獣人騎士団長の愛は、重くて甘い

こむぎダック

文字の大きさ
上 下
437 / 605
愛し子と樹海の王

カルと私

しおりを挟む
 side・レン


『やっと起きたと思ったら、もう面倒事を拾って来たの?ある意味これも才能ってやつ?』

 拾って来たって・・・。
 言い方。

「そう言われても、勝手に向こうから寄って来るって言うか。別に好きでやってる訳じゃないのですよ?」

『そう?』

 なんでしょう、この疑いの眼は。

『他所の国の、しかも自分達の保身のために君を誘拐しようとした、身勝手なおじさんでしょ? 話を聞く限り、君には、なんの得も無いよね? 骨を折ってやる必要なんて、これぽっちも無いと思うのは、私の気の所為かな?』

 確かにそうだけど。
 国民の皆さんは、関係ないし。

「うぅ・・・。困ったときはお互い様って言うか。助け合いの精神って大事ですよね?」

『なあに?それは異界の考え方なの?』

「えぇ。私の国では、普通の考え方なんですけど」

『とても尊い考え方だと思うけど・・・まあいいや。お人好しも程々にね?』

 なんでしょう・・・。
 ちょっと馬鹿にされた気分です。

「もう・・・本題に戻しますよ? ウジュカの龍神様は、カルじゃないって事で良いのね?」

『私は神ではないし、ウジュカに加護なんて、あげた記憶はないね』

「私から見たら、何万年も生きてるカルは、立派な神様の一員ですけどね?」

「おや。そうなの? なら何か加護をあげないといけないね』

 むむ・・・。
 また揶揄って。
 この綺麗なお顔で、本当にやめて頂きたい。
 クレイオス様と違って、表情が豊かな分、この笑顔が心臓に悪いのですよ。
 それに、分かってやってる感じが、質が悪いったら・・・ねッ?

「アウラ様も言ってたけど、カルみたいな龍って、結構いるみたいね」

『私は、全く会った事が無いけれどね?』

「でも、にょろにょろって言ってたから、カルと一緒よね?」

『にょろにょろ? 私は龍なんだよ? 酷くないか?』

「え~? 私の国では龍は、蛇が長生きして成長した姿なんですよ? 別ににょろってても良いと思うけど」

「・・この子は・・・・はぁ・・・」

 そんなため息つかなくても・・・・。
 クソッ!!
 気だるげに髪なんかかき上げちゃってさ。
 絶対自分の見た目が良いの、分かっててやってますよね?

 ヴィースに来て2年近く。

 私もイケメンに耐性がついて来たのです。
 イケメンの圧に、簡単に負けたりしないもんねッ!

「だから、本題の話をしましょうってば!」

『はいはい。それで君は何を知りたいの?』

「ちょっと。私は真面目な話をしているの。興味が無いからって、適当な態度摂るのやめて下さいね」

 私の小言にカルは、ニヤッと笑いながら、肩を竦めて見せたのです。
 こう云う処がなんとなく、ロロシュさんに似ていて、腹が立ちます。

やっぱり、カルも元は蛇に違いないです。

「・・・・ウジュカの祠から盗まれた宝物って、なんだかわかりますか?」

『大人が一抱え出来る大きさなのだろう?そんな大きな宝石は、聞いたことが無いな、もしかして、魔晶石なんじゃないの?』

「う~ん。確かにそうかもしれないですね。巨大なルビーより、魔晶石って言われた方が、納得できるかも」

「でしょ?」

「あのね。私の国の龍神様は、手に如意宝珠って言う珠を持っていて、普段は顎の下に、その珠を隠しているそうなのですが、カルはそういうの持ってないの?」

『に? にょい? いや。持ってないよ。大体顎にそんなものを隠せるわけないでしょ?』

「そうなんだ・・・・ふさふさの鬣の中にあるのかと思ってた」

『なんでがっかりしているの?」

「如意宝珠って、通称ドラゴンボールって呼ばれてるんですけど、どんな願いも、全て叶えてくれるって言われているんです。ちょっとロマンでしょ?」

『ロマンね・・・私はドラゴン狩りになんて遭いたくないから、そんな厄介な物を持っていなくて良かったと、ホッとしている処だよ?』

 うわぁ~。
 ドライ。
 乾燥してパッサパサな感じがします。

「ん~・・・。確かに如意宝珠なんて有ったら、争いの種かも知れないですね。ウジュカの祠にあった物が、如意宝珠じゃなくて良かった。と思う事にします。でも、人には砕けないくらい硬いって、ヨーナムさんは言ってたけど、そうするとダイヤモンドくらいしか思い浮かばないのよね。けど、一抱えもあるような大きなダイヤなんて、聞いた事もないから、やっぱり魔晶石なのかもしれないですね」

