獣人騎士団長の愛は、重くて甘い

こむぎダック

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幸福の定義は人それぞれ

誰にもでも事情はある

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「ディータ。今のうちに言っておくが、レンが作る魔道具は凄いぞ。どれも世に出したら、大流行間違いなしの一品ばかりだ」

「本当ですかぁ?」

 ディータは、半信半疑な表情をしているが、事実だ。

「本当だ。今皇家の管理下にある物の特許料だけでも、城の一つ二つは建てられる」

「えっ!!」

「ふぁ?!」

「うそっ!!」

「って、なんでレン様まで驚いているのですか?!」

「だって、知らなかったから」

「えぇ~~~!?」

「自分の稼ぎなのに~?!」

 呆れた顔をするディータとテイモンに、俺は頷いて見せた。

「なっ? 俺の番は、こういう浮世離れした処があるのだ。それ故、レンの作り出した物を扱う相手は、信用できる者を選ばなければならない、と俺は考えている」

「はあ~~。閣下の仰る通りだと思います。まさかレン様に、こんな弱点があるとは思いませんでした」

「そこがレンの美徳だと思っているから、弱点とは言い切れんな。だが、レンと商売をするなら、王配の執務の片手間と言う訳にはいかんぞ?」

 俺の言葉を受け、ディータとテイモンは互いの顔を見交わし一つ頷いてから、俺にニッカリとした笑顔を向けた。

「閣下のご懸念は尤もです。でもご心配には及びません。僕とテイモンは最初から、王配の座を望んではいませんから」

「望んでいない?」

「はい、王配になりたいと思ったことはありません」

「・・・俺の弟は、魅力に欠けると?」

 醜男の僻み根性だろうか、聞いても意味がないと分かっていながら、聞かずにはいられなかった。

 自慢の弟が、俺と同じ様に敬遠されるなど、在ってはならない由々しき事態だ。

「そんな!殿下はとても魅力的なお方です!」

「アレク? そういう意味じゃないって分かってて、若い子を困らせたら駄目でしょ?」

「・・・そうだな。今のは大人気なかったな」

 テイモンとディータは、居心地悪そうに互いの目を見て、視線だけで会話しているようだった。

「あの・・・・そもそも僕らは・・・・本当の王配候補ではないんです」

「へぇ?」

 小さくつぶやいたテイモンに、レンは素っ頓狂な声を上げ、俺は目を見開いた。

 ディータが語ったところによると、ある日アルメリア家にロイド様からの手紙が届いた。
 手紙には、候補者の人数合わせに、協力して欲しい、との要請が書かれて居たそうだ。

 アメリア家は由緒ある家柄だが、没落寸前からの復活で、多くの貴族から成金と蔑まれ、社交界での地位が底辺に堕ちていた。

 このままでは、ディータの婚姻相手を探すことも難しい、と頭を抱えていた処に ”王配候補の振りをして欲しい” と皇太后から直々に要請が来たのだ。

 手紙には、断っても罪には問わないとの文言も合ったそうなのだが、例え振りであっても、王配候補として選ばれた実績があれば、今後ディータが伴侶選びで困る事は無い。

 加えて、社交界の地位も取り戻すことが出来る。
 まさに一石二鳥。

 アメリア商会の、取引の幅が広がる事を考えれば、一石三鳥。
 断る理由はなかった。

「家の事は別にして、僕も最初はどうしようか迷いもしたのです。でも、伯爵家では望めないような教育を、ただで受けさせてもらえると思ったら、断るのが勿体なくなってしまって」

