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愛し子と樹海の王
ゴトフリーという国2
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「あんときゃ、獣人の保護が優先だっただろ?閣下が本気で魔法をバカスカ打ってたら、全員巻き添えだ。 そうじゃなきゃ。1個師団くらい、閣下の一撃であの世行きだ」
「はあ・・・」
ロロシュの嫌味な物言いに場がしらけ、マークは柳眉を顰め、ロロシュに批難の目を向けて居る。
居心地の悪い微妙な空気を、物ともせずに笑い出したのは、セルゲイだった。
「ははは!信じられねえよな!! でも、このクロムウェル大公閣下は、火竜を討伐するときに、外した魔法で山を吹き飛ばしたんだぜ?あの時、結界から出ようとしたら、そこのアーチャー卿に死にたいのか!って怒鳴られるしさ、あれは、面白かったな」
「山? 山って? 山?」
想像ができなのか、エーグルは手で山の形を作って見せ。
それを見たセルゲイが「上の方の1/3くらいだけどな」とニヤニヤ笑っている。
こう言う時、空気を読まないセルゲイの存在は、かなり有難い。
「他にも逸話は腐るほどあるが、俺が直接見たのはあれだけだ。そういやあ。あの閣下が吹き飛ばした山、レン様が買い取ったんだよな? な?」
「あぁ。俺が山を荒らした詫びだと言っていたな」
「そういう事だ。帝国の騎士団は桁が違う。あんたの話を聞いてて思ったんだが、ゴトフリーは何でも人族を基準にして判断してるみたいだ。だから軍もこんなに弱っちいんだな。やっと理解したよ」
「・・・左様ですか・・・」
「あんたは、筋は悪くねえ。騎士団の連中と一緒に鍛錬してれば、もっと強くなるぞ」
どこか呆けた様子のエーグルは、強くなった自分を、想像できないのかも知れない。
彼が帝国の常識に慣れるには、まだまだ時間が掛かる。
ロロシュの気持ちも分からなくはないが、番はロロシュ一人と、思い込んでいたマークが、エーグルを番だと認識した時、もう少し大人の対応を取っておかないと、マークに恨まれそうだぞ。
「・・・神殿の話しだが、表向きアウラ神を信仰しているのに、ご神体とは、いったい何なのだ?」
「ご神体は、初代ゴトフリー王の柩です。ゴトフリーの王はアウラ神の御子ということになって居ますから」
「ほんと、胡散臭い国だよな。影ではヴァラク教と繋がってるくせに、何が御子だよ」
頭の後ろで腕を組み、椅子をゆらゆらさせる姿を、お前のマナー講師が見たら、同じことを言うかも知れんぞ?
「そのヴァラク教と言うのが、今一つピンとこないのですが」
ん? ヴァラク教はこの国では、大ぴらに活動していないのか?
「あ?知らないのか? 前にも話しただろ?帝国でヴァラク教ってのは、獣人差別を推奨して、辻説法したり、聖地巡礼とか言って、国中を歩き回ったりしてたんだけどな」
「そのような集団の話しは、聞いたことが有りません。ただ、我々獣人に伝えられている。アウラ神の教義と、神殿の教義はかなり違うものです」
「そんなに違うのか?」
「はい。我々に伝えられてきた教義は、王家にとっては、都合が悪い教えです。何故なら、主神で在るアウラ神と、ドラゴンのクレイオス様を、同等に崇めて居るからです」
「確かに、獣人を弾圧してる国にとって、都合が悪い話しだな」
とモーガンの考え込んでいる。
「それに神殿に背く態度を見せると、刑罰が与えられますので、神殿に対して声を上げる者は、居りませんでした。 この教義の違いが、皆さんの仰るヴァラク教を主としたものなら、既に国教として、浸透してしまっていると思われます」
「それは十分あり得るな。帝国でも神殿との癒着は根深いものだった。帝国の皇都は創世神話の舞台でもある。そう簡単に教義を変えられず、あのような形になって行ったのかも知れんな」
「成る程ね」
「そう言えば、レンから聞いたのだが」
「またレン様かよ」
「黙れセルゲイ。煩いぞ。愛し子がクレイオス本人から、直接聞いた有難い話だ。黙って聞け」
「ウィーっす」
「・・・・セルゲイ。マナー講師として有名な、マーロウ伯と言う方が居るのだが、今の講師と交代させた方が良さそうだな」
