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千年王国
荊と龍
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「レン!逃げろッ!!」
大公だったものが、投げた魔晶石は、レンの足元で砕け散り、毒々しい紫の光りを放った。
ヴァラクの魔力が発する色は、何度見ても吐き気がするほどに悍ましい。
周囲を満たす悍ましい魔力の中で、暖かな金色の魔力を纏ったレンの姿が、くっきりと浮かび上がって見えた。
「アレク!!」
駆け寄る俺と、俺に向かって駆け出す番。
レンの両脇を護り、走り出したドラゴン達が、何かに足を取られ床に倒れ込んだ。
「うわぁっ!!」
「レン様!にげてっ!!」
レンが転んだドラゴン達に気を取られ、立ち止まってしまった。
俺に向け伸ばされたままの指先に触れ、引き寄せようと番の手を掴んだその時、小さな手は身体ごと、俺から引き剥がされた。
「キャーーッ!!」
「レンッ!!」
「レン様!!」
レンの身体は、床に浮かび上がった魔法陣から生えだした、無数の荊に絡め取られ、天井近くまで持ち上げられてしまった。
レンを取り戻すべく、荊に斬りかかったが、斬った傍から新たな枝が、倍以上の数で魔法陣から生えだし、邪魔してくる。
「放してぇ~!!」
荊に絡め取られたレンも、自由を求め棘の有る枝を断ち切ろうと、破邪の刀を振り下ろし、浄化を掛けている。
「クッ・・・・あぁ!!」
しかし斬っても浄化で消し去っても、数を増す荊にレンは自由だった腕も絡め取られ、握っていた刀を放してしまった。
「レン!!すぐに助ける!!」
『アレク。この荊、アーロンの呪具と同じだ』
「御託はいい!!レンを助けろ!!」
俺がレンの刀と対の破邪の刀を振るい、カルが槍を廻す度、断ち切った枝は塵となって消えていくが、生えだしてくる荊の方が多い。
ヴァラクめ!
どれだけの魔力をあの魔晶石に込めたんだ?!
レンを絡め取った荊が、蕾の様に膨らみ、頭上でゆらゆらと揺れている。
枝の隙間から、レンの浄化の光りが漏れているが、それも次々に巻き付いて来る荊に覆い隠され、だんだん光りが弱くなって行く様だ。
足に絡みついた荊を引きちぎった、ドラゴン達が本性に姿を戻し、翼をはためかせながら、レンを包み込んだ茨を引き千切ろうと必死になって居る。
マークは氷の刃を飛ばし、エーグルは炎を纏わせた剣を振るって応戦している。シッチンも炎で荊を燃やそうと頑張っている。
レンを捕まえた、あの荊の束に近付く事さえ出来れば!
『だから。人の話を聞けよっ!!』
「なんだ?!」
『この荊は、アーロンに着けられた呪具と同じだ」
「それがどうしたッ?!」
『この魔法陣と、荊の魔力の元はアーロンだ!アーロンの魔力が尽きない限り、この荊は消えないって事!!』
「はあ?!ならこのままではレンを助けられないという事か?」
『そうだよ、呪具を浄化するか、あの龍を殺すかしないと、レンは助けられない!』
お前はそれでいいのか?
思わず立ち止まり、カルを振り向いてしまった。
「レン様っ!! 閣下!! レン様が!!」
「クソッ!!」
俺とカルの攻撃が止むのを待っていたかのように、荊は床の上を滑り、レンを絡め取った蕾がアーロンへと首を垂れた。
さっき迄、アーロンの角に巻き付いていただけの荊が、今はレジスの柩に巻き付き、蜷局を巻いた龍を覆い隠し、龍の角の間に、レンを内包した蕾を冠の如く戴いてしまった。
「レン様あ~~!!」
「レン様をかえせぇ~~!!」
「クオン!ノワール!!止まれ!!」
俺の叫びが聞こえなかったのか、二匹の子ドラゴンは、レンが囚われたアーロンの頭に突っ込んでいった。
しかし、子供のドラゴンが、年を経た龍の魔力に適う筈も無く、伸びて来た荊に絡め取られ、二匹とも壁に投げつけられてしまった。
轟音と共に壁に激突した子供達は、蜘蛛の巣状に罅の入った壁の瓦礫と一緒に、床へ落ちた。
その瞬間、頭の中がレンの悲痛な叫びで満たされた。
[レン落ち着け。あの二人なら大丈夫だ!]
