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千年王国
大公の企み
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早朝、身支度を終えた俺達は、大公一行の到着を待っている処だ。
「レジス様の神殿ってどんなところですかね?」
「さあな、行けば分かる」
「アレク。身も蓋も無い事言わないの」
「うっうむ」
「アレクおこられた~」
「アレクかっこわる~い」
「2人もそうやって、誰にでも揶揄っちゃいけないのよ?」
「レン様おこったぁ~?」
「ぼくたちのこときらい~?」
このドラゴン達、レンに可愛がられて居るからと、最近調子に乗り過ぎじゃないか?
甘えれば何でも許されると思うなよ?
「2人の事を嫌いになったりしないわよ?でもね、おいたが過ぎるとお菓子はお預けね」
「え~~?」
「いい子にするから~~」
菓子につられるドラゴン。
やっぱり子供は子供か。
「閣下。大公殿下が到着されました」
「そうか直ぐ行く」
番を左腕に座らせたいつもの状態で、玄関ホールに出て行くと、俺達を見た大公はギョッとして、そのまま固まってしまった。
「ほら。やっぱり失礼ですよ。降ろして?」
「しかし、昨日も遅くまで起きていただろ?」
「そうだけど・・・」
耳元で囁く俺に、恥ずかしがりのレンは、頬を染めているが、別に悪い事をしている訳で無し。大公の様子など気にする必要はない。
「到着早々で悪いが、案内してくれるか」
「もっ勿論です。神殿はこの離宮からさほど遠くありませんのでご安心ください」
慇懃な態度を取る公爵の瞳に、なんとも言えない光を見たが、今は気付かぬふりを通してやることにしよう。
離宮を出発して、エンラやオロバスの脚で30ミンほどで神殿に到着するらしい。しかし神殿が近くなるほど、腕の中のレンは身を固くし緊張が強くなっている様だった。
「何かあるのか?」
するとレンは俺の団服をチョンチョンと引き、俺が屈むと耳元でひそひそと話して来た。
「瘴気です。かなり濃いみたいですよ?魔物が発生していてもおかしくないくらいなのに、本当に今までなんとも無かったんでしょうか?」
「ロロシュの情報は正しかったという事だな」
「この後どうしますか?」
「まあ。やる事は普段と変わらんからな。レンが無茶をしないでくれたらそれでいい」
「ふふ。過保護」
「そうか?俺はこれでも足りんと思っているのだが?」
呆れた顔をするレンの旋毛に、わざとリップ音を立て口付けを落とすと、レンは両手で頭を押さえて真っ赤になってしまった。
この後の面倒事を想うと、うんざりするが。
今日も番が可愛らしいのが救いだ。
「マーク!」
「はい。閣下」
「計画を実行する」
「了解」
「本当に大丈夫?殿下にばれない?」
「まあ、大丈夫じゃないか?向こうもオロバスに乗っているし。大公は獣人では無いから、俺達の話しは聞こえんだろう」
「でも護衛の人達は獣人だよ?」
公国の獣人を警戒してか、ヒソヒソと耳打ちしてくる、番の真剣な表情に笑いがこみあげて来る。
「あっ酷い!私真剣なのに!」
「ははッ!すまん。許せ」
唇を尖らせるレンが可愛くて、つい膨れた頬を指でつまむと、思った以上に柔らかく、モチモチしていて癖になりそうだ。
「ひひゃい。ひゃめてひょ」
「お?悪い。痛かったか?」
「もう!!」
レンにはさらに膨れられてしまったが、緊張は解けたようだ。緊張も長く続くと、大事な場面で失敗する事も多い。緊張するのは現場についてからで充分だ。
番の緊張も解れた処で、俺は周囲の様子を探ってみた。
大公の護衛の兵士たちに、不自然な動きは無い。今日もぞろぞろとついて来た、側近たちも同様だ。
問題の大公は、落ち着きがないようだが、この御仁は、元から感情の起伏が不安定だ。
昨夜ロロシュの報告を聞いた後、大公のあの様子は演技なのではないか。との声もあがったが、ヨーナムの様子を見るに、元々の性格だろうという事で話は纏まっている。
俺達が首都に入ってから、まったく姿を見せなかった、公子達は今頃ロロシュと暗部が救出、確保に乗り出している事だろう。
後は、この嘘つきな大公が、どう出て来るか。
ねじ伏せた後の顔が楽しみだ。
しかし、ロロシュはここ迄の情報を、どうやって探り出したのか、どう大公に取り入ったのか、多分俺とレンは知らない方が良いのだろうな。
見て見ぬふり聞かぬ振りも、たまには必要だ。
知らなければ嘘を吐く必要も無いしな。
「大公閣下!見えました。あれがレジス様を安置している神殿です!」
ウジュカ大公が、大声で指さす先に、石壁に囲まれた建物が見えて来た。
しかしそれは、神殿と呼ぶにはかなり小さく、少し大きめの霊廟か、祈祷所の様だった。
「あれが神殿?」
レンも訝しく思っている様だな。
「ははは!驚かれましたか?見た目は小さいですが、あれは神殿の入り口にすぎません。神殿は地下にありまして、中は広くなっているのです。中をご覧になったら、もっと驚かれますよ」
「普段、ここの管理は誰がしている?」
「神殿の中は、アーロン様に呼ばれぬ限り立ち入るものはございません。外はご覧の通り、墓所となっておりますので、墓守が二人常駐いたしております」
「あんた達、趣味が悪いな」
「へ? 何がで御座いますか?」
本当に何も感じんのか?
