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愛し子と樹海の王

閣下と龍神

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 side・レン


「ん~~~~っ!」

 ベットの上で伸びをしたら、背中がポクポク音を立てたけれど、やっぱりお家のベットは落ち着くし、久しぶりに熟睡できた気がします。
 
「おはよう。よく眠れたか?」

 先に起きていたアレクさんは、既に稽古着に着替え終わっていました。

 騎士服のアレクさんも素敵だけれど、こういうラフな格好も良くお似合いで、寛げた襟元から覗く鎖骨が、とてつもない色気を醸し出しておりますよ。

 朝から、私の番は麗しく。
 眼福で御座います。
 
 こんなイケメンが私の番とか。
 私、前世でどんな徳を積んだのかしら?

 ありがたや、ありがたや。
 今日も一日、頑張れそう。
 心の中で合掌です。

「おはよう。こんな早くから、練武場に行くの?」

「あぁ。新人が何人か入って来たそうでな?ミュラーから少し揉んでくれ、と頼まれた」

「ふ~ん。私も行ってもいい?」

「ん? 構わんが、昨日は衣装合わせと晩餐会で疲れただろう?ゆっくり休んだ方が良くはないか?」

 言いながら、指に髪を絡めるのやめて。
 凶悪な色気で、気絶しそうです。

「う~ん。そうなんだけど。昨日の晩餐会の服が重くって、体が強張っちゃってるみたいなの。軽く体をほぐしたいし、邪魔しないから一緒に行ってもいい?」

「レンを邪魔にする奴など、第2うちには居ないぞ? だが、今はマーク達が居ないから、出来るだけ、俺から離れないようにな?」

「騎士団の練武場よ? 危なくないでしょ?」

「まぁそうなんだが」

 なんでしょう。
 この歯切れの悪さは。
 
「じゃあ。キッズ達とカルも誘ったらどう?」

「・・・・それなら、まあ」

「じゃあ決まりね! 顔洗って着替えちゃうから、先にご飯食べてて?」

「・・・いや。着替えは俺が」

 そう言うとアレクさんは、衣裳部屋に消えたかと思うと、私のお稽古着を手に戻って来て、いそいそと着替えさせてくれた後、髪もゆるふわな感じで結ってくれました。

 以前はきっちりした結い方ばかりでしたが、偶にきつくて頭痛がするから、緩くして欲しい、と彼方の纏め髪をイラストにして説明したら、あっさり習得してしまって、現在アレクさんのヘアアレンジの腕前は、達人の域に到達していると思います。

 このビジュアルでこの腕前、彼方だったら人気過ぎて予約も取れない、カリスマ美容師になって、モテモテなんだろうなぁ。

 そうしたら、私なんて口を利くどころか、存在も認識してもらえない、別世界の住人だったと思います。
 
 ヴィースに来て、彼と出会えて本当に良かった。

 朝食を取り、玄関ホールで待って居ていくれた、カル達と合流して、練武場へ向かいます。

「朝早くから、付き合わせてごめんね」

『何故謝るのかな?私にとって時間なんて、有って無い様なものだよ?』

 う~ん。
 私が言いたいのは、そういう事じゃないのだけど。

 なんかこう、微妙なニュアンスが、伝わり難い感じがします。

 まぁ、相手は龍神様だし、気にしたら負けよね?

 気を取り直した私は、昨夜晩餐の席でうやむやになっていた話を、アレクさんに振ってみました。

「ねぇ。お見合いの話しなのだけど、ゲオルグさんをこっちに呼ぶの?」

「ん? いや、シエルを向うに行かせようと思う」

「それって、大丈夫なの? アーべライン侯爵が許してくれるかしら」

「そこは、話の持って行きようだな」

 そこを詳しく聞きたかったのだけれど、アレクさんは決まったら教えるの一点張りで、どんな手を使うのかは、教えてくれませんでした。

 それは、怪しい手を使うから私に話せないのではなく、糠喜びをさせたくないだけだった様なので、ここは大人しく引き下がる事にしました。

 練武場に着いて、ミュラーさんや、顔見知りの騎士さん達と挨拶を交わした後は、キッズ達と軽く走って体をほぐし、木刀片手に素振りと型のお稽古です。

 その間、何となく嫌な視線を感じて振り向くと、そこには馴染みの無い人達が、小馬鹿にしたような顔で、ニヤニヤと私の事を見ていました。

 なるほど、あれがアレクさんの言っていた新人さんね。

 何故あんな感じの悪い人達が、第二騎士団に入れたのかしら?

