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千年王国

晩餐

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「晩餐ね・・・」

「輸送した物資を、無駄に使わなければ良いのですが」

「大公は典型的な、温室育ちに見えたが、そこ迄馬鹿じゃないだろう」

「だと良いのですが・・・」

「どっちにしろレンが居ない所で、詳しい話も出来んからな。今夜は挨拶程度で早めに戻らせてもらおう」

「そうですね・・・それでレン様のご様子は?」

「よく眠っている。パフォスには怒られそうだが、応急処置で回復薬も飲ませた。暫く眠れば、問題ないだろう」

「そうですか・・・私達はあと何度、こんな思いをしなければ成らないのでしょうか」

「それは俺の方が聞きたいよ。まぁ、レンが納得するまで何度でも、なのだろうな」

「そうですよね・・・・私はもっと強くなりたいです」

「そうだな。俺もだ」

 レンを護ると言いながら、結局俺達は最後にはレンの浄化頼みだ。
 魔物が産まれないようにする為には仕方の無い事なのだが、あの小さな体に掛かる負担を思うと、忸怩たる思いが溢れて来る。

「閣下でもですか?」

「そりゃな?クレイオスやカルには敵わんからな」

 なんだよ?
 何故そんな変な顔をしている?
 レンが大好きな綺麗な顔が、台無しだぞ?
 俺はおかしなことを言ったか?

「閣下は既に災害級にお強いですよ。これ以上強くなったら、本物の化け物です」

 肩を竦める姿がワザとらしい。
 カリカリしてるな?
 こういう時のマークは、あまり刺激しない方が良いのだが・・・。

「化け物とは酷いな」

「事実です」
 
「マーク。レンの事は俺とドラゴンに任せて、ロロシュと話して来いよ」

「いえ。今は冷静になれない気がします」

「そういう鬱憤は早めに解消した方がいいぞ?エーグルと一緒なら、あいつが間を取り持ってくれるだろう?」

「そうなのですが、いつもイスに負担を掛けてばかりで、申し訳無くて」

「そうか?エーグルは、喜んでいると思うが?」

 俺の言葉が意外だったのか、マークは目を見開いて首を傾げて見せた。

「どう見てもそうだろ?」

「そうでしょうか?」

 首を傾げるマークは、自分の事となると、途端に鈍くなるよな。

 忙しくなる前に、一度話し合って置け。とマークに伝え席を立った。

 部屋に戻ると、寝室の前のリビングで子ドラゴン達が椅子の上で丸くなっていた。

「どうした?」

「レン様、いつおきる~」

「レン様いないと、つまんな~い」

「そうだな。でも今は休ませてあげないとな?」

「う~~ん」

「今夜俺は、晩餐に出なければならない。その間レンの事を頼めるか?」

「わかった~~」

「だが、無理に起こしたら駄目だぞ?」

「わかってるよ~」

「アレクみたいなことしないよ~」

 こいつ等・・・・。
 何処でこういう事を覚えてくるのだか。
 子供の躾と教育は難しい。

 不貞腐れて丸くなったドラゴンの頭を撫で、鏡の前に立つと、埃塗れで酷い有様の自分と目が合った。

 こういう時は湯につかってサッパリしたい処だが、干ばつ続きの国で、魔法で出した水でも、無駄にはし難い。

 洗面所で水差しに入れられた温い水で顔を洗い、後は洗浄魔法に頼る事にする。

 社交に来た訳では無いから、汚れさえ落とせば団服のままでも、問題無かろう。

 ただ俺は良くても、レンはそうはいかん。

 風呂には入れてやれないが、清拭くらいはしてやらんとな。
 別に、レンに触れたいが故の言い訳ではない。
 埃塗れのままで、ゆで卵の様に滑らかなレンの肌が、荒れてしまっては可哀そうだ。

