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幸福の定義は人それぞれ
ウザ絡みは嫌われる
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「それで、休みなんだが」
「私は良いと思いますよ。今でなければ、閣下が纏まった休みを取るのは無理でしょうし、レン様も、アホ王子の相手をしなくとも済みます」
「あ~~。あいつかぁ。確かに、距離を置きたい相手だよな」
「本当に、何なんでしょうね。あんな自意識の塊で、周囲が見えていない人間を、私は初めて見ました。あそこまで自分勝手だと、逆に生きているのが、楽しくて仕方ないでしょうね」
「もう一人いるだろ。似たようなのが」
「そうだった。ゴトフリーの王子様もひでぇが、オズボーンの小倅も相当だよな」
実際の候補でもないこの二人が、アーノルドを廻り、諍いを続けていた。
この一点から見ても、エスカルとオレステスの二人が、政治も己の立場も理解していないことがよく判る。
自意識ばかりが肥大したアホな二人の諍いは、三文小説に出て来る様な、くだらない嫌がらせの応酬なのだが、その所為で、王配教育の講義が度々中断させられるという、他の候補者にとって、至極迷惑なものなのだ。
「謁見の時、持ってきた貢ぎ物も酷かったんだろ?」
「ああ。あそこまで相手の好みを無視した貢ぎ物も珍しい」
山と積まれた絢爛豪華な、貢ぎ物の数々。
一目で一級品と分かる物ばかりだったが、どれも派手派手しく、上品なものを好むレンが敬遠するものばかり。
中でも、金糸銀糸が織り込まれ、ジャラジャラと宝石が縫い付けられた衣装を見たレンは、冗談にしては手が混んでいる、と本気で呆れていた。
自己顕示欲を満たすためだけの貢ぎ物など、世界一で唯一の存在である愛し子を、冒涜したに等しい。
結果、貢ぎ物の扱いに困ったレンは、その全てを売り払い、その売却金は、貧民街の再建と、そこで暮らす者の達への支援に全て廻してしまった。
自国が用意した貢ぎ物を、売却されたと知らされたエスカルの激高ぶりは、フレイア経由でアーノルドに報告された。
実はこの売却は、商人を目指すフレイアが手筈を整えたのだが、それを知らない愚かなエスカルは、フレイア相手に帝国と、レンを罵倒する言葉の数々を、吐き散らしたのだそうだ。
他国の王子であるフレイアが、その場で舌を切り落としてやろうか、と思ったほどの暴言だったらしいが、帝国側には使い道が有るかも知れないと、思い留まった様だ。
折角気を使ってもらったが、エスカルの使い道など殆ど無い。
在るとすれば、タイミングよく処罰できるかどうかだけ。
それも、大した利用価値がある訳でもなく、その場で切り殺されたとしても、帝国側は痛くも痒くも無いのだ。
だが、その翌日には、何食わぬ顔で講義に現れ、マークとレンに対して、色目を使っていたとなれば話は別だ、エスカルの様な節操無しには、相応しい末路を用意してやらなければならない、と今の俺は考えている。
「すんげぇ悪い顔になってっけど、何考えてんだよ」
「どこぞの王子への罰は、何が良いかとな?」
「そりゃ、悪い顔にもなるわな。そこんとこは、オレも思う所が無い訳じゃないからな。あとで腰を据えて相談しようや。そんな事より、ちびっ子をどこに連れていくか、考えんのが先だろ?」
「・・・・良いのか?」
「良いも何も、しょうがねぇだろうが。なんだかんだで、オレ達全員、ちびっ子には甘いんだよ」
「ははは。確かにそうだ」
「どこに行くか迷って居られるのなら、アメリア領はいかがですか?」
「アメリア?ディータの実家の?」
「ええ、あそこなら海もありますし、一緒に商会を立ち上げる予定なのでしょう?アメリア伯爵に頼めば、良い宿を紹介してくれそうですが」
「なるほど、確かにいい考えだ。早速アメリア伯爵に手紙を出すことにしよう」
「相変わらずせっかちだな」
「ほっとけ」
