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愛し子と樹海の王

触るな危険

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「クレイオスの機嫌がずっと悪いままなんだ。その所為かもしれないね」

「・・・木・・木が裂けて飛んで行っちゃった。 魔法? 砂嵐? これ全部クレイオス様の所為?なんで、こんなに機嫌が悪いの?」

「魔法ではないよ。これはクレイオスの羽ばたきだ」

「羽ばたき? 羽ばたきだけでこれ? 前に乗せてもらった時はこんな事全然なかったのに!」

「それはレンを乗せるなら、丁寧に扱うのは当然でしょう?レンだって玉子とか、ケーキを雑に扱ったりしないよね?」

 大変分かりやすい説明なのだけど、人と卵を一緒にするのはどうなのかな?

「それに・・・クレイオスには、色々我慢させてしまったから」

「我慢?」

 えぇ~~?結構、我儘言ってたような気がするけどなぁ?
 あれでも我慢してたんだぁ・・・。

「それにクレイオスはね、ゴトフリーの私の神像を嫌っていてね?」

「あ~~。あの赤ちゃん抱いてるやつ?」

「私はね、あんな気味の悪い子を、産んだ覚えはないのだよ。けれどああやって形にされ、祈りを捧げられてしまうと、それなりの拘束力が出来上がってしまう。あんなものは、私では無いのだけれどね?」

「陰陽道的な? 映画で見たんですけど、道端に転がっている物体に ”石” と名付けたから ”石” が出来た。みたいな?」

「それ、とっても分かりやすい。そうなんだ。クレイオスはね、私の意思に関係なく。あれらの所為で、私の本質が変えられてしまうのではないか、と心配していてね?」

「その心配は、理解できます」

「それなのに、レンが呪いを受けた場所に、あの像が5体もあってね。全てが呪具だったから、クレイオスが怒ってしまって」

「それはもう、怒って当然だと思いますよ?」

「それ以外にも、色々あるのだけれど・・・あぁ。さっさと攻撃すればいいのに」

 クレイオス様の元に駆け寄ったドラゴニュートさん達は、ざっと見て4.50名でしょうか。威勢よく飛び出した割りに、いざクレイオス様の前に立ったら、怖くなっちゃったのか、槍を構えたまま、動くことが出来ないようです。

「でも、生物としては正しい反応ですよね? クレイオス様相手に ”ヒャッハー!! やってやるぜーッ!! って突撃出来る人なんていませんよ?」

「ヒャッハー? まあ、そうなのだけど。今に限定して言えば、最悪だ。余計にクレイオスを怒らせてしまう」

「そんなぁ。ドラゴニュートさん達に酷すぎる」

「そもそも、クレイオスと戦いたいなんて、身の程知らずな事を言うのが悪い」

「ママンがそんな風に言うの、珍しいですね」

「そうかい? 彼等にとっては、純粋な興味だったのだと思う。創世のドラゴンはどのくらい強いのかってね? でもね、世の中には触れてはいけないものって、確かにあるのだよ?」

 触るな危険ってこと?
 クレイオス様は、劇物なのかしら?

