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幸福の定義は人それぞれ

春の繁忙期

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 夜会から二か月近くの間、俺とレンは討伐と浄化の遠征を繰り返すことになった。

 夜会の席で、候補者達をレンが招待するとは言ったが、忙しさに感け、それも出来ないでいる。

 しかし候補者との交流は、王配選定に欠かすことが出来ない。

 よって、忙しい合間を縫い皇太后ロイド様主催の茶会に参席し、候補者達との交流を深めている最中だ。

 この茶会には、俺とアーノルドが同席することもあれば、レンだけが参席する場合もある。

 候補者の選定が重要なのは分かるが、2か月の間に4度も茶会に参席するとなると、俺は良くても、浄化で疲れているレンへの負担が大きすぎる。

 遠征が続けば、浄化やアミュレットに使用する魔晶石やクリスタルへの付与もしなければならない。

 働き詰めのレンを見ていると、いつか倒れてしまうのではないかと心配になる。

 魔力経路を損傷してしまった経緯から、遠征からの帰還に合わせ、毎回パフォスの検診をレンに受けさせることを義務付けた。

 この手筈を整えたのは、正解だったと言える。

 病の治癒と水源の浄化で疲弊していたレンは、パフォスから茶会への参席を止められたことが有る。

 困ったことにレンは自身の健康に無頓着なところがあり、この時もパフォスに止められなければ、無理を押して茶会に参席し、倒れてしまっていたかもしれない。

 レンが書いた茶会欠席の詫び状を、俺が直接ロイド様へ持って行った。

 ロイド様への目通りが許された俺は、レンの詫び状を渡し、改めて討伐と浄化における、レンの存在の重要性と、その働きがレンに掛ける負担について説明した。

 話を聞いたロイド様は、レンの活躍は聞いていたが、本当の所を全く理解していなかった。レンに申し訳ない事をしたと、頭を下げてくれた。

「レン様がそこまでご自分を犠牲にしてくれて居ただなんて、思っていませんでした。何故もっと早く話してくれなかったのですか?」

「レンの能力については、秘匿事項となって居る物が多い。浄化や治癒の能力に関しては、一般人の目に触れるため隠しようがないが、それ以外の能力については、第二騎士団全員と、他の騎士団でも、レンと行動を共にする場合、目にしたレンの能力について他言しないという、魔法契約にサインさせている」

「そこまで・・・」

「それでも足りないくらいだ。俺との婚姻前は、レンを誘拐しようとする間者は、絶えたことが無い。レンの能力を知らずとも、神の恩寵の印である、レンを欲しがる奴らは、腐るほど居るのですよ。そんな奴らがレンの本当の能力を知ったら、どうなると思いますか?」

「そうだったのですね・・・私は何も知らずに」

「秘匿されているのですから、知らなくて当然です。それとレンには一切伝えていないのですが、レンに対し誘拐を含め、危害を加えようとした者は、全て内々で処理しております。ウジュカとゴトフリーについては、ウィリアムが交渉材料として利用しました」

「ウジュカとゴトフリーまで・・・・」

「今回の使節団についても、レンに手出しするようなら容赦はしません。俺は国の恨みより、神の怒りの方が恐ろしいので」

「確かに・・・そうですね」

「アーノルドにはウィリアムが亡くなった後、全てを話しておりますが、ロイド様にも、知っておいて頂きたい事が有ります」

 ここでロイド様は、改めて扇を閉じ、居住まいを正した。

「レンはアウラ神とも直接話すことが出来ます。そして神の庭に何度も招かれ、クレイオスとアウラはレンを我が子として扱っている。レンを守る事は、世界を守る事と同義だと御考え頂きたい」

「愛し子とは、名ばかりではない、と云う事ですね?」

「仰る通りです」

「貴方が・・・・レン様に過保護なのはその所為?」

「いえ。レンは俺の番ですから。番を甘やかすのは、伴侶の特権です」

「ぷっ!うふふふ。それを聞いて安心しました。今の話し肝に銘じましょう」

 俺は大真面目に答えたのだが、何が面白かったのだろうか?

