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千年王国

進撃

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「下に居るのは、種類が多すぎて、なんだかよく分からないぁ」

「そうだなぁ。まだ陽が差していないから断言は出来んが、パッと見た感じだと、蜘蛛は居なさそうだぞ?」

「本当ッ!よかったぁ~」

 ホッと胸を撫で下ろす私に、アレクさんは苦笑いです。

 私が蜘蛛を大っ嫌いになった理由は、結構下らなかったりするのだけど、それでも怖いものは怖いの。

 水辺の魔物のヌメッとした感じも嫌だけど、蜘蛛の恐ろしさに勝るものは無いのです。

 じゃあ、他の魔物なら平気なのかって聞かれたら、普通に怖いって思います。

 でも、水辺の魔物や昆虫系の魔物は、全く何を考えているのか、分からないけれど、それ以外の魔物からは、苦しんでいる声が聞こえてくる。
 その声を聴くと、可愛そうだなって気持ちの方が強くなるし、助けてあげたいと思ってしまう。
 王都の地下墓地に居た、がしゃ髑髏でさえ、苦しい悲しいって気持ちが伝わって来たのです。
 まあ、あれは、もとが人だったからって事もあるのでしょうが、生きていれば尚更ね。

 だからこそ不思議です。

 普通この距離なら、あの大量の魔物達が、とっくに私達に気付いて、襲って来てもいい頃なのに、全く無関心なんて。昨日もワイバーンに気付かれるまで、結構時間が掛かったし。

 それだけ強く魔物を引き付ける何かが、首都にはあるという事でしょう?

 私の魅了を全開にしても、こうは為らないと思います。

 カルは面白がって、一度試して見ろ、と言っていましたが、謹んでお断りさせて頂きました。ガルスタで、獣人隊に追われた時だって、凄く怖かったのに、魔物相手に、全開になんてしたくありません。

「クレイオス達の姿が見えんな」

「え? あっうん。理由は教えてくれなかったけど、ここでは自分は姿を見せない方が良いだろうって。でもキッチリ仕事はするから、安心しろって言ってました」

「また神の制約か?」

「何と無く、それだけじゃない気がするのよね。でも、カルやキッズ達ならともかく、クレイオス様のサイズだと、完全に怪獣大戦争だもん、首都の人達を驚かせない様に、隠れているのは正解なのかも?」

「一理あるな。ならドラゴンは好きにさせておこう。俺達は、完全に夜が明ける前に始めるぞ?」

「はい。今度こそ首都に入って、物資を届けて上げましょうね」

 気負う私の頭を、アレクさんは優しく撫でてくれました。

 この優しい人が関係している神託の意味を知り、アウラ様の言う千年王国を創る為に、私も精一杯頑張りたいと思います。

「なあレン?」

「なあに?」

「戦闘の前に、幸運のキスをくれないか?」

「キッ?・・・・・キス?みんなの前で?」

「駄目か?」

 そのあざとい顔ヤーメーテー?!
 ウルウルした眼で見ないで~。
 断り辛い~!

「ほ・・ほっぺでいいよね?」

「唇は駄目か?」

 もう!!
 だからやめてよ!!

「恥ずかしいから、ほっぺで我慢して」

 なんなのその拗ねたような、不満げな顔。
 今ちょっと、可愛いとか思っちゃったじゃない。
 本気で恥ずかしいんだってば!!

 これ以上何か言われる前に、済ましちゃお!
 祝福も発動しておけば、幸運のキスになるわよね?

 Chu!

 ん? なんか柔らかい?
 えぇ?なんで唇に・・・?
 ほっぺを狙たのに??

「うっ!・・・」

 今なっなめっ・・・?
 ちょっと!ヤダ!! 駄目だって!!

「ん~~!・・・・ぷはっ」

「隙だらけだぞ?」

 こっこの人、わざと顔ずらしたの?
 なんてことすんのよ?!
 みんな見てるのに!?
 めちゃくちゃ恥ずかしい!!

 0距離で目を覗き込むとか、反則!!
 反則でしょ?!

「なっなにするんですか?!」

「さぁ? 何の事だ? キスしてくれたのはレンだろ?」

 なに、ニヤニヤしてんの?!

