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愛し子と樹海の王

エーグルの枷

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 side・アレク


 現在魔物の討伐を主な生業としている、騎士団の戦闘における基本は、眼前敵の完全排除。

 相手の強さが幻獣クラスだろうが、元魔族のガーディアンだろうが関係ない。

 レンを呪いから解放する。

 その目的達成の為、目の前の敵全てを叩き潰すまで、俺は止まらない。

 魔力の開放で、ドラゴニュート達に動揺が走った。

 狙い通り。
 この隙を逃す手はない。

 身体強化を掛け、突き出された槍を掴み、脇に挟んで槍の主諸共、上空に投げ飛ばせば、偽りの空間に新たな星の出来上がりだ。

 鈍色に光る槍が次々に繰り出され、その全てを掌底で叩き折り、拳で粉砕していく。

 相手の腹に蹴りを入れ、吹き飛ばし、拳を振るい、殴り倒してのして行った。

 その最中レンの ”がんばって!” という可愛い声援が聞こえた気がする。

 俺はレンの番。
 愛し子の守護者だ。
 俺の全てはレンの為だけにある。
 故に、こんな奴等に負ける訳にはいかん。
 いや。
 レンが悲しむから、かすり傷一つ負うわけにはいかんのだッ!

 全てのドラゴニュートの獲物を破壊し尽くした時、ほぼ全員が地面に這い蹲って居た。

「どうする?」

「まっまだ! まだだッ!!」

「そうか」

 まぁ。
 殺しはしないから安心しろ?

 思わずニヤリと口角が上がり、大変穏やかでない人相になった自覚はある。

 気取ったところで元が元だからな。
 今更どうにかなるものでも無い。

 風魔法で熾した竜巻に炎を纏わせ、ドラゴニュート達を一か所に追い込めば、簡易的な檻の出来上がりだ。

 逃げ場も無く、結界で身を護るドラゴニュートに、更に追い打ちをかける。

 視覚的閉塞感を残す為、炎の渦で、ドラゴニュート達の動きを奪い、その隙に創り出した雷雲から、雷撃の雨を降らせれば、炎の檻の中は阿鼻叫喚。

 悲鳴の嵐だ。

 中の連中が大人しくなった処で、魔法を解くと、そこは死屍累々(生きてはいる)。

 トカゲの丸焼きの出来上がりだ。

「酷ぇことすんなぁ」

 自陣に戻り浴びさせらたのは、ロロシュからの非難だった。

「意思確認はした」
 
 降参しなかったのは、奴らだ。
 ならば、叩きのめすより他あるまい?

