獣人騎士団長の愛は、重くて甘い

こむぎダック

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愛し子と樹海の王

エステですか

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 side・レン


 ゴトフリーから皇宮に戻っている間。
 本当に怒涛の毎日でした。

 その間、ロイド様から叱られた思い出が一番多いというのは、大人として反省すべき点です。

 1.戴冠式&婚姻式を忘れ。衣装合わせもしていなかった。

 2.アレクさんが、手合わせに夢中になり過ぎて、練武場を破壊。

 3.そのアレクさんを止めようとして、力加減を間違え。第2騎士団の詰め所を半壊。庭園の一部を焼失。

 4.リアンに付き纏い、アレクさんを ”獣” と蔑んだ、ジャクソン・ビーンを、加護を使ってツルッパゲにしてしまった。

 5.政情が不安定なゴトフリーに、シエルとフレイアを連れていくこと。

 1.2.3については、言い訳の仕様が無いので、本当にごめんなさい。と縮こまって、頭を下げるより他ありません。

 5についてはシエルとゲオルグさんの橋渡しでもあるので、ある程度の理解は示してもらえました。

 ただ、没交渉ではあったけれど、フレイアはロイド様の甥にあたる王子なので、ゴトフリー訪問に、渋い顔をされてしまいました。

 でも、フレイアは国内での、後継者争いにうんざりして、帝国に逃げて来たのです。
 そしてゆくゆくは商会を立ち上げ、帝国民になる事を望んでもいます。

 お立場上、ロイド様が表立ってフレイアを擁護する事は有りませんが、甥であるフレイアの事を気に掛けている事は、間違いありません。

 けれど、商売人としてのフレイアは中々に抜け目がない。

 帝国とタランに領地が接しているゴトフリーとの交易を、フレイアはビジネスチャンスと捉え、ゴトフリー行きに前向き、と言うか、私たち以上にノリノリで、ロイド様のお小言も、ニコニコと笑いながら聞き流していました。

 ジャクソンの一件以来、私とアレクさんは日に一度、ロイド様から、お茶やお食事に御呼ばれするようになったのですが、その際ゴトフリーの再建に関する質問を受ける事も多々ありました。

 その席にフレイアも同席していたのですが、あのロイド様相手に、平常心を保っていられるなんて、フレイアは私が思っている以上に大人物なのかもしれない、と彼の事を見直してしまいました。

 そして問題だったのは ”4” 番目。

 私が5人をザビエル禿にしたのと、ジャクソンがツルッパゲになったのには、タイムラグが有りました。

 何方も私がやった事なのですが、実際にジャクソンの全身の毛が抜け落ちた時、私は傍に居なかった。

 お陰で ”ジャクソンは、愛し子をぞんざいに扱い、無礼を働いた。故にアウラ神の天罰が下ったのだ” と真しやかな噂が流れているのだとか。

 でも、そんな噂に誤魔化されるような、ロイド様ではありません。

 リアンとの3人のお茶会に呼ばれた私は、それはもう根掘り葉掘りと・・・・。
 アレクさんにも内緒にしていた、全身脱毛の加護を、洗い浚い喋らされてしまいました。

「ロイド様ぁ。内緒にしてくださいぃ」

 ちょっと涙目でお願いすると、呆れた顔で見られてしまいました。

「別に、隠す必要も無いでしょうに」

 どんなにお綺麗でも、やっぱりロイド様は男性です。
 女子の微妙な心の機微には、気付いてくれません。

「だって・・・ムダ毛処理の話しなんて。恥ずかしいじゃないですか」

「ムダ毛? どこの事を言っているの? 自然に生えているなら、無駄じゃないでしょう?」

「どこって・・・・」

 え? まさか、ヴィースの人って、ムダ毛処理しないの?

 男の人だから、気にならないのかしら?
 やだ! こんなにお綺麗なのに、服の下はボウボウだったりするの?

 腋毛ボウボウのロイド様?
 なんかやだぁ! 
 ショックなんだけど・・・。

「えっと・・・腕とか、足とか・・・脇の下とか・・・・」

「わざわざそんな処の毛を抜くの? 毛が無かったら、子供みたいじゃないの」

 うわぁぁ~~~。
 やっぱりそのままなんだぁ。

「あの、彼方では女子がケモジャなのは、恥ずかしい事だったんです」

「ケモジャねぇ・・・」

 どれどれと手首を取られ、袖をまくられて、前腕部分をまじまじと、見られてしまいました。

「本当にツルツルね」

「ツルツルですね」

 リアンまで、ガン見しないの!!
 指で腕を撫でないのっ!!

