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千年王国

俺の番 *

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 レンの白い首筋に浮かぶ婚姻紋に、獣歯を沈め、レンの魔力と馴染ませるように、ゆっくり魔力を流し込んでいく。

 レンの中を流れる、暖かな神聖力を奪わ無いよう気を付け乍ら、クレイオスに教えられた、呼吸法も使い、体の外から魔素を吸い上げ、自分の魔力と練り合わせ、レンの身体の隅々まで、俺の魔力で満たしていった。

「んっ・・・くぅ・・・」

 眠っていても、魔力が廻る快感からは逃れられないのか、番の熟れた唇から、甘い吐息が零れた。

「はぁ・・・・ん・・あ」

 君が悪いわけではないが、他の雄の臭いを消してしまわなければ、気が狂ってしまう。

 俺の番。
 愛しい、可愛い番。
 俺の全ては君のもので、君の全てが俺のものだ。

 それなのに・・・・。
 まだ消えない!

 この地上においてドラゴンは、圧倒的強者。地上の王と言っても過言ではない、高次の存在だ。

 彼等は、神と彼等の意思でそうしなかっただけで、この世界の支配者になれる存在だった。
 
 彼らにとって俺達の存在など、地を這う虫けらと同じだ。

 当然の如くその姿を自由に変え、開いた空間を移動する事も、利用する事にも長けて居る。

 別世界の生物かの様な、絶対的な強者の魔力を、俺の魔力で上書きできるのか?

 二重に刻んだ婚姻紋が、花開いているのに。

 此の忌々しい臭い。
 何時までレンに纏わり付くつもりだ!

 ・・・クソッ!!

 この人は、俺の番だ。
 俺の大事な人なのに!!

 嫌だっ!!

 嫌だっ!嫌だっ!嫌だっ!嫌だっ!嫌だっ!!!

 我慢できないっ!!

「ごめんな。許してくれるか?」

 返事が無い事は分かっていたが、聞かずにはいられなかった。

 レンは今、魔力と神聖力が底を尽きかけ、深い眠りについている。

 無抵抗な番の夜着をはぎ取り、くたりと力のない指先に口付けを落として、月明りに浮かび上がる、肢体に指を這わせた。

「うんと優しくするから」

 それが免罪符になるとは思わない。
 俺は意識の無い相手の身体を暴き、犯そうとしている。

 俺がしようとして居るのは、強姦と同じ。
 俺は最低な雄だ。

 だがどうしても・・・。
 レンの中から滲み出て来る、この臭いだけは許すことが出来ない!

 柔い肌をねっとりと舐め上げ、零れる蜜を吸い上げて、手足の指の一本一本をしゃぶり尽くす頃には、レンの息もあがり、頬も朱に染まっていた。

 意識が無くとも体は素直に快感を拾い上げているらしい。

 レンの身体をそう変えたのは、この俺だ。

 可愛い人。
 愛しい、愛しい人。
 俺の全ては貴方のものだ。
 だから、貴方の全てを俺にくれ。

 甘い蜜を零す番の中は、熱くうねり俺の形にピッタリと吸い付いて来る。
 俺の動きに合わせた喘ぎが、甘えているようで、もっと鳴かせたくなる。

 膝裏を掴んで高く足を上げると、密に濡れた互いの下生えが混じり合っているのが良く見える。

「あぁレン、レン」

 俺の番。可愛い番。

 フルフルと揺れる胸が煽情的で、こみ上げる射精感が抑えきれず、愛しい人を掻き抱こうとしたとき、その目がパチリと開き、俺を見上げて来た。

「ふぁあ? どうして? これ夢?」

「あぁ、レン。一緒に夢の世界に行こうな?」

「え? あっ!! ちょっと待って!!」

「待てないっ!」

 快感に震える体を抱き上げ、下からガツガツと突き上げれば、よがり狂う番の細い腕が、俺の首に縋り付いて来る。

 ドロドロに溶けあい、上り詰めた番に魔力を廻らせ、更なる高みへと押し上げた。

「あ~~~っ!!」

「グッウゥゥ・・・」

 番の身体が、ガクガクと痙攣し、ぎゅうぎゅう俺を締め付け、最後の一滴迄搾り取られてしまいそうだ。

「あ・・・あぁ・・・」

 随喜の涙を流す番を、腕の中の閉じ込めて耳元で囁いた。

「もっとだ。もっとくれ」

「へぇ? どうしたの?」

「どうしてもだよ? もっと君を感じさせて」

 ついさっき迄、凌辱する罪悪感に苛まれて居た事も忘れ、俺は番を貪り尽くし、目覚めたばかりの番が気絶する様に、再び眠りに落ちた時には空は白み、しつこかったカルの臭いも上書きする事が出来て、俺は満足だ。

