上 下
335 / 497
愛し子と樹海の王

其々の戦いへ

しおりを挟む
 side・アレク


「上手く城に誘導できたようだな。これでゴトフリー侵攻の大義名分が出来た。オーベルシュタイン侯爵のお陰だ。ご苦労だった」

「いえ。閣下のご指示通り、逃げていただけですから、大した苦労でもありません。それで次はどうすれば宜しいか?」

「随分とやる気だな?」

「いや~。我が領の騎士達はよく言えば単純、でなければ猪突猛進な者が多くてですな、今回の様に真面に剣を交えない戦いには、慣れていないのですよ」

「欲求不満か?」

「まあ、そんな処です」

「うむ。だが暫くは満足させられんな」

「・・・今後の計画を、お聞きしても宜しいですか?」

「今後か?まずは城に入ったゴトフリーの獣人部隊を、おびき出したい」

「どこまでですか?」

「近場だ、城下町の広場に獣人部隊を誘導する」

「広場にですか?」

「城下の住民は避難済みだ。人的被害の恐れはないし、戦闘をする必要も無い」

「ただ、おびき出すだけで良いと?」

「そうだ。それさえ上手く行けば、後はレンが獣人部隊を無力化してくれる」

「愛し子様が?」

「そうだ」

「説得でもなさる御つもりか? 危険でありましょう?」

 うむ。正常な反応だ。

「説得も必要かもしれんが、それよりもっと効果的な罠を仕掛けたのだ」

「罠? あの愛し子様が?」

「説明しても良いが、見た方が早い」

「左様で・・・」

 レンの魔力量その他の能力を知らなければ、納得は出来んだろうからな。
 
「砦に居る本隊と合流する前に、方を付けたい。今夜は交代で城に入ったゴトフリーの兵に、嫌がらせを繰り返し、敵に寝る暇を与えない。そうすれば、堪え性の無い上役が、獣人部隊を送り出す筈だ。獣人部隊をおびき出した隙に、敵を制圧。ザックリ言うと、こんな所だな」

「成る程。して愛し子様は今どちらに?」

「本番に備え、広場近くの宿で休ませている」

「お一人で?大丈夫なのですか?」

 普通はそう思うよな。

「一人ではない。信用のおける俺の部下達と、ドラゴン3匹。あとは従魔にしたフェンリルとシルバーウルフの群れが15頭。一個師団でも敵うと思うか?」

「はあ・・?ドラゴンとフェンリル・・・?」

「ドラゴンの一匹はクレイオスだぞ?」

「左様ですか・・・・流石・・・と感心した方が良いのでしょうが、いやはや、なんとも・・・・」

 何の冗談かと思うよな?

「納得出来たら、あとは頼む」

「閣下はどちらに?」

「獣人部隊を引き離したら、城を奪還せねばならんだろう?」

「閣下直々にですか?」

「侯爵が準備を整えてくれたからな、楽な仕事だ。自分で城を奪い返したければ代わっても良いが、どうする?」

 個人的には、レンと一緒に居たいのだ。
 代わると言ってくれると良いのだが?

「そうしたいのは山々ですが、愛し子様のお力を、直に見る機会も逃したくありませんな」

 クソッ!
 まあそうだよな。
 好奇心の方が強いよな。

「・・・・そうか? だが今回は浄化は無いが、いいのか?」

「構いません。せっかく口外禁止の魔法契約にサインしたのです。我が騎士達も自分達が、どんな方をお守りするのか、知るべきだと思いますので」

「・・・では、レンを頼む。あの人はたまに無茶をするのでな、そうならんように務めを果たしてくれ」


 ◇◇◇
 

 side・レン

「レン様!合図です!!」

「は~い!! では騎士の皆さん、注意事項は覚えていますね?魔力切れを起こす前に離脱する事。獣人部隊からの攻撃を受けたら、魔法陣より自分の命を優先する事。良いですね?」

