獣人騎士団長の愛は、重くて甘い

こむぎダック

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愛し子と樹海の王

触手と再生

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 奥の院の分厚い壁を破壊し、うっそりと姿を現したギガンテスは、騎馬隊の遺体を取り込み、更に身体が大きくなっている。

 分厚い石壁を、焼き菓子の様に簡単に砕くのだから、力も相当強い筈だ。

 勝機があるとするなら、奴を操る主が居ない事だ。

 ギガンテスは、魔族の生物兵器だった。
 
 自我らしい自我は無く、体内に内包する核を通じ、魔族はギガンテスを操り、殺戮と蹂躙を繰り返していた。
 
 操る者のいないギガンテスの動きは、緩慢だ、と言われているが、確証は無い。

 なにせ、神話に出てくるような魔物の本物を見るのは、全員が初めてなのだ。

 部下には近付くなとは言ったが、あの巨体で動き回られては面倒だ。
 魔法で仕留めるにしても、先ずは足止めからか?

「ロロシュ!」

「おう! なんだ?」

 なんだコイツ。

 さっきの狼狽えっぷりが、嘘みたいな太々しさだ。
 動揺しすぎて、逆に落ち着いたか?

「皇宮に湧いた、3つ首の魔物を覚えているか?」

「はあ? 今だに夢に出てくるんだぜ? 忘れたくても忘れらんねぇよ」

 まあ、そうだろうな。
 あれは確かに強烈だった。

「あれと同じだ。何人かでギガンテスの足元を崩せ。動き回られて、魔物の死体を取っ込まれては叶わん」

「あ~了~解。エーグルお前も来い!」

「私もですか?」

「お前はまだ練度が足りねぇんだよ。閣下とマークの足、引っ張りたくなかったら、オレと来い。土魔法くらい使えんだろ?」

「はい!」

 ふむ。
 これは、なかなか・・・。

「マーク。ロロシュ達の準備が出来るまで、俺が雷撃であいつの動きを止める。お前は頭を狙ってくれ」

「了解。あの気味の悪い目玉を潰してみます」

 神話では、ギガンテスは核を破壊しなければ、倒すことが出来ないとあった。

 だが、肝心の核の場所が分からない。

 普通の生き物と同じなら、急所のどこかに核が有る筈だが、こればかりはやってみない事には分からんからな。

「始めるぞ!」

 左手を空に掲げ、練り上げた魔力を放出した。

 月に向かって閃光が走り、雷雲が渦を巻く。

 まだ、まだだ。
 あのデカブツには、強烈な一撃を加えなければ。

 俺の生み出した雷雲が月を隠し、雲から走り出た稲妻が、深くなった闇を切り裂き、一拍置いた後の轟音と共に、ギガンテスの巨体に直撃した。

 一発、二発、三発。
 災害級の雷撃を、3案発続けて打ち込んだギガンテスは、硬直した四肢が痙攣している。

 その後ろで、解呪の為だろう、クレイオスが奥の院の中に消えていった。

 そこへマークが生んだ特大の氷柱が、うなりを上げギガンテスの眼球を突き刺し、その勢いのまま頭部を破壊して、奥の院の壁に突き刺さった。

 稲妻に貫かれ、頭部を破壊され、煙を上げる青黒い身体が、ゆっくりと傾いで後ろに倒れ込んだ。
 
 災害級の雷撃を耐え抜いた魔物も、頭部を失えば、無事とはいかなかった様だ。

「うっ・・・うわあーーー!!」

「瞬殺だっ!!」

「流石、団長と副団長!!」

「帝国の守護神だ!!」

 部下達は浮かれて、俺とマークの名を連呼しているが、核を破壊するまでギガンテスは、倒すことが出来ない。

 俺は部下に注意を引く為に、火球を打ち上げ、爆発させた。

「浮かれるな!!ギガンテスは核を破壊するまで死なん!!」

「馬鹿者が!! 気を引き締めろ!!」

 俺の大音声に続きマークも、部下に活を入れるが、その目は石像をなぎ倒し、倒れ込んだギガンテスに集中している。

「ロロシュ!! まだか!?」

「準備完了!! いつでも行けるぜ!!」

「やれっ!!」

 ロロシュとエーグル他数名の騎士達が、土魔法を展開した。
 ギガンテスが寝そべる地面が砂へと変化し、その巨体がゆっくりと沈み始めた。

 が、しかし砂に沈みかけたギガンテスの腕が、ピクリと動いた。
 
「来るぞ!!構えろ!!」

 動きが緩慢だった先ほどまでとは打って変わり、機敏な動きで起き上がったギガンテスだが、砂に手足を取られ、立ち上がる事が出来ないようだ。

 核は何処だ?

