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愛し子と樹海の王

守護者達

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 side・アレク


「えらい事になってんなぁ」

「それだけ閣下の結界が強力、と云う事なんでしょうが・・・」

「結界の中に、うじゃうじゃ居るな。帝国では、これが普通なのか?」

「んな訳あるかよッ!! だがまぁ、近い光景を見た。ではあるな」

「あまり、思い出したくは有りませんが・・・」

「何をどうしたら、これ程の魔物が湧いて出るんだ?」

「あ~あれだ。ヴァラクってぇアホが呪具を使って、瘴気溜まりを作ってんだよ。そこから魔物が湧くんだけどよ。湧いた魔物を、あのアホは飼ってたんだ。それを転移魔法で召喚したりしてな」

「またヴァラク?どれだけ迷惑な奴なんだ」

「だろ?しかもだ。その瘴気塗れの呪具で、アウラ神にまで呪いを掛けたって話でよ?」

「クレイオス様も、そのような事を話しておられたが、本当に神を呪えるものなのか?」

「そうらしいぜ。ちびっ子は、アウラ神と直接話したり、会ったり出来るからな。そりゃぁ心配してよ」

「凄いなぁ。愛し子様とは、本当に稀有なお方なのだなぁ」

「唯一無二のお方です。帝国だけでなく、このヴィースにとってあの方は至宝なのです。何としてでもお助けせねば」

「了解した。マークにとってもレン様は、特別な方なのだろう?ならば全力を尽くさないとな」

「イス・・・ありがとう」

「おぉい。二人で世界作んなぁ」

「おや。ヤキモチですか?」

「ちげぇよ!」

「はははっ。ロロシュ殿はもう少し、素直になった方がいいと思うぞ?」

「うるせぇよ!」

「ふふ・・・・・。私達は間に合いますよね?」

「間に合う。閣下を信じろ」

「・・・・ずっと不思議に思っていたのだが、何故レン様は、自ら危険な討伐に出向かれる?レン様の様な尊いお方なら、閣下や騎士達が、魔物を始末するまで安全な場所に、匿われているものでは無いのか?」

「それなあ・・・。閣下が一番そう思ってるはずだぜ?どっか安全な場所に隠して置きたいってよ」

「レン様は招来の際、アウラ神から魔物の殲滅を、使命として与えられているのです」

「殲滅? あのような可憐な方に?」

「殲滅と言っても、正確には魔物を生み出す、瘴気を消滅させる事です。レン様は大変お強い方ですが、実戦には向いて居られない」

「ちびっ子は優しすぎんだよ。魔物相手でも、命を絶つ事は出来ねぇ。浄化すんのにも泣くんだぜ?」

「それは分かるな」

「あの方は、多くを語りませんが、魔物や瘴気の中にある苦しみが、分かってしまうらしいのです。討伐の際、レン様は我々騎士が無事である事を、一番に考えて下さいます。ですが、魔物や瘴気も、あの方にとっては救済の対象なのですよ」

「魔物を救済・・・・考えた事も無かった」

「それは、みんな同じだろう? 普通、問答無用で襲って来る相手に、情けなんか掛けるか?誰だって自分の命の方が大事だ」

「だからこそ、故意に瘴気や魔物を作り出して来た、ヴァラクとその信徒に、レン様は強い憤りを覚えて居られる」

「そういう事。だからちびっ子は、討伐も浄化も先頭で頑張ってんだよ」

「閣下にとっては、命より大事な番を危険な目に合わせる相手ですから、ヴァラクとその信徒は、まさに怨敵。と言っていい存在なのです」

「了解だ。レン様は物語の愛し子様そのものだ。ただ守られるだけの存在ではないのだな。漸く腑に落ちたよ」

「こちらの獣人達は、よくその物語の事を口にしますね。どういうお話なのですか?」

「古くから獣人の間で伝えられている物語だ。全てを語るには時間が掛かるから、ざっくり説明すると。大昔に招来された愛し子様が、獣人の騎士を従え、世界中で人助けや怪物退治をする冒険譚だな。愛し子様の騎士は、この国の子供達の憧れなんだ」