 不思議です。

 でも、まあ・・・うん、アレクさんがこっちを見ているから、彼らの事は気付いているでしょうし、教育的指導が入るのは間違いないので、私は知らん顔をしておきましょう。

 いい感じで体が解れた頃に、カルに声を掛けられて、そのまま手合わせをする事になりました。

 カルが剣を使える事にも驚きでしたが、『長く生きていると、退屈凌ぎに色々とね。なんでも一通りは使えるけど、槍が一番得意かな』と言って、ぱっと手を広げると、何もなかった空間から、穂先を潰した槍が現れて、カルの手の中に納まりました。

 これって、ゲームの無限収納インベントリってやつ?
 クレイオス様の、謎空間収納も良いけど。

 いいなぁ!!
 これ出来るようになりたい!
 パッ!! シュバッ!! 
 ってかっこいい~。
 憧れちゃう~。

 アウラ様も、魅了なんて面倒臭い加護じゃなくて、こういうのを付けてくれればいいのにな。

 そんな事を考えながら、一合、二合と打ち合いましたが、カルはとんでもなく強かった。

 全く歯が立ちません。
 気分はもうあれです。
 幼児がお父さんに、戦いごっこを挑む、みたいな?
 私はやったことが無いので定かではないですが、こっちは必死なのに、相手は全然余裕で、悔しいけれど、それが嫌では無くて。


 結局私の木刀は、リアル竜騎士のカルの槍に絡め取られて、遠くに飛ばされてしまいました。

 龍神様が強いのは、当たり前な気もしますが、これだけ強いなら、アレクさんと戦ったら、どうなっちゃうんだろう。

 凄く見てみたい。

「カルは強いのね」

『そう?かなり鈍ってしまったよ。勘を取り戻すには暫くかかりそうだ』

「なら、アレクと手合わせしてみない?彼、もの凄く強いのよ?」

 ”好奇心は猫をも殺す”

 今の私がまさにそれ。

 好奇心に負け、アレクさんとカルの手合わせを、セッティングしたのが運の尽きでした。

 カルの木槍と、アレクさんの木剣が打ち合った初激の衝撃で、打ち込み用の木人と、木剣立てが吹き飛び、二人が手にしていた練習用の木剣と木槍が、粉々に砕けてしまいました。

 そこで止めてくれれば良いものを。

 アレクさんは徐に腰の剣を抜き、カルもインベントリから銀色に輝く槍を取り出して、再び打ち合い始めたのです。

 アレクさんの放つ斬撃が、地面を抉り。
 カルの槍が突き出される度に、練武場の石積みの壁に穴が開いていきます。

「退避!! 退避だっ!!」

「防護結界を張れっ!!」

 騎士さん達が、練武場の外に被害を出さない様に、必死で防護結界を張ってくれましたが、今ここにいる騎士さん達は、全員Bランク以下。

 謂わば2軍、3軍の騎士さん達です。
 彼らが張った結界は、アレクさんの起こした竜巻で、あっさり砕かれてしまいました。

「嘘でしょ!?」

「なんで、二人の手合わせを、許したんですかぁ~!?」

 ミュラーさんに泣き着かれてしまいましたが、私だってこんな事になるなんて思ってなかった。

ちょっと二人の対決を、見てみたかっただけなのに・・・。

 結界魔法が得意でない私は、三重の氷の壁で練武場をドーム状に覆うのが精一杯。

 私が張った氷の壁も、次々に放たれる魔法と斬撃で、バリバリと削られ、ドカドカ割られて行きます。そのたびに新しい壁を作り出しては居るのですが。

 アレクさんは、手加減なしで戦える相手に、完全にハイになってるし、カルはカルでメチャクチャ楽しそう。

 でも楽しんでいるのは、2人だけだって、お願いだから、早く気づいて!!
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