獣人騎士団長の愛は、重くて甘い

こむぎダック

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愛し子と樹海の王

召喚と逆鱗

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 2日前、王都に向け進軍中の俺達は、とある街の手前に来ていた。
 この街は流通の拠点、と呼べる程ではないが、そこそこ発展した街だった。

 王都へ続く街道は、街の中心部を縦断しているが、街に入るには、魔物除けの防壁と大きな門を突破しなければならない。

 これまで俺達は、街道沿いの町や村に立ち寄る事はなく、故に住人達の財を接収する事も無かった。

 それは無駄な争いを避け、一般人を怯えさせないためだ。

 この街も時間は掛かるが、街の外を迂回し、今まで通り一般人との接触を避けるつもりだった。

 だが街の手前、3ヤール程で問題が起こった。

 街道脇の林の中から、突如ワイバーンの群れが飛来したのだ。

「ワイバーン!! ワイバーンだ!!」

「20匹は居るぞ!!」

 渡りの時期には早すぎる。

「エーグル!! この辺りはワイバーンの生息地か?」

「違います!!ウジュカの国境付近に、渡りの途中で留まった群れが居るだけです!!」

 ならば転移陣で召喚されたな。

「ショーンに伝達!! 林を捜索!! 召喚者を探せ!!」

「第三騎士団、モーガン団長が林に入ります!!」

 第三騎士団は、もっと後方に居る。
 だが、モーガンは鷲だ。
 猛禽類特有の飛び抜けた視力で、異常を察知したのだろう。
 そして、即座に対応してくるとは、流石モーガン。
 その実力は侮れない。

「迎撃しろ!! 羽を狙え!! 街に入れるな!!」

 対空戦の武器を持たない以上、魔法で羽を打ち抜き、落ちて来たワイバーンにとどめを刺すのが定石だ。

 だが、命じたは良いが、飛び回るワイバーンの羽を狙って撃ち落とすのは、至難の業だ。

 結果、ワイバーンを撃ち落とせたのは、セルゲイ3、マーク2、シッチン1。

 驚いたのは、エーグル1、レン2、アンも1という戦果だ。

 俺は固まって飛んでいた6匹を、空中で纏めて灰にしてやったから、部下たちの手間も、少しは省けただろう。

 残るは3匹。
 ここで誤算が生じた。

 街の防壁の歩廊に備え付けられたバリスタから、ワイバーン目掛け槍が撃ち込まれたのだ。
 
 ワイバーンの襲来をこれ幸いと、俺達を狙ったものなのか、単にワイバーンの群れを見てパニックになったのか。

 どうせ攻撃するなら、一匹でも仕留めてくれれば良いものを、絞りの甘いバリスタの槍は、ワイバーンの爪先すら傷つけられず、力なく地面に突き立った。

 そしてこの攻撃が、ワイバーンの気を引いてしまった。

「閣下!!ワイバーンが街へ向かいます!!」

「クソッ! わざわざ魔物の気を引いてどうする?!」

 俺の放った劫火が、2匹を灰に変えたが、一匹を取り逃してしまった。

 レンやマーク、他の団員達も魔法を放ち、残った一匹を仕留めようとしたが、上昇気流に乗ったワイバーンは、射程距離の遥か上空だ。

「どうしますか?」

「・・・面倒だが、放って置くことも出来まい。奴が降りて来た所を、狙い撃ちにするしか・・」

「モーガン団長です!! 第3騎士団、魔物と交戦中!! 土竜4!! かっ?! かっ火竜3!!」

 林から響く地響きに目を向けると、土竜に追われるように、街道に出て来た第3騎士団と、土竜目掛け突進していく、セルゲイ率いる第4騎士団が見えた。

「チッ!! セルゲイめ!! これでは乱戦ではないか!?」

「閣下!!」

「今度はなんだ!!」

 これ以上の面倒ごとは御免だぞ!?

「神官です!!街に入ろうとしています!!」

「捕らえろ!!」

「レン!! 来い!!」

「はい!!」

 アンに跨ったレンが、俺を乗せたブルーベルの横にピタリと着いた。

「危ないから、こっちに来るんだ」

 アンの背から、抱き上げたレンを俺の前に座らせて、ホッと 息を吐く。
 その時上空から、襤褸切れの様になったワイバーンが落ちて来た。

「あれは・・・」

「クオン達じゃないかな」

 ああ。成る程。

 ついでに火竜も、仕留めてくれると助かるが、そう都合よく行かんだろう、と思い、腕に魔力を溜めた。
 飛び回る火竜に狙いを定めていると、魔力を込めた左手に、レンの白い手が重ねられた。

