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愛し子と樹海の王
モラハラ男に制裁を
しおりを挟む「アーチャー卿は私の大事な騎士で、大切な友人です。その薄汚い口で、何故私の大事な友を貶めたのですか?」
「なんなんだよ。どいつもこいつもマーク、マークって・・・痛ってぇ!!」
今度は左膝です。
「貴方の汚い言葉は聞きたくありません。返事は ”はい” か ”いいえ” のどちらかでお願いします・・・・返事は?」
「・・・は・・・い」
返事を渋るロロシュに、雷撃を纏わせた指を立てて見せると、嫌々返事を返してきました。
「アーチャー卿は、貴方の気に障る事を一度でもしましたか?」
「・・・・グウッ!!」
今度は左肩。
「返事は迅速に・・・・返事は?」
「い・・いいえ」
「彼は、貴方ごときに辱められるほど、無価値な人間ですか?」
「・・・いいえ」
「では、愛していないから、平然と他人の前で彼を拒絶し、奉仕するに値しない存在だと、周囲に見せたのですね?」
「いいえ!!」
「おかしいですね。アレクはどんな時でも、私を大事にしてくれます。私の知る限り、他の獣人の方たちも、番を大切に扱い、崇拝と言って良い程の、敬意を払って接しています。貴方が番の立場を慮る事も、思い遣りを持って接する事が無ないのも、愛していないからなのでは?」
「いいえ!!」
「貴方の言う愛とはなんでしょう。相手を思いやる事も、敬意を払う事もせず、世界でただ一人の番を貶め辱める事が、貴方の愛し方なのですね?」
「い・・・いいえ」
「では、本当に、彼を愛していると?」
「はい!」
「・・・・・メリオネス卿。貴方の過去に何があったのか、私も了解しています。貴方が貴族に対して、嫌悪感を持ったとしても仕方がないと、理解もしています。だからこそ聞くのですが、アーチャー卿は貴方の仇ですか?」
「!?・・・いいえ!!」
「家族に愛され、何不自由なく育った彼が憎いのですか?」
「いいえ!」
「では、羨ましかった?」
「・・・・・はい」
「アーチャー卿は、帝国一の婿がねと崇められる程優れた人です。そんな彼を、辱め振り回して、支配下に置くのは楽しかった?」
「・・・・・・・グウゥ!!」
今度は左の手の甲です。
「・・・は・・・い」
「メリオネス卿。伴侶とは互いに尊重し合い、支え合って行くものだと、私は考えます。アーチャー卿は、マークさんは貴方の番、伴侶であって、貴方のコンプレックスの劣等感の捌け口ではありません」
「・・・・はい」
「貴方がして来た事の、罪の重さが分かりますか? 下らない劣等感から、番の夢を壊し、幸せを奪った。貴方の行いは獣人としてだけでなく、人として最低です。私のいた世界では、貴方の様な人をモラハラ男と呼び、その行いは犯罪で、社会的制裁を受ける対象となります」
「・・は・・・・・い」
「私は貴方の様な人を、心から軽蔑します。よって前にも言った通り、その腐った性根を叩き直すまで、マークさんに近付くことは許しません。当然婚姻もです。分かりましたか?」
「・・・・は・・い」
地面に這い蹲ったロロシュは、鼻水まで垂らして泣いているけど、これぽっちも可哀そうだなんて、気持ちにはなれません。
モラハラ男の反省程、当てにならない物なんてないんだから。
言いたいことは全部言ったけれど、全然スッキリなんてしてはいなくて。
口の中に青汁と磨り潰したドクダミを一緒に流し込んだような、嫌な苦みが残っただけでした。
クレイオス様も、ロロシュを眇めた目で見ていたけれど、取り敢えず遮音と結界を解いてもらうと、直ぐ傍にアレクとマークさんの姿が有りました。
騒ぎを聞きつけて、駆けつけてくれたのでしょうが、2人とも顔色が悪くて、申し訳ない気持ちでいっぱいになりました。
でも、伝えるべきことは伝えないと。
「アレク、申し訳ないのだけれど、メリオネス卿は再教育が必要です。暫く私が預かりたいのですが、良いでしょうか?」
「・・・・構わん。暗部への指示と報告だけなら、レンの傍でも遂行できる」
「なんだよそれ!? 騎士団の人事にちびっ子は口出しできねぇだろ!!」
バチバチッ!!
