上 下
381 / 497
愛し子と樹海の王

ただいま!!

しおりを挟む
「レ・・・レン?」

「アレク、ただいま!心配かけてごめんね」

 あぁ! レンだ!
 俺の番だ!
 生きてた。無事だった!

「どうしたの? あのイソギンチャクにいじめられたの?」

「いじめ・・・?」

 ・・・られたのか?

「いや、あの、その生き物は・・・?」

 なんとなく見覚えのある生物だが。
 何故そんなものに跨って、空を飛んでいるのだ?
 何故、その生き物は両手でアンを抱えているのだ?

 あっ! アンを落とした。

 クオンとノワールが、太郎と次郎を運んでいるな。
 アンは太郎と次郎を、迎えに行ったのか。
 
 それは魔物か?
 ティムしたのか?

「この人は、カル。カエルレウスさんです。細かい説明は後で。取り敢えずあの くっさいイソギンチャクを、片しちゃいましょう!」

 いそぎんちゃく・・・・。
 確かに、あの海洋生物は、そんな名前だったな・・・・。

「あのな? あれはとても危険だ。あの触手で相手を取り込もうとするから、レンは下がって・・・」

「触手? 分かりました!まんまイソギンチャクですね?」

「いや、そうじゃなくて。危ないから」

 なんだ?
 いつもより、俺の番のテンションが高いぞ?本当に危険だから、下がっていて欲しいのだが。

 困った。

 全然話を聞いてくれない。

 戸惑っている内に、レンの放った炎に焼かれ、縮こまっていた触手が再び動き出した。

「レン!危険だ!こっちに来るんだ!!」

「大丈夫だから、見てて?」

 そう言うと俺の番は、ニッコリと微笑み、左腕を前に突き出し、その魔力を解放した。

 ドッ・・・ドドンッ!!

 レンが解放した魔力は、実際の重さを伴い触手の化け物を抑え込んだ。
 魔物の周囲が陥没し、地面にひびが入るほどの圧力だ。

 すると、あれほど暴れまわっていた触手が、シュルシュルと体に戻され、全ての触手が収納されると、魔物の身体は卵の様に丸まってしまった。

「・・・・・嘘だろ?」

「アレク、忘れちゃったの? イソギンチャクは直接触ると、触手をしまって縮こまっちゃうのよ?」

「・・・そう・・・・・だったな」

 あれほど苦労させられた触手が、こうも簡単に?

 信じられない。
 必死になってた俺が、馬鹿みたいじゃないか。
 
「じゃあ、カル。さっきのあれ。ドドンと御見舞して下さい」

『まかせなさい』

 しゃ? 喋った?!
 この魔物?生き物?は人語を解すのか?
 レンは一体何を、ティムしたのだ?!

 人語を解する謎な生き物が、ガパリと口を開けブレスを放つと、触手の化け物・・・いそぎんちゃくの身体は、見る間に干乾び、ボロボロと崩れ始めた。

「仕上げが有るから、イソギンチャクのとこまで、連れて行ってくれますか?」

『分かった』

 仕上げ?
 何をする気だ?
 ・・・・浄化するのか?

「レン!本当に危ないから!!」

 頼むから、俺の側でじっとして居てくれないか?

「大丈夫、大丈夫。アレクは休んでてね!」

 本当に、どうしてしまったんだ?
 テンション高すぎだぞ?

「いや!俺も一緒に!」

「そう?じゃあ一緒に行く?」

 ニコニコと笑う番に、頷いて見せると、レンは謎生物の背から飛び降り、風を纏って、ふわりと俺の腕の中へ戻って来た。
 
「ん~~~」

「どっどうした?」

 なぜか不機嫌そうにうめく番に、心臓がバクバクする。

「ちょっと・・・臭います。これじゃ、虎吸いが出来ない。楽しみにしてたのに。あとで着替えてね?」

「お? おう?」
 
 とらすい?
 ”とらすい” とは?
 
 確かに、悪臭が充満する奥の院に居たが。
 今の俺は、そんなに臭いのか?
 ショックだ。 

「さあ、ちゃちゃっと、片しちゃいましょう?」

「あ、ああ、そうだな?」

 臭いと言われた衝撃に堪えながら、番に手を引かれ、いそぎんちゃくの前に立った。

 俺の手を放した番は、安心して、と言うように微笑むと、腰に佩いた破邪の刀を抜き、その刀身に左手を滑らせた。

 月光を浴び、淡く光る破邪の刀は、レンが刀身を撫でた事で、浄化の力が宿り黄金色に輝いた。

 腰を落とし、静かに一歩踏み込んだレンは、ボロボロと崩れていく魔物を、大上段から斬り下げ、返す刀で真横に薙いだ。

 魔物の身体に十字に刻まれた傷から、浄化の光が零れ落ちる。

 レンは刀を鞘に納めると、左手でそっと魔物の身体に触れ、小さな声で歌を歌った。
 その歌声は、物悲しくも慈愛に溢れ、まるで子守唄の様だ。

 崩れていく体は光の粒となり、やがて光の帯となって、風に揺れ空へと帰っていた。

 レンの掌の残った最後の一粒が、風にさらわれ空へ登って行くと、最愛の人は、手の平を握りしめ ホウ と悲し気な息を吐いた。

「レン?」

「・・・アレク、終わりました」

「そうだな・・・」

 振り向いた番の瞳は、悲しみに沈み暗く陰っている。

 細い肩を抱き寄せ、腕の中に閉じ込めて、その温もりを感じる事で、初めて冷たい長い夜の終わりを実感できた。

 小さな体を抱き上げ、口づけを交わし、額を合わせて微笑み合う。

 なんと言う幸福感か。

 俺の頬に添えられた、手の平の暖かさに涙が出そうだ。

「俺の姫は、どんな大冒険をして来たんだ?」

 体をくねらせながら、空に浮く謎な生物に目をやると、レンは楽しそうにクスクスと笑った。

「ふふっ、色々です。あとで詳しく話しますね?」

「兎に角無事でよかった。クレイオスが知り合いの所に居るから、心配するな。とは言っていたのだが、生きた心地がしなかった」
 
「本当にごめんね。私の転移した場所は、念話も通じないし、魔法もスクロールも使えなくて、でもカルが外まで送ってくれたから、帰ってこれたのよ?」

「カル? カルというのは、あれの事か?」

「こら! あれなんて失礼な呼び方しちゃだめ。彼はクレイオス様のお友達の龍なの」

「龍? あれが龍なのか?」

 空に浮く謎生物改め、龍をしげしげと眺めていると、俺の番が不思議そうに首を傾げて見せた。

「アレクは、龍を見たことが無いの?」

「龍と言う生き物の話しを、本で読んだことは在ったが、挿絵も無くてな?見るのは初めてだ」

「そうなの? アレクは魔法で龍を出してるから、良く知っているのだと思ってた」

 あぁ、そうか。
 それで、見覚えがある気がしたのか。

 空に浮かぶ龍をレンが手招くと、スルスルと寄ってきた龍は、瞬きの間に人型へと姿を変じた。

 目の前に立った龍は、俺と同じくらいの背丈をした、藍色の髪と瞳を持つ、大柄だが中々の美丈夫だった。

「アレク。こちら龍神様のカエルレウスさん。カル。この人が私の番のアレクサンドル・クロムウェル大公閣下よ」

『カエルレウスだ。カルと呼んでくれ。貴方が樹海の王か?』

 レンに紹介された龍は、気さくな様子で手を差し出し、握手を求めて来た。

 随分と、人の文化に馴染んでいるらしい。

「樹海の? クレイオスが偶にそう呼ぶが。俺は王でもなんでもないからな、迷惑な話だ」

 そう俺が答えると、カエルレウスと言う龍は、どういう訳か、悲しそうな顔になった。

「なにか?」

『いや・・・・なんでも無い』

 俺達の微妙な空気を感じ取ったのか、気分が高揚しているだけなのか。

 今のレンなら多分後者だと思うが・・・。

 明るい声で、クレイオスは何処かと、聞いて来た。

「クレイオスは、解呪の最中だ」

 親指で半壊の奥の院を指すと、レンは摘まんだ鼻の上に、しわを寄せて見せた。

「くちゃいと、おぼっだっ」

「レン? 臭いが辛いのは分かるが、話すときは、鼻から手を放したらどうだ?」

「う”ん」
 
 いや、放してないから・・・。
 まぁ、可愛いから良いけどなっ!

「ぢょっど、がいじゅのでずだいにいっでぎばす。ヴァレクばここで、ヴぁとかだずけしででね?」

「レン」
 
 鼻を摘み、指を放す仕草をして見せると、番は イヤイヤ と首を振り、半壊の奥の院を指さした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

淫らなお姫様とイケメン騎士達のエロスな夜伽物語

瀬能なつ
恋愛
17才になった皇女サーシャは、国のしきたりに従い、6人の騎士たちを従えて、遥か彼方の霊峰へと旅立ちます。 長い道中、姫を警護する騎士たちの体力を回復する方法は、ズバリ、キスとH! 途中、魔物に襲われたり、姫の寵愛を競い合う騎士たちの様々な恋の駆け引きもあったりと、お姫様の旅はなかなか困難なのです?!

迷い込んだ先で獣人公爵の愛玩動物になりました(R18)

るーろ
恋愛
気がついたら知らない場所にた早川なつほ。異世界人として捕えられ愛玩動物として売られるところを公爵家のエレナ・メルストに買われた。 エレナは兄であるノアへのプレゼンとして_ 発情/甘々?/若干無理矢理/

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

クソつよ性欲隠して結婚したら草食系旦那が巨根で絶倫だった

山吹花月
恋愛
『穢れを知らぬ清廉な乙女』と『王子系聖人君子』 色欲とは無縁と思われている夫婦は互いに欲望を隠していた。 ◇ムーンライトノベルズ様へも掲載しております。

ドS騎士団長のご奉仕メイドに任命されましたが、私××なんですけど!?

yori
恋愛
*ノーチェブックスさまより書籍化&コミカライズ連載7/5~startしました* コミカライズは最新話無料ですのでぜひ! 読み終わったらいいね♥もよろしくお願いします! ⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆ ふりふりのエプロンをつけたメイドになるのが夢だった男爵令嬢エミリア。 王城のメイド試験に受かったはいいけど、処女なのに、性のお世話をする、ご奉仕メイドになってしまった!?  担当する騎士団長は、ある事情があって、専任のご奉仕メイドがついていないらしい……。 だけど普通のメイドよりも、お給金が倍だったので、貧乏な実家のために、いっぱい稼ぎます!!

【R-18】喪女ですが、魔王の息子×2の花嫁になるため異世界に召喚されました

indi子/金色魚々子
恋愛
――優しげな王子と強引な王子、世継ぎを残すために、今宵も二人の王子に淫らに愛されます。 逢坂美咲(おうさか みさき)は、恋愛経験が一切ないもてない女=喪女。 一人で過ごす事が決定しているクリスマスの夜、バイト先の本屋で万引き犯を追いかけている時に階段で足を滑らせて落ちていってしまう。 しかし、気が付いた時……美咲がいたのは、なんと異世界の魔王城!? そこで、魔王の息子である二人の王子の『花嫁』として召喚されたと告げられて……? 元の世界に帰るためには、その二人の王子、ミハイルとアレクセイどちらかの子どもを産むことが交換条件に! もてない女ミサキの、甘くとろける淫らな魔王城ライフ、無事?開幕! 

5人の旦那様と365日の蜜日【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
気が付いたら、前と後に入ってる! そんな夢を見た日、それが現実になってしまった、メリッサ。 ゲーデル国の田舎町の商人の娘として育てられたメリッサは12歳になった。しかし、ゲーデル国の軍人により、メリッサは夢を見た日連れ去られてしまった。連れて来られて入った部屋には、自分そっくりな少女の肖像画。そして、その肖像画の大人になった女性は、ゲーデル国の女王、メリベルその人だった。 対面して初めて気付くメリッサ。「この人は母だ」と………。 ※♡が付く話はHシーンです

処理中です...