「待って、よく見て」

 レンに促され、火竜の動きをよく見てみると、3匹の火竜は、見えない何かから、逃げ惑っているようだ。

「火竜は、クオンとノワールに任せて大丈夫そうだな」

「ん~~。でも、あれは駄目じゃない?」

 見えない敵から逃れるため、めちゃくちゃに吐き出された火球が、街の防壁に穴を開け、歩廊にいた兵士が逃げるのが見えた。

「閣下!!」

 またか。

「神官が!! 土竜が!!」

 その声に、視線を火竜から、街の門の方へ向けると、2匹の土竜が召喚陣から出て来るところだった。

「馬鹿か?! また召喚しやがった!!」

 部下達に捕らえられそうになり、焦った神官達は後先も考えず、魔物を転移させたのだ。

 召喚された土竜の内一匹は部下の方へ、もう一匹は街の門へとブレスを放った。

 部下達が総出で張った、防護結界5枚は、残り2枚の所で、ブレスを防ぎ切った。

 召喚した神官は、ブレスの爆風で飛ばされたお陰で命拾いし、よろよろと立ち上がると、土竜があけた穴から、街の中に逃げて行った。

 そしてその後を追い、土竜が街に入って行こうとしている。

 俺の放った氷槍は、土竜を防壁に串刺しにしたが、部下が放った水魔法が、残った土竜を街の中に押し流してしまった。

「何をやっている!!」

 乾燥した岩場を好む土竜は、水に弱い。

 部下の魔法の選択は、間違いでは無かったが、今は押し流すのではなく、絡め取らねばならない場面だ。

「手が空いた者は俺に続け!!」

 ワイバーンにトドメを刺していた何人かが、俺の元に集まって来た。

「アンおいで!」

 全員が揃うのを待つことなく、土竜を追い、街に近づくと、防壁の中から悲鳴が聞こえてくる。

 土竜が開けた穴から街へ入ると、土竜から逃げる人々の背中と、オロバスに喰らいつき、振り回している土竜が見えた。

 地面に打ち付けられたオロバスは、片方の角が折れている。

「お前達は、神官を捕えろ!!」

 先ほど神官の捕縛に失敗した部下と、新たに5名が、街道の先を神殿に向かって走る神官を追っていった。

「召喚させるな!!」

「「「はっ!!」」」

「アレク。こんな続けて転移させられるなんて、おかしいです。神官は人族でしょう?」

 レンの疑問にハッとした。
 砦で魔物を召喚した神官達は、魔法陣の維持と魔力の供給に獣人を使っていた。

 だがあの神官達は、短時間で魔法陣を展開し、続け様に竜を召喚している。

「魔力の元があるのか・・・魔晶石か?」

「多分。魔晶石に魔力が残ってたら、また転移させるかも」

「拙いな」

 気持ちは焦るが、今は目の前の、土竜を仕留めるのが先だ。

 よほど腹が減っていたのか、土竜は俺達を無視し、仕留めたオロバスをガツガツと貪り食っている。

 そんな土竜に俺は、特大の氷槍を放ち、地面に縫い付けてやった。

 死んだオロバスには悪いが、最後に美味いものを食えて、土竜も本望だろう。

 魔物を召喚するだけして、逃げた神官は既の所で、神殿に逃げ込んでしまった。

 後を追った部下達は、神殿に攻め入ったが、それなりに大きな街にある神殿だと言うのに、神官達は形振り構わず、召喚を繰り返した。

 神殿内には、レンの予想通り大きな魔晶石があったが、魔晶石の魔力が尽きると、今度は土竜と俺達を恐れ、逃げ込んだ信者達を盾に、逃げようとする始末だ。

 神殿から溢れた魔物は、当然の様に街を破壊し、住人を襲った。

 にも関わらず、人族の警備隊は、オロオロと右往左往するだけで、なんの役にも立たん。

 街の住人で、魔物に立ち向かったのは、ボロを着た獣人ばかり。

 獣人達は、訓練された動きではないが、徴兵の経験があるからか、度胸と腕っぷしだけは強かった。

 彼らが身を守れるように、邪魔な警備隊から奪った剣を渡してやると、それなりの働きも見せた。

 討伐後捕らえた神官達は、街に被害を出した事に悪びれもせず、 “神のご意志” だと御託を並べるだけだった。

 砦を出てから、姿を消し空を飛んで付いて来ていたクレイオスは、街の規模の割に、華美な装飾の多い神殿の中に入ると、無表情ながら、明らかに機嫌が悪くなった。

 そして天井と壁に描かれた、ゴトフリーの王がアウラ神の御子であると言う、物語を題材にした壁画を目にしたクレイオスの機嫌は、さらに悪化。

 神官を残し、俺達に神殿から出るように言ったクレイオスは、人型からドラゴンへと姿を戻した。

 そして、中にいる神官もろとも、神殿を踏み潰し、雨のように雷撃を落として、呆気に取られる俺たちの前で、神殿を瓦礫の山に変えてしまったのだ。
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