獣人騎士団長の愛は、重くて甘い

こむぎダック

文字の大きさ
上 下
308 / 600
幸福の定義は人それぞれ

落胆と諦め

しおりを挟む
 ひき逃げ事故から三ヶ月。
 骨折やその他の怪我が無事完治した女は、大学の講義中に居眠りをしていた。

 事故以降、女は突然眠気に襲われ、ぼんやりとすることがある。
 詳しい検査もしてもらったが、何度調べてもらっても健康体で、原因はわからないと言われた。
 
「事故に遭った時に頭を打ったことが、なにか影響しているかもしれない。頭のことになるから、違和感を覚えたらすぐに病院に来るように」と女は医者から言われている。

 
 療養中は眠気を感じても、実際に眠ってしまうことはなかったが、今日は久しぶりの講義で、講義内容を理解できず、眠気に誘われるまま眠りに落ちていた。

 
 女は夢を見る。

 友人たちと大学構内を歩き、雑談をしている。
「来週の大型連休に旅行へ行こう」と、隣を歩く彼女が言う。
 何人か、こちらをチラチラと見てきた。
 こちらに気を使っているようだ。
「まだ本調子じゃないし、わたしは遠慮しとくね」
 そう友人たちに伝える。 
 
 
 体を揺すられ、女は目を覚ました。
 講義はすでに終わっており、教室から学生が続々と退出している。
 その中で眠り続ける女を、友人が心配し起こしてくれたようだ。
 少し眠ったおかげで女の意識は、はっきりとしているが、頭に締め付けられるような痛みを少し感じた。
 
 女を起こした友人が、心配そうな表情を浮かべた。

「大丈夫? 保険センターまで付き添おうか?」
「……少し眠かっただけだから大丈夫よ。起こしてくれて助かったわ。ありがとうね」
「それならいいけど……他のみんなは先に食堂に行って、席を取ってくれてるから、食べれそうなら一緒に行こう」

 さっき出たばっかりだから、すぐに追いつくだろうけど、と彼女は女の荷物をさり気なく持ち、女を先導した。
 友人の気遣いに感謝し、彼女と共に食堂に向かうと、教室を出てすぐに他の友人たち五人に追いついた。

 どうやら会話が盛り上がり、歩みが遅くなっているようだ。
 
「これじゃあ、先に行ってもらった意味がないじゃないの」
 
 女の荷物を持った彼女が、隣でぶつくさと小声で愚痴をこぼす。
 女はその愚痴が聞こえなかった振りをして、そのまま集団に合流した。

 七人になった集団で食堂へ向かう。
 女は集団の一番後ろを歩き、隣には荷物を持ってくれている彼女が歩いていた。

(夢で見た光景と似ている……似てるけど、少し違う?)

 夢で見た友人たちとは、何人か顔ぶれが違っていた。

(違っているけど、夢で見たのはみんな知り合いだったし、夢なんてそんなものね)

 痛みの引かない頭を、なでるように押さえる。
 すると、前を歩いている友人が振り向いた。

「来週のゴールデンウィークに、みんなで旅行とかどうかな?」

 さっきもこの話で盛り上がってたんだよ、と楽しげに話してきた。

 女の頭に強い痛みが走る。
 夢と現実の差異、似ているのに確かに違う。
 その世界のズレが、女の中で歪みになり、痛みに変わっていく。
 
 女は思わず顔をしかめた。
 その反応に友人たちに緊張が走る。
 一瞬、沈黙が空間を支配した。
 
 すぐに女は自身の失態に気づく。

「ごめんなさい、まだ本調子ではないみたいなの。みんなは楽しんできてね」 

 だから私達のことは気にしなくていいわと、つけ入る隙もなく言い切る。

 その後、気まずげな友人たちと一緒に昼食を済ませた。
 
 そして、頭の痛みを診てもらうため、午後の講義を自主休校にし、女は病院へ向かった。


しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

腹黒宰相との白い結婚

恋愛
大嫌いな腹黒宰相ロイドと結婚する羽目になったランメリアは、条件をつきつけた――これは白い結婚であること。代わりに側妻を娶るも愛人を作るも好きにすればいい。そう決めたはずだったのだが、なぜか、周囲が全力で溝を埋めてくる。

