346 / 601
愛し子と樹海の王
脳筋と座学
しおりを挟む「これで分かったか? 前戦に立たされようと、獣人は開放すべき同朋だと云う事を忘れるな。隷属の首輪を外した後、戦いを挑んでくるなら仕方がないが、そうでなければ、獣人は保護すべき対象なのだぞ」
「しかし・・・肉壁なんてどうすりゃいいんだよ」
「おい。相手は魔物か? 違うだろ? 武器も持たない一般人が襲ってきたところで、俺達は痛くも痒くもないよな? 脅威でない相手など放って置け。打つべきは敵将のみ。将さえ打てば、敵は勝手に瓦解する」
「他の奴らを逃していいのか?」
「3人の将さえ打てば後はどうでも良い。俺達はギデオンの様な侵略戦争をしに来た訳ではない。点と点をつなげて、面にする様な戦い方をする必要はない」
「えっ? そうなのか?」
「お前・・・騎士団の戦術と戦略の座学、寝ていたな?」
「いやぁ。そんな事は無いけどなぁ」
わざとらしい。
目が泳いでるぞ?
「まさかとは思うが、念の為聞いておく。セルゲイお前、今回の作戦が、政治的には戦争ではないことを理解しているよな?」
「「えっ?」」
なんで、2人とも驚いて居るのだ。
「エーグルは兎も角、セルゲイ。お前書類に目は通さないのか?」
「えーと。ほら!うちはピッドが優秀だから、俺はサインするだけでいいって言うか・・・・」
冷たい目で睨んでやると、セルゲイはキョドキョドと目を泳がせ、観念したように頭を下げた。
「あ~~・・・すまん」
「はあ~~~~~~。もういい。説教は後だ」
ここで俺は、ゴトフリーが、アーノルドの王配選びに横槍を入れて来たことから、エスカルが、酔った挙句、俺の留守を見計らい、柘榴宮に押し入り、レンに危害を加える寸前だった事、それにより拘束されたエスカルの部屋から、アーノルドと情を交わし子をもうけるよう指示した手紙が、ラシルの実が入れられていた、と思われる箱の中に入っていた事。
またエスカルが雇っていた護衛が、レンの誘拐を試み捕縛された事を語って聞かせた。
「誘拐ってまだ諦めてなかったのか? 前も失敗して、その賠償に、穀倉地帯を陛下に献上してたよな?」
「悪辣な大公が、自分の婚約祝いに、穀倉地帯を奪った、と騒いでいたあれですか」
「お前の国では、そう言うことになって居るらしいな。兎に角だな。帝国の至宝に害をなそうとした、エスカルだが、一刻の王子であることを考慮し、アーノルドは不敬罪には問わず、母国へ強制送還するに止めた」
「まあ、納得はできないが、政治的に色々あるって話しだろ?」
「そうだ。お前も少しは賢くなったじゃないか」
「うるせえよ」
褒められて照れるとは、可愛いところもあるじゃないか。
「所が、国境での王子引渡しの際、ゴトフリー側は、帝国に難癖をつけ、国境を侵犯。オーベルシュタイン侯爵の城を攻めた」
「ふんふん」
「城を奪われた侯爵は、皇都に救援を要請。そこへ、偶々、ゴトフリー王に苦情を申し立てに行こうとしていた、俺と出会う。侯爵の窮状を知った俺が、手を貸して、城と砦を奪い返した」
「む~ん?」
「ここで改めて、アーノルドから外交特使を命じられた俺は、特使として王城へ向かおうとする訳だが、これに対し、ゴトフリー王は何を思ったか、兵をさし向け。俺を亡き者としようとする。命の危険を感じた俺は、増援を要請し、王と話し合う為に、兵に守られながら、一路王都へ向かうことになった・・・と言うのが、対外的なシナリオだ」
「なんで、そんなしち面倒臭えことやってんだ?」
「ギデオンの所為で、帝国の信用は地に落ちた。大義なく、騎士を動かせば,他国から侵略と、取られかね無いからだ」
「別に、いいんじゃねえの? わーっと行って、ガガーーーっ!ってやっつけちまえば良いだろ?」
「あのなあ。他国に警戒され、交易が滞り物価が上がれば、困るのは国民だぞ?お前は民が飢えても良い、と言うのか?」
「それは・・・ダメだな」
