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幸福の定義は人それぞれ

リフレッシュ休暇を頂きたい

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「もうすぐ夏ですねぇ~」

「あぁ、日差しが強くなったな」

「去年は忙しくて、気にする暇もありませんでしたけど、帝国での夏季休暇ってどうなってるの?」

「かききゅうか?・・・・休みの事か?」

「あれ?帝国には夏休みって無いの?」

「夏だから、と言う理由の休みはないな」

「そっか、じゃあ、夏祭りってある?」

「祭り? 秋の収穫祭までは無いぞ」

「そっか、ないんだ・・・・」

 おや? しょんぼりしてしまったぞ。
 どうしたんだ?
 
「花火って知ってる?」

「はなび?」

「あっ・・・ないのね」

「どうした?夏に何かあるのか?」

「ん~~~。大したことじゃないので、気にしないでください」

 いや、大したことあるだろう?
 盛大に溜息を吐いているじゃないか。

「レン、少し話をしよう」

「ん? うわっ!!」

 レンの体を引き寄せ肩に担ぎ上げると、魔法を発動中だったレンの手から、魔力の塊があらぬ方向へ飛んで行ったが、まあ、問題はないだろう。

「ちょっと、アレク!危ないでしょ?!」

 肩の上でジタバタと暴れる番を連れ、移動した木陰で膝の上に抱え直し、視線を合わせた。

「もう。急にどうしたの?」

「それはこっちのセリフだ。俺達の加護を忘れたのか?君から物凄くがっかりした気分が伝わって来るのだが?」

「あ・・・・」

「俺達の間に、隠し事は無いのだろう?」

 ばつが悪そうに俯く顎を指ですくって上を向かせると、銀の虹彩が煌めく瞳がうろうろと彷徨い、やがて観念したように瞼が閉じられた。

「ごめんなさい。降参です」

「では、何を気にしているのだ?」

「子供っぽいって、笑わないでね?」

 そう前置きしレンが語ったのは、夏に行われる故郷の風習についてだった。

 レンの故郷では、夏に休暇を取り、旅行や避暑に出かけるのが楽しみの一つなのだそうだ。
 
 その他にも、海や川で泳いだり、山に遊びに行ったり、先祖の霊を慰める為の風習や、全国各地で祭りが行われ、夜空に打ち上げられた、火の花を観賞する催し物も、夏場に開催されることが多かったのだそうだ。

「一昨年までは、ヤベちゃんとコミケとか旅行とか、あとフェスにも行ったりしてたから…こっちでもそういうイベントがあったらいいなぁって・・・こっちだと海とか川で、泳いだり遊んだりは、魔物が出るから出来ないみたいだし。遠征以外で、アレクとお出掛けした事も、ほとんどないし・・・」

 そうだった、蜜月の旅行も中止になり、プロポーズの時に約束した、街歩きにさえ、忙しさに感けて連れて行けていない。

 いくら忙しかったとは言っても、約束一つ守れず、番に悲しい思いをさせてしまうとは、一生の不覚だ。

「レンは泳ぎたいから、この池を造っていたのか?」

「池じゃなくてプールね。暑くなったら泳ぎたくなりませんか?」

「考えたことが無かったな」

「ほぇ? アレク泳げないの?」

「いや、泳げるぞ。騎士は何処で戦闘になるか分からないからな、見習い時代に泳ぎの鍛錬があった」

「あぁ、そっち系なんですね・・・やっぱり娯楽ではないのかぁ」

 なぜか分からんが、更にがっかりされてしまった。

 これはまずい。
 俺はレンの笑顔が見たいのであって、悲しませたいわけじゃない。

「あ~。実はな驚かせようと思って黙っていたのだが、近いうちに休みを取ろうと思っていたのだ」

「?! ほんとに?!」

「嘘をついてどうする」

 嘘なんだが。

 レンと一緒に過ごしたい気持ちは本当だから、加護の力でも嘘とは、ばれないよな?

