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愛し子と樹海の王

妖狐とエンタメ

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 ロロシュが魔法を解き、土壁が消え去った。

 気を失ったドラゴニュートが、仲間の手で運び出されるのと入れ替わりに、マークが中央へと進み出る。

 口唇を引き結び、白銀の髪を靡かせ歩む姿に、熱い溜め息を零す処を見ると、この異形の者達にも、美を解する心が有る様だ。

 確かに、彼等にはヨナスの死を悼む感受性がある。
 その過去が、戦闘の為に生み出された生物兵器であろうとも、美を解する柔らかい部分が、有ってもおかしくはない。

 人は見かけによらない、と言うが。
 異形そのものの、ドラゴニュート達にも当てはまる様だ。

 それに、見かけによらないと言うなら、マークもいい勝負だ。

 マークは子供の頃から美しい少年だったが、その見かけだけで、弱々しい少年と侮り、痛い目に合わされた連中が、どれだけ居た事か。

 絶世の美少年に、邪な思いを抱く愚かな雄は後を絶たず。
 幼い頃のマークは、 身を守るため、物言いも冷たく、性格も荒々しかった時期が有る。

 それが剣を学び、魔法の才を見せ、身を護る術を手に入れた頃、今度は自分の見た目を利用する事を覚えた。

 そうして、今の嫋やかな貴公子が出来上がったのだ。

 それにロロシュが第2うちに移動になるまでは、貴族の裏側に精通しているマークに、情報戦は任せきりだった。
 最近はレンの影響か、すっかり丸くなった印象だが、マークが懐に隠し持ったナイフは想像以上に鋭く、裏の仕事も得意としている。

 そう考えると、ロロシュとは似たもの夫夫と言えるし、情報に長けたロロシュは、マークの裏の顔も熟知しているのだろう。

 そんなマークの隠された本性を、エーグルが知ったらどうなる事か。

 そんな日が来ない事を、願うべきだろうか?


 つらつらと考え込んでいる内に、マークの対戦は始まり、予想通りの瞬殺で終わった。

 相手の敗因は、ロロシュの戦いぶりを見て、マークとの対戦で距離を取る事を選んだことだ。

 戦闘開始の合図と同時に、ドラゴニュートは風魔法を展開したが、魔法の展開速度でマークに適う筈も無く。

 ドラゴニュートが放った風の斬撃は、マークの得意とする、氷魔法に全て阻まれた。

 溢れる魔力で、白銀の髪をざわざわと揺らし、白く凍った冷気を纏う姿は、”氷の精霊” ”氷の貴公子” の名に相応しく。
 レンが送ったアミュレットの、九尾の狐。 
 妖狐と言っても、過言では無い風情だ。

 妖狐の白く長い指から放たれた魔法は、一瞬で対戦相手を氷漬けにし、戦闘不能に陥らせた。

 一方的な戦闘を終え、自陣に戻って来たマークの髪から、キラキラと氷の粒が零れ落ちている。
 その姿に頬を染め、うっとりと見惚れるエーグルが、ロロシュの強烈な肘鉄を食らう、という。なんとも微笑ましいというか、緊張感のない一幕が有った。

