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千年王国

無知とでしゃばり

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 月夜の庭園を疾走しながら、離宮が見えて来た処で、シッチンに中の様子を探らせた。

「シッチン中の様子は?」

「え~と・・・・2階の部屋の、多分レン様のいる寝室にレン様の他に3人。その外に5人っす」

「寝室の2二人はドラゴンだな?」

「いえ。3人ともっす」

「3人とも?」

「ちびドラゴンとカルさんっすね」

「外の5人は?」

「・・・うちの騎士みたいっす」

「・・・・・」

「良かった。間者が入り込んだ訳ではなさそうですね」

 ホッと胸を撫で下ろすマークだが、俺は全く安心できない。

 結界を張った寝室に、俺の留守中にわざわざ結界を破って入り込んだ者が居る。

 俺が三重に張った結界を破れるとしたら、それはカルしか居ない。

 何故カルがそんな事をしたのか。

「嫌な感じだ」

「閣下?」

 俺はさらに速度を上げ、怪訝そうにしている面子を置き去りにして、離宮に飛び込み、全速で階段を駆け上がった。

 俺達に充てがわれた部屋の前では、護衛の騎士達が、部屋の中をオロオロと覗き込んでいた。

「閣下!!よかった!カルさんが!」

「どけッ!!」

 こいつらの説明を聞くより、実際に見た方が速い。
 役に立たない護衛騎士を、押しのけ部屋に入ると、寝室からクオン達の声が聞こえて来た。

「だめなの!!」

「カルのバカ!やめて!!」

『うるさいぞ。レンの具合が悪いから。直してやろうとしているだけだろう?』

「ダメなんだってばっ!!」

『何が駄目なんだ?こうすればすぐに回復するじゃないか。こんな簡単な事を、何故アレクはやらないんだ?』

「レン様がびょうきになるから!!」

「やっちゃダメなの!!」

 カルの奴、また余計な事をしようとしているのか?!
 まさか、また魔素水を飲ませる気か?!

「カルッ!! 何を!!」

 飛び込んだ寝室の中では、ベットに横たわるレンの手を取ったカルと、カルの服を引っ張り、必死に止めようとするドラゴン達の姿が有った。

 そして、ドラゴン達の抗議を全く意に介さない様子のカルは、レンの手を握りその手が淡く光っている。 

 カルはレンに魔力を流し込んでいたのだ。

「貴様っ!!レンから離れろっ!!」

 俺の怒号に、驚いて向けられたカルの頬を殴り、胸倉を掴んで寝室の外へ投げ飛ばした。

『!! なっなにを!?』

「貴様ッ!! レンを殺す気かっ!!」

『こっ?何言ってるの?! 私はレンを直してやろうとッ!!』

「ふざけるな!!知りもしないで、余計な真似をするなっ!!殺すぞっ!!」

『なんだよ!!魔力を流し込んでやれば。こんなの直ぐに元気になるだろ?!アレクはレンを独り占めしたいから、わざと直さないで放って置いてるのじゃないか?!いつもいつも、アレクは狡いのだ!!』

「お前は馬鹿かっ!! レンの魔力経路は俺達よりも、ずっと細くて傷つきやすい!!無理に魔力を流し込むと、経路を傷つけ命に係わるのだっ!!」

『えっ?・・・・そんな、私は知らな』

「知りもしないで出しゃばるな!!それにな!伴侶のいる相手にマーキングなんかしやがって!!今すぐ殺してやるから表に出ろっ!!」

『マーキング?』

 何万年も生きた龍が、マーキングを知らないとでも言うのか?!

 惚けるのも大概にしろ!!

「閣下!!お止めください!!」

「気持ちは分かりますが!!ここは堪えてッ!!」

 顔色を無くしオロオロし出したカルに掴みかかろうとする俺の前に、マークとエーグルが割り込んで来た。

 怒りで目の前が真っ赤に染まって見える。

「ガアッ!!」

 押し留めようとする、マークとエーグルを何度も振り払い、その度に二人が俺に縋り付いて来る。
 
「グルル・・・・」

「閣下!!落ち着いてッ!!」

「耳と尾が出てますよ!!このままだと獣化してしまいますッ!!」

「シッチン!!何をしている!!早くカルを連れて行けっ!!」

「りょっ了解っす!! カルさん早く!! ここにいちゃ拙いっす!!」

『あ?あぁ、でも』

「いいから早く!!

