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愛し子と樹海の王

魔素湖にて

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 どうやって飛んでいるかは謎だけど、魔法の無い日本でも、空を飛んでたのだから、竜神様は、謎な力を持つ謎生物という事で深堀はしないでおこう。

 さっきまで居た水汲み場からは、ここはちょっと大きな公園にある、池くらいの大きさだと思っていました。

 ですが、竜神様に運ばれて、切り立った岩場を周り込むと、さっきの池の何倍もの大きさの、魔素湖が広がって居ました。

「わぁ!広い。凄い~綺麗~!!」

『気に入ったかい?私がこっち側に連れて来たのは、君で4人目だ』

「4人目?」

 2万年近く生きていて、たったの4人?

『そう一人目は、向こうに住んでいた魔族の一人でね。仲良しだったのだけど、地底に移り住むことになってそれっきりだ。魔族は長命だけれど、流石に生きているかどうか分からないね』

「そう・・・後の二人は?」

『一人は変わり者のドラゴンだよ。 ”こんなところに一人でいても良い事など無い” と言って、”一緒に行こう” と何度も誘ってくれてたのだけれど、急に姿を見せなくなってね。私が意固地なのに呆れたのか、ドラゴン狩りにあったのか。どうだろうね』

「お友達だったのね?」

『友達? どうかな。彼はとても強いドラゴンで、私には恐れ多い存在だった。正直、彼が私にかまう理由が理解できなかったよ』

「そうなんだ」

 一緒に行こうって、何度も誘ってくれるなら、お友達だと思うのだけど・・・。
 結局会いに来なくなっちゃったなら、分からないままの方が良いのかしら。

『もう一人は、さっき言ったドラゴンと一緒に来たんだ。とても綺麗な人だったけど、最後まであの人が何なのか、分からないままだったな』

「ドラゴンじゃなかったの?」

『違うね。でも君に似た気を持っていたな』

 気が似てた?

「それじゃあ、その人は愛し子だったのかも」

『愛し子? それって何かな? 君もそうなのかい?』

「はい。こちらに来てまだ2年にもならないのですが、一応愛し子です」

 龍神様は、愛し子が何かを知らなかったので、その辺りも簡単に説明しました。

『ふ~ん。成る程ね・・・・そうだったの。剣を二振りも佩いているから、戦士なのかと思ってた・・さあ、着いたよ』

 竜神様が連れて来てくれたのは、岩壁を繰り抜いて作られた湖畔の洞窟住居。

 家の前には、手入れの行き届いた薬草畑があり、竜神様は、私に先に家の中へ入る様に、促してくれました。

 家の玄関部分は、扉ではなく色鮮やかな織物が掛けられていて、その布を片手で避けて家の中に入ると、木製のカントリーチックな家具と、赤々とした暖炉の炎が、落ち着いた雰囲気を作り出しています。

「れんさま。あいつなに?」

「あれ、ドラゴン?」

 ドラゴンキッズは、竜神様の事が気に入らないのか、とても不満そうです。

「そうねぇ。彼みたいなドラゴンを、私達の国では龍って呼んでいたわね」

「りゅう? はじめてきいた」

「ねぇ?二人とも。彼はずっと一人ぼっちだったの。人に会うのもとっても久し振りみたいだから、優しくしてあげてね?」

 初めて目にする存在に、二人は警戒しているようですが、私には、あの孤独な竜神様が、悪い人とは思えませんでした。

 初めてお邪魔する、人様の家で勝手に椅子に座る気にはなれず、ボーっと暖炉の火を見つめていると、後ろで布をめくる音が聞こえました。

 ヒィッ!!
 イッイッ・・・イケメン?!

 ヤダ!
 うそっ?!
 怖いけど?!

 何気なく振り向くと、濃い藍色の瞳と目が合って、瞳の持ち主は、アレクさんと同じくらいの身長で、瞳と同じ藍色の髪、クレイオス様に匹敵する、超絶イケメンです。
 
 このイケメンは、ニッコリと微笑むと、こんもりと薬草が入った篭をテーブルに置き、いそいそとお茶の用意を始めています。

 多分この人は、龍神様が変じた人型なのでしょうが、初見のイケメンは、ほんと、目にも心臓にも宜しくない。

 平凡地味っ娘で元喪女な私は、同じ空気を吸うのも申し訳なく。
 ジャンピング土下座で、許しを請いたくなってしまいます。

 はぁ~。ゴトフリー王家の人達は、やってることはめちゃくちゃだけど、優しかったな・・・・。

『お茶が入ったよ。こっちにおいで』

 手招かれテーブルに着きましたが、そのギクシャクした動きに、怪訝な顔をされてしまいました。

 知らないイケメンでも、アレクさんと一緒ならへっちゃらですが、一人だと苦手意識の方が勝ってしまいます。

『あぁ、そうか急に姿を変えたから、誰か分からなかったんだね?私はさっきのドラゴンだよ?』

「あ・・・あはは・・そうだったんですね」

 まさか本人に向かって、イケメンだから怖いとも言えず、乾いた笑いで誤魔化してしまいました。

 それにクオン達に、”優しくしてあげて” と言った手前もあります。

 大人の女はイケメンの圧なんかに、屈してはいけないのです!

「あ・・・ありがとう」

『子供達もこっちに来て一緒に飲みなさい。魔素水と私が育てた薬草のお茶だから、体にいいぞ?』

「ほんとうに? お茶にへんなものはいってない?」

「ぼくたちは、れんさまを守らなくちゃいけないの」

『そうか。二人はまだ小さいが、立派な竜騎士なのだな?えらいぞ』

 2人の頭を撫でる竜神様の手つきは、とても優しく見えました。
 撫でられて、褒められた二人も、満更ではない様子です。
 
 この人は親に捨てられ、ずっとここで生きて来たけれど、別に人や他のドラゴンが嫌いなわけではないのね。

 魔族も友達も、彼の前に現れて、ただ去って行っただけなんだ。

『外のワンコロ達には、魚をあげておいたよ。随分腹がすいていたようだ』

「ありがとうございます。朝ご飯を食べたきりで、何も食べさせていなかったので、助かります」

 頭を下げた私をじっと見つめる龍神様は、顎を摘まんで首を傾げています。

「あの? なにか?」

『ワンコロが食べてないなら、君も食べていないの?』

「えぇ、まぁ・・・そんな暇も有りませんでしたし」

『困ったな。人が食べていいものがあったか・・・』

 そう言って竜神様は、困った様子で薬草が詰まった瓶が並んだ棚を見ています。

「いえいえ。お気遣いなく。私、携帯食持ってますから」

『そう?なら御持たせで悪いけど、それで我慢してね?』

 御持たせ・・・って。
 主婦の集まりみたいなことを・・・。

 取り敢えず場も落ち着いて、龍神様とクオンとノワールが席に着いたので、改めて自己紹介から始める事にしました。

「私は、レン・シトウ・クロムウェルと言います。この子達はノワールとクオン。外のフェンリルがアン。シルバーウルフの二匹は、アンの子供で太郎と次郎です」

『私はカエルレウス。このエストの地で予言の日を待つものだ』

「カエルレウスさんですね。よろしくお願いします」

『礼儀正しい子だね。じゃあ早速で悪いけど、誘拐の話をしてくれるかい?』

 そう促され、帝国でヴァラクが起こした大厄災から、王城に攻め入ったアレクさんが、王族を捕えたけれど、国王の話を聞いている最中に、私が転移させられた事までを、みんなで分け合った、エナジーバーをコリコリと齧りながら語ったのでした。
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