「「「「はいっ!!」」」」

「では、配置について。よろしくお願いします!」

「レン様、大丈夫ですか?」

「うん。緊張してるけど、大丈夫。マークさんこそ顔色が良くないみたい。眠れなかったの?」

 輝く美貌が・・・・。
 これはこれで、アンニュイな感じが色っぽかったりするけど、マークさんには、もっと溌溂とした感じの方が似合うのに・・・・。

「ええ、まぁ。ですが問題ありません。以前は2徹3徹はざらでしたから」

「そう・・・無理はしないでね。魔力切れじゃなくても、具合が悪くなったら直ぐに離脱するのよ?」

「はい。レン様もご無理はなさらないでください。今頃閣下も気を揉んでいる筈ですから」

「そうね。ちゃちゃっと成功させて、安心させてあげないとね」

「はい」

 あ~~!!もう!!
 なんなの、この儚げな微笑みは!!
 乙女から笑顔を奪う男なんて最っっ低!!

 番なんて縛りが無ければ、マークさんだって、次の恋に行けるのに!!
 
 でも・・・・。

「マークさん心配しないで。なんとなくなんだけど、良い事ありそうな予感がするの」

「予感・・・ですか? レン様の予感なら当たりそうですね」

 元気はないけど、キラッキラ、サラッサラの髪で、小首を傾げるイケメン。
 眼福、眼福。

「うふふ。楽しみにしててね」

「見えました!! オーベルシュタイン騎士団です!!」

「獣人部隊は?!」

「80ミーロ後方!!」

「結界のタイミングを合わせろ!!」

 さすが、うちの乙女なイケメンは、仕事が出来てかっこいい!

「クオン!ノワール!準備はいいわね?」

「は~い」

「レン様、まかせて~」

 はあ~~。
 うちの天使ちゃんズは、今日もかわいい。
 後で美味しいお菓子、作ってあげるからね。

 おっと。萌えてる間に、侯爵の騎士団が通り過ぎちゃった。
 もだもだしてる場合じゃありませんね。

「結界展開!!」

 ヴォンッ!!

 唸るような低い音と共に、広場を囲うように結界が展開され、行く手を塞がれた、ゴトフリーの獣人部隊の人達が、広場の中を右往左往しています。

「ゴトフリーの兵よ、私は神の愛し子。レン・シトウです!」

結界越しとは言え、緊張する~!

「愛し子?」

「帝国の愛し子が、何故ここに?」

「創世神アウラと、エンシェントドラゴン、クレイオスの名の下、貴方たちに自由と解放を!!」

 ひゃーーー!!
 私26になったんですけど~!
 中二病っぽくて恥ずかしいーーー!!

 でも、やるべきことはやらないと。

 私の中二病宣言を合図に、一斉に魔法陣へ私とみんなの魔力を注いで行きます。

 広場の石畳、獣人部隊の人達の足元に魔法陣が展開し、広場の中が黄金の光で満たされて行きました。

「なんだ?!」

「魔法陣?!」

「何をする気だ?!」

 ごめんね。びっくりするよね?
 でも、もうちょっとで、自由になれるから。

 広場に溢れる光が強くなるほど、私の中から引き出される魔力が増えていきます。

 これは、離脱した騎士さんの分の負担が増えたからでしょう。

 横目でちらりと見えたマークさんも、頬を流れた汗が、細い顎を伝って落ちています。

「マークさん!無理しないでっ!」

「ですが!」

「離れなさい!!」

 マークさんも限界が近い。
 これ以上は危険です。

 クオンとノワールは、まだ余裕がある。

「アン!! 手伝って!!」

 アンは魔獣だけれど、魔力値は人よりも遥かに多い。
 けれど、手伝ってくれる騎士さん達が、アンを使うのを躊躇っていた。
 従魔であっても、戦闘以外で魔物の手を借りるのに抵抗が有ったからだと思う。

 だけど、私は最初からアンの力を計算に入れていたのよね。

 だって、その方が安全だもの。

 アンが加わった事で、私の負担はグッと少なくなり、そして広場全体が強く輝いて。

 カシャーン!!

 金属質な音が広場に反響し

 カシャッ! カシャ!

