・・そうか」

 そうだろうとは思っていたが、何も今ここで言わなくても良いだろうに。

 テンションが下がるじゃないか。

『じゃあ。荊を消すから私の後に着いてきて』

「マークとエーグルは、ここで待機。外からの援護だ」

「「了解!」」

 顔の横で槍を構えたカルが、ザッと大きく踏み込みアーロンへ向かって槍を投げた。

 カルは槍を投げた動作の延長で、そのままアーロンへ向かって飛び出していき、俺もカルの後を追い床を蹴った。

 カルの槍が通った後は、荊は粉砕され払われた瘴気が、散りとなって床に落ちていく。

 俺はその塵を巻き上げ、カルの後を追い、数歩遅れてアーロンの身体にたどり着いた。

『アーロンの身体を掘り起こすよ!』

 掘り起こすという表現が合っているかどうかは別として、カルの強烈な一撃を受けながらも、以前荊は龍の身体を覆い隠している。

『思いっきり斬っていいから!その刀は龍の身体を傷つけない!』

 俺はカルに「おうっ!!」と答え、龍の身体に巻き付き、棘を喰い込ませている荊に斬りかかった。

 瘴気とヴァラクの魔力によって生み出された荊は、龍の魔力を吸い上げ、未だ衰えを知らぬようだ。

「クソ!らちが明かん!何とかならんか?」

『ほんと。しつこい!!だんだん腹が立って来た!』

「おい!何する気だ?!」

『ちょっとブレス吐くから、離れて』

「おまっ!!ブレスだと?! 待て!!」

 俺の制止も聞かず、カルは大きく息を吸い込んだ。

 するとカルの鼻先に、エネルギーの塊が浮かび上がり見る見るうちに、大きく膨れ上がって行く。

 こんな至近距離でブレスなんて、とんでもない。
 
 咄嗟に龍に巻き付いた荊に手を掛け、その上に飛び乗り、蜷局を巻いた龍の身体をレンのいる頭まで駆け上った。

「あのバカ!!言った傍から!!マーク!!カルがブレスを吐くぞ!!」

 レンを捕らえている荊の蕾を背中に庇い、結界を張り身構えた。

 カルの咆哮と共に空気がびりびりと振動し、爆発音と衝撃波がほぼ同時に俺達に襲い掛かって来た。

 三重に張った結界は、荒れ狂う爆風に一枚目があっさりと破られ、追加であと二枚張り直した。

 都合5枚の結界越しでも、カルの起こした爆風と衝撃波は尋常とは程遠く、魔力を注ぎ込み続けた結界も、爆風が納まる頃には、残りあと一枚まで破られてしまっっていた。

[大丈夫だったか?]

[私は大丈夫。マークさん達は無事?]

 レンに言われて下を見下ろすと、マークはシッチンたちと一緒に柱の陰に隠れていた。

 結界は破られ、大理石の柱も抉れて、その残骸が、マーク達に振り注いでいた。
 埃塗れで真っ白な顔のシッチンがせき込んでいるが、どうやら全員無事なようだ。

[安心していい。みんな無事だ。君は本当に大丈夫なのか?]

 念話の声は元気そうだが、こういう時のレンは、絶対に辛いと言わないのだよな。

[本当に大丈夫よ?]

 ほらな。

[逆にカルのお陰で、呪具の抵抗が減ったみたい。もう直ぐ浄化できそう]

 確かに、このとんでもない威力のブレスの前では、吹き飛ばされた荊も直ぐには復活できないらしく、荊の間から所々で龍の身体が見えている。

[分かった。無理はするなよ?]

[うん!すぐだから待ってて?]

 早く秘宝をアーロンへ返し、自力で何とかして貰わないと。この調子だと、またレンが無理をしそうだ。

「カル!! どうだ?!」

『今から秘宝を返すところだ!!』

「何が起こるか分からん!気を付けろよ!!」

『分かってるよ!!・・・・・うわっ!!』

「どうした!?」

『アレクッ!! 本当に中に吸い込まれた?!』

 今回もレンの勘は、大当たりだったな。

『こっちは平気だから。アレクはレンの傍に居て!!』

「わかった!」

 その気遣いを、何故もっと早くにせんのだ? 

 まったく子供みたいに、堪え性が無い。
 これだから、龍って奴は・・・。
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