婚約者を親友に盗られた上、獣人の国へ嫁がされることになったが、私は大の動物好きなのでその結婚先はご褒美でしかなかった

雪葉
恋愛
婚約者である第三王子を、美しい外見の親友に盗られたエリン。まぁ王子のことは好きでも何でもなかったし、政略結婚でしかなかったのでそれは良いとして。なんと彼らはエリンに「新しい縁談」を持ってきたという。その嫁ぎ先は“獣人”の住まう国、ジュード帝国だった。 人間からは野蛮で恐ろしいと蔑まれる獣人の国であるため、王子と親友の二人はほくそ笑みながらこの縁談を彼女に持ってきたのだが────。 「憧れの国に行けることになったわ!! なんて素晴らしい縁談なのかしら……!!」 エリンは嫌がるどころか、大喜びしていた。 なぜなら、彼女は無類の動物好きだったからである。 そんなこんなで憧れの帝国へ意気揚々と嫁ぎに行き、そこで暮らす獣人たちと仲良くなろうと働きかけまくるエリン。 いつも明るく元気な彼女を見た周りの獣人達や、新しい婚約者である皇弟殿下は、次第に彼女に対し好意を持つようになっていく。 動物を心底愛するが故、獣人であろうが何だろうがこよなく愛の対象になるちょっとポンコツ入ってる令嬢と、そんな彼女を見て溺愛するようになる、狼の獣人な婚約者の皇弟殿下のお話です。 ※他サイト様にも投稿しております。

嫌われ女騎士は塩対応だった堅物騎士様と蜜愛中! 愚者の花道

Canaan
恋愛
旧題:愚者の花道 周囲からの風当たりは強いが、逞しく生きている平民あがりの女騎士ヘザー。ある時、とんでもない痴態を高慢エリート男ヒューイに目撃されてしまう。しかも、新しい配属先には自分の上官としてそのヒューイがいた……。 女子力低い残念ヒロインが、超感じ悪い堅物男の調子をだんだん狂わせていくお話。 ※シリーズ「愚者たちの物語 その2」※

純白の牢獄

ゆる
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

誰もがその聖女はニセモノだと気づいたが、これでも本人はうまく騙せているつもり。

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・クズ聖女・ざまぁ系・溺愛系・ハピエン】 グルーバー公爵家のリーアンナは王太子の元婚約者。 「元」というのは、いきなり「聖女」が現れて王太子の婚約者が変更になったからだ。 リーアンナは絶望したけれど、しかしすぐに受け入れた。 気になる男性が現れたので。 そんなリーアンナが慎ましやかな日々を送っていたある日、リーアンナの気になる男性が王宮で刺されてしまう。 命は取り留めたものの、どうやらこの傷害事件には「聖女」が関わっているもよう。 できるだけ「聖女」とは関わりたくなかったリーアンナだったが、刺された彼が心配で居ても立っても居られない。 リーアンナは、これまで隠していた能力を使って事件を明らかにしていく。 しかし、事件に首を突っ込んだリーアンナは、事件解決のために幼馴染の公爵令息にむりやり婚約を結ばされてしまい――? クズ聖女を書きたくて、こんな話になりました(笑) いろいろゆるゆるかとは思いますが、よろしくお願いいたします! 他サイト様にも投稿しています。

婚約者の本性を暴こうとメイドになったら溺愛されました!

柿崎まつる
恋愛
世継ぎの王女アリスには完璧な婚約者がいる。侯爵家次男のグラシアンだ。容姿端麗・文武両道。名声を求めず、穏やかで他人に優しい。アリスにも紳士的に対応する。だが、完璧すぎる婚約者にかえって不信を覚えたアリスは、彼の本性を探るため侯爵家にメイドとして潜入する。2022eロマンスロイヤル大賞、コミック原作賞を受賞しました。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

処理中です...