“マーロウって誰だ” と聞くセルゲイに、マークが ”大変厳しい講師の方です。ウィリアム陛下が勘弁してくれと、泣いて懇願されたほどの方ですよ” ヒソヒソとマークが教えると、セルゲイは慌てて居住まいを正した。
「・・・・それでレンの話しでは。大厄災の後、クレイオスは何度かこの国の様子を、見に来ていたそうでな。その際、神の子を僭称する王に腹を立て、神殿をいくつか破壊したそうなのだ」
「あれは、クレイオス様の御業でしたか!!」
驚きの声を上げたエーゲルは、破壊された神殿は奴隷市が開かれる、獣人にとって忌むべき場所だった。 故に、”獣人の窮状を知ったクレイオス様が、救いに来て下さるのだ” と獣人の間では、噂になって居たのだと話した。
「私は、伝説の中でしか知らなかった、クレイオス様や愛し子様に、お目に掛かれる日が来るとは、夢にも思っていませんでした。それだけでも有難い事なのに、こうやって我々に救いの手が伸ばされるとは・・・帝国の方々には、感謝しても仕切れません」
感動で声を震わせるエーグルに、一同が照れくさそうな顔になった。
もちろんロロシュもだ、エーグルはここまで見る限り、過酷な生い立ちの割に、素直で心優しい雄に見える。
ロロシュもそれに気が付いた故に、自分の大人気なさが、気恥ずかしくも在るのだろう。
「話を戻すぞ。今まで神官が魔物を召喚した事はなかったのだな?」
「私は魔物退治が主な仕事でしたが、治癒師として神官が付いて来てくれる事は無く。そもそも獣人は神殿への立ち入りが禁じられて居りますので、神官との接点は皆無なのです。」
ただ・・・と続けるエーグルの瞳は暗い。
「王家や神殿に都合の悪い相手が、魔物に襲われ、命を落としたり、失脚する事が幾度かありました。神殿はそれを神の御心に背いた罰だと」
「そうか」
「ですので、魔法師団が、御神体の護衛を許された事に違和感を覚えます。護衛とは別の何かがある、と私は考えます」
「分かった、エーグルの言は尤もだ。では、この国にテイマーはどのくらい居る?」
「テイマーですか? オロバスや、他の益獣の飼育にあたって居る者は多いですが、愛し子様の様に、大型の魔物をティムしたと言う話は、聞いたことがありません」
なるほどな。
召喚するだけして、後は放置。
ヴァラクとやり方は同じか。
今後の方針は決まった。
予定通り、王都に直進。
王国の兵士は、問題外。
途中問題になりそうなのは、野生の魔物と、神官が召喚してくる魔物。
相手が魔物なら、全てが基本通り。
「邪魔する奴は、叩きのめせ。それ以外は放置でかまわん」
「了解!」
元気な返事はセルゲイのもの。
それ以外は、重々しく頷いていた。
ただ一人、ロロシュだけがニヤついている。
「なんだ、ロロシュ。言いたいことでも在るのか?」
「レン様がよ? 面白いことをやってくれたのを思い出してな」
「レンが?」
俺の知らない処で、何をした?
「ほら。マークも覚えてるだろ?騎士団の基本的な戦い方を聞かれた時」
「あれですか? 騎士団の基本戦略の話の?」
「それそれ。レン様は “眼前的の完全排除” って聞いて、あっちの世界の物語で、似たようなセリフがあるって言ってよ。それを真似してくれたんだよ。なかなか真に迫ってて面白かった」
「そうなのか?」
マークに目を向けると、マークとロロシュは一瞬互いの目を見つめ合い、すぐに逸らした。
「私は、こう言うのは苦手なのですが」 と前置きをして、仕方がなさそうに立ち上がったマークは、右手を前に突き出した。
「確か・・ “邪魔するものは、叩いて潰せ!” だったと思います」
「あはは! なんだそれ! クロムウェルっぽいぞ!!」
レンの真似をしたマークは、頬青赤らめて椅子に座り直した。
「 “さーちあんどですとろい!” とかも言ってなかったか?」
「確かに言って居られましたね」
「意味は分かりませんが、なんとなく強そうですな」
俺の知らないところで、そんな楽しいことをやって居たのか・・・・。
クソッ! 俺も見たかった。
「拗ねるなよ? 普段お前は、レンを独り占めにしてる訳だ。たまには良いだろう?」
「拗ねてませんよ」
ニヤついて言う伯父の顔を殴り飛ばしたい衝動を、俺は押さえ込んだ。