 隷属の首輪が次々に外れ、石畳に落ちていきます。

「首輪が・・・」

「これは夢か?」

「首輪が外れた!!」

「俺達は自由だっ!!」

 うおおぉーーーーー!!

 ゴトフリー王国建国以来、奴隷として虐げられ、先代王の時代から全ての自由を奪われ続けた、ゴトフリーに生きる獣人が、漸く自由を手にした瞬間。

 ガルスタの城下町に、獣人達の歓喜の雄叫びが、鳴り響いたのでした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

5人の旦那様と365日の蜜日【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
気が付いたら、前と後に入ってる! そんな夢を見た日、それが現実になってしまった、メリッサ。 ゲーデル国の田舎町の商人の娘として育てられたメリッサは12歳になった。しかし、ゲーデル国の軍人により、メリッサは夢を見た日連れ去られてしまった。連れて来られて入った部屋には、自分そっくりな少女の肖像画。そして、その肖像画の大人になった女性は、ゲーデル国の女王、メリベルその人だった。 対面して初めて気付くメリッサ。「この人は母だ」と………。 ※♡が付く話はHシーンです

淫らなお姫様とイケメン騎士達のエロスな夜伽物語

瀬能なつ
恋愛
17才になった皇女サーシャは、国のしきたりに従い、6人の騎士たちを従えて、遥か彼方の霊峰へと旅立ちます。 長い道中、姫を警護する騎士たちの体力を回復する方法は、ズバリ、キスとH! 途中、魔物に襲われたり、姫の寵愛を競い合う騎士たちの様々な恋の駆け引きもあったりと、お姫様の旅はなかなか困難なのです?!

迷い込んだ先で獣人公爵の愛玩動物になりました(R18)

るーろ
恋愛
気がついたら知らない場所にた早川なつほ。異世界人として捕えられ愛玩動物として売られるところを公爵家のエレナ・メルストに買われた。 エレナは兄であるノアへのプレゼンとして_ 発情/甘々?/若干無理矢理/

クソつよ性欲隠して結婚したら草食系旦那が巨根で絶倫だった

山吹花月
恋愛
『穢れを知らぬ清廉な乙女』と『王子系聖人君子』 色欲とは無縁と思われている夫婦は互いに欲望を隠していた。 ◇ムーンライトノベルズ様へも掲載しております。

大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました

扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!? *こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。 ―― ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。 そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。 その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。 結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。 が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。 彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。 しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。 どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。 そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。 ――もしかして、これは嫌がらせ? メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。 「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」 どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……? *WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。

【R18】転生したら異酒屋でイキ放題されるなんて聞いてません!

梅乃なごみ
恋愛
限界社畜・ヒマリは焼き鳥を喉に詰まらせ窒息し、異世界へ転生した。 13代目の聖女? 運命の王太子? そんなことより生ビールが飲めず死んでしまったことのほうが重要だ。 王宮へ召喚? いいえ、飲み屋街へ直行し早速居酒屋で生ビールを……え? 即求婚&クンニってどういうことですか? えっちメイン。ふんわり設定。さくっと読めます。 🍺全5話 完結投稿予約済🍺

【R-18】喪女ですが、魔王の息子×2の花嫁になるため異世界に召喚されました

indi子/金色魚々子
恋愛
――優しげな王子と強引な王子、世継ぎを残すために、今宵も二人の王子に淫らに愛されます。 逢坂美咲(おうさか みさき)は、恋愛経験が一切ないもてない女=喪女。 一人で過ごす事が決定しているクリスマスの夜、バイト先の本屋で万引き犯を追いかけている時に階段で足を滑らせて落ちていってしまう。 しかし、気が付いた時……美咲がいたのは、なんと異世界の魔王城!? そこで、魔王の息子である二人の王子の『花嫁』として召喚されたと告げられて……? 元の世界に帰るためには、その二人の王子、ミハイルとアレクセイどちらかの子どもを産むことが交換条件に! もてない女ミサキの、甘くとろける淫らな魔王城ライフ、無事?開幕! 

処理中です...