 そして続くエーグルだが、彼の持つ力は未だ未知数。

 しかし彼の戦いぶりは、見ている 者を飽きさせない、トリッキーな動きの連続だった。

 戦闘開始直後、低い姿勢で対戦相手へ向かい、疾走したエーグルは、強烈な一撃を加えた。

 相手の反撃には、身体能力の高さを生かし、曲芸の如く何度もトンボを切り、体の柔らかさも生かして、紙一重の所で鋭い攻撃を 躱していく。

 地面にぶあつい氷を創り出し、それを素手で引き剥がしたエーグルは、氷の塊を相手に投げつけ、視界と動きを封じた。

 そして最後は、炎を纏わせた剣で相手の槍を両断。

 獲物を失ったドラゴニュートは、戦意を喪失し、両手を上げて降参の意を告げて来た。

 まるで 舞台の一場面の様な、華麗な戦いぶりだった。

 俺が見るに、エーグルはまだ本気を出していないように見えるし、この様な戦い方は、実直なエーグルには似つかわしくない。

 戻って来たエーグルに、その事を問いただすと、ゴトフリー時代エーグルは、度々貴族の宴の余興として、魔物や兵士と、戦わされたことが有ったのだそうだ。

 魔物相手ならいざ知らず、同朋同士で戦わされるのは気が進まない。

 そこでエーグルは、極力仲間を傷つけず。しかし貴族が満足するように、魅せる事を覚えたのだと言う。
 
 普段使う戦い方ではないが、今回はロロシュとマークの戦いぶりに、ドラゴニュート側が、不満そうに見えたため、敢えてこの派手な戦い方を、選んだのだそうだ。

「彼等にとっては退屈凌ぎですからね。余興も必要でしょう」

 そう穏やかに微笑んでいるが、本気を出さず、幻獣並みの強さを誇る相手との真剣勝負を、余興に変えてしまうとは。

 どうやら俺は、とても 良い拾い物をした様だ。

 戦いを終えた、エーグル・マーク・ロロシュの3人は、健闘を讃え合い、いつも以上に魔法がイメージ通りに操れた、と話している。

 どうやら、昨日の魔素水茶のお陰で、3人とも魔力と魔力値が向上したことで、魔力操作が上手く出来るようになった様だ。

 タイミングは最悪だったが、怪我の功名と言うべきか、後でカルに魔素水茶の礼を言わねばなるまい。

 1人ゞが幻獣並み、とクレイオスに言わしめた連中相手に、互角以上に戦った3人の成長ぶりは感慨深いものが有る。

 3人の成長した姿を見たら、きっとレンも喜んでくれるだろう。

 そして今度は俺の番だ。

 22名のドラゴニュートが、俺の相手だ。

 俺も、魔素水茶の影響による興奮状態にあるのか、まったく負ける気がしない。

 しかし油断は禁物。

 ロロシュの言う通り、ドラゴニュートが第4と同じ絶対強者主義ならば、今後の事を考えても、力の差を見せつける必要がある。

 様子見など必要ない、最初から全開で、ぐうの音も出ないよう叩きのめす。

 砂漠に1人立ち、魔物以外の異形の集団に取り囲まれる体験など、早々出来るものでは無い。

 ドラゴニュート達は、創世時代の戦乱を生き抜いた猛者揃い。

 この立ち合いが始まる前は、俺達を小僧扱いで見くびって居たように思う。

 だが生憎と俺達は、彼らがこの仮初の安息地で、平穏を享受している間、ひたすらに剣を振るい、魔法の研鑽に励んで来た。

 そこらの小僧とは違うのだ。

 これまでの 三戦を見た奴らが、及び腰になろうと言うものだ。

「剣を抜かんのか?」

 問いの理由は、単なる親切心か、それとも自分達の優位性を信じているからか。

「必要なら、抜くかもしれんな」

 安い挑発に熱り立つ様を見るに、彼等は引きこもりが過ぎて、原始的な戦いしか知らんのではないか?

 故にロロシュの戦法に、理解を示すことが出来ない。

「来んのか?」

「早く剣を構えろッ!!」

 律儀な事だ。

 俺はこんな茶番はさっさと終わらせ、ヨナスの魔法契約を解除させたい。

 そして1セルでも早く、番の元へ帰りたい。

 となれば、彼らに現代の戦法を教示してやる謂れは無く。
 彼らの戦士としての矜持に付き合ってやる程、お人好しでもない。

「来ないなら、此方から行くぞ」

 何の加工もしていない、練り上げただけの純然たる魔力を、開放した。

 高密度の魔力は、質量を伴う。

 魔力の暴風に巻き込まれ、なぎ倒され、叩き潰されたのは、10人程度。

 原始的な戦いしか知らんと思っていたが、結界を張れる者も居たらしい。

 だが、そんな中途半端な結界で良いのか?

 此処で意識を手放しておけば良かったと、後悔するかもしれんぞ?
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