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愛し子と樹海の王
樹海の王とは
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創世のドラゴンが語りしは、神話の時代。
人々が忘れ去った者達と神の記憶。
『古の魔族との争いの時代、この辺りはエストと呼ばれておってな。獣人の王ヘルムントの伯父レジスが治める地であったのだ』
「それがレンの呪いと、なんの関係が有る?」
『せっかちなのは治らんか? 必要な話だ。黙って聞きなさい』
苛立ちを隠さない俺の肩を、宥める様に叩いたクレイオスは、話し続けた。
「レジスにはヨナスと言う子が居ったのだが、このヨナスは魔族の王家の血も引いていてな?魔族の血筋でありながら、獣人との混血であった為、他の魔族と比べると穏やかな性格をして居った。だが混血であるが故、本国のある大陸から逃れ、この地の地下に居を構え、広がる戦火から身を隠しておったのだ』
ヨナスと言う魔族の親は、獣人の番だった。
ヨナスの父は、獣人の王ヘルムントの伯父レジス。母は魔族の王アザエルの王弟だったのだそうだ。
『あの頃のアザエルは、魔族こそがヴィースの主であると信じ切っておった。強大な力を有し、確固たる信念を持ったアザエルは、まさに暴君であったよ』
ヨナスが産まれ、弟の道ならぬ恋に、初めて気が付いたアザエルは、怒りに任せ弟の首を刎ねてしまった。
それを知ったレジスが、アザエルの元からヨナスを救い出し、この地にヨナスとヨナス親子に仕えていた者達を匿ったのだった。
その後、王弟を誑かした獣人に制裁を誓ったアザエルの元、魔族対人と獣人の連合軍の戦いは激化していった。
そして戦と言う名の虐殺は、エストの地も飲み込んでいく。
ヨナスを庇い、捕らえられたレジスは、本国のアザエルの元に送られ、見せしめとして命を取られた。
レジスと共に捉えられていたヨナスは、王弟と瓜二つの青年に成長していた。
流石のアザエルも自らが首を刎ねた弟と、そっくりな甥を打つことは出来ず、代わりに魔族軍の将として、戦いに加わるように命じたのだそうだ。
だが、ヨナスにとって、アザエルは両親の仇であり、父の同朋である獣人は、命の恩人と言える存在だ。
ヨナスは自らの手で、恩人の命を奪う事など出来なかった。
しかし、ヨナスが軍に加わらねば、母の代から仕えてくれていた、臣下の命がアザエルに奪われてしまう。
そこでヨナスは一計を案じた。
錬金術を得意としていたヨナスは、土地に生息していたオオトカゲと、自分の血を使いリザードマンを創り上げた。
そしてこのリザードマンの軍団を、アザエルに献上する事で、自分が軍に加わる事と、臣下の処刑を回避したのだ。
ヨナスの創ったリザードマンはとても賢く、人語を解するだけでなく、緻密な作戦も理解したそうだ。そしてヨナスはリザードマンの肉体に、その命が果てるその時まで、消えない制約を刻み込んだ。
その制約とは
”獣人を傷つけてはならない”
ヨナスは、自分の身代わりとして、戦いに赴くリザードマンにも、獣人を傷つけさせたくなかったのだ。
リザードマンの働きが認められ、ヨナスはエストの地に戻ることが出来たが、父の残した領土は荒れ果てていた。
住み慣れた地下へ戻ったヨナスは、只々ひたすらに、この厄災のような日々の終わりを、願い続けた。
そして、神との契約の日が訪れた。
人を王に。
獣人を盾に。
魔族は地底へ。
互いを尊重し、豊かな世界を築く刻が来たのだ。
戦火は止み、剣戟と魔法の爆発音の代わりに、人々に日常と笑い声が戻った頃、ヨナスは荒廃した父の領土を、緑豊かな地へと戻す為、小さな苗木を植え続けていた。
