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千年王国

ピヨちゃんズ

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「カルはなんだって?」

「やっぱり、何か分からないって」

「そうか」

「なんとなく、鉱物じゃない気はするのだけど、本当になんなんでしょうね?」

「危険な物では無いのだろう?だったら、正体を気にする必要は、ないのではないか?」

「そうなんですけど。すっごく強い力を感じるのに、それが何か分からないって、ちょっと気持ち悪くないですか?」

「まあな。呪具が配置された墓所で、瘴気に塗れず魔物も発生させず、逆に呪具の方が弱められた状態で、穢れ一つなく放置されていた石だからな。気にするなと言う方が無理があるな」

「でしょでしょ?あれがどんな仕組みに為ってるかが分かれば、同じものを作る事も可能よね? 同じものが作れたら、帝国中の街や村に配布して、魔物除けに出来ると思わない?」

「確かにな。だがなレン。そんな簡単に作れるものなら、たった一つの秘宝として、隠し持っているとは思えんのだが?」

「それを言われちゃったら、そうなんですけど・・・・」

 でも、魔物や魔獣の襲撃に怯える事も、討伐で怪我する心配もいらなくなる。そんな夢みたいな道具が有ったら、みんな助かると思うのよ?

 あの秘宝がどうなってるのか、ちょびっと削って調べてみたいなあ。

 なんか、うずうずしちゃうんだけどなあ。

 きっと世の中のマッドサイエンティストと呼ばれる人達も、最初はこんな感じの興味に負けて、あっち側に渡っちゃったんじゃないかしら。

「レンの気持ちも分からんではないが、今は、ヨナスとヘリオドスの墓が穢されずに済んで良かった、と思うに留めて置いたらどうだ?」

「う~ん。ちょこっと削ってみたらダメ?」

「レ~ン」

 アレクさんに呆れの籠った、ジト目で見られてしまいました。

「うっ・・・はい。ごめんなさい」

「あれは、ウジュカ公国の秘宝で俺達が、どうこうして良い物ではないのだぞ?」

 好奇心猫を殺す、とはこういう事でしょうか。
 久しぶりに、お説教されてしまいました。

「それは、判ってるんですけど・・・・好奇心に負けて・・・つい」
 
 お説教されて、首を竦める私に、アレクさんは小さく息を吐き、大きな手で私を抱き上げ、髪を撫でてくれました。

「レンが唯の好奇心で、そんな事を言ったのではない、と分かってはいるが。通すべき筋は通さんとな?」

「はい、ごめんなさい」

「なに。筋さえ通せば、大公殿下から根掘り葉掘り、洗い浚い聴けるかもしれんぞ?」

「うん」

 叱った後に、甘やかしてくるの、泣きたくなるから、やめて欲しいです。
 
 我儘を言った事が恥ずかしくて、アレクさんの髪に顔を埋めると、サンダルウッドの香りがして、すっごく落ち着きます。

 はあ~。
 癒される~。

 この人は、香水とかつけていないのに、いつもいい香りがする。
 お風呂用品は、私も同じものを使っているのに、不思議です。 

 これだから、猫吸いならぬ、トラ吸いを止められないのです。

「機嫌は直ったか?」

「別に怒ってないですよ?」

「でも拗ねただろ?」

「む~~~」

「はは! それで、神託について、カルはなんだって?」

「そっちも有りましたね。カルが言うには、緑海の王墓って言うのは、レジスさんのお墓の事で合ってるだろうって。でも場所も、何が封じられているのかも、知らないそうですよ?」

「ふむ・・・それも含めて、大公殿下には、色々話しを聞かなければならないな?」

「はい、そうですね」

 我儘に次いで、拗ねた事までばれてしまい、恥ずかしくて無駄に元気な返事をしてしまいました。

 するとアレクさんは優しく笑ってくれて。髪を撫でていた手で、頭をぐりぐり撫で廻されました。

 もうね。
 この包容力。
 こんなに甘やかされて居たら、私はダメ人間になってしまいそうです。

「アレクの方は? ドライアドはいっぱい居るの?」

「あ~。それなんだが。かなりの量が集まっている。樹木系の魔物は、土地の魔力や魔素を吸い取るから、10体以上で群れる事は、普通無いのだが。あの街の中は、ドライアドだらけでな。特に水場の周りが多い。それに、魔素を吸い上げ過ぎたのか、近くの建物が崩壊寸前で、危険な状態だ」

「なんで、そんなに集まっちゃったのかしら?」

「ドライアドは、魔素や魔力を吸う魔物だが、樹木系だけに水も必要だ。あいつらの根では、地下水脈迄届かず、小さな泉では足りなくて、この街の水場に集まって来たのだろうな」