「それと、伴侶として俺と同行する愛し子が、ゴトフリーの窮状に心を痛め、獣人の解放と、土地の浄化に尽力し、元凶であるヴァラク教を糾弾する。と言うことも重要だ」
「あ~確かに。浄化が進めば、魔物は減るか」
ここまで黙って話しを聞いていたエーグルが、口を開いた。
「あの、浄化とヴァラク教と言うのは、一体なんのお話しです?」
「エーグルは知らねえよな? 俺も詳しくは知らねえんだけどな? ヴァラク教ってのは、獣人差別を煽ってる宗教なんだよ。アウラ神が創った、人族こそが地上の主。って教義だったよな?」
セルゲイに同意を求められ、俺は頷いた。
「帝国でも魔物の被害は増える一方だったのだ。その原因がヴァラク教でな、彼奴等は土地や水源を汚すことで、瘴気・・・魔物を産む汚れを増殖させ、魔物を生み出していたのだ」
「なっ・・・なんと」
「そこで、我等が愛し子のレン・シトウ様が、瘴気と魔物を浄化して、帝国に平和をもたらしてくれたって訳だ」
「・・・愛し子様とは、誠に偉大な方だったのですね・・・私は何も知らずに、無礼な振る舞いをしてしまいました」
「気にするな。俺の番は懐の深い人だ。それにな、本当に無礼な奴には容赦はしない」
「・・・・閣下」
「そうそう!この前オズボーンの息子にキレて、投げ飛ばしたんだろ?あんたの所の騎士達が自慢してたぜ?」
「なげ? 誰が?」
「愛し子様がだよ。自分よりでかい伯爵の息子を、そりゃもう、コロコロを転がしまくったって聞いたな・・・そん時、アーチャーとあんたも、手合わせで負けたんだろ?」
「レンは強いからな」
「えっと・・・愛し子様の話しで合ってるのですよね?」
「合ってるよ。俺も一度手合わせを頼みたいもんだ」
「手合わせの前に、お前は作戦を理解することが先だ」
「ああ~~。はい。そうでした」
ガシガシと頭を掻くセルゲイだが、どこまで理解できるのやら。
「話しを戻すぞ? 当面の目標は、王とヴァラク教の教皇だか大司教だかの首と、軍幹部の首。隷属の首輪を制御している魔晶石の破壊だ。王城までの邪魔になる奴らは叩き潰すが、それ以外は無視して構わん」
「だけど、それだと残った貴族や軍部が、帝国に攻め込まないか?」
「この砦が落ちるとでも言うのか?今回はわざと入れてやっただけなんだぞ?」
「え・・・いや、それはないと思うが」
「この砦が落ちる事はない。だが万が一、億が一に、砦を攻め落とされたとしよう。そこで問題だ。奴らが皇都に辿り着くのと、俺とお前が王の首を取るの。どちらが早いと思う?」
「俺達が駆けた方が速い」
「そう言うことだ。それに、この砦をを占拠していた師団長と将校たちがどうなったか、お前も見ただろ?魔晶石を破壊し、首輪から解放された、国中の獣人が大人しくしていると思うか?」
「あっそうか!」
「何度でも言うぞ。今回戦うのは、魔獣や魔物ではない。人間だ、もっと頭を使え?」
「・・・・」
「どうした?」
「いやぁ。レンちゃんに言われたんだけどさ」
「レンちゃん?」
馴れ馴れしい態度に睨みつけると、セルゲイは顔を強張らせ、視線を逸らした。
「お前、自分の立場が分かってるよな?」
騎士団長とは言え、侯爵家の人間と簡単に会う事は出来ないのだぞ?
「あっはい。すみません」
「それで?レンが何と言ったのだ?」
「れ・レン様は、もっと閣下に頼って相談した方が良いって言ったんだよ。閣下から学べることは多いし、そうしたら俺は、騎士としても人としても、もっと強くなれるって」
「レンがそんな事を・・・」
「閣下は愛されてんのな。レン様は人族なのにさ、羨ましいよ」
なんだ?
求愛行動に出る前だぞ?
そんな弱気でそうする?
「この戦さで功績を上げれば、陞爵も夢じゃないぞ?」
「そっそうだよな?! 陞爵すれば求愛行動に出ても、おかしくないよな?」
急に元気になったな。
単細胞め。
「頑張れよ。だが今は出陣の準備が先だと思うが?」
「あーそれ。ピッドがもう済ませてくれてさ。今ちょっと暇なんだよ」
良い加減ピッド任せなのは、どうかと思うぞ?