そんなある日、ヨナスの元へ一人の獣人が姿を現した。
ヨナスの従兄。獣人族の王ヘルムント、その人だった。
従兄弟が訪ねてくれたことは嬉しいが、何時までも帰ろうとしないヘルムントを、訝しく思ったヨナスは問いただした。
すると神と契約したヘルムントは、後の争いの火種を残すまいと、獣人族の国を、地上の王となった人族の王ラジートに、全て譲り渡してしまっていたのだ。
神との契約を破らぬ限り、獣人には永劫の繁栄を約束されたのだから、自分が王位に付いて居る必要はない。
そう言って、ヘルムントは歴史から姿を消す事を、選んだのだった。
幼い頃に一度会っただけの、縁の薄い従兄弟同士だったが、ヨナスとヘルムントはすぐに意気投合し、多くを語り合う仲となって行った。
そこで、ヨナスは父の残した領地を、ヘルムントに差し出すことにした。
だが伯父の残した領地を、従兄弟から奪う真似はしたくない。とヘルムントは固辞し続けた。
しかし、ヨナスは、自分は地上を蹂躙した、魔族の末裔であり。仕方がなかったとは言え、リザードマンと言う兵士を生み出した張本人だ。
自分に父の愛したこの土地を、治める資格など無い。
樹海の王と呼ばれた、父の後を任せられるのは、ヘルムントだけだと説得した。
「樹海の王?」
『エストは大昔から、緑豊かな土地での。源初の森で多くの命が育まれ、我が獣人を創造したのも、ここの森なのだ。故にエストの森を神聖視する獣人も多く、レジスは我に仕える祭司でもあったのだ。森と獣人を統べる王。それが樹海の王だ。立場的には、ヘルムントよりも、レジスの方が上であったよ』
「森と獣人を統べる・・・・」
神託の内容を知るマークとロロシュが、俺に妙な視線を送って来るが、そんなものは単なる言葉の綾だ。
今必要なのは、レンを助ける手段を知る事。
それ以外の事等、どうでも良い。
『ゴトフリーがここに逃げ込んだ時、森に住まう獣人の集落が多かったのも、それ故だの。レジスが統治していた頃のエストは、まさに樹木の海と呼ぶに相応しい姿をしていた。それもアザエルに焼かれてしまったが、ヨナスのお陰で、現在の姿が有ると言えような。ミーネとここは、我の気に入りの場所じゃった。ヴァラクの奴、それを知った上で、我への嫌がらせに、ゴトフリーをここに連れて来たのであろうな』
「その長話の何処に、レンを助ける手掛かりがあるんだ?」
『これからじゃよ。少しは辛抱できんのか?』
溜息を吐くクレイオスにも、わざとらしさしか感じない。
くだらない昔話を聞くより、俺はレンの傍に居たいし、助ける手立てが有るなら、今すぐ行動に移りたいのだ。
『ヨナスの説得を受け、エストを統治する事にしたヘルムントは、ラジートの目を誤魔化すために、名をヘリオドスと改名し、ヨナスを伴侶として迎え入れた』
「ヘルムント王は、番が居なかったのか?」
「そう言えば、ラジート王のその後ついては神話にも出てきますが、ヘルムント王に触れた話はありませんね」
『今ある創世神話は、事実を書き記してあるが、全ての出来事は記されてはいない。あれはラジートの都合の良い処を、抜粋したにすぎん。それに後の王や神殿に都合の悪い処は、書き換えられてお居る様だの。度量の狭い為政者のやりそうなことだわい』
「なるほど・・・・」
『話を戻すぞ? ヘルムントは、生涯番を見つけることは出来なんだ。じゃがヨナスは聡明で、気立ての良い雄であったから、二人はそれなりに、幸せだったのではないかな』
「それなり・・・ですか」
『ヨナスは、魔族の血を引いて居ったからの。いつまでも若いままのヨナスと、老いていくヘリオドス。残された者の悲しみと言うのは、中々に辛いものでの』
そう言えば、クレイオスも番を無くしたことが有ると言っていたな。
悠久を生き、アウラと言う新たな番を得られるまで、クレイオスは孤独だったのだろうか。