そう念話を送ったが、そんな事で慰められるとは、到底思えなかった。
床に落ちたクオンの羽は折れ、ノワールの羽は破けて穴が開き、目の上を切ったのか、漆黒の肌の上を、おびただしい血が流れ落ちている。
「シッチン!!ドラゴンを助けろ!!」
「了解っす!!」
ドラゴン達に駆け寄ったシッチンが、腰のポーチからジャラジャラと回復薬を取り出している。どう考えてもポーチの大きさから見て、回復薬の量がおかしい。どうやらロロシュから、アイテムバックを貰ったらしい。
シッチンの奴、回復薬を何本詰め込んで来たんだ?
だが今は、シッチンの心配症とも言える行動が役に立つ。
人間の回復薬が、ドラゴンにどのくらいの効果があるか分からん、数が多くて困ることは無いだろう。
「カル、どうすればいい?」
『さっき言った通りだよ、浄化か殺すか。私は殺した方がいいと思う』
「それは聞いた。お前はそれでいいのか?あれは、あの龍は、お前の親かも知れんのだぞ?」
カルは痛みを堪える様に唇を噛締め、槍の柄で俺を押し返した。
『私に親なんていない。私は卵の時にあの魔素湖に捨てられた。それが全てだ』
「しかし・・・?レン? レン大丈夫か?」
[アレク・・・私は大丈夫。それから・・]
念話の、番は涙声ではあったが、今の所無事なようだ。
そして、レンはカルとは別の提案をして来たのだ。
「閣下!レン様は何と仰ったのですか?!」
ドラゴンを治療しているシッチン以外の全員が、荊相手に剣を振るい、魔法を飛ばして奮闘し続けている。
しかし、斬っても燃やしても、次々に床から生えだす荊に、俺達は中々アーロンへ近付くことが出来ない。
「レンは、荊の中から浄化を続けるそうだ」
「では我々は何を?」
「アーロンに秘宝を返せと言っている」
「それ大丈夫なのか?瘴気塗れのあの龍が力を取り戻したら、大暴れするかもしれませんよ?」
「レンは、今のあの龍は心の無い空っぽな状態だから、瘴気に好き勝手にされて居るだけだと言って居る。心と力を取り戻せば、あの龍はクレイオスやカルと同じ様に瘴気の影響など、吹き飛ばしてしまうはずだと、っな!!」
極太の荊を斬り伏せ塵に変え、4人を振り返った。
「だからレンは、荊ではなくアーロンに巻き付けられた、呪具の浄化に専念するそうだ」
「しかし、それではレン様のお身体が!」
「俺もマークと同じ気持ちだ。だからこそ、一刻も早く秘宝をアーロンへ返す!」
『分かったよ。でもどうやって秘宝をアーロンへ返せばいい?』
「お前、同じ龍なのに知らんのか?」
『やったことが無いのに、知る訳無いじゃない!』
なるほど、普通心と躰を切り離そうなどと考えんだろうし、カルの親がアーロンなら、生きている以上親の記憶はカルへ引き継がれないからな。
「・・・・・・レンは・・・・あの秘宝は、アーロンの心を具現化した物の筈だから、何処でもいいからアーロンの身体に、あの秘宝を触れさせることが出来れば良い筈だ・・・と言っている」
『それ確かなの?』
「・・・・勘だそうだ。だがなレンの勘は、今まで外れたことが無い。俺はレンを信じる」
「そうですね。レン様の勘は外れた事が無いですから。言われた通りにする方が良いでしょう」
『マーク迄?エーグルはそれで良いの?』
「自分は、マークの遣りたい様にさせてやるだけだ」
『何その、バカップルな発言?!』
バカップル・・・・。
そう言うお前も、レンの影響を受けすぎだろ?
