獣人騎士団長の愛は、重くて甘い

こむぎダック

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愛し子と樹海の王

番大好き

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side・レン


「おや? あれは何の意味があるんだろう?」

 ママンの声に、画面・・鏡に目を戻すと。エーグル卿が周囲の砂を凍らせている処でした。

「何する気‥‥」

「うわぁ!!」

「ひゃあッ!! 手がッ! つめ! 爪っ!!」

 見守る私達の目の前で、アップになった(誰が操作しているのかは謎。天使さん達かしら?)エーグル卿が、凍らせた地面に、大きく振りかぶった手を、力いっぱい突き刺しました。

 幾ら下が砂だからって、あれ痛くないの?
 手とか爪とか剥がれてない? 無事?

 そしてバキバキと氷を引っぺがして、対戦相手に投げつけています。

 これは非常に無駄な動きだ、と私は思います。氷をぶつけたいなら、そのまま魔法をぶつけた方が速い。

 きっとこれも、わざとなのでしょう。
 エーグル卿は、とことん見せる事に専念しているようです。

 でも、それが出来るのって、エーグル卿が強いからなのだと思う。

「あれ?」

「どうしたの?」

「エーグル卿が、新しい剣に取り換えたみたいです。前の剣を、とっても大事にしてたのに、折れちゃったのかしら?」

「・・・どんな名剣も、いつか折れたり、壊れてしまうからね」

「そうですけど・・・本当に大事にされて居たので、ちょっと切ない気分です」

「君たち日本人は、物にも心が宿ると考える民族だったね」

 苦笑いを浮にかべてますけど。
 それって変なの?
 普通よね?
 
 物を大切にするのは、良い事でしょ?

「エーグル卿も、強いなあ。あの炎の剣で バサッ!! って。炎の尾があんなに長く引くのって、初めて見ました!魔剣ってファンタジーの王道って感じですよね?!」

「そうだね。あの剣も含めて、彼の演出なんだろうね」

「演出かぁ・・・言われて見るとそんな感じがしますね。エーグル卿は、全然本気出してなかったみたいだし、余裕だなぁ」

「あのイスメラルダって子は、灰色狼かな?」

「確かそうだった、と思います」

「狼族の獣人は、元々身体能力がとても高い。あの子も、ポテンシャルだけなら、アレクサンドルといい勝負かも知れないよ?」

「ふ~~ん」

 アレクさんと、いい勝負?
 へえーーー。

「おや? 気に入らない?」

「そんな事ありませんよ? やだな。なんでそんなこと言うんですか?」

「アレクサンドルが一番じゃないと嫌なのかな? って思って」

「何言っちゃってるんですか?嫌も何も、アレクさんが人類最強です」

「ふふふ・・・。分かりやすい事」

 うう・・・・。
 分かっているなら、深堀りはやめて頂きたい。
 こっ恥ずかしいので。

「・・・・コーラのおかわりいる?」

「いる! いります! 下さいッ!!」

 この後一生呑めないかもしれないんだもん。
 お行儀が悪くたって、ガッツリ頂きますよ?!

 カステラもチキンのフライも、もっと他の物でも良いのですが、そういう物は、こちらでも、なんとか頑張れば、再現できそうな気がします。

 でも・・・でもコーラだけは・・・・ッ!

 ”クッ!・・・・どうあがいても再現できる気がしないぜッ!!”
 
 って、感じ。

 どんなに頑張っても、それっぽい何か。
 ・・・にしかならなさそう。

 ゴクゴクゴク・・・・プッハア!
 ・・・・ゲフッ。


「アッ・・・ゲップ出ちゃった・・・ごめんなさい。恥ずかしいです。聞かなかったことにして下さい」

「ハハハッ! ビールとコーラは、これがあるのがねぇ・・・」

 そう言いながら、生のお代わり、何杯目?
 こんなに飲んで大丈夫?
 ママンもクレイオス様と同じ?
 酔わないのかな?

「レン?真打ち登場だよ」
 
 チキンに手を伸ばした私に、ママンが鏡を指さして見せます。

「アレク?・・・最後じゃないんだ」

「最後だと思ってたの?」

「はい。最後だと思って油断してました」

「クレイオスとカルは強すぎて、彼等じゃ相手にならないから。後の二人は消化試合みたいなものだ。アレクサンドルのこの立ち合いが、実質的なメインイベントだね」


 メイン・・・・アレクさんの試合なら、いつ何時もメインイベント、とお呼びいただいてOKです。

 もう!!
 砂漠に向かって歩いてるだけなのに。
 なんでこんなに格好いいの?

 画面越しで見ても、足長ッ!!