そう思い至ると、神に準ずる者への感傷で、ツキリと胸が痛んだ。
人々が忘れ去った者達と神の記憶。
『古の魔族との争いの時代、この辺りはエストと呼ばれておってな。獣人の王ヘルムントの伯父レジスが治める地であったのだ』
「それがレンの呪いと、なんの関係が有る?」
『せっかちなのは治らんか? 必要な話だ。黙って聞きなさい』
苛立ちを隠さない俺の肩を、宥める様に叩いたクレイオスは、話し続けた。
「レジスにはヨナスと言う子が居ったのだが、このヨナスは魔族の王家の血も引いていてな?魔族の血筋でありながら、獣人との混血であった為、他の魔族と比べると穏やかな性格をして居った。だが混血であるが故、本国のある大陸から逃れ、この地の地下に居を構え、広がる戦火から身を隠しておったのだ』
ヨナスと言う魔族の親は、獣人の番だった。
ヨナスの父は、獣人の王ヘルムントの伯父レジス。母は魔族の王アザエルの王弟だったのだそうだ。
『あの頃のアザエルは、魔族こそがヴィースの主であると信じ切っておった。強大な力を有し、確固たる信念を持ったアザエルは、まさに暴君であったよ』
ヨナスが産まれ、弟の道ならぬ恋に、初めて気が付いたアザエルは、怒りに任せ弟の首を刎ねてしまった。
それを知ったレジスが、アザエルの元からヨナスを救い出し、この地にヨナスとヨナス親子に仕えていた者達を匿ったのだった。
その後、王弟を誑かした獣人に制裁を誓ったアザエルの元、魔族対人と獣人の連合軍の戦いは激化していった。
そして戦と言う名の虐殺は、エストの地も飲み込んでいく。
ヨナスを庇い、捕らえられたレジスは、本国のアザエルの元に送られ、見せしめとして命を取られた。
レジスと共に捉えられていたヨナスは、王弟と瓜二つの青年に成長していた。
流石のアザエルも自らが首を刎ねた弟と、そっくりな甥を打つことは出来ず、代わりに魔族軍の将として、戦いに加わるように命じたのだそうだ。
だが、ヨナスにとって、アザエルは両親の仇であり、父の同朋である獣人は、命の恩人と言える存在だ。
ヨナスは自らの手で、恩人の命を奪う事など出来なかった。
しかし、ヨナスが軍に加わらねば、母の代から仕えてくれていた、臣下の命がアザエルに奪われてしまう。
そこでヨナスは一計を案じた。
錬金術を得意としていたヨナスは、土地に生息していたオオトカゲと、自分の血を使いリザードマンを創り上げた。
そしてこのリザードマンの軍団を、アザエルに献上する事で、自分が軍に加わる事と、臣下の処刑を回避したのだ。
ヨナスの創ったリザードマンはとても賢く、人語を解するだけでなく、緻密な作戦も理解したそうだ。そしてヨナスはリザードマンの肉体に、その命が果てるその時まで、消えない制約を刻み込んだ。
その制約とは
”獣人を傷つけてはならない”
ヨナスは、自分の身代わりとして、戦いに赴くリザードマンにも、獣人を傷つけさせたくなかったのだ。
リザードマンの働きが認められ、ヨナスはエストの地に戻ることが出来たが、父の残した領土は荒れ果てていた。
住み慣れた地下へ戻ったヨナスは、只々ひたすらに、この厄災のような日々の終わりを、願い続けた。
そして、神との契約の日が訪れた。
人を王に。
獣人を盾に。
魔族は地底へ。
互いを尊重し、豊かな世界を築く刻が来たのだ。
戦火は止み、剣戟と魔法の爆発音の代わりに、人々に日常と笑い声が戻った頃、ヨナスは荒廃した父の領土を、緑豊かな地へと戻す為、小さな苗木を植え続けていた。
そんなある日、ヨナスの元へ一人の獣人が姿を現した。
ヨナスの従兄。獣人族の王ヘルムント、その人だった。
従兄弟が訪ねてくれたことは嬉しいが、何時までも帰ろうとしないヘルムントを、訝しく思ったヨナスは問いただした。