ロロシュの憎まれ口を聞きながら、アメリア伯爵宛の手紙を認め、ミュラーにダンプティーを飛ばす様に頼んだ。
「そんで?休みは一週間でいいのか?」
「二週間だ」
「はあ?長すぎんだろ!」
「蜜月の旅行も中止になって、レンをガッカリさせてしまったからな。二週間でも短いだろう?」
「そりゃ、抱き潰した、あんたの自業自得じゃねぇか」
「ロロシュ、やめなさい。はしたない」
「でもよマーク」
マークに窘められても、不満そうなロロシュに、トドメのカードを切る事にした。
「いいか?俺とレンが旅行に行く間、マークは休みになるな?」
「だから何だよ」
「当然その間、マークは翡翠宮へ通う必要はないな?」
「あ・・・・」
「俺の休みが長ければ、マークがあのアホ達に、ちょっかいを掛けられる心配は無いのだが・・・そうか二週間は長すぎるか」
不貞腐れた顔で、ソファーにだらしなく腰かけていたロロシュが、ガバッと起き上がった。
「閣下2週間、ゆっくりお休みください!」
「快く送り出せても貰えるようで、俺も安心したよ」
「いえいえ。何なら一か月でも文句は言いません!」
揉み手をせんばかりに、掌を返したロロシュを、マークとミュラーは冷めた目で見ていたが、邪魔な雄を排除し、番を独占する為なら手段を択ばない。
実に獣人らしい対応で俺は満足だ。
ロロシュの熱い手の平返しで、宿が決まり次第、2週間の休みを取れることとなった。
あとは伯爵の返事を待ちながら、アメリア領の名物や、観光名所を調べるだけだ、と俺はホクホクしながら、マークと共に宮へ戻ったのだが、宮の前に見慣れぬ馬車が停まっていた。
「誰でしょう」
「来客の予定はなかった筈だな?」
嫌な予感を感じながら、馬車に近付くと、馬車の扉には紫水晶宮の紋が刻まれていた。
今、あの宮で馬車を利用できるのは、ゴトフリー、ウジュカ、タランの三国の王子達だけだ。
一瞬マークと目を見交わし、足を踏み出した処で、開け放した扉の中から、聞き覚えのある怒声が響いて来た。
「貴様!私が誰か知らぬのか!?ゴトフリー王国の第三王子エスカルだぞ!!今すぐ愛し子への目通りを取りつげ!!」
「貴方様が何方かなど、関係ありません。お約束がない以上、愛し子様への取次は出来かねると、何度も申し上げております」
「たかが侍従の分際で、生意気な!! 愛し子を呼べと言っているだろう!!」
その後、意味をなさない怒声と、もみ合う音が聞こえて来た。
どうやら業を煮やしたエスカルが、レンの部屋へ、押し入ろうとしているようだった。
「何事だっ!!」
ズガガーーーンッ!!
玄関ホールに入った俺の怒鳴り声と、魔法が炸裂する音が、同時に響いた。
階段下でエスカルを押し留めようとする、ローガンと、押し入ろうとするエスカルの直ぐ脇に、雷撃が落とされたのだ。
掴み合った姿勢で固まった二人の足元は、雷撃で焦げた絨毯と、絨毯の上を蛇のように這いまわる火花が見えた。
「この知れ者が!!」
ツカツカと二人に近付いた俺は、エスカルの襟を掴み、そのまま玄関の方へ放り投げた。
当たり所が悪かったのか、 ギャッ! とライムフロッグが潰されたような声を上げ、床に這い蹲ったエスカルから、アルコールの臭いが漂っている。
「アレク、お帰りなさい」
二階からの声を振り仰ぐと、セルジュを従えた俺の番が、ホールを見下ろせる手摺に寄り掛かり、ニッコリと微笑んでいた。
「大丈夫か?」
「はい。大丈夫です。でも、ウザ絡みしてくる酔っぱらいは嫌いなので、そこのお馬鹿さんは、宮から放り出してね」
そう言うとレンは、ひらひらと手を振って、部屋に戻ってしまった。
「メチャクチャ怒ってますね」
「怒ってるな」
さっきまでの楽しい気分が台無しだ。
今、レンから感じられるのは、激しい嫌悪感だけだ。
俺とマークは溜息を肺から絞り出し、後始末に取り掛かった。
エスカルを送ってきた御者は、事情聴取をするため、騎士団の詰所に連行。
腰を打ち歩けなくなったエスカルは、使用人に命じて馬車に無理やり押し込ませ、紫水晶宮へ強制送還した。
