獣人騎士団長の愛は、重くて甘い

こむぎダック

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千年王国

ザキエル・エレ・ウジュカ 1

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 えッ?
 やだ?!
 土下座?

「大公殿下!何をなさっているの?やめて下さい」

「いいえ!お二方は、ウジュカ建国以来、それ以前からこの地に生きて来たもの、全ての希望であらせられる。我等を哀れと思召すならば、どうか、どうかこの国に生きるものすべてに救済を施して頂きたく!!」

「救済って・・・・」

 そんな小さい国とは言っても、一国の大公が土下座までするなんて。
 一体何が彼をそうさせているのかしら。

 ・・・って!
 嘘でしょ?!
 なんで全員土下座してるの?
 やめてよ。もう!! 
 なんかすっごく悪いことしてる気分。
 私、悪代官じゃないのよ?
 ほんとに止めてってば!!

 目の前の光景に、私は動揺してどうしていいか分からず。
 思わず、アレクさんにしがみ付いてしまいました。

「殿下お止めください。愛し子が怖がって居られる。それに救済と仰るが、元より我等は、魔物の討伐も念頭に、この国へ来ているのだぞ?」

「はっ!! これは申し訳ございません。何もご存じないお二人に、突然このような願いは戸惑われるのも当然でございましたな」

「殿下。一度席にお戻りください。そのように額ずいて居られては落ち着いて話も出来ません」

「はっはぁ!!まことに申し訳なく!!」

 だからぁ。
 そういうの止めて欲しいんだって。

「兎に角、茶でも飲んで、落ち着いて下さい。話はその後だ」

「ねぇ。アレク。この先の話しは、カルやマークさん達にも聞いてもらった方がいいんじゃないかしら」

「うむ。そうだな・・・しかしカルはともかく、マーク達が、この部屋に入れるか・・・・」

「あ・・・それが有りました・・・でも時間も経っているし朝よりは、マシかも?」

 物は試しと、扉の向こうに控えていたマークさんに声を掛けると、それはそれは嫌そうな顔で、部屋に入って来てくれました。

 この嫌そうな顔の原因が、自分が放っている香りの所為かと思うと、ちょっと傷付きます。 

 でも私には、あんまり分からないのよね。
 若干アレクさんのサンダルウッドの香りがするかな?って程度なんだもん。

 そんなに嫌そうな顔しなくても・・・・・。
 グスン。
 泣いてもいいかしら?

 しょげた気分に浸っていると、私よりもしょげた様子のカルがやって来て。
 私と目が合うと、きまり悪そうにプイとそっぽを向いて、私達が居るテーブルを通り過ぎ、窓の前に置かれたカウチに、面倒臭そうに寝転んでしまいました。

 こういう態度を見ると、マークさんが言う通り、カルは子供のままなんだなぁって感じます。

 出逢ったばかりの頃は、長寿の龍だけあって、余裕だなあ。なんて思っていた時期もありました。

 クレイオス様も、実はあのお爺ちゃんキャラは、クレイオス様が演じていただけで、本当はもっと子供っぽいのだと、アウラ様が教えてくれました。

 アウラ様は、”ドラゴンって見栄っ張りが多いんだ。でもね、見栄の張り方が独特でね。ちょっと笑っちゃうくらい可愛いのだよ?” なんて笑っていたけれど、本当の事みたいですね。

「では、殿下。改めて話を聞かせて貰おうか」

 マークさん達が部屋に入って来たりと、気を散らしていた私達が、改めて大公殿下へ向き直ると、そこには滂沱の涙を流す殿下の姿が・・・・。

「あらら」

 今度は何?

 大公殿下の見た目は、この世界の御多分に漏れず、男前な方です。
 ウェーブの掛かった焦げ茶の髪に、髪よりも少し濃いめの同じ色の瞳。
 イタリア系のイケオジって感じです。
 そんな方が、鼻を啜り乍ら、ダバダバ涙を流しているのって、ちょっとどうなの?

