獣人騎士団長の愛は、重くて甘い

こむぎダック

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愛し子と樹海の王

雄2人

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 ここまで来る途中、 ”挑戦か?” とあざけるような声が聞こえ、その後静かになったのは、遮音魔法を使ったからだろう。

 あの声はロロシュのものだ。
 であれば、相手は・・・・。

 予想通り、エーグルだった。

 2人は遮音魔法だけでなく、ご丁寧に邪魔が入らない様、結界まで張っていた。

 結界の中の二人は、互いに剣を抜き、殺意の籠った目で斬り結んでいる
 激情のまま激しくやり合っている二人は、既に頬や腕から血を流し、つばぜり合いの最中も、何かを言い合っているようだ。

「何があった?」

 近くに居たシッチンに声を掛けると、青い顔をしたシッチンは、躊躇いながらも状況を説明した。

「それが、なんかあの2人と、副団長の3人で難しい顔で話してたんですけど、急にロロシュさんが席を立ったんです。それをマークさんが引き留めようとして。・・・ロロシュさんがその手を振り払ったんスよ」

「振り払った? アイツ・・・」

「それで、周りに居た奴らも、流石に遣り過ぎだろって・・・。みんな普段から、ロロシュさんの副団長に対する態度に腹を立てたから、場の空気が一気に険悪になったんです。そしたらあのゴトフリーの大将が、ロロシュさんを殴り飛ばしたんスよ」

「エーグルが・・・そうか」

「前にロロシュさんが、レン様にこっぴどく叱られてたことが在ったじゃないですか?あの後、マークさんが冷たくされるのを見る事が無くて、みんな、ちょっとホッとしてたんスけど、今回のはちょっとあれだったんで、あの大将の好きにさせてやろうって、手を出さずにいたら、大将がロロシュさんを幕舎の外に引き摺り出して、こんな感じです」

「成る程。マークは何処だ?」

「そう言えば何処だろう。副団長は二人を止めようとしてたんスけど、ロロシュさんに突き飛ばされて、それで大将が余計怒ったんスけど・・・・あっ!いた!あそこ!」

 シッチンの指さす先に、呆然と佇むマークが居た。

 月明かりに照らされ輝く白銀の髪が、顔色を無くした白い頬を、闇の中に浮かび上がらせていた。

「シッチン。お前マークに付いて居てやれ」

「了解っス」

 駆けて行く背中を見送り、結界の中の二人に目を戻すと、少し距離を取った雄二人は、激しく何かを言い合っているようだ。

 そして、ロロシュの手首が翻り、エーグルに向け暗器が飛ばされた、3本一度に投げられた暗器をエーグルは剣で弾き飛ばしたが、続けて投げられた一本が、エーグルの左肩に突き刺さった。

 マークの小さい悲鳴が聞こえ、シッチンの宥める声も聞こえてくる。

 おいおい。本気で殺す気か?

[レン。すまない。すぐにこっちに来てくれ]

「アレク? 分かった。服を着たらすぐに行くね]

 番を掛けた戦いで、間に入って邪魔するのは、いかにも無粋だが、ロロシュの ”挑戦” という声を聞いた以上、俺には邪魔をする権利がある、ガタガタ文句は言わせない。

 俺は中天から雷撃を落とし、2人が張った2枚の結界を打ち砕いた。

「はあ? 閣下、邪魔すんなよ!!」

「申し訳ありません!! 今は放って置いて下さい!!」

「煩い!! お前らいい加減にしろ!! 王都を前に戦闘以外で、人死には御免だ!!」

 以前レンがやったと同じように、俺は魔力を解放し、二人を魔力で押さえ付けた。しかし俺は、レンのように優しくは無いから、手加減はなしだ。
 
 俺の魔力に抑え込まれ、ガクリと膝をついた2人は、直ぐに地面に這い蹲った。

「ロロシュ。お前レンに学習能力が足りないと言われていたが、本当だな?」

「う・・・・うる・・せぇ」

「エーグル。お前は食客だが、俺の部下ではない。いつでも放逐できるのだぞ?」

「クッ!!」

「いいか。ロロシュ。番に関する挑戦は第三者の立ち合いと、上位者の許可が居る。俺が許可していない以上、この場での争いは唯の私闘だ。騎士団の規則で、私闘が禁止されている事を忘れたか?」

「そんな・・もん・・・関係」

「黙れ!! 口答えは許さん!! 俺は話し合えと言ったが、挑戦も私闘も許していない! 挑戦の場は王の首を取った後に幾らでも作ってやる、それまでは、黙ってやるべき仕事に集中していろ。これは命令だ!!」

 俺の大音声に空気がビリビリと震え、その場にいた全員が首を竦めていた。

 そこへ緊張感のない、鈴を振るような番の声が聞こえて来た。

「どうしたの? 2人とも潰れたカエルみたいよ?」

 カエル?
 確かにカエルに見えなくもないが・・・。

 ”プッ!”

