獣人騎士団長の愛は、重くて甘い

こむぎダック

文字の大きさ
上 下
470 / 587
千年王国

ドラゴンハート

しおりを挟む
 side・アレク

「公国にまつわる概要は分かった。自ら招いた事とは言え、公国の民は良く耐えて来たと思う」

「閣下にそう言って頂けるだけでも、先人達も報われるでしょう」

 大公は感慨深げだが、こちらとしては、まだ聞きたいことが残っている。

「それで、先程の予言と貴国の秘宝についてなのだが?」

「それが御座いました!閣下には息子を二人も助けて頂き、もしやとは思って居りましたが、本当に予言された方々だったとは!私は今猛烈に感動し!この喜びをどう表現すればよいのか!!」

「大公殿下?落ち着いて。ね? はい。大きく息を吸ってぇ~~。吐いて~~~。そうそう上手です。ではもう一度吸って~~。吐いて~~~。」

 なんの時間だ?
 まあ、レンが上手く落ち着かせてくれたようだが。この御仁は、感情のブレが大きくてかなわんな。

「落ち着かれたか?では、この二つについて話してくれるか?」

「何度も申し訳ありません。お恥ずかしい限りです」

 そういうのは良いから。
 早く説明してくれよ。

「公家に伝わる予言と、秘宝には密接な関係が御座います」

 そうだろうな。
 そこを早く。

「アーロン様が、レジス様の柩を守られると仰られた時、ヨナス様ともうお一方が、レジス様の廟に入られたのです。この時は、普段遠ざけられていた、我が祖先の司祭も、大事な事だからと、一緒に来るように言われていたそうで。全てではありませんが、大方の事は見ていたそうなのです。創世時代の出来事は、口伝で伝えられてきましたが、この時の事だけは、非常に重要な事の為、書き記されて居るのです」

 その文書は後で読んでもらいたい。と大公は言いうが、そんな古い文書が保管されているとは驚きだ。

「それで?」

「レジス様の廟に入られた3人は、すぐに戻って来られ、その時ヨナス様は、大層具合が悪くなられて居たそうです。廟の中で何が有ったのかは分かりませんが、中の様子はお三方にとって、想定外だったのではないか。と記されております」

 その後体調を崩したヨナスを連れ、宿坊に入った三人は、翌日もう一度、レジスの廟を訪れた。だが廟から出て来たのは、ヨナスと名前の分からない青年の2人だけだった。

 そして青年は腕に一抱えもある、深紅の石を抱えていた。

 番との今生の分れに、さめざめと涙を流すヨナスを慰める青年は、司祭にその石を納める祠を立てる様命じたのだった。

「その際、祠を立てる場所もその青年が指示したそうです。なんでもそこは魔素の集まる場所だそうで、その石を納めるに最適であろうと」

 涙を流し続けるヨナスは、その石を愛おしそうに何度も撫でているのが目撃されている。ヨナスは祠を立てている間も、祠に石を納める間際まで、その石に寄り添い続けたのだそうだ。

「それが、あの秘宝なのだな?」

「はい。祠に石を納め結界による封印を施した青年は、10年に一度桜華の月の満月の夜に、祠を開き天井の岩戸を開け、月光を石に当てるように命じました。そしてアーロン様が呼ばない限り、レジス様の廟への立ち入りを禁じたのです」

「月光を当てる事に意味があるのか?魔素で充分だろう?」

「そうかもしれませんが、青年はアーロン様の力を、蓄える為に必要だと仰られたそうです」

「ふむ・・・月光にそんな力が有るとは知らなかったな」

「私の国では、太陽は陽の気を月は陰の気を持つとされています。陰と陽を合わせる事でより強力な力が得られるそうですよ?魔素が陽の気だとしたら、月光が陰の気でバランスを取ったのかも知れないですね」

「なるほど」

「愛し子様は、博識でいらっしゃいますな」

 そうだろう、そうだろう。
 俺の番は博識で賢い、自慢の番なのだ。
 それに今日は、俺の匂いを纏って、本当に可愛いいのだ。

「閣下・・・その、話しを続けても宜しいでしょうか?」

 ついレンの頭を撫でるのに、夢中になってしまった。
 
「ん?あぁ。続けてくれ」

「あーー。ゴホン。それでは・・・祠と廟の注意をした青年が、司祭だけに話した事なのですが、あの秘宝はアーロン様の心臓だと仰られました」

「心臓?龍の心臓か?」

「やっぱり」

「レンは知っていたのか?」

「知っていた訳じゃないのだけど、彼方の伝説や物語で、ドラゴンが人に力を授ける為に心臓を与えたとか、心臓を失ったドラゴンが悪龍となって大暴れした、とかってお話があるから、もしかしてって思ってたの。でも龍が如意宝珠を与えた話はあっても、心臓を与えた話は無いから、解釈違いかと思ってました」

「ドラゴンや龍は、心臓が無くても生きて行けるものなのか?」

「私の考えでは、心臓を失ったら普通死ぬと思いますよ?でも心臓も心もハートと呼ぶのです。そしてドラゴンが与えるのは、ハート。ドラゴンハートなんです。だから本当の心臓ではなくて、あの秘宝はアーロン様のハート、心なんじゃないでしょうか」

「心・・・か?」

 ニコニコと頷くレンだが、心を物質として扱えるというのも、中々信じがたい話だぞ?