「このおびただしい墓石は、歴代の司祭や大公の墓か?」
「左様です。死して尚、レジス様へ許しを請い、その御霊をお慰めするために、こうして神殿の上に、先祖代々この地に墓を建ててきました」
何万年もの間、怪異を起こし、病を流行らせるほど、レジスの恨みは深い。
ヨナスにも出来るだけ顔を見たくないと言われた一族が、自分の墓の上に埋葬される事をレジスが良しとするだろうか。
これではまるで、レジスの魂をこの地に抑え込み、閉じ込めている様にしか見えない。
これでは逆に、怨念が深くなりそうだ、と俺は思うが?
感性がズレているのは、俺とこの一族。どちらなのだろうな。
神殿を囲む石壁の前にショーンの隊を配置し、神殿をぐるりと囲ませて、大公の側近と護衛の兵は中に入れさせなかった。
俺達はおびただしい数の墓石の間を通り抜け、要所要所でロドリックの隊を分散して騎士を配置し、波紋上に陣を組んでいく。
「閣下。この騎士の配置は・・・・」
「なに、念の為だ。中がどうなって居るか分からんし、大事な愛し子を傷つける訳にはいかんだろ?それにレジスの怨念が暴れ出したら事だからな」
「ならば我が国の兵士も、加えたら如何ですか?」
「大公殿下がご自分で仰ったのだぞ。公国の兵は役に立たんと。俺達も素人の面倒を見る余裕はない。離れていてもらう方が気が楽だ」
「は・・・はぁ。しかし」
「殿下。ここは大公閣下のご意見に従うべきで御座いましょう」
「爺・・・さ・・左様か」
ヨーナムの苦言に、大公はいかにも渋々と頷いた。
ゴトフリーのイソギンチャクの様な、生き物を取り込んで成長する魔物が出て来られたら、真っ先に狙われるのは、武装していない側近と、碌な訓練も受けていない兵士だ。
人を守りながら戦うと言うのは、言うほど簡単ではないからな。
足手纏いなら離れていてもらうに限る。
「こちらが入り口で御座います」
近くで見た、霊廟は柱や壁のレリーフなど、現在の様式とは違い、かなり手の込んだものになって居る。
芸術好きのマークは、息を呑み今にも縋り付きたそうに、両手をワキワキと動かしているが、現状を考え堪えている様だ。
「ここからは、愛し子様、閣下、それと私の3人で進みたいと思います」
「何故だ?」
「何故?と仰いますと?」
「聞きたのはこちらだ、大公殿下は愛し子様の安全を何と心得る」
「は・・・いやあの。それは」
「なに、我等は其方達と違い、呪われている訳では無い。何人入ろうと問題ないだろう?」
「た・・・確かにそうですが。しかし何があるか・・・」
大公は冷や汗を流し、キョドキョドと視線が定まらない。
一国の代表が、腹芸一つできなくてどうするのだ?
何を企んでいるにしろ、本当に心配しているにしろ、表情を隠せなければ、ばくちは打てんぞ?