「そういう事だから、エーグルあんた、真面に魔法習った事ねえだろ?出陣前にちょっと教えてやるから、訓練場に行こうぜ!」
セルゲイは、今日一番の笑顔を見せた。
111
お気に入りに追加
1,334
あなたにおすすめの小説
嫌われ女騎士は塩対応だった堅物騎士様と蜜愛中! 愚者の花道
Canaan
恋愛
旧題:愚者の花道
周囲からの風当たりは強いが、逞しく生きている平民あがりの女騎士ヘザー。ある時、とんでもない痴態を高慢エリート男ヒューイに目撃されてしまう。しかも、新しい配属先には自分の上官としてそのヒューイがいた……。
女子力低い残念ヒロインが、超感じ悪い堅物男の調子をだんだん狂わせていくお話。
※シリーズ「愚者たちの物語 その2」※
腹黒宰相との白い結婚
黎
恋愛
大嫌いな腹黒宰相ロイドと結婚する羽目になったランメリアは、条件をつきつけた――これは白い結婚であること。代わりに側妻を娶るも愛人を作るも好きにすればいい。そう決めたはずだったのだが、なぜか、周囲が全力で溝を埋めてくる。
皇帝の番~2度目の人生謳歌します!~
saku
恋愛
竜人族が治める国で、生まれたルミエールは前世の記憶を持っていた。
前世では、一国の姫として生まれた。両親に愛されずに育った。
国が戦で負けた後、敵だった竜人に自分の番だと言われ。遠く離れたこの国へと連れてこられ、婚約したのだ……。
自分に優しく接してくれる婚約者を、直ぐに大好きになった。その婚約者は、竜人族が治めている帝国の皇帝だった。
幸せな日々が続くと思っていたある日、婚約者である皇帝と一人の令嬢との密会を噂で知ってしまい、裏切られた悲しさでどんどんと痩せ細り死んでしまった……。
自分が死んでしまった後、婚約者である皇帝は何十年もの間深い眠りについていると知った。
前世の記憶を持っているルミエールが、皇帝が眠っている王都に足を踏み入れた時、止まっていた歯車が動き出す……。
※小説家になろう様でも公開しています

婚約者を親友に盗られた上、獣人の国へ嫁がされることになったが、私は大の動物好きなのでその結婚先はご褒美でしかなかった
雪葉
恋愛
婚約者である第三王子を、美しい外見の親友に盗られたエリン。まぁ王子のことは好きでも何でもなかったし、政略結婚でしかなかったのでそれは良いとして。なんと彼らはエリンに「新しい縁談」を持ってきたという。その嫁ぎ先は“獣人”の住まう国、ジュード帝国だった。
人間からは野蛮で恐ろしいと蔑まれる獣人の国であるため、王子と親友の二人はほくそ笑みながらこの縁談を彼女に持ってきたのだが────。
「憧れの国に行けることになったわ!! なんて素晴らしい縁談なのかしら……!!」
エリンは嫌がるどころか、大喜びしていた。
なぜなら、彼女は無類の動物好きだったからである。
そんなこんなで憧れの帝国へ意気揚々と嫁ぎに行き、そこで暮らす獣人たちと仲良くなろうと働きかけまくるエリン。
いつも明るく元気な彼女を見た周りの獣人達や、新しい婚約者である皇弟殿下は、次第に彼女に対し好意を持つようになっていく。
動物を心底愛するが故、獣人であろうが何だろうがこよなく愛の対象になるちょっとポンコツ入ってる令嬢と、そんな彼女を見て溺愛するようになる、狼の獣人な婚約者の皇弟殿下のお話です。
※他サイト様にも投稿しております。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

愛人をつくればと夫に言われたので。
まめまめ
恋愛
"氷の宝石”と呼ばれる美しい侯爵家嫡男シルヴェスターに嫁いだメルヴィーナは3年間夫と寝室が別なことに悩んでいる。
初夜で彼女の背中の傷跡に触れた夫は、それ以降別室で寝ているのだ。
仮面夫婦として過ごす中、ついには夫の愛人が選んだ宝石を誕生日プレゼントに渡される始末。
傷つきながらも何とか気丈に振る舞う彼女に、シルヴェスターはとどめの一言を突き刺す。
「君も愛人をつくればいい。」
…ええ!もう分かりました!私だって愛人の一人や二人!
あなたのことなんてちっとも愛しておりません!
横暴で冷たい夫と結婚して以降散々な目に遭うメルヴィーナは素敵な愛人をゲットできるのか!?それとも…?なすれ違い恋愛小説です。
※感想欄では読者様がせっかく気を遣ってネタバレ抑えてくれているのに、作者がネタバレ返信しているので閲覧注意でお願いします…
婚約者の本性を暴こうとメイドになったら溺愛されました!
柿崎まつる
恋愛
世継ぎの王女アリスには完璧な婚約者がいる。侯爵家次男のグラシアンだ。容姿端麗・文武両道。名声を求めず、穏やかで他人に優しい。アリスにも紳士的に対応する。だが、完璧すぎる婚約者にかえって不信を覚えたアリスは、彼の本性を探るため侯爵家にメイドとして潜入する。2022eロマンスロイヤル大賞、コミック原作賞を受賞しました。

苦手な王太子殿下に脅されて(偽装)婚約しただけなのに
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
王女クローディアの補佐官として働くシェリルは、突然、王太子イライアスに呼び出され、いきなり「俺と結婚をしろ」と命じられる。
二十歳を過ぎたイライアスは、一年以内に自力で結婚相手を見つけなければ、国王が選んだ相手と強制的に結婚させられるらしい。
シェリルとしてはそこに何が問題あるのかさっぱりわからないが、どうやら彼はまだ結婚をしたくない様子。
だからそれを回避するために、手ごろなシェリルを結婚相手として選んだだけにすぎない。
これは国王を欺くための(偽装)婚約となるはずだったのに――。
学生時代から彼女に思いを寄せ続けた結果それをこじらせている王太子と、彼の近くにいるのが苦手で、できることなら仕事上の必要最小限のお付き合いにしたいと思っている女性補佐官のラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる