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千年王国

首都目前

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 その後も、アレクさんの気持ちにお構いなく、彼の放つ魔法は増幅され、ナイフでバターを切る様に、魔物の群れ切り開き、前へ前へと押し進んで行きました。

 多分威力的に、キッズ達のブレスだと思うのですが、何度も目の前の魔物が消し飛ばされ、そこにアレクさんは錐を揉み込むように、隊をねじ込んでいきます。

 キッズ達は、もしかしたらカルかクレイオス様かもしれませんが、飛行タイプの魔物への攻撃も手伝ってくれているようで、今まで元気に毒を撒き散らしていたガルーダが、急にガクリと首を垂れて、地面に落下してきた時はビックリしてしまいました。

 ドラゴン達の助力には、とっても助けられているのだけれど、仲間の姿が目視出来ないというのは、中々に不便なものですね。

 無線連絡みたいのが、出来ればいいのですけどね?

 騎士団全員で力を合わせ、支援物資を守りながら、魔物の群れを切り開き、押し返して進んで行きました。

 その間私は、浄化を解放したままです。

 半径50mくらいの、騎士さん達に打ち取られたり、弱った魔物達を浄化し続けています。

 騎士達の怒号と魔物の雄叫びが飛び交い、魔法の炸裂音と剣戟。不快な臭いがあたりに充満しています。

 そうやって死力を尽くし、大門まであと少し。

 外郭の歩廊で人影が走り回って居るのを、漸く肉眼で捉えることが出来ました。

「あと一息だ!! 堪えろ!!」

「大門を潜る迄、気を緩めるな!!」

 アレクさんや将校さん達の、檄が飛び騎士団の士気は最高潮に達していました。

 ですが、首都の大門まであと500mほどの処で、騎士団の進撃はピタリと止まってしまったのです。

 それは、倒しても倒して押し寄せて来る、異常なまでの魔物の数と、外郭に近付いた事で、結界に傷をつけない様に、アレクさんやドラゴン達の、強力な魔法が使えなくなってしまったからです。

 ここまで来てしまっては、もう引く事も出来ません。

 クレイオス様のブレスで一掃するなら、私達も退避しなければならないけれど、それも今は無理。

 クレイオス様が大神様から許されて居るのは、私を助ける事だけ。拡大解釈するなら、魔物の掃討も私の手助けではあります。

 でも、大神様のお考えは、創世の時代が終わった世界では、神が生みだした生き物は自らの力で生き延び、進化し発展して行かなければならない。という事に要約されるようです。

 だからクレイオス様もアウラ様も、過干渉な毒親にならない様に、人との距離を保とうと我慢しているのだ、とママンが切なそうに説明してくれました。

 自分達で出来る事は、神様には頼らない。
 
 私はそういう心構えで。

 アレクさん的には、悲しい事に、神様は当てにならないもの。と骨身に染みているからでしょうか、こんな状況でも特に動揺する事なく、直ぐに隊列を組み直すことが出来ました。

 支援物資を中心にその周りを、大門に向かって円錐形に陣を組み、襲い掛かる魔物を倒しては、ジリジリと大門へと移動していきます。

 ここで私はアレクさんに、今まで温存していた力を、浄化に全振りしても良いかと訊ねてみました。

「急にどうした?」

「今までは、誰かが大怪我した時、直ぐに対応できるように、浄化の範囲を小さめに絞ってたけど、ここでの足止めが長くなるのは、危険でしょ? だったら広範囲に浄化して、その隙に大門を通った方がいいかな?って思って」

「ふむ・・・マーク!」

 私の提案を受けアレクさんは、マークさんを呼んで手短に何か支持を与えています。

 支持を受けたマークさんは、私に視線を送ってきましたが、ここは心配させてはいけないと、ニッコリ微笑んで見せました。

 するとマークさんは、諦めたような溜息を吐きつつ、伝令係の人に指示を伝えています。

 それを見ながら私は、みんなに心配を掛ける事を申し訳なく思いながらも、やっぱり無線的な通信機器は必要だな。とぼんやり考えていたのです。

「レン」

「へ? あっはい!!」

「大丈夫か?」

 私の額に手を当てて、アレクさんが顔を覗き込んできました。

 これは失敗です。
 ぼんやりしてたから、心配させてしまいました。
 無線をどうやって作ろうか考えていただけなんだけど、そんな場合ではなかったのよね。

「大丈夫。ちょっと魔道具をどうやって作ろうか考えてただけ。心配ないよ?」

「魔道具? 今?」

「へへへ・・・」

 呆れられてしまいましたが、こういう時は笑って誤魔化すのが一番な気がします。

「・・・・浄化を頼む。だが呪具の浄化の時の様な無理はするなよ?」

「うん。約束する」

「・・・・・」

 あっ。
 これ信用されてない感じ?

 でも、なんだかんだで、以前より魔力も神聖力も上がっているから、前みたいにヘロヘロにはならないと思うけどな。

「それと、クレイオス達をこっちに呼んでくれるか?」

「クレイオス様?なんで?」

「君の周囲を守らせる。あいつ等俺が呼んでも来そうも無いだろ?」

 そんな事ないと思うけどなぁ。

 でも、私は言われた通りに、空に向かってクレイオス様達を呼びました。
 
 すると程なく、轟と風が吹き。
 ボンッと傘が開くような音の後に、人型を取ったクレイオス様達ドラゴンチームが居りてきました。

 ブルーベルちゃんから降りた私に、クオンとノワールが抱き着いて甘えてきます。

 2人の頭を撫でていると、アンと子供達も寄って来て、自分達も撫でろと鼻ずらを押し付けてきて来ました。

 よしよし。
 みんな頑張ってくれたもんね。
 良い子、いい子。

 周囲では、騎士団の皆が必死で戦ってくれているのに、私だけモフモフに囲まれて、別世界にいるみたいです。

 私がキッズとフェンリル達を撫で繰り回している間に、アレクさんはカルとクレイオス様に私が浄化をしている間、傍に付いて居る様に話しているようでした。

 その間3人は、周囲の魔物に魔法を飛ばすことも忘れていません。

 その攻撃は的確で。
 この人達、頭の後ろにも目が有るのじゃないかと、感心してしまいます。

 アレクさんの説明に頷いた二人に、私は一つ提案をしました。

「ねえ。カルには龍の姿になって貰いたいのだけど、駄目かな?」

『本性を見せろと? 何故?』

「だって、この国は龍神信仰が盛んなのよ? カルが本当の姿を見せて上げたら、良いデモンストレーションになると思う」

『でもんすと?』

「え~と。私達の実力を見せつける。宣伝みたいな感じ」

『それって、レンを恐れ敬わせる効果が有るって事?』

「恐れられちゃうのは困るけど。首都の人達は喜ぶんじゃないかな?クレイオス様そういうのって、大神様敵に駄目なの?」

『パパ!!』

 え~~ッ?
 こんな時なのに~?!
 年齢的にパパはなぁ~~。

「・・・じゃぁ。ダディ駄目?」

『ダディ・・良いなそれ。問題ないぞ!レンの好きにすると良い!』

「だって」

『クレイオス・・・まぁいい。レンの浄化に合わせて、一番目立つように姿を見せてあげるよ』

 とクレイオス様に呆れつつ、快諾頂けたところで、浄化に取り掛かる事となりました。

「では、皆さんよろしくお願いします!!」

 応!!

 と答える皆が守り、作ってくれた空間の中央に立ち。

 私は破邪の刀を抜き放ったのです。
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