「でもよう・・・・」

「お前は、魔族のガーディアン相手に、手を抜けと言うのか?そっちの方が失礼だろう?」

「そうだけど・・・・程度ってもんがよ!!」

 何を偉そうに。
 お前がマークにした事の方が、よっぽど酷い。
 俺もレンも、まだ忘れていないからな。

「別に死んだ訳でもあるまい? それにドラゴニュートが、絶対強者主義だと言ったのはお前だろ」

『まあ、いいじゃない。私とクレイオスの相手にはならないのだし、ちゃんと相手をしてあげただけ、親切なんじゃないかな?それに彼等は、喜んでいるみたいだよ?』

 カルの視線を辿ると、休憩小屋に運び込まれるドラゴニュート達が見えた。

「はぁ・・・だから脳筋は嫌なんだ」

『失礼なこと言うなよ。それにこれ以上、クレイオスの機嫌が悪くなると、とっても面倒だからね。サクッと終わらせて、契約を無効にしないとね』

 カルはドラゴニュート達に、付き合ってやる気はないのだな。

「そう言えば、クレイオスは何処へ行った?」

 親指で空を指さしたカルは、苦笑を浮かべた。

『このままだと、天災を引き起こしそうだったから、気晴らしに行かせた。こっちの様子は見ているから、出番が来たら降りて来るよ』

「天災・・・・昨日からずっと機嫌が悪かったが、あの神像がそれほど気に入らなかったのか?」

「さあね。彼にも色々あるんだよ。多分ね』

 その色々が気になるところだ。

 だが、これまでもそうだったように、クレイオスは何も話さないのだろうな。神の制約とは不自由なものだ。

 此処で、砂漠の中から声が掛かった。
 どうやら、俺の対戦相手の回収が終わった様だ。

『私の出番みたいだ。急いで終わらせて来るからね』

「程々にしてやれよ?」

『それ、君が言う?』

 砂の上を行く背中に声を掛けると、呆れ声を返された。

 そうは言っても、俺も一応人だ。
 亜種とは言え、ドラゴンのカルと一緒にされては適わん。
 そもそも俺とカルでは、生物としての根本が違い過ぎるのだ。

 俺はドラゴンの様に、長命ではない。
 それに、何をどう考えても、カルの方が強い。
 全力で挑んでも、負けはしなくとも、勝てる気もしない。 

 まるで歩く災害だ。

 昔の奴らは、ドラゴン狩りをしようなどと、何故思いついたのか。

 その昔ドラゴンは、霊薬の素材にされた事もあるようだが、それで本当に病が治った話や、不老不死になった者の話など、聞いたことが無い。

 俺とレンは、クレイオスの加護を受けるために、あいつの血を呑んだが、それで不死の身体に成ったりはしなかった。

 もしそうであったなら、レンも呪いに苦しめられる事等なかった筈だ。

 出まかせの霊薬を信じ、素材を採る為に、どれだけの人間が犠牲にされたのやら・・。
 
 結局ドラゴンが、地上から姿を消してしまっただけだ。

 まったく人間の欲とは、恐ろしい。

 そして、カルと対決するドラゴニュート達だが、ここまでの戦いを見た筈だが、戦意喪失や動じた様子が全く見られない。

 それどころか、期待に目を輝かせ、ワクワクしている様にすら見受けられる。

 あの瞳は第4の連中と同じ。
 強者を前にじっとしていられない、戦闘本能の塊。
 戦闘狂バトルジャンキーの集団だ。

「カエルレオスさんは、どんな戦い方をされるんですか?」

 期待の籠った目で、話しかけて来たのはエーグルだ。

 此処にも戦闘狂が一人いたか。

「どんなと言われても、とにかく強い。それしか言えん」

「皇都で手合わせをされた、と聞きましたが」

「お前の耳にも入って居るのか・・・・どんな話を聞かされたか知らんが、俺はカルに全く敵わなかったし、純然たる力のぶつかり合いを言葉にするのは難しい」

 するとエーグルは、軽く目を見張り、もっと詳しく教えてほしいと強請って来た。

 エーグルは騎士ではなく兵士だったが、剣を振る者として、高みを目指すのは悪い事ではない。

「実際のところ、俺も戦いに夢中でな? 冷静に分析できる状態では無かった」

「そうですか」

 分かりやすく萎れているな。
 別に、出し惜しみをしたつもりはないのだが。

「あの通り、今日の戦いは・・・戦いとも呼べんが。とにかく参考にはならん」

俺たちが見つめる先で、ドラゴニュート達が宙を舞っている。
自力で飛んでいる訳ではない。
カルに吹き飛ばされたのだ。

「だがクレイオスとは違い、カルは頼めば、指導も手合わせも受けてくれるだろう」

「本当ですか? では少し落ち着いたら、お願いしてみます」

 うむ。
 子供の様な喜び方をするな。
 エーグルは置かれた環境からは信じられん程、素直な奴だ。

「カルとの手合わせだが・・・先に人気のない場所を見つけるか、此処の様な空間を創ってもらえよ?」

「ッ?? 何故ですか?」

 コイツ、詳しい話は聞いてないのか。

「俺は、内宮にある練武場で手合わせをしたのだが、少々遣り過ぎてな?」

「はあ」

 まだピンとこんか。

「練武場は魔法で溶けて、使い物にならなくなった。それと建て替え予定の、内宮の3階を吹き飛ばしてしまってな?レンが俺達の放った魔法を、食い止めてくれなければ、もっと酷い被害が出ただろう」

「は・・・ははは。嘘ですよね?」

「嘘をついてどうする?俺とカルは夢中になり過ぎた。レンは俺達を止めるために、雷撃を落としたのだが、その所為で騎士団の詰め所は半壊。皇宮の庭園も丸焦げになってしまった。お陰で俺とレンは、皇太后と弟から大目玉をくらってな」

「本物の雷を落として叱ったんですか? え~っと。帝国ではそれが普通だったりします?」

「お前、面白い事を言うな? 普通とは言えんが、他の団長達も、其れなりに武勇伝はあるぞ?」

「・・・・手合わせについては、マークに相談してみます」

 何故遠くを見つめている?
 俺は、そんなにおかしな事を言っただろうか?

「好きにしろ。だがな、カルに指導を求めるなら、本気を出さねば相手にされんぞ」

「本気・・・ですか?」

「お前、セルゲイにも怒られていたな。中途半端な事ではマークは守れん。実際あいつは強いからな。今のままなら、お前は足手まといになる。大事な番を守りたいなら、いい加減枷を外せ」

 エーグルは俯いて頸を摩っている。

 理解する事と、行動に移せる事の間には、広くて深い断崖が有る。

 エーグルが不安を感じた時、頚を触る癖が治るのと。
 隷属の首輪から、本当の意味で解放され、何事にも全力を出せるようになるのと、どちらが早いだろうか。
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