 レンの同意なく事を始めてしまった以上、後で怒られるかもしれないが、そこは事情を説明の上で。誠心誠意、謝るしか無かろう。

 何と無くだが、レンは笑って許してくれそうだ、と思うのは、只の甘えだろうか。

 数刻の後。
 レンの様子を見に来たマークが、顔を嫌そうに顔を顰め、窓を全開にしていたが、まあ、ここ迄は見慣れた光景だ。

 しかし、今日はそこで終わらなかった。

「閣下・・・レン様が浄化直後だと分かって居られますよね?」

「う・・・・む」

 腰に手を当て仁王立ちのマークから、ねちねちと説教を食らってしまった。

 多少主従の遠慮があるローガンと違い、マークの説教は的確に痛い処を付いて来る。

 早々に戦意を喪失した俺は、諸手を挙げて降参するしかない。

「今回ばかりは、全面的にカルの責任ですから?致し方ない、と言えなくも無いですが。物には限度と言うものが有ると、いい加減ご理解頂きたいですね」

「いや。でもな?ちゃんと魔力を循環させて、レンの魔力の回復も・・・」

「それ以上に疲れさせたのは、誰でしょうか?現にレン様は、まだお休みですよね?」

 言い訳も一刀両断にされてしまった。
 マーク忘れてないか?
 俺、一応上官だぞ?

「う・・・む。すまん」

「謝るならレン様にです。それから、今日は誰もレン様に近付けませんから。レン様のお世話をよろしくお願いしますよ?良いですね?」

「それは無論だ。番の世話は伴侶の特権だからな」

 何を当たり前な事を言っているのか。と胸を張った俺に、マークの目は何処までも冷たかった。

 マークのレンに対する過保護も、大概だな。

「あ・・・あ~~。それで?カルとエーグルの様子はどうだ?」

「イスはロロシュに治癒させました。ロロシュはあんな性格でも、治癒の腕だけは良いですから。イスは問題なく任務についています。問題はカルなのですが・・・」

「不貞腐れてるのか?」

「いえ。すっかり、しょげ返っています」

 しょげる?
 2万年以上生きた龍がか?

 マークを疑う気はないが、あの龍にそんな子供じみた一面が有ったとは、俄かには信じがたい。

 マークは、俺の顔に疑いを見たのだろう。

 腰かけていた椅子から、若干身を乗り出して話を続けた。

「あの後、私達はカルと話をしてみたのです。カルがやった事が、獣人にとってどれだけ屈辱的な事で、非常識極まりない行為だったのかと説明もしました。それで思ったのですが、あの龍はまだ子供の様です」

「はあ?誰が?カルがか?」

「見かけは立派な大人ですが、精神的にはクオン達と変わらない気がします」

「そんな事が有るか?」

「実際カルがそうでしょう?彼が主に接してきたのは魔族です。ドラゴン程ではありませんが、魔族も長命ですから、カルはずっと、子供扱いされて来たようですよ?それに、1万年も、地下に引きこもっていたのですから、我々の常識も通じないというか、その知識が無いようです」

「言われてみれば、確かにそうかもしれん」

「クレイオス様が、カルの事を卵の殻を着けた赤ん坊と言っていましたが、案外的を射ているのかも知れませんよ?」

「あの見てくれで?」

「私が見る限り、カルはレン様に妙な執着を持っているようですが、それは色恋ではなく、孵化した雛が、最初に見た者を親と認識するのに、似た感情ではないでしょうか」

「あんなでかい雛鳥が居るか?」

「ガルーダの雛はあのくらいです」

 そこは聞き流すとこだぞ。
 無駄な注釈も要らんと思うが?

「ロロシュとイスとも相談して、カルにはシッチンを付ける事にしました」

「シッチンをか?何故だ?」

「シッチンの家は子沢山で、子守りが得意ですからね。彼ならカルに、今の我々の常識をうまく教えられると思いませんか?」

「なるほど・・・確かにシッチンなら、カルを上手く躾けられるかもしれんな」

 納得した俺だが、どうも最近のマークは、副団長と言うより、まめまめしく子の世話を焼く親の様だ。

 まぁ、マーク達3人が婚姻関係になったら、誰かが子を産むのだろうが、ロロシュは論外として、エーグルとマークなら、マークが母親役になりそうだしな。
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