『天候を左右するほどの加護が付いて居るなら、見た目なんて関係なく分かると思うけれどね』

「あっ、それもそうか」

『君、偶におまぬけさんになるよね。自分の能力、低く見積もり過ぎじゃないの?』

 そりゃね、長年凡夫として生きてきましたので?

 いきなり加護で底上げされたって、自分に何が出来るのか、全部把握できてないのですよ?

 全身脱毛の加護が、他人に使えるって知ったのも最近ですし?
 魅了なんて、使いどころの難しい加護迄あるんですよ?

『ほかに知りたい事は?』

「クレイオス様の意見も聞きたかったのだけど、余り帰って来られないのよね?」

『そうだね。随分アウラにも叱られたみたいだから、暫くは忙しくしているだろうね』

 本当に、なんであんなことをしちゃったのかしら。
 幾ら頭に来てたからって、もうちょっと我慢出来たらよかったのに。

 事の発端が私なだけに、この魔獣の大発生が、クレイオス様の所為だと、私はアレクさんに言えないで居るのです。

『君が気に病む必要はないよ。完全にクレイオスの失態だからね。彼が自分から話す気になるまで、私達は黙って様子を見ていればいいさ』

「でも、罪悪感が」

『あのさ。話したからって、いきなり魔獣が消える訳じゃないだろ? 状況が良くなる要素なんて何もないのだし、討伐やら幻獣の捕獲やらに、引っ張りまわされるのは同じでしょ? 今だってやる事が沢山あるんだ。余計な事に首は突っ込まない。黙って居るのが一番だよ』

「うぅぅ。なんか耳が痛いです」

『ちょっとは自覚が有るみたいで良かったよ』

 この、正論だけど意地悪っぽい感じが、ロロシュさんに似てるのよね。
 
『それで、何が知りたいの?』

「知りたいって言うより、神託について意見が欲しいです」

『あ~言ってたやつだね。神託の内容を教えてくれる?』

 私は頷いて、アウラ様に授けられた神託を語りました。

 白花の月輝ける刻
 竜の戯れしミーネの森深く
 湧き出ずる聖なる泉に
 光となりて愛し子招来せり

 我が愛し子、慈愛と光りの恩寵となりて
 世に平安と繁栄を齎す者成り
  
 樹海の王 愛と献身を愛し子へ奉じ
 守護者となりて、安寧を得るべし

 樹海の王 愛し子と共にあり
 蒼き森深く 
 緑海の王墓に封じられし者解き放ち
 その標となりて、慈愛と平安を齎さん
  
 愛し子と樹海の王 我の道を行き
 世を導く光の標となり
  
 此処に、古の契約成就せり
 千年王国の誕生とす

『・・・なるほどね。どの部分が引っかかってるのかな?』

「後ろの半分全部です。前半は私が招来されるって意味ですよね?でも後半は、これアレクの事を言ってるのだと思うのだけど・・」

 言葉を探して黙ってしまった私に、カルは続きの考えを話せ、と促してきました。

「蒼き森とか、緑海って言うのは、ここ。ゴトフリーの事だと思うんです。それで ”緑海の王墓” っていうのが、誰のお墓の事なのか分からなくて。普通に考えたら、歴代のゴトフリーの王様のお墓だと思うのですがそれだとしっくりこない気がして」

『ふ~ん。続けて?』

「あ、え~っと・・・魔族のヨナスさんは、王家の血筋だけれど王様ではないし、獣人の王様だった、ヘルムントはさんは、自分で廃位してしまったので。じゃあ、誰のお墓なのか。って事になるでしょ?」