すると神と契約したヘルムントは、後の争いの火種を残すまいと、獣人族の国を、地上の王となった人族の王ラジートに、全て譲り渡してしまっていたのだ。
神との契約を破らぬ限り、獣人には永劫の繁栄を約束されたのだから、自分が王位に付いて居る必要はない。
そう言って、ヘルムントは歴史から姿を消す事を、選んだのだった。
幼い頃に一度会っただけの、縁の薄い従兄弟同士だったが、ヨナスとヘルムントはすぐに意気投合し、多くを語り合う仲となって行った。
そこで、ヨナスは父の残した領地を、ヘルムントに差し出すことにした。
だが伯父の残した領地を、従兄弟から奪う真似はしたくない。とヘルムントは固辞し続けた。
しかし、ヨナスは、自分は地上を蹂躙した、魔族の末裔であり。仕方がなかったとは言え、リザードマンと言う兵士を生み出した張本人だ。
自分に父の愛したこの土地を、治める資格など無い。
樹海の王と呼ばれた、父の後を任せられるのは、ヘルムントだけだと説得した。
「樹海の王?」
『エストは大昔から、緑豊かな土地での。源初の森で多くの命が育まれ、我が獣人を創造したのも、ここの森なのだ。故にエストの森を神聖視する獣人も多く、レジスは我に仕える祭司でもあったのだ。森と獣人を統べる王。それが樹海の王だ。立場的には、ヘルムントよりも、レジスの方が上であったよ』
「森と獣人を統べる・・・・」
神託の内容を知るマークとロロシュが、俺に妙な視線を送って来るが、そんなものは単なる言葉の綾だ。
今必要なのは、レンを助ける手段を知る事。
それ以外の事等、どうでも良い。
『ゴトフリーがここに逃げ込んだ時、森に住まう獣人の集落が多かったのも、それ故だの。レジスが統治していた頃のエストは、まさに樹木の海と呼ぶに相応しい姿をしていた。それもアザエルに焼かれてしまったが、ヨナスのお陰で、現在の姿が有ると言えような。ミーネとここは、我の気に入りの場所じゃった。ヴァラクの奴、それを知った上で、我への嫌がらせに、ゴトフリーをここに連れて来たのであろうな』
「その長話の何処に、レンを助ける手掛かりがあるんだ?」
『これからじゃよ。少しは辛抱できんのか?』
溜息を吐くクレイオスにも、わざとらしさしか感じない。
くだらない昔話を聞くより、俺はレンの傍に居たいし、助ける手立てが有るなら、今すぐ行動に移りたいのだ。
『ヨナスの説得を受け、エストを統治する事にしたヘルムントは、ラジートの目を誤魔化すために、名をヘリオドスと改名し、ヨナスを伴侶として迎え入れた』
「ヘルムント王は、番が居なかったのか?」
「そう言えば、ラジート王のその後ついては神話にも出てきますが、ヘルムント王に触れた話はありませんね」
『今ある創世神話は、事実を書き記してあるが、全ての出来事は記されてはいない。あれはラジートの都合の良い処を、抜粋したにすぎん。それに後の王や神殿に都合の悪い処は、書き換えられてお居る様だの。度量の狭い為政者のやりそうなことだわい』
「なるほど・・・・」
『話を戻すぞ? ヘルムントは、生涯番を見つけることは出来なんだ。じゃがヨナスは聡明で、気立ての良い雄であったから、二人はそれなりに、幸せだったのではないかな』
「それなり・・・ですか」
『ヨナスは、魔族の血を引いて居ったからの。いつまでも若いままのヨナスと、老いていくヘリオドス。残された者の悲しみと言うのは、中々に辛いものでの』
そう言えば、クレイオスも番を無くしたことが有ると言っていたな。
悠久を生き、アウラと言う新たな番を得られるまで、クレイオスは孤独だったのだろうか。
そう思い至ると、神に準ずる者への感傷で、ツキリと胸が痛んだ。
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