獣人騎士団長の愛は、重くて甘い

こむぎダック

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愛し子と樹海の王

愛し子と皇太后 

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 side・ロイド


 さあ、次はレン様の番ね。

 ふふん。
 緊張しちゃって、可愛らしいこと。
 昨日、強く言い過ぎた?

 その小さくて、可愛らしい頭の中で、どんな政策を考えて来たのかしら?

 レン様はお体は小さいし、儚げで容易く折れてしまいそうな、花の様な印象を受け易い。

 それに、心根は正しく、どこまでもお優しい人だけれど、この見た目に騙されてはいけない。

 この純情可憐な、見た目とは裏腹に、負けず嫌いで、気の強い一面もある。

 野に咲く可憐な花が、嵐にも耐える強靭さを持つように。この方の本質は、全てを受け入れる柔軟さと強靭さ。

 弱者に対しては、どこまでも慈悲深く。
 その反面、悪を許さぬ苛烈さも、備わっている。

 そのくせ、どんな悪人にも、情けを掛けようとしたり・・・。
 矛盾の塊のような方だけれど、そこがこの方の最大の魅力。

 朴念仁のアレクサンドルが、骨抜きにされ、振り回されるのも当然ね。

 あの子の過去や、置かれた立場から、生涯独身を貫くだろう、と勝手に想像していたけれど。

 愛し子で在る事を抜きにしても、文武に秀で、且つ、美しい上に、愛情深い伴侶を得られた事は。あの子にとって、人生最大の喜びで有り、辛い過去を乗り越えて来たあの子への、神からの御褒美なのかも知れない。

 王家王族に生まれた子供は、私がそうであった様に、本人の意思とは関係なく、継承争いや、政治的な思惑に翻弄されるもの。

 けれど、クレイオス皇家の子供達は、其々母が違うとは思えぬ程、仲が良い。

 ウィリアムとアレクサンドルは、歳の離れたアーノルドを、本当に可愛がってくれた。

 それは、あの可哀想なジルベールを、失った事が大きいのでしょう。

 賢帝と歌われたウィリアム。
 継承権のないアレクサンドル。

 その、何方の足元にも及ばない、平凡なアーノルド。

 一部の者は、アレクサンドルを悪し様に言ったりもするけれど、騎士達から軍神と恐れられ、讃えられるアレクサンドルと。神の恩寵その物のレン様が、味方に付いたアーノルドは、歴代の国王、皇帝の中で、最も恵まれた皇帝になるだろう。
 
「レン様は、現在のゴトフリーの財政状況をどのくらい把握しているの?」

「私もあの国の財政は、ざっくり見ただけなのですが。人身売買以外の纏まった収入は、ごく僅かのようでした。それに食料自給率も良くないみたいです」

「食糧支援が必要と言う事ね?今後増産の見込みはありそう?」

「移動の最中、いくつかの平原を見ました。でも近くに川がないので、開墾するにも、まずは水の確保からになると思います」

 まあまあ。
 アレクサンドルより、よく周りを見ているじゃない?

 あの子は、地形を利用してどう戦うか。
 それしか考えていない様だった。
 同じものを見ても、人によって受け止め方に、これ程差が出るものなのね。

「山が多いのに、川がないのですか?」

「そうなの。山の中や麓付近に、湧水や小さな沢は有ったけれど、地質のせいなのか、地下に流れてしまうみたい」

「地下から汲み上げるとなると、大工事になるなぁ」

「山の中には湧き水があるから、地形を利用して。里山で棚田を作り、果樹を育てる事は出来るとおもう。でも時間と人手が掛かる割に、大きな集落は作れない。食料に関しては、即効性は見込めないかな」

「では、八方塞がりという事?」

「う~ん。ゴトフリーは、森の国でも有ります。木材や木工品の売り上げは、ある程度見込めると思います。ただ、無計画に森林を伐採すると、生態系が狂ってしまうし、土砂崩れみたいな、災害を引き起こす可能性が高く成ります。災害が起きてしまうと、復興支援でお金が掛かりますし、森林の伐採に関しては、規制と計画性が重要に成りますね」

「どれも手間ばかりで、国庫を潤すような稼ぎには、為らないと言うことね?」

「そうですね。ただ基本的な生活の底上げに、地場産業は必要だとは思います」

「困りましたね、いくら貧しくとも、誰かがゴトフリーを治めなければならない。ですが、現状では誰も行きたがらないでしょう。新しく叙爵される者にばかり、押し付けるのもねぇ」