今の俺は完全に拗ねて居る。
俺の知らない所で、そんな楽しそうなことをやっていたとは。
今夜、レンがモノマネを見せてくれるまで、絶対寝かせないからな。
「はあ・・・」
ロロシュの嫌味な物言いに場がしらけ、マークは柳眉を顰め、ロロシュに批難の目を向けて居る。
居心地の悪い微妙な空気を、物ともせずに笑い出したのは、セルゲイだった。
「ははは!信じられねえよな!! でも、このクロムウェル大公閣下は、火竜を討伐するときに、外した魔法で山を吹き飛ばしたんだぜ?あの時、結界から出ようとしたら、そこのアーチャー卿に死にたいのか!って怒鳴られるしさ、あれは、面白かったな」
「山? 山って? 山?」
想像ができなのか、エーグルは手で山の形を作って見せ。
それを見たセルゲイが「上の方の1/3くらいだけどな」とニヤニヤ笑っている。
こう言う時、空気を読まないセルゲイの存在は、かなり有難い。
「他にも逸話は腐るほどあるが、俺が直接見たのはあれだけだ。そういやあ。あの閣下が吹き飛ばした山、レン様が買い取ったんだよな? な?」
「あぁ。俺が山を荒らした詫びだと言っていたな」
「そういう事だ。帝国の騎士団は桁が違う。あんたの話を聞いてて思ったんだが、ゴトフリーは何でも人族を基準にして判断してるみたいだ。だから軍もこんなに弱っちいんだな。やっと理解したよ」
「・・・左様ですか・・・」
「あんたは、筋は悪くねえ。騎士団の連中と一緒に鍛錬してれば、もっと強くなるぞ」
どこか呆けた様子のエーグルは、強くなった自分を、想像できないのかも知れない。
彼が帝国の常識に慣れるには、まだまだ時間が掛かる。
ロロシュの気持ちも分からなくはないが、番はロロシュ一人と、思い込んでいたマークが、エーグルを番だと認識した時、もう少し大人の対応を取っておかないと、マークに恨まれそうだぞ。
「・・・神殿の話しだが、表向きアウラ神を信仰しているのに、ご神体とは、いったい何なのだ?」
「ご神体は、初代ゴトフリー王の柩です。ゴトフリーの王はアウラ神の御子ということになって居ますから」
「ほんと、胡散臭い国だよな。影ではヴァラク教と繋がってるくせに、何が御子だよ」
頭の後ろで腕を組み、椅子をゆらゆらさせる姿を、お前のマナー講師が見たら、同じことを言うかも知れんぞ?
「そのヴァラク教と言うのが、今一つピンとこないのですが」
ん? ヴァラク教はこの国では、大ぴらに活動していないのか?
「あ?知らないのか? 前にも話しただろ?帝国でヴァラク教ってのは、獣人差別を推奨して、辻説法したり、聖地巡礼とか言って、国中を歩き回ったりしてたんだけどな」
「そのような集団の話しは、聞いたことが有りません。ただ、我々獣人に伝えられている。アウラ神の教義と、神殿の教義はかなり違うものです」
「そんなに違うのか?」
「はい。我々に伝えられてきた教義は、王家にとっては、都合が悪い教えです。何故なら、主神で在るアウラ神と、ドラゴンのクレイオス様を、同等に崇めて居るからです」
「確かに、獣人を弾圧してる国にとって、都合が悪い話しだな」
とモーガンの考え込んでいる。
「それに神殿に背く態度を見せると、刑罰が与えられますので、神殿に対して声を上げる者は、居りませんでした。 この教義の違いが、皆さんの仰るヴァラク教を主としたものなら、既に国教として、浸透してしまっていると思われます」
「それは十分あり得るな。帝国でも神殿との癒着は根深いものだった。帝国の皇都は創世神話の舞台でもある。そう簡単に教義を変えられず、あのような形になって行ったのかも知れんな」
「成る程ね」
「そう言えば、レンから聞いたのだが」
「またレン様かよ」
「黙れセルゲイ。煩いぞ。愛し子がクレイオス本人から、直接聞いた有難い話だ。黙って聞け」
「ウィーっす」
「・・・・セルゲイ。マナー講師として有名な、マーロウ伯と言う方が居るのだが、今の講師と交代させた方が良さそうだな」
“マーロウって誰だ” と聞くセルゲイに、マークが ”大変厳しい講師の方です。ウィリアム陛下が勘弁してくれと、泣いて懇願されたほどの方ですよ” ヒソヒソとマークが教えると、セルゲイは慌てて居住まいを正した。
