獣人騎士団長の愛は、重くて甘い

こむぎダック

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愛し子と樹海の王

ただいま!!

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「レ・・・レン?」

「アレク、ただいま!心配かけてごめんね」

 あぁ! レンだ!
 俺の番だ!
 生きてた。無事だった!

「どうしたの? あのイソギンチャクにいじめられたの?」

「いじめ・・・?」

 ・・・られたのか?

「いや、あの、その生き物は・・・?」

 なんとなく見覚えのある生物だが。
 何故そんなものに跨って、空を飛んでいるのだ?
 何故、その生き物は両手でアンを抱えているのだ?

 あっ! アンを落とした。

 クオンとノワールが、太郎と次郎を運んでいるな。
 アンは太郎と次郎を、迎えに行ったのか。
 
 それは魔物か?
 ティムしたのか?

「この人は、カル。カエルレウスさんです。細かい説明は後で。取り敢えずあの くっさいイソギンチャクを、片しちゃいましょう!」

 いそぎんちゃく・・・・。
 確かに、あの海洋生物は、そんな名前だったな・・・・。

「あのな? あれはとても危険だ。あの触手で相手を取り込もうとするから、レンは下がって・・・」

「触手? 分かりました!まんまイソギンチャクですね?」

「いや、そうじゃなくて。危ないから」

 なんだ?
 いつもより、俺の番のテンションが高いぞ?本当に危険だから、下がっていて欲しいのだが。

 困った。

 全然話を聞いてくれない。

 戸惑っている内に、レンの放った炎に焼かれ、縮こまっていた触手が再び動き出した。

「レン!危険だ!こっちに来るんだ!!」

「大丈夫だから、見てて?」

 そう言うと俺の番は、ニッコリと微笑み、左腕を前に突き出し、その魔力を解放した。

 ドッ・・・ドドンッ!!

 レンが解放した魔力は、実際の重さを伴い触手の化け物を抑え込んだ。
 魔物の周囲が陥没し、地面にひびが入るほどの圧力だ。

 すると、あれほど暴れまわっていた触手が、シュルシュルと体に戻され、全ての触手が収納されると、魔物の身体は卵の様に丸まってしまった。

「・・・・・嘘だろ?」

「アレク、忘れちゃったの? イソギンチャクは直接触ると、触手をしまって縮こまっちゃうのよ?」

「・・・そう・・・・・だったな」

 あれほど苦労させられた触手が、こうも簡単に?

 信じられない。
 必死になってた俺が、馬鹿みたいじゃないか。
 
「じゃあ、カル。さっきのあれ。ドドンと御見舞して下さい」

『まかせなさい』

 しゃ? 喋った?!
 この魔物?生き物?は人語を解すのか?
 レンは一体何を、ティムしたのだ?!

 人語を解する謎な生き物が、ガパリと口を開けブレスを放つと、触手の化け物・・・いそぎんちゃくの身体は、見る間に干乾び、ボロボロと崩れ始めた。

「仕上げが有るから、イソギンチャクのとこまで、連れて行ってくれますか?」

『分かった』

 仕上げ?
 何をする気だ?
 ・・・・浄化するのか?

「レン!本当に危ないから!!」

 頼むから、俺の側でじっとして居てくれないか?

「大丈夫、大丈夫。アレクは休んでてね!」

 本当に、どうしてしまったんだ?
 テンション高すぎだぞ?

「いや!俺も一緒に!」

「そう?じゃあ一緒に行く?」

 ニコニコと笑う番に、頷いて見せると、レンは謎生物の背から飛び降り、風を纏って、ふわりと俺の腕の中へ戻って来た。
 
「ん~~~」

「どっどうした?」

 なぜか不機嫌そうにうめく番に、心臓がバクバクする。

「ちょっと・・・臭います。これじゃ、虎吸いが出来ない。楽しみにしてたのに。あとで着替えてね?」

「お? おう?」
 
 とらすい?
 ”とらすい” とは?
 