「それに、見返りのない支援は10年が限界だ、と言われているのです。何か打開策は無いのですか?」

「私は、あの国で利益を産むのは、人だと思います」

「人? 人身売買を続けろ、と仰るのですか? 愛し子の貴方が?」

 また、この子は短絡的に・・・。

「アーノルド。レン様のお考えを最後まで聞いてからになさい」

「あ・・・はい。すみません」

「私も、言葉が足りませんでした。 ゴトフリーは、獣人に対する差別を筆頭に。ヴァラク教の影響で、宗教観や思想。常識が偏り過ぎている、と思うのです」

「それで?」

「あの国は、これらを是正していく事が、急務なのです。でも、国民全体の識字率も低く、獣人の生活水準も文化水準も低い。金銭的にも精神的にも貧しいのです」

「それは分かっていますよ?」

「だから、あの国は獣人だけでなく、国民全てに、教育が必要です。国民全てに教育するので有れば、いっそのこと国全体を、学園都市にしてはどうかと思うのです」

「がくえんとし。とは?」

「えっと・・・教育機関を一か所に纏めた都市の事です」

「教育機関を一か所に・・・」

「はい。帝国では今後、神殿の教義も元の形に、戻していくのですよね?」

「ええ。その積りで準備しています」

「今、人手が足りていなくて、人材育成にも困っていますよね?」

「仰る通りです」

「そこで、ゴトフリーにすべての教育機関を、集めたらどうかと思うのです。読み書きや計算の、基本的な教育は、帝国全土で必要だと思います。でもゴトフリーでは、もっと専門的な事を、学べる様にしたらどうでしょう」

「専門知識?」

「一般教養から神教・経済・剣術・魔法・錬金術・魔道具の作成、侍従教育。この他にも沢山あると思いますが、それ等の専門的な教育機関を全て集め、そこで学んだ優秀な人材を、即戦力として、世に送り出す」

「なるほど?」

「例えばですね。神殿の教義の教育も、神殿ごとで違ってしまったら、元も子もない。でも一か所で、多くの神官を育てられたらどうでしょう。同じ神学校から、各神殿に配属されていけば、教義の矛盾も生まれ難いのでは?」

「上手いこと考えますね」

 アーノルド。
 確かに、レン様のお考えは素晴らしいけれど、大事なことを忘れていますよ。

「素晴らしいお考えだけれど、資金はどうする積りなの?」

「勿論。生徒さんや親御さんから、授業料を払ってもらいます。貧しいけれど、優秀な子には、学費の免除や奨学金を支給して上げますが、基本は有料です」

「それで足りると思いますか?」

「足りないでしょうね。でも最高学府は国営にして、より優秀な人材が、皇宮や国家の機関に集り易くしたら、予算を割り振れませんか?」

「そうねぇ・・・」

「あと、貴族の人達って見栄っ張りですよね?」

「ええ。そうね」

「そんな貴族の人達を、うまく煽ったら、自分の名前のついた学校を、建てたくなったりして」

「あ・・・」

 誰とは言えないけれど、何人かの顔が目に浮かぶわね。

「それと、寄付金に応じて、税金をちょっと免除してあげる。なんて言われたら、いっぱい寄付してくれるかも」

「・・・・それは」

 こぞって寄付する貴族が、出て来そうね。

「支援を受けられる10年で基礎を作れば、あとは授業料と寄付金。ゴトフリー内の税収と、国庫からの予算を割り振つてもらえれば、なんとかなりませんか?」

「その税収が、足りないのでしょう?」

「学生さんが集まれば、それを目当てに、全国から、商人が集まって来るでしょう?それと、子供に会いに来た親御さんも、沢山店が有れば、お金を落としてくれると思うんです。だから人が増えれば、税収も増えるのではないでしょうか」

 よく考えてあるけれど、もう一声足りない気がする。

「人種や身分に関係なく、門戸を開けば、必然的に差別をするような店は、潰れていきますよね?」

 元々の住民も、意識を変えざるを得ない。

 理想論ではあるけれど、今の所ケチの付けようがない。

 嗚呼、惜しい。

 あの子に継承権が有ったなら。
 この子が王配であったなら。

 帝国はどれほど栄えたことか。

 けれど、この子が招来されたのが帝国で。
 アレクサンドルの番で、本当に良かった。
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