「そうだったのか・・・」

「テイモンも同じでしょ?」

「うん・・・・候補の振りは一緒です・・でも僕はちょっと事情が違っていて・・・」

「え? そうだったの?僕はてっきり同じような手紙が来たんだと、思っていたよ」

「うん。多分、閣下とレン様には分かると思う」

 それっきりテイモンは、口を開か無いまま、二人は宮を後にした。

 テイモンは長い間、オレステスの子分の様に言われて来た。
 そのオレステスは、王配候補とは名ばかりの監視対象だ。

 となれば、テイモンが王配候補の中に入れられたのは、オレステスかオズボーン伯爵絡みなのだろう。

 このあたりの事は、ロイド様に聞いても、言を左右に、本当の事を教えては貰えないでいる。

 皇太后曰く、"知りたければ自分で調べろ" だそうだ。

 まぁ、オズボーン伯爵に関する事は全て分かっているし、対応策も配備も済んでいる。

 巻き込まれて来たテイモンやグレコ伯爵からすれば、いい迷惑だろうし、王配候補の地位だけでは、褒賞として少なすぎると感じるが、グレコ伯爵に関して、俺はノータッチ。

 あとはロイド様の良識を信じるしかない。

「そう言えば、オレステスの様子をレンから聞いた事は無かったな」

「えっ? まあ、そうかも」

「なんだ、やはり苦手か?」

「そうですねぇ・・・彼方で私は、陰キャ喪女でしたから、彼の様なカーストのトップに君臨している、ビッチなパリピは苦手です」

「・・・・・」

 どうしよう。
 レンが話していることが全く分からない。
 苦手だって事が分かればいいのか?

「でも一応、王配候補として、お勉強は頑張っているらしいです。ただね、基礎が出来ていないようで、講義の半分も、理解出来ていないみたいですよ?」

 なんとなく、目に浮かぶな。

「シエルとリアンはどうだ?」

「あの二人は申し分ないと思います。基礎もしっかりしているから、覚えも早いですし、辺境を守護する侯爵家の御子息ですから、腕に覚えもあるようです」

「だろうな。だがシエルはともかく、リアンに剣は似合わんな」

「ですよね。リアンは弓とレイピアが得意らしいです」

「ふむ。体格にあった得物を選択したのか。やはり賢いな」

「体格にあった武器を選ぶのは、大事ですよね」

「まあ、基本ではあるな。ディータは双剣を持っていたな、テイモンは普通に剣を選んだのか?」

「いえ、テイモンは鞭が得意なんです」

「鞭?一本鞭の事か? あれは扱いが難しいだろ?」

「怖いから、相手に近付きたくないのですって。でも弓だと矢が無くなったら、身を守れないから、鞭にしたそうですよ?」

「あぁ、そういう・・・なら仕方ないか」

「鞭だって当たれば痛いですし、テイモンの腕は良かったです。遠くの的にも、綺麗に当てて居ましたから」

 腕は良くとも、鞭は剣で切り落とされれば無力だ。

 だが、まぁ、騎士でもない伯爵家の三男が、前線に出る事はまずないだろうから、問題ないか。

「レンは、刀以外の武器を使った事は無いのか?」

「ありますよ。和弓と薙刀を齧った程度ですけど」

「わきゅう、なぎなた?」

「和弓は長さが2m・・2ミーロくらいの弓で扱いが難しいのです。薙刀は槍と同じくらいの長さで、穂の部分に刀が付いている武器ですね。両方とも祖母が得意にしてて、淑女の嗜みだからって、お茶とお花のお稽古と同じくらい教わりました」

「レンの国では、茶を飲んだり花を見るのに、稽古が必要なのか?」

「うーん。私の国はちょっと特殊だって話しましたよね?好きが高じて、その道を究めようとする人が多いのですよ。だから色んな流派があるのですけど、祖父も祖母も、何々流と言う流派には属してなくて、ほとんど我流でしたね。因みにお花のお稽古は、見るのではなく、活け方のお稽古です」

「なるほど・・・・」

 文化の違いと言っても、ちょっと理解出来んな。

「お茶とお花は、道具さえあれば直ぐに出来るので、一度体験してみますか?」

「いいのか?」

「せっかくお休みなんだし、抹茶は、この前のお茶会で使ったのがありますから」

「面白そうだ。是非頼む」

 翌日の午後、さっそくレンの言う、お茶とお花を体験させて貰った。

 茶は美味かったし、決まった作法があるのも興味深かった。
 生まれて初めて、花を活けるのも楽しかった。

 まあ、出来栄えは・・・それなりだ。

 ただ・・・足の痺れだけは・・・な。

 次回からは、椅子に座って出来ないものだろうか。
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