『うむ』

「それに ”此処に、古の契約成就せり 千年王国の誕生とす” って神話に出て来るのは、人を王座に、獣人を盾に、魔族は地下にって契約ですよね?、契約成就なんて今更な感じがするので、神話に出て来る契約以外にも、何かあったのかなって・・・カルは何か知ってる?」

 私の話を最後まで聞いてくれたカルは、指で顎先をつまんで、考え込んでいます。

 その様子は、何処まで私に話していいのか、どこまで話すべきかを考えている様に見えました。

『そうだね。エストの王は誰だったのか、思い出してごらん。私が今あげられるヒントはこれだけだ。残りはクレイオスの判断が必要だね』

 神妙に頷く私に、カルは優しい笑顔を見せてくれたのでした。
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

腹黒宰相との白い結婚

恋愛
大嫌いな腹黒宰相ロイドと結婚する羽目になったランメリアは、条件をつきつけた――これは白い結婚であること。代わりに側妻を娶るも愛人を作るも好きにすればいい。そう決めたはずだったのだが、なぜか、周囲が全力で溝を埋めてくる。

嫌われ女騎士は塩対応だった堅物騎士様と蜜愛中! 愚者の花道

Canaan
恋愛
旧題:愚者の花道 周囲からの風当たりは強いが、逞しく生きている平民あがりの女騎士ヘザー。ある時、とんでもない痴態を高慢エリート男ヒューイに目撃されてしまう。しかも、新しい配属先には自分の上官としてそのヒューイがいた……。 女子力低い残念ヒロインが、超感じ悪い堅物男の調子をだんだん狂わせていくお話。 ※シリーズ「愚者たちの物語 その2」※

婚約者の本性を暴こうとメイドになったら溺愛されました!

柿崎まつる
恋愛
世継ぎの王女アリスには完璧な婚約者がいる。侯爵家次男のグラシアンだ。容姿端麗・文武両道。名声を求めず、穏やかで他人に優しい。アリスにも紳士的に対応する。だが、完璧すぎる婚約者にかえって不信を覚えたアリスは、彼の本性を探るため侯爵家にメイドとして潜入する。2022eロマンスロイヤル大賞、コミック原作賞を受賞しました。

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて

アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。 二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――

悪役令嬢ですが、ヒロインが大好きなので助けてあげてたら、その兄に溺愛されてます!?

柊 来飛
恋愛
 ある日現実世界で車に撥ねられ死んでしまった主人公。    しかし、目が覚めるとそこは好きなゲームの世界で!?  しかもその悪役令嬢になっちゃった!?    困惑する主人公だが、大好きなヒロインのために頑張っていたら、なぜかヒロインの兄に溺愛されちゃって!?    不定期です。趣味で描いてます。  あくまでも創作として、なんでも許せる方のみ、ご覧ください。

次期騎士団長の秘密を知ってしまったら、迫られ捕まってしまいました

Karamimi
恋愛
侯爵令嬢で貴族学院2年のルミナスは、元騎士団長だった父親を8歳の時に魔物討伐で亡くした。一家の大黒柱だった父を亡くしたことで、次期騎士団長と期待されていた兄は騎士団を辞め、12歳という若さで侯爵を継いだ。 そんな兄を支えていたルミナスは、ある日貴族学院3年、公爵令息カルロスの意外な姿を見てしまった。学院卒院後は騎士団長になる事も決まっているうえ、容姿端麗で勉学、武術も優れているまさに完璧公爵令息の彼とはあまりにも違う姿に、笑いが止まらない。 お兄様の夢だった騎士団長の座を奪ったと、一方的にカルロスを嫌っていたルミナスだが、さすがにこの秘密は墓場まで持って行こう。そう決めていたのだが、翌日カルロスに捕まり、鼻息荒く迫って来る姿にドン引きのルミナス。 挙句の果てに“ルミタン”だなんて呼ぶ始末。もうあの男に関わるのはやめよう、そう思っていたのに… 意地っ張りで素直になれない令嬢、ルミナスと、ちょっと気持ち悪いがルミナスを誰よりも愛している次期騎士団長、カルロスが幸せになるまでのお話しです。 よろしくお願いしますm(__)m

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

処理中です...