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幸福の定義は人それぞれ

皇太子と大公1 レンvsマーク

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「そうですか。オズボーンが動き出しましたか」

「お前が出した、オーベルシュタインへの援助要請に、応えた体を装ってはいるが、輸送される物資の数と護衛の数が明らかにおかしい。前回の物資強奪を建前にすれば、護衛を増やしても、怪しまれないと踏んでいるようだな」

「そうなると、前回の物資強奪も筋書きの内でしょうか?」

「違うとは言い切れん。あの時は神殿も勢いがあったからな、ヴァラクの入れ知恵が有っても可笑しくはない」

「ウィル兄・・・陛下は昔からオズボーンを嫌っていました。あの頃から疑っていたのだと思いますか?」

「さあな。疑って居たとしても証拠はなかった。あいつは感覚で判断するところも多かったしな。そういう時、あいつは ”臭いがする” と言って、グリーンヒルに丸投げだった」

「そうですね。宰相からオズボーンの話を聞いたときは、驚きました。帝国有数の穀倉地帯を所有し、オズボーンの機嫌一つで麦の相場が変動する、とまで言われる程、富を集めて、何が足りないのかと・・・まさかギデオン帝の落とし種だとは・・・」

「自称だ。証拠はない」

「ですが」

「いいか?本当に奴がご落胤で、継承権を主張したいなら、国内の貴族に手を廻し、自らの派閥を作り上げた筈だ。まぁ奴は帝国の胃袋を押えて居る訳だから? これまでもすり寄る貴族は多かっただろう。だが、その中から一人でも、皇家の嫡流としての、後押しをしたものが居るか?」

「そうですけど」

「第一奴は、出自の正当性を主張したことなどない。俺やウィリアムを恐れた結果だったとしても、奴はこれまで皇家、皇族の義務を果たしてこなかった。仮に奴が本当にご落胤だったとしてもだ、体に流れる青い血だけでは、志尊の座に就く事等出来んのだ。そこは分かるな?」

「はい」

「まぁ。オズボーンに関して、ウィリアムが俺に一言も相談しなかった事は、癪に障るが、相談しなかったと云う事は、奴を切り捨てる気だった、と云う事だろうな」

「何故ですか?」

「始末しろ、と命じるだけで済むからだ」

「あ・・・・・」

「言っておくが、俺はウィリアムを信じていたが、妄信していた訳では無いぞ?あいつの命が理不尽だと感じれば、背景を調べさせ、納得できなければ断りもして来た。だがウィリアムは影の使い方が上手かった。俺に気付かれずに、始末をつけた事の方が多かった筈だ」

「あぁ、そうか・・・」

「俺は魔物相手で、手いっぱいなところも有ったから、あいつ為りに気を使ったのやも知れんが、これまで放置してきたのは、オズボーンを脅威ではなく、いつでも切り捨てられる、雑魚だと考えて居たからじゃないか?」

「そうかもしれませんね」

「ただ・・・・」

「なんですか?」

「ウィリアムは、東の穀倉地帯を直轄地にしたい、と考えてはいた。帝国の胃袋を一貴族が握るのは危険だとな?」

「それは僕もそう思います」

「だから、今の状況はウィリアムの望んだ結果やも知れん。愚かで生意気な貴族を叩き潰すチャンスだからな」

「なるほど。ついでにゴトフリーを黙らせることが出来れば、一挙両得か・・・」

「ウィリアムが、そこまで用意周到だったかと言われると、買い被り過ぎな気もするが、弟から賢帝だったと尊敬されるなら、見当外れでもあいつは喜んだと思うぞ」

「陛下は、間違いなく賢帝であられたと思います」

「ウィリアムが聞いたら、泣いて喜びそうだ」

「はは・・・オレステスの捕縛とタウンハウスの制圧は、予定通りで良いでしょうか?」

 これは確認というより、否定して欲しい顔だな。

「明日の茶会で、オレステスと顔を合わせるのは、気が重いか?」

「ええ、まぁ・・・エスカル殿下が居なくなってから、ちょっと・・・」

 表立って張り合っていた相手が居なくなり、オレステスは自分の天下と勘違いしているらしい。“茶会では媚薬に注意!!” とまでフレイアが言って来ている処を見ると、オレステスはかなり焦っているようだ。

