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愛し子と樹海の王
騎士になりたい
しおりを挟む今回の最大の成果は、脱毛効果でご機嫌になったロイド様が、シエルとフレイアのゴトフリー訪問を許して下さった事と、軍部の子供達の、養子縁組先を探してくれると、約束してくれた事です。
これでゲオルグさんの、求愛行動のお膳立ても出来て一安心。
交易についても、フレイアの意見を参考にできます。
軍部の子供達も、ロイド様が紹介してくださった方が、養子として迎えてくれるのなら、安心して子供達をお任せ出来る、とほんの少しですが、肩の荷が下りた気分になりました。
ですが、その事を子供達に話すと、今一反応が芳しくありません。
「知らない所に行くのが心配?」
みんなにそう聞くと、そんな事はないと首を振ります。
では何が気に入らなかったのか、と聞いてみました。
「僕達は、騎士になりたいです!」
「騎士になりたいの? ゴトフリーの軍部は無くなったのよ? もう誰も貴方達に、戦う事を強要したりしない。好きな事をして良いのよ?」
「でも、僕たちは、愛し子様の騎士になるのが夢だったんです! なっ?」
一番年上のお兄ちゃんに言われて、みんな頷いています。
う~ん。無理強いしてる感じはないけど・・・。
「ありがとう。そんな風に思ってくれて、とっても嬉しい」
私がそう言うと、子供達は誇らしげに胸を張っています。本当に純粋で、可愛らしい子達ばかりです。
でも、永い人生の中で、子供で居られるのは、ほんの一瞬です。
この子達には、子供で居られる時間を、大切にしてもらいたいのだけれど・・・。
「どうして、愛し子の騎士になりたいの?」
「だって・・・なぁ?」
「うん。僕達はみんな、愛し子様と獣人が旅をする昔話が大好きなの。かっこいい騎士になって、愛し子様を守りたいの」
それって。前にエーグル卿が話していた昔話よね?
憧れって大事だけれど、それでこの子達の将来を決めたり、選択肢を奪ったりしたらダメよね?
「そうだったのね。でもね。養子に行っても騎士にはなれるのよ?」
「えっ?! そうなの?!」
「全然知らなかった」
「帝国の騎士さん達は、子供の頃から剣術の鍛錬はしていたけれど、ほとんどの人が大人になってから、騎士団の入団試験を受けて、騎士になったの」
「大人になるまで、愛し子様の騎士にはなれないの?」
「そうねぇ。貴方達くらいの歳の子は、騎士見習いとして、騎士団で預かる事は出来るけど、直ぐに騎士にはなれないのよ?」
「えぇ~~!!」
「そんなぁ~~」
そんな、この世の終わりみたいな顔をして。
なんて可愛いのかしら。
「私は、騎士団の細かな決まり事には詳しくないから、誰かに説明してもらった方が良さそうね」
「じゃあ、じゃあ!僕。アーチャー卿がいい!」
「俺はロドリック卿」
「シッチン卿も優しかったよ!」
「馬鹿だなあ、こういう時は大公閣下だろ?」
「そうだよね!一番強いんだもんね!!」
まあまあ。こんなに興奮しちゃって。
憧れの騎士様達に、逢いたいのね?
「そうね・・・みんな忙しいから、誰とは約束できないけれど、一度説明会を開いてもらいましょうね」
「説明会?」
「普段どんなお仕事をしているのか、どんな規則があるのか、騎士になるには、どうしたら良いのか。そう言うことをお話ししてもらうの」
「わあっ!!」
「ねぇ! いつ? いつ来てくれるの?」
「そうねぇ」
みんな忙しいから、直ぐには難しいと思うのだけど・・・。
「こらこら。みんなレン様を困らせるな」
「あっ! エスメ兄ちゃん!!」
エーグル卿は、大人気ね。
みんな、兄ちゃん!兄ちゃん!
って懐いてて。
ほっこりするわぁ。
「エーグル卿、こんにちわ。今日は討伐の予定じゃなかったの?」
「そうなのですが・・・・」
チラリと子供達を見て、言い淀むと言う事は、子供達には、聞かせたくない話なのかしら。
「エーグル卿と、お仕事の話をして来るから。みんなは、お勉強の続きをしていてね」
「え~~!?」
「兄ちゃんと遊びたい~!」
「剣の練習の方がいい~!」
まあ、そうよね。
じっとしてるのも辛いわよね。
「でもね。読み書きも出来ないと、騎士にはなれないのよ?」
「うっそだぁ!」
「いいえ。本当です。騎士になっても座学は有るし。報告書だって書かなきゃいけないの。ねっ!エーグル卿?」
「ははっ!そうだぞ。帝国の騎士団は、書類仕事がすごく多いんだ。私もびっくりしたよ」
「・・・・・」
そんな絶望的な顔で、ペンを握りしめなくても・・・・。
「じゃあ、みんな頑張ってね」
お世話係の人に、後を頼んでエーグル卿とその場を離れましたが、何となく心がモヤモヤします。
「あの子達が、失礼な事でもしましたか?」
顔に出さないように、気を付けていた積りですが、エーグル卿には筒抜けだった様です。
「あの子達、養子には行きたく無いって。直ぐにでも、騎士になりたいって言うんです」
「成る程」
「私はあの子達に、世界はとっても広くて。剣を握る以外の生き方もあるんだ、って知ってもらいたい。でもそれを押し付けるのも違う気がして・・・」
「レン様は、本当にお優しい」
「そんな事はないです。騎士のお仕事は、とっても過酷です。あの子達が怪我をしたり、危険な目に遭って欲しくなくて、もっと普通の人生を歩んでほしいって、思ってしまうんです。でも、あの子達の理想や希望を、無視する事もできなくて。自分の理想を押し付けたくなるのを、我慢してるだけの偽善です」
「偽善でも、良いじゃないですか」
エーグル卿の声が優しくて、彼の事を仰ぎ見ると、とても優しい笑顔を見せてくれました。
「でも」
「偽善でも何でも、あの子達の将来を心配してくれる。そんな人は今まで居なかった。レン様の存在は、あの子達には救いなのです」
「そう・・・なんでしょうか」
「私の仲間には、精神が壊れてしまった者も、魔物との戦いで、命を失った者も大勢います。彼らは一人きりで、この世から消えて行った。でも、あの子達は違います。自分の事を気に掛けて、心を砕いてくれる人がいる。それだけで幸せな事です」
「私は欲張りなので、あの子達には、もっともっと幸せになって貰いたいんです」
「あはは。レン様のそういう処ですよ。・・あの子達も獣人です。あの子達がいつか番に出会えたら、無性の愛を注ぎ、与えてくれる人に出会えた時、それがどんな人生だったとしても、世界一幸せになれるのです」
「エーグル卿が、そうだったように?」
「そうですね。私の場合はちょっと、特殊でしたが、それでも私は今、とても幸せです」
「そう・・・良かった」
細かな話は聞いていないけれど、3人で折り合いをつけたのかしら?
ロロシュさんはアレだけど、マークさんは律儀だから、ちゃんと話が決まったら、報告してくれるはずよね。
何にせよ。
彼等3人が幸せなら、それで良い。
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「分かりました。急ぎましょう」
急ぐと言っても、私とエーグル卿では、足の長さが違いすぎて、小走りの私の隣で、エーグル卿は、普通に歩いているのよね。
ほんと嫌になっちゃう。
絶対お父さんの所為なんだから。
自分で選べるのなら、私だって、足長族に生まれたかった!!
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