「カル!!早くどっかに行けって!!」

「カエルレオス!!どこへ行く気だ!!」

「シッチン早く!!」

「俺の邪魔をするなっ!!」

 今の俺は荒れ狂う嵐と同じだ。
 誰にも俺の邪魔はさせない!!

「どけっ!!」

 投げ飛ばしたエーグルは、打ち所が悪かったのか蹲ったまま、立ち上がってこなかった。 

 エーグルが抜けた事で、拘束が緩んだ隙に駆け出した躰が、俺の意に反し急に動きを止め、身動き一つできなくなった。

「閣下!!無理に動いたら、手足が砕けてもげますよ!!」

 声の方を振り向くと、片腕にエーグルを抱いたマークが、髪を騒めかせ氷を纏わせた腕を俺に向けていた。

「閣下。お怒りは御尤もですが。落ち着いて、頭を冷やして下さい。これ以上騒ぐとレン様が起きてしまいます。お目覚めになったレン様が、この状況をご覧になったら何と仰るか。分かりますね?」

「・・・・マーク・・・・」

 マークの静かな声に、レンの方に首だけで振り返ると、横たわるレンにドラゴン達が庇う様に抱き着いていた。

 その光景に急激に頭が冷えた。

 それよりも、氷漬けにされた体の方が、冷え切って歯の根が合わず、カチカチと震えた音を立てている。

「いいですか?魔法を解きますが。もう暴れないで下さいね?」

「す・・す・・すまん」

 マークは魔法を解いてくれたが、団服は凍り付いたままで、身じろぎする度にパキパキと音を立てている。

 ロロシュより先に、マークの氷結で氷漬けにされるとは・・・・心外だ。

「エーグルも、申し訳ない」

「良いんですよ。閣下の気持ちは分かりますから」

「しかし・・・」

 エーグルの額は割れ、顔の半分が血塗れだ。

「クオン、ノワール。もう大丈夫です。エーグルに、タオルを持って来てくれますか?」

「うん!」

「まってて!」

 パタパタと浴室に駆けて行った二人は、各々タオルを手にもって戻って来て、クオンはエーグルに、ノワールはマークにタオルを手渡した。

「ありがとう。さあ。2人とも私達と部屋の外に出ましょう」

「でも・・・」

「レン様が・・・」

「大丈夫ですよ。下でお茶を入れて上げますから。閣下とレン様を二人きりにしてあげましょうね」

 マークは自分の事には鈍チンだが、こんな時でも頼りになる、得難い存在だ。

 マークには感謝しかないな。

 いつかマークを団長の座に、座らせてやりたいが、マークの代わりになる様な部下は、全く思い浮かばない。

カルの言う通り、俺は狡い雄なのだ。

 片腕でエーグルを支え、空いた手でドラゴン達の背中を押して、マークは部屋から出て行った。

 静寂に包まれた部屋に、眠り続けるレンと二人きり。

 ドサリとレンの横に座り込んだ俺は、直ぐに立ち上がり、部屋の窓を大きくあけ放った。

 クソッ!!
 部屋中にカルの臭いが充満している。
 その臭いの元が、俺の番だなんて。
 人生最大の屈辱だ!!

 薄く開いた唇に口づけを落とし、枕に散った黒髪を撫でつけた。

「ごめんな」

 一刻も早く、この臭いを消してしまわなければ、頭がおかしくなりそうだ。

 何も知らず眠る番の襟を両手で広げ、首筋の婚姻紋に唇を滑らせた。

 眠っていてもくすぐったいのか、番は首をすくめたが、俺はそれに構わず、婚姻紋の線に沿い舌を這わせた後、ゆっくりと獣歯を沈み込ませた。
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