「どうする?他に方法があるなら聞くが」
『ああっ!! もういいよ! やるよ!やれば良いんでしょ?!』
投げ槍に叫んだカルは、本当にアーロンを覆い隠す荊に向け、渾身の力で己の槍を投げつけたのだ。
大公だったものが、投げた魔晶石は、レンの足元で砕け散り、毒々しい紫の光りを放った。
ヴァラクの魔力が発する色は、何度見ても吐き気がするほどに悍ましい。
周囲を満たす悍ましい魔力の中で、暖かな金色の魔力を纏ったレンの姿が、くっきりと浮かび上がって見えた。
「アレク!!」
駆け寄る俺と、俺に向かって駆け出す番。
レンの両脇を護り、走り出したドラゴン達が、何かに足を取られ床に倒れ込んだ。
「うわぁっ!!」
「レン様!にげてっ!!」
レンが転んだドラゴン達に気を取られ、立ち止まってしまった。
俺に向け伸ばされたままの指先に触れ、引き寄せようと番の手を掴んだその時、小さな手は身体ごと、俺から引き剥がされた。
「キャーーッ!!」
「レンッ!!」
「レン様!!」
レンの身体は、床に浮かび上がった魔法陣から生えだした、無数の荊に絡め取られ、天井近くまで持ち上げられてしまった。
レンを取り戻すべく、荊に斬りかかったが、斬った傍から新たな枝が、倍以上の数で魔法陣から生えだし、邪魔してくる。
「放してぇ~!!」
荊に絡め取られたレンも、自由を求め棘の有る枝を断ち切ろうと、破邪の刀を振り下ろし、浄化を掛けている。
「クッ・・・・あぁ!!」
しかし斬っても浄化で消し去っても、数を増す荊にレンは自由だった腕も絡め取られ、握っていた刀を放してしまった。
「レン!!すぐに助ける!!」
『アレク。この荊、アーロンの呪具と同じだ』
「御託はいい!!レンを助けろ!!」
俺がレンの刀と対の破邪の刀を振るい、カルが槍を廻す度、断ち切った枝は塵となって消えていくが、生えだしてくる荊の方が多い。
ヴァラクめ!
どれだけの魔力をあの魔晶石に込めたんだ?!
レンを絡め取った荊が、蕾の様に膨らみ、頭上でゆらゆらと揺れている。
枝の隙間から、レンの浄化の光りが漏れているが、それも次々に巻き付いて来る荊に覆い隠され、だんだん光りが弱くなって行く様だ。
足に絡みついた荊を引きちぎった、ドラゴン達が本性に姿を戻し、翼をはためかせながら、レンを包み込んだ茨を引き千切ろうと必死になって居る。
マークは氷の刃を飛ばし、エーグルは炎を纏わせた剣を振るって応戦している。シッチンも炎で荊を燃やそうと頑張っている。
レンを捕まえた、あの荊の束に近付く事さえ出来れば!
『だから。人の話を聞けよっ!!』
「なんだ?!」
『この荊は、アーロンに着けられた呪具と同じだ」
「それがどうしたッ?!」
『この魔法陣と、荊の魔力の元はアーロンだ!アーロンの魔力が尽きない限り、この荊は消えないって事!!』
「はあ?!ならこのままではレンを助けられないという事か?」
『そうだよ、呪具を浄化するか、あの龍を殺すかしないと、レンは助けられない!』
お前はそれでいいのか?
思わず立ち止まり、カルを振り向いてしまった。
「レン様っ!! 閣下!! レン様が!!」
「クソッ!!」
俺とカルの攻撃が止むのを待っていたかのように、荊は床の上を滑り、レンを絡め取った蕾がアーロンへと首を垂れた。
さっき迄、アーロンの角に巻き付いていただけの荊が、今はレジスの柩に巻き付き、蜷局を巻いた龍を覆い隠し、龍の角の間に、レンを内包した蕾を冠の如く戴いてしまった。
「レン様あ~~!!」
「レン様をかえせぇ~~!!」
「クオン!ノワール!!止まれ!!」
俺の叫びが聞こえなかったのか、二匹の子ドラゴンは、レンが囚われたアーロンの頭に突っ込んでいった。
しかし、子供のドラゴンが、年を経た龍の魔力に適う筈も無く、伸びて来た荊に絡め取られ、二匹とも壁に投げつけられてしまった。
轟音と共に壁に激突した子供達は、蜘蛛の巣状に罅の入った壁の瓦礫と一緒に、床へ落ちた。
その瞬間、頭の中がレンの悲痛な叫びで満たされた。
[レン落ち着け。あの二人なら大丈夫だ!]