「それと、一つ質問があります」

 笑いを納め、ロイド様の顔が引き締まった。

「貴方が聞きたいのは、オズボーンの事でしょう?」

「はい。何故オレステスが候補に残っているのか理解できません」

「でしょうね。あれは候補ではありませんから」

 吐き捨てるように言った、皇太后の目は氷より冷たかった。

「・・・・・では、手元に置いて置くのは、監視の為ですか?」

「ふふ。察しのいい子は好きですよ?」

「レンに言われて、オズボーン家を調べさせました。随分舐めた真似をしていますね?」

「えっ?えぇ、その通りだけど・・・・レン様は天才なの?」

 レンの洞察力を前にすると、皆同じような反応を見せる。
 俺の番は天才だから、当然だ。

「レンは、女の勘だと言っていました。オレステスの事も、初見で男癖の悪い性悪だと」

「流石は愛し子、と云う事かしら?貴方の調査能力もね?まとめて叩き潰す、良い方法が見つかったら教えてくれる?」

「御意。ゴトフリー、ウジュカ、タラン、この三国については何かあれば直ぐに動けるよう手を打ってあります」

「タランも?」

 タランと聞いてロイド様は意外そうな顔をした。
 ロイド様の烏は、まだまだ練度が足りていないようだ。

「一両日中に、タランから使節団受け入れの申請があると思います。その代表は第二皇子のフレイアです」

「・・・あなたに継承権が無いのが、本当に残念です」

「身に余るお言葉ですね」

「私は本気ですよ?」
 
「俺は玉座に興味は有りません。俺の夢は、一日でも早く、レンと隠居生活に入る事なんですよ」

この日の謁見は、ロイド様はから呆れ切った目を向けられて終了となった。

 そんなやり取りの後も、討伐と浄化の遠征は続いた。

 春の繁忙期と言ったら、しっくりくるだろうか。

 春になり、根雪が溶けると薬草や食材を求め、森や山に入る人間が増える。

 しかし其処で、冬の間餌を求め人里近くまで降りて来ていた、魔物と出くわし襲われる被害が急増する。

 それに加え、池や川に張った氷が解けると、水の穢れにより、病に罹る者も急増。

 それでも、ヴァラクの呪具が無くなった分、昨年よりは数が減ってはいるのだ。

 ただ、昨年の俺達は、呪具の浄化とヴァラクに掛かり切りで、こういった地道な討伐は、ミュラーや他の将校達に任せっぱなしだった。

 穢れによる病も、原因が瘴気によるものだと分かるまでは、一種の流行り病か風土病だと思われていたのだ。

 徐々に死に至る病だと、多くの者達が諦めていたが、レンのお陰で一命を取り留める事が出来たのだ。

 しかし、穢れの原因である呪具は破壊した。
 瘴気溜まりになって居た泉や池も浄化した。

 それでも水の穢れが消えないのは、長年に渡り、生み出され続けた瘴気が、どこか人目の届かない場所に、溜まって居るからなのではないか?

 この穢れの本を浄化できなければ、今後も魔物は湧くし、病に罹る者は減らないのではないか?

 この考えに、レンとクレイオスも同意していた。

 ただ二人とも、穢れの溜まった場所を、直接浄化出来ないかもしれないが、それほど神経質になる必要はないと言う。

『瘴気は、もとからこの世界にあったもの故、ヴァラクの様に、故意に瘴気を生み出すものが居なければ、放って置いても、自然の中に溶けて消えていくだろう』

「それに、雪解けで水量が増えれば、流されて薄まっていくと思います。年月は掛かるかもしれませんが、ため池や井戸などの、生活用水の水源を浄化して、定期的に祝福と浄化を付与した魔晶石とクリスタルを入れておけば、病気になる人は減らせると思います」

『うんうん。レンの言う通り。我の子は賢いな』

 クレイオスは幼子を褒めるように、レンの頭を撫でている。

 レンに ”嫌い” と言われ、魅了と共感の加護を ”いらない” と突っぱねられたクレイオスは、この処、レンのご機嫌取りに必死なのだ。
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