「・・・・それでレンの話しでは。大厄災の後、クレイオスは何度かこの国の様子を、見に来ていたそうでな。その際、神の子を僭称する王に腹を立て、神殿をいくつか破壊したそうなのだ」
「あれは、クレイオス様の御業でしたか!!」
驚きの声を上げたエーゲルは、破壊された神殿は奴隷市が開かれる、獣人にとって忌むべき場所だった。 故に、”獣人の窮状を知ったクレイオス様が、救いに来て下さるのだ” と獣人の間では、噂になって居たのだと話した。
「私は、伝説の中でしか知らなかった、クレイオス様や愛し子様に、お目に掛かれる日が来るとは、夢にも思っていませんでした。それだけでも有難い事なのに、こうやって我々に救いの手が伸ばされるとは・・・帝国の方々には、感謝しても仕切れません」
感動で声を震わせるエーグルに、一同が照れくさそうな顔になった。
もちろんロロシュもだ、エーグルはここまで見る限り、過酷な生い立ちの割に、素直で心優しい雄に見える。
ロロシュもそれに気が付いた故に、自分の大人気なさが、気恥ずかしくも在るのだろう。
「話を戻すぞ。今まで神官が魔物を召喚した事はなかったのだな?」
「私は魔物退治が主な仕事でしたが、治癒師として神官が付いて来てくれる事は無く。そもそも獣人は神殿への立ち入りが禁じられて居りますので、神官との接点は皆無なのです。」
ただ・・・と続けるエーグルの瞳は暗い。
「王家や神殿に都合の悪い相手が、魔物に襲われ、命を落としたり、失脚する事が幾度かありました。神殿はそれを神の御心に背いた罰だと」
「そうか」
「ですので、魔法師団が、御神体の護衛を許された事に違和感を覚えます。護衛とは別の何かがある、と私は考えます」
「分かった、エーグルの言は尤もだ。では、この国にテイマーはどのくらい居る?」
「テイマーですか? オロバスや、他の益獣の飼育にあたって居る者は多いですが、愛し子様の様に、大型の魔物をティムしたと言う話は、聞いたことがありません」
なるほどな。
召喚するだけして、後は放置。
ヴァラクとやり方は同じか。
今後の方針は決まった。
予定通り、王都に直進。
王国の兵士は、問題外。
途中問題になりそうなのは、野生の魔物と、神官が召喚してくる魔物。
相手が魔物なら、全てが基本通り。
「邪魔する奴は、叩きのめせ。それ以外は放置でかまわん」
「了解!」
元気な返事はセルゲイのもの。
それ以外は、重々しく頷いていた。
ただ一人、ロロシュだけがニヤついている。
「なんだ、ロロシュ。言いたいことでも在るのか?」
「レン様がよ? 面白いことをやってくれたのを思い出してな」
「レンが?」
俺の知らない処で、何をした?
「ほら。マークも覚えてるだろ?騎士団の基本的な戦い方を聞かれた時」
「あれですか? 騎士団の基本戦略の話の?」
「それそれ。レン様は “眼前的の完全排除” って聞いて、あっちの世界の物語で、似たようなセリフがあるって言ってよ。それを真似してくれたんだよ。なかなか真に迫ってて面白かった」
「そうなのか?」
マークに目を向けると、マークとロロシュは一瞬互いの目を見つめ合い、すぐに逸らした。
「私は、こう言うのは苦手なのですが」 と前置きをして、仕方がなさそうに立ち上がったマークは、右手を前に突き出した。
「確か・・ “邪魔するものは、叩いて潰せ!” だったと思います」
「あはは! なんだそれ! クロムウェルっぽいぞ!!」
レンの真似をしたマークは、頬青赤らめて椅子に座り直した。
「 “さーちあんどですとろい!” とかも言ってなかったか?」
「確かに言って居られましたね」
「意味は分かりませんが、なんとなく強そうですな」
俺の知らないところで、そんな楽しいことをやって居たのか・・・・。
クソッ! 俺も見たかった。
「拗ねるなよ? 普段お前は、レンを独り占めにしてる訳だ。たまには良いだろう?」
「拗ねてませんよ」
ニヤついて言う伯父の顔を殴り飛ばしたい衝動を、俺は押さえ込んだ。
今の俺は完全に拗ねて居る。
俺の知らない所で、そんな楽しそうなことをやっていたとは。
今夜、レンがモノマネを見せてくれるまで、絶対寝かせないからな。
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