 ”カエルって”

 ”レン様ひで~なぁ”

 緊張していた空気が一気に和み、そこかしこから忍び笑いが聞こえてくる。

「いつまで見物しているつもりだ?!見張り以外はさっさと寝ろ!! 解散!!」

 ついさっき迄の、険悪な空気は何処へ行ったのか、部下達は忍び笑いを漏らしながら、三々五々それぞれの天幕に戻って行った。

 それとは反対に、シッチンに付き添われ、近寄って来たマークの顔を見たレンは、見る間に不機嫌になった。

「それで? 誰がうちのマークさんを泣かせたの?」

「なかせ・・・て・・・ねえよ」

「へぇ~~~。そう言うこと言うんだ。ふ~~ん。じゃあ、私帰りますので、後は勝手にやって下さい」

「え? おい、レン。二人に治癒を」

「嫌ですけど? なんで可愛いマークさんに、あんな顔させるボンクラ共を、治癒しなくちゃいけないんです? マークさんお茶入れますから、一緒に行きましょう?」

 レンはマークに寄り添い手を引いて、天幕に戻ろうとしている。

 これは拙い。
 本気で怒っているぞ。

「いやしかし。明日も移動が・・・」

「だからなんです? 2人は大人で、やるべき仕事が有るのは、理解してますよね? それを放り出して、好き勝手やったのは2人でしょ?それ以前に、守るべき番を悲しませておいて、甘えないで下さい。二人とも番失格。さ・い・て~です」

「レン様・・・私の事は良いので、二人に治癒を」

「甘い!マークさん劇甘すぎ!! いいですか? 体の傷なんて、消毒さえちゃんとすれば、放って置いてもいつかは治ります。でも、心についた傷は、う~~~んとケアしなくちゃ、何時までも治らないんです。あのバカ2人にそんな事が出来ますか? マークさんの心の傷は、あの2人の腕や足が一二本腐って落ちたところで、比べ物にはならない!!」

「・・・レン様、お願いです」

「う~~~~」

 目に涙をためたレンの手を、マークが優しく握っている。

 これは俺には絶対できない、説得の仕方だ。

「ね?」

 マークが、小首を傾げて顔を覗き込むと、レンは観念した様に、溜息を吐いた。

「アレク・・・魔力を」

「あ、あぁ。分かった」

 2人を押さえ付けていた魔力を消すと、カエルのように這い蹲って居た雄達は、起き上がり肩で息をしている。

「2人とも正座して」

 2人は正座が何なのか分からないようで、首を傾げている。
 仕方が無いので、俺が説明してやると、2人はのろのろと膝を折った。

「そのまま、両手を上に上げて」

 2人は言われるがまま、両手を天に突き出した。

 それを見たレンが、二人同時に治癒を掛けると、流れていた血は止まり、あちこちに付いて居た傷が、綺麗に治った。

 レンの治癒を始めて受けたエーグルは、レンの治癒の効果の高さに、目を見開いて驚いている。

「いいですか?私は2人の為に治癒したんじゃありません。マークさんが悲しむから治癒したんです。それを忘れないで」

 とうとうレンの瞳から、涙が一粒溢れ落ち、2人が揃ってギョッと身を引いた。

「それから・・・二人とも明日の朝、私が良いと言うまで、その格好でいるように。マークさんが優しいからって、調子に乗ってたら私が許しません!!次こんなことが在ったら、こんな罰で済むと思わないで!!」

 大の大人が二人、レンに叱られてコクコクと頷いている。

 朝まで・・・俺もやらされた事があるが、これ見た目以上にきついんだよな。

 しかしこれで三度目だ。
 俺からの罰が残っている。
 2人とも覚悟しておけよ?

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