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愛し子と樹海の王

パパ友?

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『どうだ? 其方のパパは頼りになるであろう?』

 パパ?
 何の冗談だ?

「それは良いが、魔晶石はどうするつもりだ? 俺達は治癒と浄化の魔晶石しか持ってきていないぞ?」

「それなら、私が提供できます」

 と、ここで侯爵が名乗り出た。

「避難させた宝物の中に、いくつか魔晶石が有ります。使用人と一緒に戻ってきますから、すぐにご用意できますよ」

「まあ!本当ですか? でも、貴重な物なのに良いのでしょうか」

「いえいえ。血を見ずして敵の最大戦力を削げるのであれば、我等としても願っても無い事でございます。愛し子様の力に成れるとあれば、望外の極みで御座います」

「そんな、畏まらないで下さい。リアンとはお友達になったのです。お友達の御父さんに畏まられたら、困ってしまいます。私も馴れ馴れしくリアンパパなんて呼んでしまいましたし、どうか私の事もレンとお呼びくださいね?」

 リアンパパ?

 これはまた破格の扱いじゃないか?

 これを叔父上が聞いたら、対抗心剥き出しで、何か言って来る事間違いなしだ。

 『そうか、其方の息子は我の子の友人であったか、ならば其方はパパ友だの?』

 パパ友ってなんだよ。

 ほっこり和んでいる三人には悪いが、重要な話がまだなのだぞ?

「それで、獣人部隊をおびき出す囮は、誰がやる?」

「あっ!あ~。そうでしたな」

「問題はまだ有るぞ。ポータルは1基で良いのか? 1部隊600人として、囮も含めて、1度に通る人数が、1200。それが3部隊3600人。1800人を同じところに誘導したら、罠と気付かれる公算が高かくなる。それに集める場所もどうする? 1800人を同じ場所に集めたとして、一度に首輪を外せるか?外せたとして、レンの負担はどうなる?」

「仰る通りですな。こちらに戦意が無いとは、相手も思わないでしょうし、同じポータルに誘導し、広場に全員を集めるのは得策ではないかもしれませんな」

「では、こちらのエーグル卿から、他の大将へ手紙で、こちらの意図を知らせて頂くと言うのは、どうでしょうか?」

 それにエーグルは静かに首を振った。

「私達獣人部隊は、師団長の許可無く、連絡を取り合うことを禁じられています。作戦行動中は、家族からの手紙も受け取る事が出来ません。たとえメモ紙一枚でも、見つかれば処罰の対象となります」

「家族の手紙も?」

 驚きを隠せない俺達に、エーグルは黙って頷いた。

「我等には、監視が付きますので」

「隷属の首輪だけでは足りないと?」

「反乱を恐れているのでしょうか?」

「自分達が非道を敷いている自覚はある、と云う事だな」

 首を傾げるマークに、侯爵が訳知り顔で頷いている。

 自覚があったところで、許されるものでは無いがな。

「では密書を送りますか?」

「・・・いや、下手に接触しようとして墓穴を掘ってもつまらん。それに当の大将が、腹芸の出来ない人間なら、逆に何も知らせない方がやり易いかもしれんぞ」

「成る程、一理ありますな」

「ロロシュ、砦の様子は?」

「イラついてるな。この城に物資が何も無いってことは向こうにも、伝達されてっからな。オズボーンは、あのふざけた嘘を信じて、ゴトフリー側にかなり盛って話したみたいでよ?物資も無い上に、そんなやばいカビが蔓延してる城に入るのはどうなのかって、騒いでるみてぇだな」

「何日稼げる?」

「三日ってとこじゃねぇか?城の状態が良くねぇ事と物資がねえってのは、司令官殿の封蝋を使って送ってある。あと、オズボーンの私兵が居る事になてっから、疑われない様に、伯爵が隠した物資を回収しに行くって、話しも伝えてある・・・・ます」

 ロロシュの話しが、尻窄みになったのは、話し方が元に戻ったロロシュに対し、レンが唇の前に指を立てて警告したようだ。

 相手への敬意を忘れるな。
 ここは私的な場ではない。
 上官に対して敬意を示せないのなら、誰に対しても同じだ。
 それが誰であっても、相手を尊重し敬意を払えぬのなら、番に対しても同じだろう。
 
 二度と、マキシマス・アーチャーを辱め、貶める事は許さない。
 他人に対する敬意を払えぬ内は、番であろうと、マークに近付く事は許さない。

 これは、再教育するに当たり、ロロシュに対し、最初にレンが言った言葉だ。

 一朝一夕でどうなるものでも無い、とは分かっているが、これでは何時になったらレンのお墨付きが貰えるか、先が思いやられる。

「一度休憩にしよう」

「おや? レン様は眠ってしまわれたのですか?」

「魔法陣の発動で、力を使い過ぎたのだろうな」

「あれだけ大規模な魔法陣でしたからな。無理もないでしょう」

「クレイオス。レンはまた無理をしたのか?」

『其方の騎士達はあまり役に立たなかったからの、マークとシッチンは頑張っておったが、最後はアンを使っていたな』

 なら3個大隊の首輪を、一度に解除するのは難しいな。

「休憩の間、侯爵とロロシュは、ポータルの設置に使える魔法師の数と、魔晶石を確認しておいてくれ。ロドリックはゲオルグと連絡をとれ、ショーンは戻って来る城の使用人と、物資の護衛の手配だ」

「閣下。護衛なら私達が」

「公爵、オーベルシュタイン騎士団は、この何日か真面に休めていないのだろう?先は長い、休めるうちに騎士達を休ませてやれ」

「閣下・・・。ありがとうございます」

「礼は要らん。この後泣いて頼まれても休みなどやれんからな」

「ははは。そうですな。ではお言葉に甘えて、うちの者は休ませてもらいます」

「エーグル大将は、砦に居る師団の情報と、ゴトフリー内の魔物の出現状況を纏めておいてくれ」

「・・・はい」

 エーグルは、躊躇いとは違う、複雑な表情を見せた。

「国を売るのが不本意なら、無理にとは言わんが?」

「いえ!そういう事ではないのです!」

 戸惑いを見せるエーグルを気遣ったつもりが、全力で否定されてしまった。

「今まで上官から、閣下の様に丁寧頼まれたことが無かったので、少し驚いただけで・・」

 一方的に命じる者と、命じられる者。
 奴隷と言うものは、本当に胸糞が悪い。

「ゴトフリーでどうだったかは知らんが、今の帝国に奴隷制度はない。獣人差別がないとは言えんが、他人の尊厳を理不尽に踏み躙る行いは、俺は許さない。それが獣人だからという理由なら尚更だ」

「はい。ありがとうございます」

 深く頭を下げた感謝が、何に対するものなのか・・・。
 少なくとも、こちらの誠意が伝わったのであれば、それで良しとしよう。

「では、2刻後に参集だ」

「閣下。私は何をすれば宜しいですか?」

「マーク、お前も休め。酷い顔色をしているぞ」

「回復薬は飲んだのですが」と苦笑いを浮かべながら、白皙の頬を手で擦るマークに、何故かエーグルが、労し気な視線を向けている。

 エーグルの様子が気になりながらも、シッチンも休ませるよう、マークに告げ。

 規則正しい寝息を立てる番を抱いて、俺は広間を後にした。
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