「お休みの間、どこかにお出掛けする? それともお家でのんびりする?」

 ・・・・・うぅ・・・可愛い。
 こんなに喜ぶなんて。

 何故もっと早く、出かける算段をしておかなかったのだ。

 俺は本当にポンコツだ。

「・・・出掛けようと思っている」

「すご~い!! どこ行くの? 海?山?それとも湖とか?」

「それは、当日までのお楽しみ、内緒だ」

「教えてくれないの?」

 クウゥーーーー。
 教えないのではなく、教えたくとも教えられないのだ。

 今思いついたばかりで、何も決まっていないのだからな。
 
 だから、そのあざとい顔はやめてくれ。
 罪悪感で死にそうだ。

「レンの国の言葉で何と言ったか・・・さ・・・さぷらいず、と言ったか?」

「サプライズですね!! じゃあ、もう黙ってます、当日までは、お口チャックです」

 そう言ってレンは、唇の前で何かを引っ張る仕草をして、口を閉じた。

 まったく疑う事の無い、ニコニコとした笑顔が眩しすぎて、目が潰れてしまいそうだ。

「・・・レンは、まだ作業を続けるのか?」

「講義まで、まだ時間があるから、もうちょっと、やっておこうかな」

「じゃあ俺は先に戻る」

「あれ?今日はゆっくりでいいって・・・」

「ミュラーに頼まれていた急ぎの書類を忘れていた」

「大変。それじゃあ急がなきゃ」

「すまんな。ノワール、クオン。後は頼んだぞ」

「りょうかい」

「うけたまわりました」

 木陰から出て来た二匹のドラゴンにレンを頼み、その場を離れた。

 そして、レンから見えない処迄離れると、俺は騎士団の詰め所に向かい、全力で駆け出した。

 この時間なら、ミュラーとロロシュは、まだ詰め所に居るはずだ。
 もしかしたらマークも居るかもしれない。

 3人を捕まえ、早急に休みの調整と、どこに行くかを決めなければ。

 ◇◇◇

「あんたバカなんじゃねぇの?!」

「うるさい!! お前は冬の間ずっと寝てただろうが!!その間の仕事を誰が熟したと思っている?!」

 俺が詰め所に駆け込むと、3人はちょうど出仕して来た処だった。

 3人は、俺の必死の形相を見て、何事か!と身構えていたが、俺が事の次第を話すと、間髪入れずにロロシュが嚙みついて来たのだ。

「確かに、オレは冬眠したけどよ。そういう問題じゃねえだろ。ゴトフリーはきな臭えし、オズボーンの包囲も終わって、後は尻尾を出すのを待つだけなんだぞ?」

「そんなことは分かっている。だから相談しているのだろうが!」

 角突き合わす俺とロロシュに、マークとミュラーは苦笑を浮かべている。

「普段我儘も、おねだりもしないレンが、旅行に行きたいと言ったんだ。連れて行ってやるのが俺の務めだろ?」

「オレだって、ちびっ子を旅行に連れて行くのは賛成だ。あんだけ頑張ってんだ、偶には息抜きも必要だろうさ。だがよ、時期が悪いだろ?」

「では、いつなら良いのだ? 事が起こったら、休みなど取れんだろう?」

「そりゃあ、そうだけどよ。もっと計画性をもってだな」

 ロロシュの勢いが、若干衰えたところで、ミュラーが仲裁に入って来た。

「まあまあ、お二人ともお茶を入れましたから、落ち着いて話しましょう」

「それで、閣下はどちらにレン様を連れて行って差し上げるつもりなのですか?」

 カップを鷲掴みにして茶を啜るロロシュの隣で、優雅にカップを摘まむマークが聞いて来た。
 
 こうして行き先を尋ねると云う事は、マークの中では、レンが望んだ段階で全ての事が、決定事項なのかもしれない。

「まだ決めていない。だが、レンの故郷では、夏になると海や川で遊ぶことが普通の事らしくてな? しかしヴィースでは、魔物が出るから、そんなことは出来んだろ?そうしたら、レンは今、ぷーると言っていたが、とにかく宮の庭に、泳ぐための池を造っているのだ。だから、海の近くが良いと思う」

「はあ? ちびっ子泳げんのかよ?」

「泳げるようだぞ?暑くなった泳ぎたくなると言っていたからな」

「ふ~~ん。こっちじゃ泳げる奴の方が少ねぇのによ。異界ってのは、どうなってんのかねぇ?」

 確かに気になるところではある。
 しかし、今重要なのは、休みを捥ぎ取る事と、旅行をどこにするかだ。

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