同時に事の次第を、アーノルドに知らせる使いを出し、紫水晶宮の侍従長にも、第二騎士団の詰め所へ来るよう、出頭命令を出した。
「私は良いと思いますよ。今でなければ、閣下が纏まった休みを取るのは無理でしょうし、レン様も、アホ王子の相手をしなくとも済みます」
「あ~~。あいつかぁ。確かに、距離を置きたい相手だよな」
「本当に、何なんでしょうね。あんな自意識の塊で、周囲が見えていない人間を、私は初めて見ました。あそこまで自分勝手だと、逆に生きているのが、楽しくて仕方ないでしょうね」
「もう一人いるだろ。似たようなのが」
「そうだった。ゴトフリーの王子様もひでぇが、オズボーンの小倅も相当だよな」
実際の候補でもないこの二人が、アーノルドを廻り、諍いを続けていた。
この一点から見ても、エスカルとオレステスの二人が、政治も己の立場も理解していないことがよく判る。
自意識ばかりが肥大したアホな二人の諍いは、三文小説に出て来る様な、くだらない嫌がらせの応酬なのだが、その所為で、王配教育の講義が度々中断させられるという、他の候補者にとって、至極迷惑なものなのだ。
「謁見の時、持ってきた貢ぎ物も酷かったんだろ?」
「ああ。あそこまで相手の好みを無視した貢ぎ物も珍しい」
山と積まれた絢爛豪華な、貢ぎ物の数々。
一目で一級品と分かる物ばかりだったが、どれも派手派手しく、上品なものを好むレンが敬遠するものばかり。
中でも、金糸銀糸が織り込まれ、ジャラジャラと宝石が縫い付けられた衣装を見たレンは、冗談にしては手が混んでいる、と本気で呆れていた。
自己顕示欲を満たすためだけの貢ぎ物など、世界一で唯一の存在である愛し子を、冒涜したに等しい。
結果、貢ぎ物の扱いに困ったレンは、その全てを売り払い、その売却金は、貧民街の再建と、そこで暮らす者の達への支援に全て廻してしまった。
自国が用意した貢ぎ物を、売却されたと知らされたエスカルの激高ぶりは、フレイア経由でアーノルドに報告された。
実はこの売却は、商人を目指すフレイアが手筈を整えたのだが、それを知らない愚かなエスカルは、フレイア相手に帝国と、レンを罵倒する言葉の数々を、吐き散らしたのだそうだ。
他国の王子であるフレイアが、その場で舌を切り落としてやろうか、と思ったほどの暴言だったらしいが、帝国側には使い道が有るかも知れないと、思い留まった様だ。
折角気を使ってもらったが、エスカルの使い道など殆ど無い。
在るとすれば、タイミングよく処罰できるかどうかだけ。
それも、大した利用価値がある訳でもなく、その場で切り殺されたとしても、帝国側は痛くも痒くも無いのだ。
だが、その翌日には、何食わぬ顔で講義に現れ、マークとレンに対して、色目を使っていたとなれば話は別だ、エスカルの様な節操無しには、相応しい末路を用意してやらなければならない、と今の俺は考えている。
「すんげぇ悪い顔になってっけど、何考えてんだよ」
「どこぞの王子への罰は、何が良いかとな?」
「そりゃ、悪い顔にもなるわな。そこんとこは、オレも思う所が無い訳じゃないからな。あとで腰を据えて相談しようや。そんな事より、ちびっ子をどこに連れていくか、考えんのが先だろ?」
「・・・・良いのか?」
「良いも何も、しょうがねぇだろうが。なんだかんだで、オレ達全員、ちびっ子には甘いんだよ」
「ははは。確かにそうだ」
「どこに行くか迷って居られるのなら、アメリア領はいかがですか?」
「アメリア?ディータの実家の?」
「ええ、あそこなら海もありますし、一緒に商会を立ち上げる予定なのでしょう?アメリア伯爵に頼めば、良い宿を紹介してくれそうですが」
「なるほど、確かにいい考えだ。早速アメリア伯爵に手紙を出すことにしよう」
「相変わらずせっかちだな」
「ほっとけ」
ロロシュの憎まれ口を聞きながら、アメリア伯爵宛の手紙を認め、ミュラーにダンプティーを飛ばす様に頼んだ。
「そんで?休みは一週間でいいのか?」
「二週間だ」
「はあ?長すぎんだろ!」
「蜜月の旅行も中止になって、レンをガッカリさせてしまったからな。二週間でも短いだろう?」