 引き締まった、ムキムキマッチョな躰も素敵!!

 お顔に浮かんだ、酷薄な笑みでさえ、暴力的に色っぽい!!

「はぅ・・・と・・・尊い」

 両頬を手で押さえ。
 うっとりと番に見惚れる私に、ママンはクスクスと笑っています。

「レンは本当にアレクサンドルの事が、大好きなんだね?」

「もっ勿論大好きです!!この世にアレク以上のスパダリは居ませんよ?」

 恥ずかしいッ!!
 どうせママンには全部バレちゃうから、言ってみたけど。
 やっぱり恥ずかしいものは、恥ずかしいです。

「クレイオスも、中々のスパダリだと思うけど?」

「それはママンのでしょ? 私のダーリンはアレクだけですよ?」

「それもそうだね」

 とママンが掲げたジョッキと、コーラのグラスで乾杯です。

「・・・・何か、もめて居るのかな?」

「・・・あれは・・・アレクが挑発しているだけじゃないかしら」

「彼強いのでしょう?わざわざ挑発なんてしなくてもいいのに」

「試合前の挑発は、今や格闘技界では様式美ですよ? 軽い挨拶と一緒です」

「そうなんだ。格闘技は、あまり見る気になれなくてね。知らなかったよ」

「あ・・・そうですよね」

 毎日、生きるか死ぬかの、ハードな世界ですもんね。

 でも、其れはそれ。此れはこれ。
 今はアレクさんの方が大事!!

 ドラゴニュートさん達を、小馬鹿にしたような、意地悪なお顔も素敵!

「あ~もう! 全部好き!!」

「おやおや。仲がいいとは思っていたけれど。ここ迄とはね」

 ママンが半分呆れた様子で呟いていますが、今の私はそれどころじゃありません。

 ついさっきまで機能していた、恥も外聞もかなぐり捨てて、アレクさんの試合にかぶり付きです。

「きゃーーーッ!! やっちゃえっ! やっちゃえーーーッ!!」

 20人以上のドラゴニュートさん相手に、アレクさんは剣を抜こうとしません。
 只の挑発かな? と思っていたら。
 試合開始早々、物凄い速さで突き出される槍を、次々に拳と掌底で打ち砕いて行きます。

「ウッわあ~! ママン見た? 人が星みたいに光った!?」

「ああ!! あんな乱暴に放り投げて」

「カッコイイーー!!何あの蹴り!鞭みたい! やっぱり足が長くないと、あの蹴りは無理よね? うッひゃ~~~!人ってあんな簡単に飛んで行っちゃうんだあ!!」

「普通はね?簡単じゃないんだよ?」

「キャーーー!! アレク~~! がんばれーーーッ!!」

「レッレンや? 少し落ち着こうか? ね? よ~く見て?ドラゴニュート達は一方的にやられているね?」

「ねぇーー! アレク強くて格好いいですよねえ!!」

「あのね? そうじゃなくてね? え~っと。何か話しているね降参かな?」

「違うッぽいですよ?ドラゴニュートって戦士だったんですよね?降参なんて、絶対しないと思いますよ?」

「そうだね・・・アレクサンドル・・・なんて意地の悪い笑い方を」

「いや~ん! ニヒルで素敵~~!!」

「ニヒル?・・・ああ・・・あんな風に追い込んで、真面に歩けない子もいるのに・・・」

「ママン。 あの竜巻に炎を混ぜるのって、アレクが得意にしてるのよ?!」

「はは・・・らッ雷撃?! あんな大量に? うわぁ。えげつない事を・・・」

「はあ・・・今日も安定の強さとかっこ良さ。良き良き。眼福眼福」

 鏡の中のアレクさんへ乾杯する私に、ママンは信じられないものを、見る様な目を向けてきます。

「ママン? どうしたの?」

「どうした?・・・って。アレクサンドルはいつも、ああなの?」

 ??
 ああとは・・・・?

「アッ! 戦い方の事ですか?いつもは魔法をドカドカ落として、終わりの事が多いかな?」

「そ・・・そうなんだ」

「ママンは、今まで見た事なかったの?」

「そうだね・・・こんなにじっくりと見るのは初めてだ」

「アレクが強くて、ビックリしました?」

「ああ、驚いたよ。・・・レンはアレクサンドルと番で、本当に良かったのだよね?」

「当たり前じゃないですか? 私の番は世界一です!!」

「そっ・・そう・・・あんなんでも良いんだ・・・そうか、いいのか・・・・」


 ”あんなん” って何ですか?
 物凄く失礼ですよ?
 それに何故・・・痛まし気な顔をしているのでしょうか?

 解せん。
 理解不能です。
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