獣人騎士団長の愛は、重くて甘い

こむぎダック

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愛し子と樹海の王

面談と世間話

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 side・レン


「は~い! ちゅ~も~く!! 」

 大きな声で呼びかけると、ゲオルグさんに保護された獣人族の皆さんが、一斉にこちらに視線を向けてくれました。

「私はレン・シトウ・クロムウェルと言います。 これから皆さんの首輪を外します! 魔法陣が派手に光りますが、危ない事は何もないので、慌てず騒がず、首輪が外れるまでじっとしていてください」

 ”首輪を外す?”

 ”そんな簡単に?”

 "レン・シトウって、帝国の愛し子様?”

 ”あんな、小っちゃいのに?”

 "愛し子様は、子供だったんだな”

 クッソ~~。
 小っちゃくて悪かったわね。

 みんなが大きすぎなの!
 何よ!騎士団の平均身長185チルって。
 巨人族の間違いなんじゃないの?
 私は向こうでは、平均身長だったんだってば!

 拳を握り、グヌヌ と唸る私の頭を、クレイオス様が大きな手でポンポンと叩いてくれました。

 慰めてくれるのかと、ちょっと感動しながら仰ぎ見たクレイオス様は、相変わらずの無表情でしたが、瞳は悪戯っぽく光っていて、完全に面白がっているのが分かります。

『拗ねるな、拗ねるな。皆、其方が小さくてかわいいから、驚いているだけだ』

「はあぁ~~~。もういいです。始めますよ?」

 首輪を解除して、自由になった獣人さん達は、それはそれは喜んでくれたけれど、なんとなく、モヤッとした気分は晴れませんでした。

 帝国に居た時は、小さいと言われたのは最初の内だけで、こんなあからさまに小っちゃい小っちゃい、言われたことは有りませんでした。

 見慣れたっていうのも、あったのかも知れませんが、周りの人たちは、結構気を使ってくれていたのかも知れません。

「ねえ、ロロシュ。こっちの人って、私の事何歳くらいに見えてるのかしら?」

「え? あ~~~。8歳から10歳くらいか?」

「8歳・・・そんなに童顔かなあ・・・・」

 そう言えばモーガンさんが、息子のカール君と同じくらいだと思ったって言ってたっけ・・・・。
 そのカール君にも、身長抜かされちゃったしな。

 二十歳も超えたら、もう身長なんて伸びないし、こんな事だと分かっていたら、アウラ様に体を創ってもらう時、身長高めにしてもらったのに。

「え~っと。なんだ。人にはそれぞれ持ち味ってもんがあるから、気にすんな。閣下は小児趣味とか言われても、気にしねぇよ」

「・・・・一言余計です」

 言い方はあれだけど、この人は悪い人ではないのよね。

 変な拗らせ方をしてるけど、彼なりに気遣ってくれることも多いし。

 それなのに、なんでマークさんにだけ、優しく出来ないのかしら?

 甘えるにしても、もっと健全な甘え方をしてほしいのだけど。

「じゃあ。気を取り直して面談を始めます。今週は色々あったけど、気になる事とかは有りましたか?」

「特にはねぇ・・・なかったです」

「そう?」

 私はカウンセラーの資格を持っている訳では無いけど、問題を抱えている人を相手にするときは、相手が自分から話し始めるまで、待たなきゃいけない、って知識だけはあります。

 それに誰だって、心の内を無理やり暴かれるのは嫌よね?

 この前は、マークさんの涙を見て、頭に来すぎて、きつく当たっちゃったけど、もしかしたらロロシュも悩んでいたのかもしれないし・・・・。

 反省、反省!
 かっこいい大人のお姉さんは、感情的になってはいけないのです。

 私もアレクに似合うような、大人の女を目指さなければ!

 その為には、先ずは、世間話からよね?

「じゃあ、お茶でも飲んでゆっくりしていってね」

「ゆっくりって言われもてなぁ」

「まあ。良いじゃない。これ新作のお菓子なんだけど、味見してみて?」

「新作ねぇ・・・・・おっ?美味いな!これ。この緑のは豆か?」

「でしょ? でしょ? ここの厨房で枝豆っぽい豆を見つけたの。向こうでは、ずんだって言って、お餅に絡めて食べるんだけど、こっちにはもち米がないから、どら焼きの餡にしてみたの」