 きっと其れなりの理由があるのだと思うけれど、理由が分からない私としては、控えめに言ってもドン引きです。
 ここはドラゴンではなく、殿下に見栄を張ってもらいたかった。

 どうも此の方は、おしゃべりだし、感情表現が豊か過ぎるというか、大人しいアルマとはあまり似ていない気がします。

「殿下?」

「もっもうし訳御座いません。ゆ・・・悠久の刻を経て、漸く我らの悲願がかなうかと思うと・・・かッ感動で・・・!」

 いや知らんがな。
 先ずは事情を説明して貰わない事には、こちらは感動何処ではないのですよ?

「殿下。ご自分だけ先走っていても、お二人には何も伝わりません。本当に昔から何も変わりませんな、困った方だ」

「じ・・・爺。そうは言ってもな?」

「ほらほら。皆さんが困ってらっしゃいます。大公らしくしゃんとなさいませ」

 うわぁ~~。
 幼稚園児かなぁ?
 ヨーナムさんに鼻かんでもらってる~。
 聞いていた話と全然違う人みたい。
 私が勝手に想像していたのは。
 大公殿下はもっとこう・・・大人な苦悩する渋い人ってイメージだったのだけどなぁ。
 ヨーナムさん、話し盛り過ぎじゃないですか?

 しかも、側近の人達が全く動じてないから、これが日常って事なのよね?
 この国、本当に大丈夫なの?

 大公殿下のご乱心・・・ってほどではないけれど、余りの取り乱し振りに、私とアレクさんは顔を見交わし、視線と向けたマークさんとエーグル卿も、笑いを堪えるのに必死な様子で・・・・。

「え~と。殿下?そろそろ落ち着かれました?」

「あぁ!はい!もう大丈夫です!!」

 ほんとかなぁ?

「なら良かった。先程の大公殿下の御様子と、私達がお聞きしたい大公家の秘密は、同じものだと思うのだけど、違いますか?」

「流石は愛し子様。ご慧眼ですな」

 いえいえ。
 普通に分かるでしょ。
 散々我等の悲願とかって言ってたじゃないですか。

「ヨーナム。それから他の者も、外に出て居なさい」

 退出を促す大公殿下に、ヨーナムさんは、静かに頭を下げて、部屋から出て行きました。

「宜しいのですか?」

「はい。彼等には聞かせられない話ですので」

「でも、私達ならいいと?」

「はい・・・・皆さんは予言に記された方達だと思われますので」

『予言?この国には予言が有るの?』

 さっき迄興味なさそうだったのに、いきなりどうしたのかしら?

「はい。神託と言っても良いかも知れませんが。創世の時代に授けられたものですから、予言と言って差し支えないかと」

『ふ~ん。そうなんだ』

 あぁそうだった。
 カルは予言を信じて、1千万年も一人ぼっちで予言の日が訪れるのを、待ち続けていたのでした。
 カルはどんな予言を授けられたのでしょう。
 永い永い時を孤独に耐え乍ら、ただ予言された日を待ち続けるなんて・・・。
 私には耐えられないと思う。
 一人ぼっちのカルを想像したら・・・・。
 ダメだ。
 なんか泣きそう。

「愛し子様?大丈夫ですか?話を進めても宜しいですか?」

「え?あ、はい。お願いします」

 大公殿下は、一つ咳ばらいをして語り出しました。

「我等は咎人です。創世の時代、我等の祖先は罪を犯し、この地と祖先は呪いを受けたのです」

「呪い?加護ではなく?」

「はい、呪いです。その呪いの力により、この地は世界より忘れ去られてしまいました。そして、この地に生まれた者達は、ここから出て生きる事が出来ない」

「でも。アルマやヨーナムさんはなんとも無かったですよ?」

「1年や2年程度なら、問題は無いのです。ですが永くこの地を離れていると、頭の中に ”戻れ” という声が聞こえる様になります。それを無視し続けると、体は衰弱していき、やがて命を失う事になります。我等はこの地から、離れて生きる事が出来ないのです」

「それは確かに呪いだな。何故そんな呪いを受ける羽目になったのだ?」

「・・・閣下の系譜の祖に当たる。ヘルムント王、ヨナス様。そして樹海の王と呼ばれたレジス様に関わる、ある出来事が関係しているのです」

『ヨナスが・・・・』

「我等の祖先は、魔族に襲われることを恐れ、レジス様を裏切ったのです」
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