「ふ~ん。どうやって討伐するの?」

「それが厄介でな?あいつ等は、物理的な攻撃を受けると、悲鳴をあげる。その悲鳴を聞くと、混乱状態になってしまうんだ。しかもこの悲鳴に、遮音魔法は利かないのだ」

「うわぁ~。なんて厄介な。じゃあ、離れたところから、炎を飛ばして燃やしちゃうの?」

「そうしたいのは山々だが、それをやると街の建物に、飛び火する可能性が高い。これだけ乾燥していると、街全体に延焼してしまう」

「大火災になってしまったら困るわね?」

「かと言って、近付いて剣や斧で斬り付ければ、悲鳴で混乱させられ、同士討ちの危険がある。さらに厄介な事に、ドライアドは本体の他に4.5本のデコイを周囲に生やしていてな?個体によって、本体の場所が異なるから、どれが本体か分からんのだ」

「出来るだけ離れたところから、炎は使わず、デコイと本体を、同時に攻撃しなきゃいけないって事?」

「まあそうだな」

「今まではどうやって、討伐してきたの?」

「基本は炎を使って攻撃する。その際山火事を起こさない様に、予め周囲の木や下草を刈り取って空間を作るんだ」

「でも街中じゃ、それも出来ないのね?」

「そういう事だ。炎系の魔法なら、魔法の操作が上手くなくとも、火を点けるだけだから、離れていてもどうにかなる、だがそれ以外の魔法だと、ドライアドに命中させなければならん。目視出来ず、魔法操作がうまく行かなければ、攻撃力も半減してしまう」

「けど目視できる距離だと、悲鳴が聞こえると・・・・樹木系って事は、水や土魔法はあまり効果が無いの?」

「そうとも限らんが、放った魔法の魔力を吸い取られた、という話は聞いたことが有るな」

「そっかぁ」

「それにな?ドレインツリー・トレント・ドライアドなどの樹木系の魔物の死体を畑に埋めると、奴らが身の内に溜め込んだ魔力や魔素が、土地にしみ込んで収穫量を増やす効果がある。だから全ての個体を焼き尽くすのではなく、何体かの死骸を残しておきたい」

「ふ~~ん・・・・・・じゃあこういうのはどうでしょう」

 誰に聞かれて困す訳でもないけれど、なんとなく悪だくみっぽい感じがして、コソコソとアレクさんに思い付きを話してみました。

 するとアレクさんは、面白そうだと言い。

 マークさんとショーンさん達、将校さんを呼んで、私の話しを説明すると、成功するかどうかは兎も角、試す価値は有りそうだと言ってくれました。

 そこで私は、物資の中から、非常食として持って来ていたキラービーの蜂蜜と、小麦粉。治療用の綿を使って、耳栓を作りました。

 気休めかもしれませんが、遮音魔法が利かないのなら、物理的に音を遮断してしまえばいいのでは?という安直な、私の思い付きです。

 因みに、耳栓には祝福の加護も付与済みです。

 それを、集めてもらった、風魔法が得意だと言う騎士さんと、アレクととマークさんその他の将校さん達に配りました。

「試しに片耳に、入れてみてくれますか?」

 耳栓を受け取ったショーンさんが、右の耳に耳栓を入れてくれたので、ショーンさんの右側で大きな声を出してみました。

「どうですか?音聞こえます?」

「いえ。ほとんど聞こえないですね」

「良かった。じゃあ後は、皆さん風魔法で、こういう事は出来ますか?」

 手に集めた魔力で真空を作り、ちょっと離れたところに有った岩に、カマイタチを投げて見せました。

 見本で飛ばした魔法は、日本の漫画なら、”ウィンドカッター” とか、中二病的な名前を着けられそうな魔法です。

 魔法が命中した岩は、真っ二つに斬り裂かれ。
 すっぱりと綺麗な断面が見えています。 

「すっげ」
「やっぱレン様って何でもできるよな」
「でも、喧嘩してこんな魔法飛ばされたら、頭と体が泣き別れだ」
「馬鹿だな、レン様と誰が喧嘩すんだよ」
「そうだよ。デレ甘の閣下が、喧嘩なんかするかよ」
「いや、閣下ならレン様を怒らせるかもしれない」
「だとしても閣下だぞ?無傷で躱して、余計レン様を怒らせたりして」

「・・・・・お前達、明日の朝から素振り200回」

 マークさんの冷たい声に、4人が竦み上っています。

 今日もピヨちゃんズ、のおしゃべりは健在です。

 元気一杯で、良かったですね。
 明日からの素振り、頑張ってね。
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