「ゴトフリーは、平地が少ない国だろ?広い畑が必要な麦は、帝国みてぇには育てられねぇんだよ。だからこの国の主食は豆なんだ。その代わり豆の種類は多いらしいぞ」

「へぇ~そうなんだ。主食は豆かあ・・・ひよこ豆とかそら豆もあるかな?」

「ちび・・・・レン様はよ。美味いもんいっぱい知ってんのな」

「そうねぇ。私の国は世界中の食が集まる国だったし、大昔から食への拘りが強い国民でね? こっちの食事は、味は濃ゆいし、お肉もパンも硬くて顎は痛いし、歯は折れそうだし、なかなか食が進まなくて、アレクに心配かけちゃったのよ?」

 当時の事を思い出して、思わず顎を摩ってしまいました。

「ほ~ん。そりゃ閣下が大騒ぎしそうだな・・・あ~。だから自分で料理すんのか」

「そういう事。食文化って余裕がないと発展しないものだと思うの。内宮での食事がああなら、帝国の魔物の被害は深刻なんだな、って分かったのよ?」

「・・・普通、飯でそんなこと考えないと思うけどな」

「そうなの? でも、これは癖みたいなもので、祖父にも可愛気が無いから、やめるように言われたけど、直らなかったのよね」

「可愛気ねぇ・・・」

 口を付けた桃に似た果実のジュースは、香りは最高だけど、温すぎて味が良く分からない。

 魔法で作った氷をグラスに落とし、何度かかき混ぜたら、良い具合に冷えたジュースは美味しかった。

 この果物は、ジュースよりジャムやコンポートにしたり、ケーキに混ぜた方が美味しくなると思う。

 温いジュースなんて以ての外だ。

 それでも、たった3個の氷で美味しいと感じることが出来る。

 まるで、ロロシュとマークさんみたいだ。

 何かが足りなくて、どこかが間違っている。

 2人に足りないのは、主にロロシュがだけれど、愛情と思い遣り。

 じゃあ、どこが間違っているのかしら?
 2人の関係は、何処からが間違いなの?

 まさか最初から・・・なんてことは無いわよね?

「愛し子様は、何を難しい顔で考えてんですかね」

「え? えっと・・・向こうに居た時の事をちょっと思い出して」

 あなた達の関係が、おかしくなった理由を考えてた、なんて言えないです。

「ふ~ん・・・ちび・・・レン様は、こっちに来て、なんも分かんねえ内に閣下と婚約したんだろ?全然知らない世界にポッと放り出されて、閣下みたいな、おっかない雄の番だとか言われて、怖くなかったのか?」

 そう言われても、私にはピンときません。
 だって・・・

「そうですねぇ・・・怖くはなかったかな? 神殿で目が覚めて、初めてアレクを見た時、天使が居ると思ったの、アウラ様には世界を渡るんだって、教えて貰ってたけど、天使が居るなら、やっぱり死んじゃったんだと思ったのよ?」

「あ~。なんかそれ閣下から聞いたわ。その場にいた全員で、愛し子様は目が悪いのかって聞いた覚えがある」

 なんで遠い目で語ってるのかしら?

「なんか色々失礼ですよね?」

「そうか? んじゃあ、閣下が天使に見えるなら、愛し子様の目にオレとか他の奴はどう見える?」

「他の人?みんなキラッキラのイケメンさん・・・お美しい方ばかりで、眩しくて目が潰れそうですね。ロロシュは・・・草臥れた感じはするけど、意地悪なイケオジ? ん~。チョイワルオヤジって感じ?」

「なんだそりゃ」

「ちょっと悪そうな、いけてるおじさん。」
 
 私の感想に、目を見開いたロロシュは、おじさんと言われて、がっくりと項垂れてしまいました。

「おじさん・・・言っとくがオレは、そこまで歳食っちゃいねえぞ?」

「そうなの?・・・40近いかと思ってました

「はあ~~~。そうかよ。まあ、そうだろうな。ちびっこ・・・レン様も25には見えねもんな」

「25? 私26になりましたけど」

「えっ?! いつ?!」

「暦が向こうとは違うので、正確にではないけど、半年くらい前かな?」

「半年も前・・・・閣下なにやってんだ?」

「お茶! お茶零れてますよ!?」

 何故だか愕然としていたロロシュは、お茶を零したことに気付いて、慌てています。

「もう。何やってるんですか。シミになっちゃうから、早くズボン拭いて下さい」

 手渡したナプキンで、ズボンを擦りながら、ロロシュはチラチラと、私の様子を伺ってきます。

 一体なんなのでしょう?
 愛し子は、歳を取っちゃいけないのかしら?
 
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