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愛し子と樹海の王
脳筋と座学
しおりを挟む「これで分かったか? 前戦に立たされようと、獣人は開放すべき同朋だと云う事を忘れるな。隷属の首輪を外した後、戦いを挑んでくるなら仕方がないが、そうでなければ、獣人は保護すべき対象なのだぞ」
「しかし・・・肉壁なんてどうすりゃいいんだよ」
「おい。相手は魔物か? 違うだろ? 武器も持たない一般人が襲ってきたところで、俺達は痛くも痒くもないよな? 脅威でない相手など放って置け。打つべきは敵将のみ。将さえ打てば、敵は勝手に瓦解する」
「他の奴らを逃していいのか?」
「3人の将さえ打てば後はどうでも良い。俺達はギデオンの様な侵略戦争をしに来た訳ではない。点と点をつなげて、面にする様な戦い方をする必要はない」
「えっ? そうなのか?」
「お前・・・騎士団の戦術と戦略の座学、寝ていたな?」
「いやぁ。そんな事は無いけどなぁ」
わざとらしい。
目が泳いでるぞ?
「まさかとは思うが、念の為聞いておく。セルゲイお前、今回の作戦が、政治的には戦争ではないことを理解しているよな?」
「「えっ?」」
なんで、2人とも驚いて居るのだ。
「エーグルは兎も角、セルゲイ。お前書類に目は通さないのか?」
「えーと。ほら!うちはピッドが優秀だから、俺はサインするだけでいいって言うか・・・・」
冷たい目で睨んでやると、セルゲイはキョドキョドと目を泳がせ、観念したように頭を下げた。
「あ~~・・・すまん」
「はあ~~~~~~。もういい。説教は後だ」
ここで俺は、ゴトフリーが、アーノルドの王配選びに横槍を入れて来たことから、エスカルが、酔った挙句、俺の留守を見計らい、柘榴宮に押し入り、レンに危害を加える寸前だった事、それにより拘束されたエスカルの部屋から、アーノルドと情を交わし子をもうけるよう指示した手紙が、ラシルの実が入れられていた、と思われる箱の中に入っていた事。
またエスカルが雇っていた護衛が、レンの誘拐を試み捕縛された事を語って聞かせた。
「誘拐ってまだ諦めてなかったのか? 前も失敗して、その賠償に、穀倉地帯を陛下に献上してたよな?」
「悪辣な大公が、自分の婚約祝いに、穀倉地帯を奪った、と騒いでいたあれですか」
「お前の国では、そう言うことになって居るらしいな。兎に角だな。帝国の至宝に害をなそうとした、エスカルだが、一刻の王子であることを考慮し、アーノルドは不敬罪には問わず、母国へ強制送還するに止めた」
「まあ、納得はできないが、政治的に色々あるって話しだろ?」
「そうだ。お前も少しは賢くなったじゃないか」
「うるせえよ」
褒められて照れるとは、可愛いところもあるじゃないか。
「所が、国境での王子引渡しの際、ゴトフリー側は、帝国に難癖をつけ、国境を侵犯。オーベルシュタイン侯爵の城を攻めた」
「ふんふん」
「城を奪われた侯爵は、皇都に救援を要請。そこへ、偶々、ゴトフリー王に苦情を申し立てに行こうとしていた、俺と出会う。侯爵の窮状を知った俺が、手を貸して、城と砦を奪い返した」
「む~ん?」
「ここで改めて、アーノルドから外交特使を命じられた俺は、特使として王城へ向かおうとする訳だが、これに対し、ゴトフリー王は何を思ったか、兵をさし向け。俺を亡き者としようとする。命の危険を感じた俺は、増援を要請し、王と話し合う為に、兵に守られながら、一路王都へ向かうことになった・・・と言うのが、対外的なシナリオだ」
「なんで、そんなしち面倒臭えことやってんだ?」
「ギデオンの所為で、帝国の信用は地に落ちた。大義なく、騎士を動かせば,他国から侵略と、取られかね無いからだ」
「別に、いいんじゃねえの? わーっと行って、ガガーーーっ!ってやっつけちまえば良いだろ?」
「あのなあ。他国に警戒され、交易が滞り物価が上がれば、困るのは国民だぞ?お前は民が飢えても良い、と言うのか?」
「それは・・・ダメだな」
「それと、伴侶として俺と同行する愛し子が、ゴトフリーの窮状に心を痛め、獣人の解放と、土地の浄化に尽力し、元凶であるヴァラク教を糾弾する。と言うことも重要だ」
「あ~確かに。浄化が進めば、魔物は減るか」
ここまで黙って話しを聞いていたエーグルが、口を開いた。