「それとも我らが其方に何かするとでも?そんなに心配なら、そこのヨーナムも連れて行ったらいい。何かあっても二人くらいなら、我等で守れる」
「さ・・・左様でございますな。で・・・では」
額の汗をふきふき、大公は扉横のレリーフに掌を当て、魔力を流し込んだ。すると足の下でガコンっと何かが嵌る音が聞こえ、俺の背よりも高い大理石の扉が、ゴロゴロと音を立て、埃を降らせながら開かれた。
「レジス様の神殿ってどんなところですかね?」
「さあな、行けば分かる」
「アレク。身も蓋も無い事言わないの」
「うっうむ」
「アレクおこられた~」
「アレクかっこわる~い」
「2人もそうやって、誰にでも揶揄っちゃいけないのよ?」
「レン様おこったぁ~?」
「ぼくたちのこときらい~?」
このドラゴン達、レンに可愛がられて居るからと、最近調子に乗り過ぎじゃないか?
甘えれば何でも許されると思うなよ?
「2人の事を嫌いになったりしないわよ?でもね、おいたが過ぎるとお菓子はお預けね」
「え~~?」
「いい子にするから~~」
菓子につられるドラゴン。
やっぱり子供は子供か。
「閣下。大公殿下が到着されました」
「そうか直ぐ行く」
番を左腕に座らせたいつもの状態で、玄関ホールに出て行くと、俺達を見た大公はギョッとして、そのまま固まってしまった。
「ほら。やっぱり失礼ですよ。降ろして?」
「しかし、昨日も遅くまで起きていただろ?」
「そうだけど・・・」
耳元で囁く俺に、恥ずかしがりのレンは、頬を染めているが、別に悪い事をしている訳で無し。大公の様子など気にする必要はない。
「到着早々で悪いが、案内してくれるか」
「もっ勿論です。神殿はこの離宮からさほど遠くありませんのでご安心ください」
慇懃な態度を取る公爵の瞳に、なんとも言えない光を見たが、今は気付かぬふりを通してやることにしよう。
離宮を出発して、エンラやオロバスの脚で30ミンほどで神殿に到着するらしい。しかし神殿が近くなるほど、腕の中のレンは身を固くし緊張が強くなっている様だった。
「何かあるのか?」
するとレンは俺の団服をチョンチョンと引き、俺が屈むと耳元でひそひそと話して来た。
「瘴気です。かなり濃いみたいですよ?魔物が発生していてもおかしくないくらいなのに、本当に今までなんとも無かったんでしょうか?」
「ロロシュの情報は正しかったという事だな」
「この後どうしますか?」
「まあ。やる事は普段と変わらんからな。レンが無茶をしないでくれたらそれでいい」
「ふふ。過保護」
「そうか?俺はこれでも足りんと思っているのだが?」
呆れた顔をするレンの旋毛に、わざとリップ音を立て口付けを落とすと、レンは両手で頭を押さえて真っ赤になってしまった。
この後の面倒事を想うと、うんざりするが。
今日も番が可愛らしいのが救いだ。
「マーク!」
「はい。閣下」
「計画を実行する」
「了解」
「本当に大丈夫?殿下にばれない?」
「まあ、大丈夫じゃないか?向こうもオロバスに乗っているし。大公は獣人では無いから、俺達の話しは聞こえんだろう」
「でも護衛の人達は獣人だよ?」
公国の獣人を警戒してか、ヒソヒソと耳打ちしてくる、番の真剣な表情に笑いがこみあげて来る。
「あっ酷い!私真剣なのに!」
「ははッ!すまん。許せ」
唇を尖らせるレンが可愛くて、つい膨れた頬を指でつまむと、思った以上に柔らかく、モチモチしていて癖になりそうだ。
「ひひゃい。ひゃめてひょ」
「お?悪い。痛かったか?」
「もう!!」
レンにはさらに膨れられてしまったが、緊張は解けたようだ。緊張も長く続くと、大事な場面で失敗する事も多い。緊張するのは現場についてからで充分だ。
番の緊張も解れた処で、俺は周囲の様子を探ってみた。
大公の護衛の兵士たちに、不自然な動きは無い。今日もぞろぞろとついて来た、側近たちも同様だ。
問題の大公は、落ち着きがないようだが、この御仁は、元から感情の起伏が不安定だ。
昨夜ロロシュの報告を聞いた後、大公のあの様子は演技なのではないか。との声もあがったが、ヨーナムの様子を見るに、元々の性格だろうという事で話は纏まっている。
俺達が首都に入ってから、まったく姿を見せなかった、公子達は今頃ロロシュと暗部が救出、確保に乗り出している事だろう。
後は、この嘘つきな大公が、どう出て来るか。
ねじ伏せた後の顔が楽しみだ。
しかし、ロロシュはここ迄の情報を、どうやって探り出したのか、どう大公に取り入ったのか、多分俺とレンは知らない方が良いのだろうな。
見て見ぬふり聞かぬ振りも、たまには必要だ。
知らなければ嘘を吐く必要も無いしな。
「大公閣下!見えました。あれがレジス様を安置している神殿です!」
ウジュカ大公が、大声で指さす先に、石壁に囲まれた建物が見えて来た。
しかしそれは、神殿と呼ぶにはかなり小さく、少し大きめの霊廟か、祈祷所の様だった。
「あれが神殿?」
レンも訝しく思っている様だな。
「ははは!驚かれましたか?見た目は小さいですが、あれは神殿の入り口にすぎません。神殿は地下にありまして、中は広くなっているのです。中をご覧になったら、もっと驚かれますよ」
「普段、ここの管理は誰がしている?」
「神殿の中は、アーロン様に呼ばれぬ限り立ち入るものはございません。外はご覧の通り、墓所となっておりますので、墓守が二人常駐いたしております」
「あんた達、趣味が悪いな」
「へ? 何がで御座いますか?」
本当に何も感じんのか?
「このおびただしい墓石は、歴代の司祭や大公の墓か?」
「左様です。死して尚、レジス様へ許しを請い、その御霊をお慰めするために、こうして神殿の上に、先祖代々この地に墓を建ててきました」
何万年もの間、怪異を起こし、病を流行らせるほど、レジスの恨みは深い。
ヨナスにも出来るだけ顔を見たくないと言われた一族が、自分の墓の上に埋葬される事をレジスが良しとするだろうか。
これではまるで、レジスの魂をこの地に抑え込み、閉じ込めている様にしか見えない。
これでは逆に、怨念が深くなりそうだ、と俺は思うが?
感性がズレているのは、俺とこの一族。どちらなのだろうな。
神殿を囲む石壁の前にショーンの隊を配置し、神殿をぐるりと囲ませて、大公の側近と護衛の兵は中に入れさせなかった。
俺達はおびただしい数の墓石の間を通り抜け、要所要所でロドリックの隊を分散して騎士を配置し、波紋上に陣を組んでいく。
「閣下。この騎士の配置は・・・・」
「なに、念の為だ。中がどうなって居るか分からんし、大事な愛し子を傷つける訳にはいかんだろ?それにレジスの怨念が暴れ出したら事だからな」
「ならば我が国の兵士も、加えたら如何ですか?」
「大公殿下がご自分で仰ったのだぞ。公国の兵は役に立たんと。俺達も素人の面倒を見る余裕はない。離れていてもらう方が気が楽だ」
「は・・・はぁ。しかし」
「殿下。ここは大公閣下のご意見に従うべきで御座いましょう」
「爺・・・さ・・左様か」
ヨーナムの苦言に、大公はいかにも渋々と頷いた。
ゴトフリーのイソギンチャクの様な、生き物を取り込んで成長する魔物が出て来られたら、真っ先に狙われるのは、武装していない側近と、碌な訓練も受けていない兵士だ。
人を守りながら戦うと言うのは、言うほど簡単ではないからな。
足手纏いなら離れていてもらうに限る。
「こちらが入り口で御座います」
近くで見た、霊廟は柱や壁のレリーフなど、現在の様式とは違い、かなり手の込んだものになって居る。
芸術好きのマークは、息を呑み今にも縋り付きたそうに、両手をワキワキと動かしているが、現状を考え堪えている様だ。
「ここからは、愛し子様、閣下、それと私の3人で進みたいと思います」
「何故だ?」
「何故?と仰いますと?」
「聞きたのはこちらだ、大公殿下は愛し子様の安全を何と心得る」
「は・・・いやあの。それは」
「なに、我等は其方達と違い、呪われている訳では無い。何人入ろうと問題ないだろう?」
「た・・・確かにそうですが。しかし何があるか・・・」
大公は冷や汗を流し、キョドキョドと視線が定まらない。
一国の代表が、腹芸一つできなくてどうするのだ?
何を企んでいるにしろ、本当に心配しているにしろ、表情を隠せなければ、ばくちは打てんぞ?
「それとも我らが其方に何かするとでも?そんなに心配なら、そこのヨーナムも連れて行ったらいい。何かあっても二人くらいなら、我等で守れる」
「さ・・・左様でございますな。で・・・では」
額の汗をふきふき、大公は扉横のレリーフに掌を当て、魔力を流し込んだ。すると足の下でガコンっと何かが嵌る音が聞こえ、俺の背よりも高い大理石の扉が、ゴロゴロと音を立て、埃を降らせながら開かれた。
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