「とっ兎に角ですね。ムダ毛の処理は、彼方ではマナーだったんです」

 腕を引っ込めて袖を下ろす私に、ロイド様とリアンは、不思議なものを見る目を向けてきます。

「マナーねぇ・・・変な事を気にするのね?」

「あの。衛生上の問題でもあるのです。その・・・・・毛が生えていると汚れやすかったり、体臭の元になったりしますし。お鬚とかが有ると、化粧のりも悪くなるじゃないですか」

「ひげ・・・確かに髭は邪魔ね」

「私の母も、髭の手入れは面倒だ、とよく言っていますね」

「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・」

 なっなんで、二人揃って私をガン見してくるのかしら?

「レン様?」

「はっはい! なんでしょうかっ!?」

「嫌ですよ。そんなに警戒しなくても・ねぇ」

 警戒するに決まってる!!
 なんなんですか。
 その圧の籠った笑顔は?!

「物は相談なのだけど、ジャクソン・ビーンに掛けた加護。私達にも試してくれない?」

「へあ? スキンヘッドにしたいんですか?!」

「違いますっ!! 髭! ひ・・げっ!」

「あ・・・そうですよね。おひげの脱毛ですか? でも自然にお任せって、さっき」

「それはそれ。これはこれ」

「はあ・・・」

「レン様はお優しいから、私達のお願いを、聞いて下さいますよね?」

 ロイド様が発する笑顔の圧に負けた私は、人払いをした上で、宛らエステティシャンの様に、ロイド様とリアンにお鬚の永久脱毛を施しました。

 サービスで眉毛が繋がらない様に、眉間の脱毛と眉の形も整えて ”指輪に似合わない” と、ロイド様がわざとらしくチラ見してくるので、手指も脱毛してあげました。

 施術が終わった二人は、手鏡を覗き込み。

「凄い・・・・本当に一本も無い」

「ロイド様、お肌すべすべです」

「これが、レン様の美しさの秘密の一つだったのね」

「・・・・喜んでいただけたようで、幸いです。ですが・・・」

 ”くれぐれも内密に” と念押ししました。

「当然です。これは皇家の秘匿事項とします。でも神殿の教義には、アウラ神は美の神でもある、との一文を加えた方が良さそうですね」

「美の神・・・確かにアウラ様は大変お綺麗ですけど」

 そんな簡単に、教義を変えちゃっていいの?

 でもアウラ様なら、ノリノリで 
 ”美の神殿を建ててっ!!” 
 とか言いそう。

 一度クレイオス様に聞いてみようかな。


 ◇◇


 そんなこんなで、叱責続きだった皇都から、ゴトフリーに戻った私達ですが、遣らなければならない事は山積みで、毎日目が回るような忙しさです。

 帝国とゴトフリーの法律は、違う事も多くて。

 問題が起きる度に、御触れを出す必要もあるし、元々王都の治安を任されていた部隊が、信用できないとなれば、騎士さん達の負担も増える一方です。

 それに大軍を率いて、王都に攻め入った訳ではありませんから、ゴトフリーという国が消えてしまって、 ”帝国の一部になった” という実感が、湧かない人達も多いようです。

 広場で行われたアレクさんの演説を、全ての国民が聞いた訳でも、前国王と王太子の、晒された首を見た訳でもありません。

 全国の獣人達の、隷属の首輪が外された。

 その一点だけが、この国が変わった証拠になるのです。

 それでも、この国の数少ない新聞社に手を廻し、毎回情報を流してもらっていますが、この国の民は識字率が低いし、地方まで情報が届くのは、何か月も後の事になってしまいます。

 キャプロス侯爵とブレイブ伯爵の尽力で、恭順を示した貴族は沢山居ました。
では実際に、彼らの領地の運営方法が、帝国の法に倣っているかと言うと、それも怪しい。

 これからは、領主の入れ替えが行われて行くのですが、誰が拝領するにしても、前途多難。

 新領主になる方々には 
 ”ドンマイ! がんばって!”  
 としか言い様が有りません。
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