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千年王国

ひよこ

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「あら、大変」

「いって~~」

 ”これあれだよな?”
 ”八つ当たりだよな?”
 ”カルさんとレン様が仲いいからってさ”
 ”言うほど仲良いか?”
 "よく2人で話してるだろ?"
 "そう言やぁそうだな"

 人が気にしていることをヒソヒソと。
 こいつら纏めて。第4に配置換えしてやろうかっ!

「鼻、大丈夫?」

「全然平気っす!!」
「オレ等のこと心配してくれるなんて!!」
「感動ですッ!」
「あ~!めちゃくちゃ、いい匂いがする~」

「お前らッ!!さっさと持ち場につけッ!!」

「「「「すみませんでしたぁ!!」」」」

 まったく!
 切迫感が無いというか。
 これだから鳥頭は!
 何時になったら、あいつ等は余計な事を言わなくなるのだ。
 それにレンもレンだ、こんな奴らに優しくしてやることなど無いのに!

「はあ~~~」

「うふふ。ピヨちゃん達は今日も元気ね」

「少しは落ち着いて貰いたいのだが」

「ふふふ。でも、小鳥が囀らなくなったら、病気って事よ?」

「・・・・今は、ハーピーだ」

 レンがひよこを庇うのにイラっと来たが、正論の様な気がするので、気持ちを切り替えて、今は仕事だ。

 別に言い返せなくて、誤魔化したわけではない。
 優先するべきとろこに、取り掛かるだけだ。

「ハーピー来ます!!」

「まだだ!!」

「彼、この距離でよく見分けがつきますね」

「ん?あいつも猛禽類だからな」

「目が良いんだ。でもあの距離なら、アレクの魔法は届くでしょ?」

「俺はな。ひよこの射程迄待たんと」

「ああ。そういうことか」

 感心しているレンの頭を撫で、刻々と近付いて来るハーピーに眼を凝らす。
 その間も、他の騎士達は撃ち落としたワイバーンにとどめを刺すことに余念がない。

 ドラゴン達に、羽を食いちぎられたワイバーンも、ボロ屑の様に空から落ちてくる。

 マークとエーグルは、数人の部下を連れ、マークが氷で撃ち落としたワイバーンに、エーグルと部下の騎士達が、とどめを刺そうと駆け寄った。

 暴れまわるワイバーンに、爪の毒を警戒した部下達が躊躇を見せたが、エーグルは何のためらいも無く、振り回される爪を搔い潜り、剣に炎を纏わせ、一刀の元にその首を落としてしまった。