「そりゃ、抱き潰した、あんたの自業自得じゃねぇか」
「ロロシュ、やめなさい。はしたない」
「でもよマーク」
マークに窘められても、不満そうなロロシュに、トドメのカードを切る事にした。
「いいか?俺とレンが旅行に行く間、マークは休みになるな?」
「だから何だよ」
「当然その間、マークは翡翠宮へ通う必要はないな?」
「あ・・・・」
「俺の休みが長ければ、マークがあのアホ達に、ちょっかいを掛けられる心配は無いのだが・・・そうか二週間は長すぎるか」
不貞腐れた顔で、ソファーにだらしなく腰かけていたロロシュが、ガバッと起き上がった。
「閣下2週間、ゆっくりお休みください!」
「快く送り出せても貰えるようで、俺も安心したよ」
「いえいえ。何なら一か月でも文句は言いません!」
揉み手をせんばかりに、掌を返したロロシュを、マークとミュラーは冷めた目で見ていたが、邪魔な雄を排除し、番を独占する為なら手段を択ばない。
実に獣人らしい対応で俺は満足だ。
ロロシュの熱い手の平返しで、宿が決まり次第、2週間の休みを取れることとなった。
あとは伯爵の返事を待ちながら、アメリア領の名物や、観光名所を調べるだけだ、と俺はホクホクしながら、マークと共に宮へ戻ったのだが、宮の前に見慣れぬ馬車が停まっていた。
「誰でしょう」
「来客の予定はなかった筈だな?」
嫌な予感を感じながら、馬車に近付くと、馬車の扉には紫水晶宮の紋が刻まれていた。
今、あの宮で馬車を利用できるのは、ゴトフリー、ウジュカ、タランの三国の王子達だけだ。
一瞬マークと目を見交わし、足を踏み出した処で、開け放した扉の中から、聞き覚えのある怒声が響いて来た。
「貴様!私が誰か知らぬのか!?ゴトフリー王国の第三王子エスカルだぞ!!今すぐ愛し子への目通りを取りつげ!!」
「貴方様が何方かなど、関係ありません。お約束がない以上、愛し子様への取次は出来かねると、何度も申し上げております」
「たかが侍従の分際で、生意気な!! 愛し子を呼べと言っているだろう!!」
その後、意味をなさない怒声と、もみ合う音が聞こえて来た。
どうやら業を煮やしたエスカルが、レンの部屋へ、押し入ろうとしているようだった。
「何事だっ!!」
ズガガーーーンッ!!
玄関ホールに入った俺の怒鳴り声と、魔法が炸裂する音が、同時に響いた。
階段下でエスカルを押し留めようとする、ローガンと、押し入ろうとするエスカルの直ぐ脇に、雷撃が落とされたのだ。
掴み合った姿勢で固まった二人の足元は、雷撃で焦げた絨毯と、絨毯の上を蛇のように這いまわる火花が見えた。
「この知れ者が!!」
ツカツカと二人に近付いた俺は、エスカルの襟を掴み、そのまま玄関の方へ放り投げた。
当たり所が悪かったのか、 ギャッ! とライムフロッグが潰されたような声を上げ、床に這い蹲ったエスカルから、アルコールの臭いが漂っている。
「アレク、お帰りなさい」
二階からの声を振り仰ぐと、セルジュを従えた俺の番が、ホールを見下ろせる手摺に寄り掛かり、ニッコリと微笑んでいた。
「大丈夫か?」
「はい。大丈夫です。でも、ウザ絡みしてくる酔っぱらいは嫌いなので、そこのお馬鹿さんは、宮から放り出してね」
そう言うとレンは、ひらひらと手を振って、部屋に戻ってしまった。
「メチャクチャ怒ってますね」
「怒ってるな」
さっきまでの楽しい気分が台無しだ。
今、レンから感じられるのは、激しい嫌悪感だけだ。
俺とマークは溜息を肺から絞り出し、後始末に取り掛かった。
エスカルを送ってきた御者は、事情聴取をするため、騎士団の詰所に連行。
腰を打ち歩けなくなったエスカルは、使用人に命じて馬車に無理やり押し込ませ、紫水晶宮へ強制送還した。
同時に事の次第を、アーノルドに知らせる使いを出し、紫水晶宮の侍従長にも、第二騎士団の詰め所へ来るよう、出頭命令を出した。
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