「あの、浄化とヴァラク教と言うのは、一体なんのお話しです?」
「エーグルは知らねえよな? 俺も詳しくは知らねえんだけどな? ヴァラク教ってのは、獣人差別を煽ってる宗教なんだよ。アウラ神が創った、人族こそが地上の主。って教義だったよな?」
セルゲイに同意を求められ、俺は頷いた。
「帝国でも魔物の被害は増える一方だったのだ。その原因がヴァラク教でな、彼奴等は土地や水源を汚すことで、瘴気・・・魔物を産む汚れを増殖させ、魔物を生み出していたのだ」
「なっ・・・なんと」
「そこで、我等が愛し子のレン・シトウ様が、瘴気と魔物を浄化して、帝国に平和をもたらしてくれたって訳だ」
「・・・愛し子様とは、誠に偉大な方だったのですね・・・私は何も知らずに、無礼な振る舞いをしてしまいました」
「気にするな。俺の番は懐の深い人だ。それにな、本当に無礼な奴には容赦はしない」
「・・・・閣下」
「そうそう!この前オズボーンの息子にキレて、投げ飛ばしたんだろ?あんたの所の騎士達が自慢してたぜ?」
「なげ? 誰が?」
「愛し子様がだよ。自分よりでかい伯爵の息子を、そりゃもう、コロコロを転がしまくったって聞いたな・・・そん時、アーチャーとあんたも、手合わせで負けたんだろ?」
「レンは強いからな」
「えっと・・・愛し子様の話しで合ってるのですよね?」
「合ってるよ。俺も一度手合わせを頼みたいもんだ」
「手合わせの前に、お前は作戦を理解することが先だ」
「ああ~~。はい。そうでした」
ガシガシと頭を掻くセルゲイだが、どこまで理解できるのやら。
「話しを戻すぞ? 当面の目標は、王とヴァラク教の教皇だか大司教だかの首と、軍幹部の首。隷属の首輪を制御している魔晶石の破壊だ。王城までの邪魔になる奴らは叩き潰すが、それ以外は無視して構わん」
「だけど、それだと残った貴族や軍部が、帝国に攻め込まないか?」
「この砦が落ちるとでも言うのか?今回はわざと入れてやっただけなんだぞ?」
「え・・・いや、それはないと思うが」
「この砦が落ちる事はない。だが万が一、億が一に、砦を攻め落とされたとしよう。そこで問題だ。奴らが皇都に辿り着くのと、俺とお前が王の首を取るの。どちらが早いと思う?」
「俺達が駆けた方が速い」
「そう言うことだ。それに、この砦をを占拠していた師団長と将校たちがどうなったか、お前も見ただろ?魔晶石を破壊し、首輪から解放された、国中の獣人が大人しくしていると思うか?」
「あっそうか!」
「何度でも言うぞ。今回戦うのは、魔獣や魔物ではない。人間だ、もっと頭を使え?」
「・・・・」
「どうした?」
「いやぁ。レンちゃんに言われたんだけどさ」
「レンちゃん?」
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「お前、自分の立場が分かってるよな?」
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「れ・レン様は、もっと閣下に頼って相談した方が良いって言ったんだよ。閣下から学べることは多いし、そうしたら俺は、騎士としても人としても、もっと強くなれるって」
「レンがそんな事を・・・」
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なんだ?
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そんな弱気でそうする?
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「そっそうだよな?! 陞爵すれば求愛行動に出ても、おかしくないよな?」
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「あーそれ。ピッドがもう済ませてくれてさ。今ちょっと暇なんだよ」
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「そういう事だから、エーグルあんた、真面に魔法習った事ねえだろ?出陣前にちょっと教えてやるから、訓練場に行こうぜ!」
セルゲイは、今日一番の笑顔を見せた。
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