 ええい、面倒だ。
 肉を全てはぎ取れば分かる!

 砂の中で藻掻くギガンテスに、獄焔を放った。

 頭部を失ったギガンテスは、叫び声をあげる事は出来ないが、大聖堂の屋根より高く燃え上がった炎にまかれ、砂の中でもがき苦しんでいる。

 地獄の焔に焼かれ、巨体の肉がボロボロと焼け崩れていく。

 俺の攻撃に倣い、部下達も火球や火炎を打ち込み、肉を爆ぜさせては居るが、一向に核が出てくる気配がない。 

 何故なら、ギガンテスの身体は、焼け崩れ肉が爆ぜる傍から再生して行くからだ。
 
「マーク!核を探せ!」

「やって居ますが、再生の方が早いです」

「クソッ!どう言うことだ? ギガンテスに再生能力があるなど、聞いたことがないぞ?!」

 その時、焼け崩れたギガンテスの体から、無数の触手がゾロリと姿を現し、四方に向け伸ばされた。

 触手の伸びる速さは、目で追う事すら難しく、距離を取らせていた部下達に、難なく襲い掛かった。

 触手の直撃を受け、防護結界を破られた部下が、触手に絡め取られ、触手が分泌している粘液に団服を溶かされながら、本体へと引きずられて行く。

 周囲の者が、剣で触手を斬り落とし、仲間を救いだすが、斬り落とした断面から再生した新たな触手が、うねうねと伸びて、別の騎士の後を追って行くことの繰り返しだ。

「あ‘‘あ‘‘!!クソッ!!」

 俺は焔龍を飛ばし、轟々と燃え盛る龍で触手を焼き払った。

 その横でマークも、触手を氷漬けにしている。

 炎で焼いた傷は、剣で斬り飛ばした傷よりは、再生が遅いようだが、それも気休めに過ぎない。

 マークが氷漬けにした触手も、動きを止めるられたのは、ほんの数セル。

 部下が逃げる助けにはなるが、直ぐに氷を砕き、獲物を追って伸びていく。
 
「こうも簡単に魔法を破られると、プライドが傷つきますね」

「まったくだ。やはり核を破壊せねば」

「ですが、この状態だと・・・・」

 獄焔にのたうつ本体に目を戻し、どうしたものかと考える。

 その間も、俺とマークは、焔龍を操り氷塊を生み出しているのだが、良い攻略法が思い浮かばない。

「そもそも、ギガンテスに再生能力なんてあったのか?」

「いえ。そんな資料は見たことがありません」

「やはりな・・・おいっ!! もっと下がれ!! 死にたいのか!!」

「閣下。苛立つ気持ちはわかりますが、部下に当たらないで下さい!  ねっ!!」

 そう言うマークも苛立ち紛れに、氷槍を、乱発して居るだろ?

「死ぬよりマシだろ?」

「仰る通り! です!!」

 おいおい。
 このでかさの氷塊も、砕かれるのか?
 シャレにならんぞ。

「面倒だ。いっそのこと、全部吹き飛ばすか?」

「そんな事をして、核が何処に飛んだか分からなくなったら、どうするんですか?とんでもない場所で、再生するかもしれませんよ!!」

「だよな」

 やはり駄目か。

 俺の最大火力で焼き払うなら、神殿の敷地外へ、部下を全て避難させる必要がある。
 それは雷撃も同じだ。
 土で固めたら、中の確認が出来ない。
 残るは氷だが、芯まで凍らせ砕くか?
 しかし、砕いた部位すべてが再生したら、目も当てられん。

 そもそも再生能力があることがおかしいのだ。これは本当にギガンテスなのか?

 それとも神話や叙事詩の記述に誤りがあったのか・・・・。
 
 ここで手を拱いていても、消耗戦でじり貧だ。

 どうする?
 総員を退避させ、神殿の敷地ごと灰にするか?
 
 相手は魔族が兵器として使っていた魔物だ、通常の攻撃でどうなるものでもあるまい。

 こんな不浄の地で、部下を魔物の餌にするくらいなら、ここ等一帯を焼け野原にした方が断然マシだ。
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