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愛し子と樹海の王

お菓子の山

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 ようやく目覚めたレンは。
 気分は絶好調。しかし身体方は絶不調と、なんともちぐはぐな状態だった。

 軽快な心に重い身体、自分のイメージ通りに動かない体に、レンも驚いていた。

「あ・・あし。足がカクカクします」

「一週間も眠っていたんだ、足も弱るだろう?」

「うー。気持ちは全力疾走できそうなのに」

 俺の番は、寝起きでエネルギーが、有り余っているらしい。

「無理に動かすと、筋を痛めてしまう。少しづつ慣らさないとな?」

「は~い。・・・でも、じっとしているのも詰まらないです」

 ふむ。
 不満そうだな?
 だが、じっとしている事も、大事だぞ?

「なに。レンが起きたと知れば、皆が押し掛けてくる。すぐに喧しくなる」

「あはは・・・・喧しいのはちょっとなぁ」

 レンは諦めの、乾いた笑いを零していた。

 俺とマーク、セルジュの3人で、アウラの土産をかき分け、何とかソファーとテーブルのセットを掘りだし、レンを座らせることが出来た。

 俺達が片付けている途中で、レンが大きな声を出した。

「あっ!! アレクその袋。こっちに持って来て?!」

「どうしたのだ?」

 紙袋を受け取ったレンは、袋の中を覗き込んだ。 

 レンが袋を開けた瞬間、なんとも美味そうな匂いが、部屋の中に充満し、セルジュの腹の虫が、小さく鳴るのが聞こえて来た。

「・・・ハンバーガーのセットですね。すみません。こんな感じの袋を先に探してもらえますか? 傷むと大変な事になるので。 セルジュはこっちに来て、今温め直すから、これを食べてね?」

「いえ。レン様僕は・・・」

「ダメダメ。今お腹鳴ったでしょ? まだまだ育ち盛りなんだから、ちゃんと食べなきゃ・・・まあジャンクフードだけど、栄養価は高いし、美味しいよ?」

 レンにそう言われ、頬を染めてソファーに座ったセルジュは、食べ方が分からず、首を傾げている。

「こうやって、包みを開けるて、ここを持つと、手を汚さないで食べれるでしょ?それでそのままま、ガブッて齧り付いてね? このお店のハンバーガーは、ソースが多いから、垂れちゃうと大変なの。気を付けて食べてね?」

 レンに言われ、コクコクと頷いたセルジュは、ハンバーガーに齧り付き。
 よほど美味かったのか、一瞬目を見開いた後、ガツガツと口の中に詰め込み始めた。

 そして食べ終わる頃には、レンに注意されていたにも関わらず、顔も手もソースでべたべた、服にも染みをしっかり付けていたのは、御愛嬌だな。

 捜索の結果。ハンバーガーセットとレンが呼ぶ紙袋は、セルジュが食べた分を含めで全部で、8袋出て来た。

 それを見たレンは「有名どころを網羅してる・・・・ママン、何やってるのかしら?」と額を押えていた。

 そして甘い菓子の香りに包まれながら、部屋の入り口から、ソファー周り迄の通路を確保し終えた頃に、レンの目覚めを聞きつけた伯父上が、最初に顔を出した。

 俺の予想通り、討伐で王都を離れたセルゲイ以外の者達は、次々にレンの元を訪れ、最初は部屋を埋め尽くし、堆く積み上げられた菓子の山に慄きながらも談笑していた。

 レンが魔法で温め直した、ハンバーガーセットに舌鼓を打ち。
 帰り際に山と積まれた菓子の中から、必要な分の菓子を持ち帰えらせた。

 その際、乱雑に放り出された、数々の菓子の整理も手伝って貰った。

 幾らセルジュが優秀だとは言え、俺とマークが手伝っても、扉からソファー迄の間に通路を造るだけで、1刻以上時間が掛かったのだ。リビング全体を片付け終わるのに、何日掛かるか、分かったものでは無い。

 レンの顔を見に来たモーガンも、最初はリビングの有様に驚いていた。が、会話の最中に、思い出したように、菓子の箱が何もない空中から、突然降って来るのを目撃しては、驚きつつ ”これでは、間に合いませんね” と納得して整理を手伝ってくれた。