 頼りがいのあるその姿に、マークは一瞬陶然と魅入っていたが、直ぐに空から降って来る、ワイバーンへと視線を戻していた。

「やっぱりエーグル卿は強いし、格好いいわね。ロロシュさん、大変ね?」

「良いところを見せたければ、自分でどうにかせんとな?」

「まあね。でもロロシュさんのスタイルって、忍者とか仕事人みたいだから、大ぴらな戦闘向きじゃなさそう」

 ロロシュの戦闘は暗殺者のそれだからな、人前で披露はし難いだろう。

 しかし、何故レンがそれを知っているのか?と疑問に思ったが、ドラゴニューとの立ち合いを見ていたのだったな。

 神は世界の全てを見通すというが、相手がレンで、あれほど喜んでくれて居なければ、覗き見された気分で、不快になったかもしれん。

「そろそろだな。ひよこ! 構えろっ!!」

「アン!太郎と次郎もこっちにおいで!!」

 レン呼ばれたフェンリルの親子は、千切れんばかりに尻尾を振りながら、レンに駆け寄って来た。
 口の横から舌も零れて、これはあれだな。
 完全に犬だな。

「アン? あそこにハーピーが居るから魔法で撃ち落としてくれる?太郎と次郎は、近くに落ちて来たハーピーが、悪さできない様にしてね」

 バフバフ。ワンワンと元気よく返事した親子は、レンの隣にびしりと背筋を正して座り、ひたひたと尾で地面を叩きながら、近付いて来るハーピーに集中している。

「放てッ!!」

 俺の放った風の斬撃が、周囲の空気を取り込みながら、轟々とハーピーに襲い掛かり、風の斬撃が通り過ぎると、ハーピーの群れの中心に、ぽっかりと空間が出来上がっていた。

 一拍遅れて、ひよことアンの放った斬撃がハーピーに襲い掛かる。

 離れていてもハーピーたちの叫び声が聞こえて来た。
 無数の羽が飛び散り、地面に落ちていくハーピー達。
 それに向かって、太郎と次郎が駆け出して行った。

「ひよこはまだ、甘い。アンの方がマシだな」

「フェンリルと比べるのって、どうなの?」

「そうか?」

「そう思うけど・・・騎士基準だとまだまだ?」

「そうだな。威力が無ければ、もっと正確でないとな?」

「なるほど。後進の育成は気を使うのね」

「まあな。俺も何時までも、現役でいられるわけではないからな」

 何事も無ければ、後10年は行けそうだが。
 何があるか分からないのが、この商売だからな。

「それより、他の魔物も気付いたようですけど・・・これ、一回退却した方が良くないですか?」

「退却と言ってもな・・・前の街まで戻るのも一苦労だ」

「でも、なんの手立ても無く突っ込んでも、被害を出すだけでしょ?」

「まあ、そうだな・・・気付かれた飛び物は一応始末出来たし、一度戻るか」

「その方がいいと思いますよ?」

 あの量の魔物相手に粘っても、碌なことが無いからな。

「マーク!!ハーピーは片付いた!! 一度引くぞッ!!」

「了解!! 撤収!! 退却だ急げッ!!」

 マークの号令を合図に、全員が撤収作業に入った。

 支援物資を回収し、部下達の退却を急がせる。

 俺は最後尾でその様子を見守りながら、背後の魔物の動きに気を配った。

 騎士団の全員が、魔物に追われる事を覚悟していたが、予想に反し土ぼこりを上げ追って来た魔物たちは、干上がった川床を超えた処で、一斉に立ち止まり、首都へと踵を返して戻って行ってしまった。

「どういう事?」

「本当に・・・こんな事は初めてです」

「何はともあれ、命拾いしたって事だよな?」

「そういう事になるのかしら」

 レンとマーク、エーグルの3人は、しきりに首を傾げている。
 それは騎士団全員が感じている違和感だろう。

 だが、命拾いしたのは事実であるし。
 今後の計画を立て直す時間を稼げたのは、行幸だった。
 
 ひとつ前の街まで戻り、街の外れの広場を借りて陣を張った。

 この街も、ほとんどの住人が、首都へ避難していたが、足の弱い老人などが、まだ街の中に残っていた。

 その中には、街の顔役の父親だという老人とその家族も居て、現在の状況なども話してくれた。

「帝国の騎士団の方々が、助けに来て下されるとは、思っても居りませんでした。ゴトフリーの商人などは一目散に逃げ出してしまったというのに。有難い事です」

「3年前から雨が降らなくなった事。盗賊団が暴れた事。魔物の被害が増えた事などは知っている。しかし、あの首都の有様だどうした事だ?」

「それほど酷い状態でしたか?」

「今は結界に守られて、首都の中は無事の様だ。だが外郭の周囲は、魔物に埋め尽くされていてな」

「はあ~~。そうでしたか・・・」

 老人は皺深い手で顔を撫でおろし、深い溜息を吐いている。

「雨が降らなくなり、大地が干乾びても、大公様が税を免除して下さり、たまの配給も有ったお陰で、細々とではありますが、何とか食いつないで来ることが出来たのです。ですが国中を盗賊が荒し回ったのです。この街は被害が有りませんでしたが、他所は田畑も焼かれ子供も攫われで、大変な事になったようです」

「ここは盗賊に襲われなかったのか?」

「息子は、街の顔役をやって居るのですが、あいつは死んだ母親と同じ獅子の獣人でして。昔から腕っぷしだけは強くて、自警団のまとめ役でもあったんです。息子の噂が広がって居たお陰でしょうか、この街に盗賊が来ることは有りませんでした」

「なるほど」

 そんなに強い御仁なら、一度会ってみたいものだ。
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