 それに体調が良くない時でも、体は清潔に保っておかないといけない、とレンも言っていたからな。

 ドラゴン達に、レンの荷物から着替えを出す様に言いつけ、俺は手桶と真新しいタオルを数枚掴んで、寝室へと戻った。

 魔法で出した水を手桶に張り、少し温めてから緩めに絞ったタオルで、一度レンの身体を清め、タオルを変えて水気を拭きとって行く。

 埃塗れだろうと、レンの美しさが陰るものでは無いが、こうして清めてやると、番の肌は内側から光を発している様に、清く美しい。

 細く括れた腰や、両足の間の淡いに、俺の中の雄が起き上がろうとしている。

 いかんいかん。
 今は悪戯をしている場合ではない。
 我慢しろ!俺のオレ。

 俺の中の猛りを、抑え込むために思い出したのは、大会議の時のロイド様の笑顔だった。ロイド様のあの笑顔は、何度見ても背筋が凍るほどに恐ろしく。

 暴れそうになるオレを大人しくさせるには、効果てきめんだ。

「しかし、何度も使える手ではないな。悪夢を見そうだ」

 俺のオレが大人しくしている隙に、手早くレンを着替えさせ、洗浄魔法で汚れを落とした髪を梳っている処で、マークが晩餐の時間だと呼びに来た。

 子ドラゴン達にレンを任せ、俺とマークは大公城からの迎えの馬車に乗り込んだ。

 馬車での道中、俺はマークにレンの様子を語り、マークはロロシュの様子を話した。

「ロロシュは大公殿下からのお声掛りで、晩餐に出席するそうです。仕事とは言え、どんな取り入り方をしたのだか・・・」

 ウィリアムの影だったロロシュがどんな手を使うのか・・・。
 想像したくないな。

「・・・・・・エーグルは?」

「少しロロシュと話をする、と言っていました。私達が向こうについたら、護衛任務に就くそうです」

「ロロシュとは、ちゃんと話せたのか?」

「私の言いたい事は伝えました。それをどう受け止めるかは、ロロシュ次第です」

 成る程。
 ロロシュは、言を左右に誤魔化しに掛ったのか。

「今の所、問題ないようですが、私達も長くこの国に居ると、ロロシュの様に、感覚がズレて来てしまうのでしょうか?」

「ロロシュは重症か?」

「全力で張り倒すくらいには。ですが元がああいう人なので、後は直接確認なさって下さい」

 これは面倒そうだぞ。

 誰が何のためにこんな面倒な、加護をこの国に与えたのだろうか。この国で信仰されている龍神に与えられた、と考えるのが妥当だが。
 ・・・天気を左右する力を持つ宝物といい、この国は奇妙な事ばかりだ。

 さて、大公直々に招待された晩餐だが。
 晩餐と呼ぶには貧しい食事に、大公は恐縮しきりだった。
 
 俺達からすれば、豪勢な食事をを出されたら逆に顰蹙ものだったろうから、食事内容については、さして問題ではない。

 問題は、俺が社交が得手ではない、という事だ。

 それに愛し子の誘拐を企てた、張本人を前にして、いきなり打ち解けろという方が無理がある。

 晩餐の最中俺は、当たり障りの無い返事を繰り返し、詳しい事は、レンが目覚めてからと、全て突っぱねた。

 そこは適材適所。

 和やかな歓談は、社交の得意なマークと、妙に大公に気に入られているロロシュに、丸投げを決め込むことにした。

 一刻も早く番の元に戻りたい俺は、戦闘の疲れを理由に、晩餐を切り上げさせようとしたとき、問題が起こった。

「?!」

 椅子を蹴立て、立ち上がった俺に、晩餐の参加者全員の目が集まった。

「閣下?どうされましたか?」

 俺の形相に慄き、震え声を出す大公に構っている余裕は無い。
 不安げな大公への返事は無視し、晩餐会場から出る俺を、マークや将校達が追って来た。
 
「閣下!」

「誰かが、俺の結界を破った!ショーン。ロドリック後を頼む。ロロシュは分かっているな」

「マーク。エーグルついて来い。それから・・・・シッチンは居るか?!」

「はいッ!!」

「お前も来い!!」

「了解っす!馬車を廻しますか?」

「馬車?アホか!俺達が駆けた方が速い!!」

 部下達の返事を待たず、駆け出した俺は、身体強化を掛け、月光に照らされたうらぶれた庭園を疾走したのだ。
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