 確かに、悪臭が充満する奥の院に居たが。
 今の俺は、そんなに臭いのか?
 ショックだ。 

「さあ、ちゃちゃっと、片しちゃいましょう?」

「あ、ああ、そうだな?」

 臭いと言われた衝撃に堪えながら、番に手を引かれ、いそぎんちゃくの前に立った。

 俺の手を放した番は、安心して、と言うように微笑むと、腰に佩いた破邪の刀を抜き、その刀身に左手を滑らせた。

 月光を浴び、淡く光る破邪の刀は、レンが刀身を撫でた事で、浄化の力が宿り黄金色に輝いた。

 腰を落とし、静かに一歩踏み込んだレンは、ボロボロと崩れていく魔物を、大上段から斬り下げ、返す刀で真横に薙いだ。

 魔物の身体に十字に刻まれた傷から、浄化の光が零れ落ちる。

 レンは刀を鞘に納めると、左手でそっと魔物の身体に触れ、小さな声で歌を歌った。
 その歌声は、物悲しくも慈愛に溢れ、まるで子守唄の様だ。

 崩れていく体は光の粒となり、やがて光の帯となって、風に揺れ空へと帰っていた。

 レンの掌の残った最後の一粒が、風にさらわれ空へ登って行くと、最愛の人は、手の平を握りしめ ホウ と悲し気な息を吐いた。

「レン?」

「・・・アレク、終わりました」

「そうだな・・・」

 振り向いた番の瞳は、悲しみに沈み暗く陰っている。

 細い肩を抱き寄せ、腕の中に閉じ込めて、その温もりを感じる事で、初めて冷たい長い夜の終わりを実感できた。

 小さな体を抱き上げ、口づけを交わし、額を合わせて微笑み合う。

 なんと言う幸福感か。

 俺の頬に添えられた、手の平の暖かさに涙が出そうだ。

「俺の姫は、どんな大冒険をして来たんだ?」

 体をくねらせながら、空に浮く謎な生物に目をやると、レンは楽しそうにクスクスと笑った。

「ふふっ、色々です。あとで詳しく話しますね?」

「兎に角無事でよかった。クレイオスが知り合いの所に居るから、心配するな。とは言っていたのだが、生きた心地がしなかった」
 
「本当にごめんね。私の転移した場所は、念話も通じないし、魔法もスクロールも使えなくて、でもカルが外まで送ってくれたから、帰ってこれたのよ?」

「カル? カルというのは、あれの事か?」

「こら! あれなんて失礼な呼び方しちゃだめ。彼はクレイオス様のお友達の龍なの」

「龍? あれが龍なのか?」

 空に浮く謎生物改め、龍をしげしげと眺めていると、俺の番が不思議そうに首を傾げて見せた。

「アレクは、龍を見たことが無いの?」

「龍と言う生き物の話しを、本で読んだことは在ったが、挿絵も無くてな?見るのは初めてだ」

「そうなの? アレクは魔法で龍を出してるから、良く知っているのだと思ってた」

 あぁ、そうか。
 それで、見覚えがある気がしたのか。

 空に浮かぶ龍をレンが手招くと、スルスルと寄ってきた龍は、瞬きの間に人型へと姿を変じた。

 目の前に立った龍は、俺と同じくらいの背丈をした、藍色の髪と瞳を持つ、大柄だが中々の美丈夫だった。

「アレク。こちら龍神様のカエルレウスさん。カル。この人が私の番のアレクサンドル・クロムウェル大公閣下よ」

『カエルレウスだ。カルと呼んでくれ。貴方が樹海の王か?』

 レンに紹介された龍は、気さくな様子で手を差し出し、握手を求めて来た。

 随分と、人の文化に馴染んでいるらしい。

「樹海の? クレイオスが偶にそう呼ぶが。俺は王でもなんでもないからな、迷惑な話だ」

 そう俺が答えると、カエルレウスと言う龍は、どういう訳か、悲しそうな顔になった。

「なにか?」

『いや・・・・なんでも無い』

 俺達の微妙な空気を感じ取ったのか、気分が高揚しているだけなのか。

 今のレンなら多分後者だと思うが・・・。

 明るい声で、クレイオスは何処かと、聞いて来た。

「クレイオスは、解呪の最中だ」

 親指で半壊の奥の院を指すと、レンは摘まんだ鼻の上に、しわを寄せて見せた。

「くちゃいと、おぼっだっ」

「レン? 臭いが辛いのは分かるが、話すときは、鼻から手を放したらどうだ?」

「う”ん」
 
 いや、放してないから・・・。
 まぁ、可愛いから良いけどなっ!

「ぢょっど、がいじゅのでずだいにいっでぎばす。ヴァレクばここで、ヴぁとかだずけしででね?」

「レン」
 
 鼻を摘み、指を放す仕草をして見せると、番は イヤイヤ と首を振り、半壊の奥の院を指さした。
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