「ふふ・・冒険譚ですか。ではレン様の冒険をお話にしたら、騎士の人気はもっと高くなりそうですね」

「レン様と閣下を、主役にした舞台も大人気だしな」

「芝居があるのか?」

「あるある。もうすぐ再演されんだけど。未だに大人気でな?中々チケットが取れねぇんだよ」

「最近は、閣下とレン様の恋を題材にした、歌劇の公演も大変人気らしいですよ」




「・・・・・・」

 あの3人、何時の間にあんなに仲良くなったのだ?
 しかし話の内容が、全てレンとは・・・。
 この状況では、正しい会話だが。

 もう少し色っぽくても、良いのではないか?

「そんじゃあ閣下。あれは俺達が始末するって事でいいんだよな?」

「あ? あぁ、頼む。・・・セルゲイ、いいか?ここは王都が近い。絶対に打ち漏らすなよ?」

「心配すんなよ。うちの奴らも結構強いぜ?」

「うむ・・・」

 強さは心配していないんだがな。
 
「後詰にショーンを置いていく。ショーンには、自由裁量を与えてある、あまり干渉や邪魔はするなよ」

「なんか、信用ねぇなぁ」

「そう思うなら、熱くなりすぎるな。視野を広く、状況判断を的確にしろ。暴れまわるだけでは、騎士とは言えんぞ」

「分かってるよ」

「不貞腐れてる場合か? シエルに、只の脳筋でない、と見せたくないのか?」

「ヴゥッ! それを言われると・・・・ほんと、閣下はずりーよな」

「一応大人だからな。お前の事は頼りにしているのだ、後を頼んだぞ?」

「ガキ扱いすんなよなッ!」

 頭の上に置いた手を払い。
 プリプリと怒りながら、部下の元に戻って行ったセルゲイが、急に振り返った。

「絶対!レン様を助けろよ!!」

「ああ。任せろ」

 部下の元に戻り、エンラに跨ったセルゲイは、部下に指示を出している。
口は悪いし、戦闘で熱くなり過ぎる所は相変わらずだが、性根は素直でいい奴なのだ。

 惜しいな。
 あと少し成長出来れば。
 ゴトフリーにいる間に、一皮剥ければ、団長としても成長できるはずだ。

「クレイオス、カル準備はいいか?」

『おお、よいぞ』

『いつでもいいよ』

 声を掛けたドラゴン達は、のんびりとしたものだ。
 一方マーク達は、結界の中で蠢く魔物にを前に、顔が引き締まっている。

「マーク。やる事は分かっているな?」

「はい。お任せください」

 どんな時でもマークの騎士の礼は完璧だ。
 貴公子という言葉は、マークにこそ相応しい。

「始めるぞ」

 破邪の刀を引き抜き、左手を前に伸ばし結界を開く。

 カルは愛用の槍を取り出し。
 クレイオスは、全く気負った様子も無く、まるで森に散策に来たかのようだ。

 決意の籠った表情のマーク。

 いつも通り、薄笑いを浮かべ、何を考えているかよく分からないロロシュ。

 エーグルは時折マークへ、気遣わしげな視線を向けているが、場慣れしているからか、緊張はしていないようだ。

 マークが今回の作戦の参加すると知った、ロロシュとエーグルは。予想通り、直ぐに自分達も連れて行け、と頼みに来た。

 最初から連れていくつもりでは居たが、俺は二人にそれぞれ条件を出した。

 ロロシュには、マークに対し、最大限の気配りをする事。

 エーグルには、剣を新しい物に取り換える様に命令した。

 どれだけ豊かな才能が有ろうと、剣が折れる事を気にして、能力を発揮できないのでは話にならない。

 隷属の首輪はもうないのだ。

 すぐには無理でも、エーグルも他の獣人達も、過去の呪縛から解き放たれてしかるべきだろう。

 番に対する守護の想いが、エーグルをさらに成長させるはずだ。

 光りの粒子となり結界が開いた。

 破邪の刀を一振りした俺は、瘴気から湧き出した魔物の群れへ向け、愛しい番を呪いから解放するために、足を踏み出した。
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