「グアッ!!」
「学習能力が足りませんよ。メリオネス卿。私は愛し子の立場で、どうこう言っているのではありません。爵位も無い、ただの侯爵家の令息である貴方を、私は公爵として預かると言っているのです。今後ちびっ子呼びも許しません。分かったら口を慎みなさい」
「・・・・・・・はい」
大人しくなったロロシュに満足はしていないけれど、これ以上追い込むのは得策ではないから、ロロシュの恨みがましい視線も、今は無視です。無視。
「アレク、例の首輪の事で相談があるのだけど、今、良いかな?」
「あ?あぁ。では幕舎でゆっくり聞こうか。マーク、お前は今日はもう休め」
アレクさんに休むように言われたマークさんは、一礼してロロシュに視線を向ける事も無く、踵を返して離れていきました。
「メリオネス卿。付いて来なさい」
涙と鼻水で、でろでろの顔のまま、肩を落としたロロシュは、トボトボと足を引きずるように、私達の後をついて来るのでした。
その道すがら、騎士さん達がヒソヒソしています。
内容的には・・・・
“レン様ってあんな怖いのか?”
”さすが閣下の伴侶っていうか“
”な!俺も思った、魔王降臨って感じ?“
“普段優しい人が、キレると怖いって言うからな”
“ロロシュさん、何やらかしたんだよ?”
“あれだろ? マークさんの”
“シッ!! 閣下が見てるぞ”
って感じです。
私たちの会話の内容は、漏れていませんが、結界越しでも、浮かんだ魔法陣のすきまから、私が魔力でロロシュを押さえつけ、雷撃で罰を与えたことは見えただろうから、まぁ、仕方ないですよね?
これで不用意に私に近づいてくる、新米さんが減れば、アレクのイライラも少しは減るでしょうし、特に問題はないと思います。
幕舎の前で、入り口で待つように伝えると、ロロシュはあからさまに嫌な顔をしましたが、そんなの知ったことでは有りません。
私はロロシュを預かると言いましたが、護衛にするとは言っていないので、側に侍らせる必要はないのです。
暫くは新米扱いを享受するまで、このままです。
「レン、さっきの事だが・・・」
「念話、聞こえました?」
「ああ、聞こえていた。あれがロロシュの本心だと?」
「さあ。あの人の心の中をちょっとだけ覗き見ただけで、全てとは言えないと思いますが。彼の露悪的な所や、マークさんへの態度は、彼の持つ劣等感と自己愛、承認欲求が合わさった結果でしょう」
「・・・・もらはらと言ったか?あれは」
「子供がえりと一緒です。親は自分の言うことを聞くのが当たり前、期待に答えて当たり前、自分だけが正しい。自分の正しさを証明するためには、相手を貶めても構わない。相手を否定することで、自分が優位に立つ。一種の精神病の類でしょうか。幼少期に親子関係に問題があった家庭の子に多く見られる、問題行動です。これが厄介なのは、他人より家族、特に伴侶に対して行われる事で、外に見えにくい分、簡単に伴侶の人格を否定し、壊すことなんです」
「あれは、矯正出来るのか?」
「出来ます。あれは単なる甘えなので、相手は親とは違う、敬意を払うべき対等な相手だ、と認識出来れば、問題行動は治るはずです」
「ずいぶんと詳しいのだな」
「専門的に勉強したわけではないのですが、会社のコンプラ冊子。えっと、倫理観に関する読み物で特集されていたことがあって、それを読んだんです」
「なるほど」
「マークさんの方も、彼を甘やかさないようにしなくちゃいけないのですが、マークさんは優しいですから、暫く距離を置かせた方が良いのは、確かだと思います」
「分かった。それにしても・・・・クッ!ククク・・頭が高い、とはな」
「笑わないで!私もあれは痛いかなって思ってたの!」
でも、一度言ってみたかったのよね。
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