 実力ではシエルとリアンに遠く及ばず、馬鹿にしている獣人の伴侶となったレンは、天才の域に達している。
 
 遅ればせながら、自分が王配として力不足だとに気付いた事による危機感か、単なる我儘か、休暇明けでレンが講義に復帰してからのオレステスは、ライバル達への嫌がらせが激化している、とレンも呆れて話していた。

「護身術の講義の話は聞いたか?」

「テイモンが怪我をした、とは聞きましたが、それ以外は。何かあったのですか?」

「それがな、珍しくレンがキレてな?」

 第二騎士団の練武場を使った護身術の講義で、オレステスが問題を起こした。

 候補者達が講義で練武場を使用する際は、必ず同席するよう、ロイド様から命じられて居る俺も、その場に居合わせたのだが、オレステスはテイモンに対し、怪我を負わせた上に、罵倒する言葉を放ったのだ。

 講師を引き受けていたのは、年齢を理由に引退した、第一騎士団の元将校なのだが、オレステスの行いは、騎士としてだけでなく、紳士としても恥ずべき行いだ、と震える拳を握りしめながら窘めていた。

 それを遠巻きに見ていた、うちの連中もオレステスに白い眼を向けていたのだが、本人はどこ吹く風で ”弱すぎるテイモンが悪い” と言い放った。

 するとレンはにっこり微笑んで、マークと俺への模範試合を申し込んできたのだ。

 レン曰「先生、オレステス君は本当の強さをご存じない様なので、一度見学した方が良いと思います。他の候補者の皆の後学の為にも如何でしょうか?」だそうだ。

 レンは始終微笑んでいたが、俺とマークは知っている、レンが浮かべるあの微笑みは、怒髪天を衝く程、怒り狂っている証拠だ。

 久しぶりのレンとの手合わせに、俺はウキウキしていたが、マークは諦めの深いため息を吐いていた。

 レンの強さを信じていなかったオレステスは、なにを馬鹿な、と鼻で笑っていたが、レンの手合わせと聞いて、大喜びの騎士達が集まってくると、白く傲慢な頬を強張らせていた。

「ではマークさん。全力でお願いします」

「真剣で宜しいのですか?」

「詰め所に替えの剣。ありますよね?」

「はは・・・お手柔らかにお願いします」

「ごめんなさい、今日は無理ですね」

 そんな会話をしながら、二人は練武場の中央に立った。

「おい。誰かご令息達に防護結界を張れ」

 防護結界と聞いて、候補者達は顔を青ざめさせたが、辺境を守護する家門のシエルとリアンは、好奇心の方が上回った様だった。

 審判役を買って出た講師にも結界を張ってやり、練武場の隅に下がる様に手で合図を送った。

「はじめっ!!」

 講師の掛け声と共にレンはマークへ向かって疾走し、マークが抜き放った剣を、掌底の一撃で砕いてしまった。

「おおーーーっ!!!」

「レン様かっけーーー!!」

 レンの戦い方は相手の攻撃を受け流すのが、基本的なスタイルだ。
 これ程攻撃的な姿は、ロロシュを叩き伏せた時以来かも知れない。

 剣を折られたマークは、後ろに跳躍しながら氷の剣を作り出し、後を追ってくるレンに、斬りかかった。

 しかしその氷の剣も、抜き打ちざまにレンの刀で両断され、マークはレンから距離を取ろうと下がりながら、自身の周囲に浮かせた氷の矢を、次々にレンに打ち込んだ。

 猛スピードで飛来する氷の矢を、レンは愛刀を翻し切り落とす。
 
 それを見たマークが、周囲に浮かぶ氷の層を厚く変えた瞬間、レンが放った劫火がマークを包み込んだ。

 騎士達の歓声と、候補者達の悲鳴が練武場に響き渡った。
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