そう念話を送ったが、そんな事で慰められるとは、到底思えなかった。
床に落ちたクオンの羽は折れ、ノワールの羽は破けて穴が開き、目の上を切ったのか、漆黒の肌の上を、おびただしい血が流れ落ちている。
「シッチン!!ドラゴンを助けろ!!」
「了解っす!!」
ドラゴン達に駆け寄ったシッチンが、腰のポーチからジャラジャラと回復薬を取り出している。どう考えてもポーチの大きさから見て、回復薬の量がおかしい。どうやらロロシュから、アイテムバックを貰ったらしい。
シッチンの奴、回復薬を何本詰め込んで来たんだ?
だが今は、シッチンの心配症とも言える行動が役に立つ。
人間の回復薬が、ドラゴンにどのくらいの効果があるか分からん、数が多くて困ることは無いだろう。
「カル、どうすればいい?」
『さっき言った通りだよ、浄化か殺すか。私は殺した方がいいと思う』
「それは聞いた。お前はそれでいいのか?あれは、あの龍は、お前の親かも知れんのだぞ?」
カルは痛みを堪える様に唇を噛締め、槍の柄で俺を押し返した。
『私に親なんていない。私は卵の時にあの魔素湖に捨てられた。それが全てだ』
「しかし・・・?レン? レン大丈夫か?」
[アレク・・・私は大丈夫。それから・・]
念話の、番は涙声ではあったが、今の所無事なようだ。
そして、レンはカルとは別の提案をして来たのだ。
「閣下!レン様は何と仰ったのですか?!」
ドラゴンを治療しているシッチン以外の全員が、荊相手に剣を振るい、魔法を飛ばして奮闘し続けている。
しかし、斬っても燃やしても、次々に床から生えだす荊に、俺達は中々アーロンへ近付くことが出来ない。
「レンは、荊の中から浄化を続けるそうだ」
「では我々は何を?」
「アーロンに秘宝を返せと言っている」
「それ大丈夫なのか?瘴気塗れのあの龍が力を取り戻したら、大暴れするかもしれませんよ?」
「レンは、今のあの龍は心の無い空っぽな状態だから、瘴気に好き勝手にされて居るだけだと言って居る。心と力を取り戻せば、あの龍はクレイオスやカルと同じ様に瘴気の影響など、吹き飛ばしてしまうはずだと、っな!!」
極太の荊を斬り伏せ塵に変え、4人を振り返った。
「だからレンは、荊ではなくアーロンに巻き付けられた、呪具の浄化に専念するそうだ」
「しかし、それではレン様のお身体が!」
「俺もマークと同じ気持ちだ。だからこそ、一刻も早く秘宝をアーロンへ返す!」
『分かったよ。でもどうやって秘宝をアーロンへ返せばいい?』
「お前、同じ龍なのに知らんのか?」
『やったことが無いのに、知る訳無いじゃない!』
なるほど、普通心と躰を切り離そうなどと考えんだろうし、カルの親がアーロンなら、生きている以上親の記憶はカルへ引き継がれないからな。
「・・・・・・レンは・・・・あの秘宝は、アーロンの心を具現化した物の筈だから、何処でもいいからアーロンの身体に、あの秘宝を触れさせることが出来れば良い筈だ・・・と言っている」
『それ確かなの?』
「・・・・勘だそうだ。だがなレンの勘は、今まで外れたことが無い。俺はレンを信じる」
「そうですね。レン様の勘は外れた事が無いですから。言われた通りにする方が良いでしょう」
『マーク迄?エーグルはそれで良いの?』
「自分は、マークの遣りたい様にさせてやるだけだ」
『何その、バカップルな発言?!』
バカップル・・・・。
そう言うお前も、レンの影響を受けすぎだろ?
「どうする?他に方法があるなら聞くが」
『ああっ!! もういいよ! やるよ!やれば良いんでしょ?!』
投げ槍に叫んだカルは、本当にアーロンを覆い隠す荊に向け、渾身の力で己の槍を投げつけたのだ。
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