 アウラ様の横顔はとても真剣で、番補正だとかではなく、クレイオス様の、本当の姿を知っているが故の懸念の様です。

「これは、内緒にしてほしいのだけ・・・・」

 とママンが私の方へ体を傾けた時、画面の中でドラゴニュートさんが、バタバタと倒れ始めました。

「え? え? どうしたの? 何もしてないのに?」

「ああぁ。やっちゃったぁ!」

 ママンは両手で頭を抱え込み、私のベットに突っ伏してしまいました。

「え? なッなに?!」

 何が起こったのか、全く理解できていない私は、ベットの上で呻くママンと、鏡に映るクレイオス様を交互に見る事しかできません。

 この鏡が、どういう仕組みなのかは分かりません。
 でも、どうにか現状の確認はしなければいけないと思い、私は鏡に話しかけました。

「アレクとカルを映してくれる?」

 すると鏡の画面は、ゆるゆると向きを変え、アレクさん達を映し出してくれたのですが・・・・。

「・・・どうして?」

 カルとアレク以外の3人が、とても苦しそうにしています。
 それにアレクも、意地を張って辛うじて立っているだけみたい。

 なんともないのは、カルだけね。

「どうしよう・・・どうしよう・・・でも、閉じた空間の中だから、ギリギリセーフ? セーフだよね・・・セーフだと良いなあ」

  ママンは頭を抱えたまま、ブツブツ、ブツブツと・・・・。

「ねぇ。ママンどうなってるの? 大丈夫?」

 ベットの上でムクリと起き上がった創世神は、私の両手を掴んで懇願してきました。

「レッレンッ!! 何が有っても、私はレンの味方だよ? だからレンも私の味方でいてくれるよね?」

 そういう交換条件的なのは、良くないんじゃないのかなぁ・・・・。

 それに今度は何を仕出かしたのかしら?
 
「ママン。まずは、どうなって居るのかが分からないと、味方もへったくれも無いですよ?」

 もう多少の事なら、驚かない自信が有ります。さっさとゲロって、楽におなりなさい。

「ママン。クレイオス様は何をしたの?」

「・・・・クレイオスは、た・・大した事はしていない。只自分の存在を世界に広めただけ・・・」

「んん? 今までもクレイオス様の事はみんな知っていたし、帝国内でならドラゴンのお姿も、見られてますよ?」

「そういう事では無くて・・・あの者達が倒れたのは、クレイオスが自分の気配を表に出したからなのだけど・・・」

「気配?ん?んん?? まさか、今までのあれで、気配を消していたの?」

「そのまさかだ。クレイオスは存在自体が世界の脅威なのだよ。彼の存在する気配だけで、魔素の流れは活性化し、全ての動植物の成長が早まり、活動が活性化してしまう」

「それって良い事なのでは? 問題が有るとは思えませんけど。活動が活性化するなら、なんでマークさん達は、あんなに苦しそうなの?」

 首を傾げる私に、ママンは額に手を当て、長いため息を吐いています。

「あの子達が苦しんでいるのは、別にクレイオスが、何かをした訳じゃない。彼方の世界でなんと言ったかな・・・オーラかな?クレイオスの存在感、オーラに圧倒され当てられただけなんだ」

 オーラに圧倒された・・・なんて唯の比喩だと思ってた。

「それから、すべての生き物が活性化する。と言ったでしょう? その中には幻獣も、魔獣も含まれているんだよ?」

「あっそうでした」

「それって・・・・結構やばい感じ?」

「結構?」

 ママンは創世神にも関わらず。
 やさぐれて、投げやりで皮肉な笑みを浮かべています。

「控え目に言っても、かなりヤバイ」

「え~~?!でも一瞬だけじゃないですか? クレイオス様も今は・・・やだ。なんで、ドラゴニュートを叩いてるのかしら? あっ、カルが助けに行った?」

 その時、お庭の何処から大きな鐘の音が響いて来ました。

 その鐘の音は、彼方の教会で聴くような、のんびりしたものでは無く、急を知らせる様な、早鐘です。

「アウトだったか。はあ・・・・今までの苦労が・・・」

「そんなに?!」

「そんなに。だよ・・・・今の鐘はね、やっと捕まえた幻獣が、また逃げ出したって、お知らせなんだ。まったく!クレイオスの所為で計画が台無しだ!」

 ベットから降りたママンは、ジョッキを掴むと喉を鳴らして、少し温くなったビールを一気に飲み干し、空のジョッキを ダンッ とテーブルに戻しました。

「ママン? 大丈夫?」

「全然大丈夫じゃないよ。レンには、ほんと~に申し訳ないのだけど。暫く幻獣と魔獣が煩くなると思う。クレイオスへのお説教は、私がする。それに幻獣も捕まえ直させるから、クレイオスが顔を見せなくても心配しないでね」

 うっわぁ~~~。
 目が座っちゃってるぅ~~~。

「だからあれほど、やめろと言ったのに。馬鹿みたいな見栄を張るから、こんな事に成るんだ。石化して少しは大人しくなったのかと思ったら、何にも変わってない」

 メチャクチャ怒ってるなあ。
 これ、クレイオス様大丈夫なのかなぁ?

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