「ずるい!! アレクのバカッ!!」

「うん。あれは狡い」
「ずるいな」
「でも閣下だから、あのくらい普通にやりそう」
「だなぁ・・・・」
「見ろよ。レン様真っ赤だぜ」
「頭から湯気出そう」
「「「「いいなぁ。うらやましいなぁ」」」」

 ぴっピヨちゃんズに見られた?!

「ひっひょこちゃん達?今のは内緒!内緒だから!」

「え?」
「別に内緒にしなくても」
「なあ?」
「仲良くていいっすね」

「内緒なのっ!誰かに言ったら、お菓子抜きだからね!!」

「お菓子抜きって」
「オレ等子供ですか」
「なぁ」
「でもレン様が言うんなら、可愛いから言う通りにするっス」

 4人揃って親指立てられても、全然信用できない。
 アレクさんは喉の奥でずっと笑ってるし。
 戦闘前だって言うのに、緩すぎやしませんか?

「閣下。レン様を揶揄い過ぎですよ?」

「あぁ、すまんな」

「それからレン様。このひよこ達に、内緒は通じませんので、我慢してください」

「うぅ・・・・」

 やっぱりかぁ!
 そうだと思ったよ!!

「閣下。準備整いましたので。いつでも行けます」

「分かった」

 ブルーベルちゃんの首を廻らし、首都に向き直ったアレクさんが、左手を肩の高さに掲げると、今までの少し緩かった空気がビシリと引き締まりました。

 緊張が高まり、ビリビリした空気が肌に刺さるようです。

 アレクさんが大きく息を吸い込み、引き締まった胸がいっぱいに膨らみ・・・。

「出撃っ!!」

「「「「うおおおーーーー!!!」」」」

「「「「わぁーーーーーー!!!!」」」」

 鬨の声をあげた騎士さん達が、先陣を切るアレクさんの後に続いて飛び出して来ます。

 私達の横には、アンと子供達。
 姿の見えないカルとキッズ達は、クレイオス様と一緒に姿を隠しているようです。

 でも気配は感じるので、多分私達の頭の上あたりにいると思うのですが、流れ弾に当たらないと良いのですけど。

 クレイオス様とカルは、なんて事ないかも知れませんが、クオンとノワールは心配です。
 でも人型を取って、私達の傍に居るより、クレイオス様の傍の方が安全かもしれませんね。

 突進する騎士団に気付いた魔物達が、土煙を上げてこちらに向かってきます。
 その中で、飛行タイプの魔物の動きが、やはり早いようです。

 一番早く接触しそうなのは、猛禽類の頭と羽を持ち、足と胴体は別の生き物のように見える、アレクさんが言っていたグリフォンか、ヒッポグリフでしょう。

 背中でアレクさんの魔力が、高まって行くのが分かりました。

 伸ばした右腕から炎が飛び出し、紅蓮の龍となって、朝焼けの空に浮かぶ魔物の群れに襲い掛かりました。

「えっ?」

「あ?」

 私達が揃って間抜けを出した訳は、アレクさんが放った紅蓮の龍が、魔物に届く直前、何倍もの大きさに膨れ上がり、魔物の群れを飲み込み、全てを灰に変えてしまったからです。

 大喜びで歓声を上げる、騎士さん達の士気は爆上がりです。


「えっと、今のは?」

「・・・クレイオスかカルだろう。俺の炎を増幅したな。チッ!余計な真似を」

 他人が放った魔法を増幅?
 そんな便利な事って出来るんだ。
 クレイオス様とカルは器用だなあ。
 無駄に長生きしてる訳じゃないのね

 感心する私でしたが、アレクさんは空に向かって ”余計な事をするなっ!” と吠えています。

 魔物達には可哀そうですが、このまま手伝って貰えれば、この掃討戦も、とっても楽になると思うのだけど?

 アレクは指揮官だから、騎士の配置とか、そういう事も考えながらの、力配分なのかも知れませんね。

 決して自分が出来ない技を、クレイオス様かカルが出来るからって、負け惜しみで拗ねている訳じゃありませんよね?

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