 他の見舞客も、簡単な手伝いで、異界の珍しい菓子が大量に手に入るのだ、手伝わせたからと言って、誰からも文句など出るはずがなかった。

 それに、レンの説明を聞きながらの菓子選びは、伯父上のようなむくつけき騎士でも、楽しいものらしい。

 その間俺は、番を膝の上に抱き、説明ついでに、番が口に運んでくれる菓子や、ハンバーガーを黙々と食べ、”菓子よりも番の指の方が甘いな” 等と益体も無い事を考えていた。

 そんな俺達の様子に、見舞いに来た皆が、生温い視線を寄越しているが、もう慣れたものだから、気にするほどの事では無かった。

 入れ替わり立ち代わり、わいわいと賑やかな時間を過ごし。
 気が付けば、とっくに陽は沈んで、夕飯時となって居た。

 菓子目当てに、長っ尻を決め込むロロシュとシッチンを追い出し、菓子を食べ過ぎた俺達は、セルジュにスープとパンだけの軽食を運ばせて、漸く二人だけの時間になった。

 さっき菓子を摘まんでいた時にも思ったが、食事に味を感じたのは久しぶりだった。

 2人でゆっくり湯あみをし、他愛ない会話をしながら眠りについた。

 レンの体調が万全ではないから、そっちの方はまだお預けだが、なんでもないが、大切な日常が戻って来た。

 そんな幸せを、やっと噛締める事が出来たのだ。

 それから数日。
 俺は番の看病を口実に、全ての公務を休んでいた。

 何か大切な用事を、忘れているような気もするが、今の俺に番の世話以上に大切なものなど無いっ!!

 自分自身にそう言い聞かせ、面倒な事は頭の片隅に追いやってしまった。

 レンには「お仕事大丈夫?」と何度も聞かれたが、レンが眠っている間、俺は一人でそれなりに頑張ったのだ。番と共に休みを享受してもいいだろう?

 それに俺の部下達は、皆優秀だ。
 マークと俺が休んだくらいでは、痛くも痒くも無いだろう。

 そうは言っても、現状は職場の中に住んでいるようなもので、全く何もしない訳にも行かず。
 寝たきりで足のなえた番を抱え、急ぎの用事があるところに、残りの菓子を配りがてら、あちこち顔を出して歩いていた。

 その最中にも、菓子の箱がぽとりと落ちてきて、周りを驚かせてしまった。

 アウラの気持ちは、充分わかった。
 そろそろ打ち止めでも良いのではないか?

 そんな中。
 軍部の子供達の喜びようはひとしおで、レンが寝込んでいると聞き、子供たちなりに心を痛めていた様だった。

 俺が年長の子供達の相手をしている間、下の子供達は、レンと手を繋ぎ足元に気を使いながらゆっくりと、訓練場の中を歩いている。

 その姿は心が温まる、ほのぼのとした光景だった。一方の俺は、年長の子供達から稽古を付けてくれとせがまれ、それに応じている処だ。

 此処の子供達は、俺の事を見ても怖がることは無く、逆に勇ましい掛け声と共に、俺へ挑んでくる。

 どの子も筋が良く、伸びしろも有りそうだ。

 レンはこの子達に、騎士以外の生き方が有ると示したいようだ。
 レンの優しい親心だと言うのは、良く理解できるし、否定する気は微塵もない。
 しかし、ここの子供達は、兵士となるべく作られた子供達だ。
 ならば騎士として、育ててやるのが本人達の為なのではないか、と俺は想う。

 まぁ、この子供達の人生は始まったばかりだ、どこでどう変化が生じるか、そんな事は誰にも分からん。
 であれば、この子等が今望むことを、応援してやるだけでも、良いのではないか。
 そう思うのだ。

 何しろ剣を振るこの子達は、とても楽しそうだからな。

 愛し子の騎士の座を、明け渡す気はないが、精々頑張って、未来の騎士団長程度には、上り詰めてもらいたいものだ。
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