「愛し子様は本当に、ご慧眼でいらっしゃる。青年はアーローン様の心をレジス様の怨念から御守りする為には、心と躰を別の場所に離さなければならないと、仰ったのです。アーロン様の心が力を蓄え、お身体がレジス様の怒りを抑えるとも仰っています」

「信じられん話だが、事実なのだろう?」

「事実です。そしてその青年は予言を残された。それにより彼の方は、預言者と位置付けられております」

 やっと予言の話しにたどり着いたか。
 永かった・・・。

「神の愛子と、新たな樹海の王が訪れる時。古き樹海の王の魂は解き放たれ。役目を終えた、碧玉の龍は尤も大切なものを取り戻し、空へ帰るであろう。そしてこの国は、神の愛子に膝を折り、新たな樹海の王へ平伏し忠義を尽くす限り、苦悩から解放され過去の栄華を取り戻すであろう。愚かな民よ、二度の裏切りは、破滅を意味すると心得よ」

「・・・・・神の愛子?」

「新たな樹海の王?」

 俺とレンはそれぞれ互いを指差しながら、顔を見交わしてしまった。

「まさしく!神の愛し子様と、ヘルムント王、樹海の王レジス様の系譜であられるお二方を置いて、予言の主とは言えますまい!」

「は・・・」

「はぁ・・・」

 興奮仕切りの大公を宥めすかし、翌朝神殿を訪れる約束を交わすことに成功した。

 興奮冷めやらぬ大公をヨーナムに押し付け、大公御一行が離宮を去る頃には、俺達はぐったりと疲れ切っていた。

「何と言うか、強烈な方ですね」

「まったくな・・・自分で世間知らずだと言っていたが、もう少し感情のコントロールを覚えた方が良いだろう」

『2人とも疲れただろ?茶を入れたから飲め』

「ありがとう。カルのご機嫌は治ったの?」

『別に!!・・・別に機嫌は悪くない。ただ悪い事をしたみたいだから、謝ろうと思って』

 おいおい。
 これは本当に、子供の謝り方だ。

「分かればいい。だが次は無い」

『分かってるよ』

 その様子を、レンとマークは声を忍ばせて笑い、更にその様子をエーグルが目を細めて見つめている。

「ん?ロロシュはどうした?」

「ロロシュですか?」

 途端にマークの声に権が混じり、瞳が冷たくなった。

「殿下について行きました、またご機嫌取りに忙しいんじゃありませんか?」

「これ以上引き出す情報があるとも思えんが」

「なら、閣下が任務修了を命じれば宜しいでしょう?」

「そ・・・そうだな。ロロシュに伝えて置く」

 これは拙い。
 マークは相当お冠だぞ。

 ロロシュは一体何を考えているんだ?
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

腹黒宰相との白い結婚

恋愛
大嫌いな腹黒宰相ロイドと結婚する羽目になったランメリアは、条件をつきつけた――これは白い結婚であること。代わりに側妻を娶るも愛人を作るも好きにすればいい。そう決めたはずだったのだが、なぜか、周囲が全力で溝を埋めてくる。

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

竜王の息子のお世話係なのですが、気付いたら正妻候補になっていました

七鳳
恋愛
竜王が治める王国で、落ちこぼれのエルフである主人公は、次代の竜王となる王子の乳母として仕えることになる。わがままで甘えん坊な彼に振り回されながらも、成長を見守る日々。しかし、王族の結婚制度が明かされるにつれ、彼女の立場は次第に変化していく。  「お前は俺のものだろ?」  次第に強まる独占欲、そして彼の真意に気づいたとき、主人公の運命は大きく動き出す。異種族の壁を超えたロマンスが紡ぐ、ほのぼのファンタジー! ※恋愛系、女主人公で書くのが初めてです。変な表現などがあったらコメント、感想で教えてください。 ※全60話程度で完結の予定です。 ※いいね&お気に入り登録励みになります!

【完結】結婚初夜。離縁されたらおしまいなのに、夫が来る前に寝落ちしてしまいました

Kei.S
恋愛
結婚で王宮から逃げ出すことに成功した第五王女のシーラ。もし離縁されたら腹違いのお姉様たちに虐げられる生活に逆戻り……な状況で、夫が来る前にうっかり寝落ちしてしまった結婚初夜のお話

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

皇帝の番~2度目の人生謳歌します!~

saku
恋愛
竜人族が治める国で、生まれたルミエールは前世の記憶を持っていた。 前世では、一国の姫として生まれた。両親に愛されずに育った。 国が戦で負けた後、敵だった竜人に自分の番だと言われ。遠く離れたこの国へと連れてこられ、婚約したのだ……。 自分に優しく接してくれる婚約者を、直ぐに大好きになった。その婚約者は、竜人族が治めている帝国の皇帝だった。 幸せな日々が続くと思っていたある日、婚約者である皇帝と一人の令嬢との密会を噂で知ってしまい、裏切られた悲しさでどんどんと痩せ細り死んでしまった……。 自分が死んでしまった後、婚約者である皇帝は何十年もの間深い眠りについていると知った。 前世の記憶を持っているルミエールが、皇帝が眠っている王都に足を踏み入れた時、止まっていた歯車が動き出す……。 ※小説家になろう様でも公開しています

義兄の執愛

真木
恋愛
陽花は姉の結婚と引き換えに、義兄に囲われることになる。 教え込むように執拗に抱き、甘く愛をささやく義兄に、陽花の心は砕けていき……。 悪の華のような義兄×中性的な義妹の歪んだ愛。

処理中です...