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幸福の定義は人それぞれ

友達を作るのも一苦労

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「ところで、ジェイドに難癖をつけた奴を見つけた。今は逃げられないよう、うちの者と近衛が囲みを作っているのだが、念の為ジェイドにも確認して貰いたい」

「ジェイドさん、無理はしなくていいですからね?」

 顔をこわばらせるジェイドにレンが声をかけ、リアンが肩を抱き寄せた。

「だ・・・大丈夫・・・です」

「レンの言う通り、無理はしなくていい。今はオズボーン伯爵の傍に立っているのだが、金色の派手なジュストコールを着た令息の傍だ。何気ない振りで、視線を止めるなよ?」

「はい・・・」

 息を詰めぎこちなく首を廻らせたジェイドは、犯人を目にすると "ヒック!” と喉を鳴らし、俯いてしまった。

「・・・あの人です」

 よほど怖い思いをしたのだろう、俯いた肩が震えている。 

「頑張りましたね。偉いわ」

 レンに励まされコクコクと頷く、少年を横目に、俺はマークへ指で合図を送ると、合図を受けたマークは、近くの近衛に合図を送り、犯人への囲みが静かに狭まった。

「お見事ですな」

「このくらいは当然だろう」

 第一騎士団の補充はまだ終わっていないが、近衛騎士はアーノルドと上皇夫夫の安全確保の為に、最優先で選定を進めた。

 ”見目が良い者” という縛りがある中で、まずまず満足のいく人員を確保できたと思う。

 第一騎士団は、貴族を相手にする事案が多い。

 団長の席に座らせるなら、それなりの位階の者でないと、貴族に舐められる。

 しかし、今の侯爵家で騎士団に席を置く者はロロシュ一人。

 ロロシュを団長に押すには、経験が足りなさすぎる。

 何より本人の性格を考えると・・・・・。

 うん、無理だな。

 位階だけが高く、経験のないお飾りの団長を置くつもりは、俺にはない。

 今後、皇太后や皇帝に即位したアーノルドが、政治的取引の材料にする可能性はあるが、現状では、力の無いものを選ぶことはないだろう。

 そうなると、副団長のバルドをそのまま繰り上げる事が、一番妥当ではある。

 バルド家は新興貴族の部類に入るが、伯爵に叙爵はされて居る。

 それに母上の所為で、随分と苦労を掛けたからな、推薦するには良い頃合いだろう。

 社交と全く関係ない事を考えている間、レンは頑張って侯爵とリアンの相手をしてくれていた。

 レンに頼りきりでは申し訳ないと、気を引き締め直した。

「そう言えば、アーノルドさんとリアンさんはどうして一緒に中庭に来たの?」

「別に大したことではありませんよ? 兄上の後を追ってホールから出たら、ジェイドを探していたリアンと出くわしただけです」

「へぇ~。そうなんだぁ。ふ~ん」

 意味深なレンの態度に、アーノルドとリアンは揃って頬を染めた。

「ちょっと、レン様!揶揄うのやめて下さい!」

 レンに揶揄われてムキになるとは、アーノルドも年相応な反応をすることもあるのだな。

「揶揄ったりしてませんよ?私は弟君のお友達が、どんな人なのか気になっただけだし、騎士団の方たち以外は、あまり知り合いもいないから、私もお友達になれたら嬉しいなぁ、と思っただけですよ?」

「レン様・・・最近兄上に似て来てませんか?」

「そう? やっぱり番だからかしら?」

なぜ嬉しそうなんだ?
理解はできないが、可愛いから許す。

 こんな可愛いレンが、俺のような可愛げのない雄に似るのは困るな。

「もういいです。僕は今、弟と呼ばれてとても気分がいいので、僕の知り合いを紹介します」

「ふふ。ありがとう」

 うーむ。
 リアンに警戒心を持たせずに、候補者を紹介させる流れを自然に作ったな。

 見事だ。

「改めて、こちらは東の辺境を守る、オーベルシュタイン侯爵と次男のリアン・オーベルシュタインです」

 アーノルドの紹介を受け、侯爵とリアン、ジェイドの三人は綺麗な礼を取った。

「東の辺境を任されております、ハイドリッヒ・オーベルシュタインと申します。愛し子様への拝謁が叶い望外の極みにございます」

「オーベルシュタインが次男、リアンと申します。クロムウェル大公閣下と愛し子様には、こちらのジェイド・バーリンとサムエル・バーリンへお心を砕いていただきました事、お礼申し上げます。どうか私共の事はリアンとジェイドとお呼びください」

「ご丁寧に傷み入ります。私の事はレンとお呼びくださいね」

 レンの気さくな返事に、よほど驚いたのだろう、リアンは困惑の表情で伏せていた顔を上げた。

「そんな、神の恩寵である愛し子様のお名前をお呼びするなど、恐れ多い」

 助けを求めるように、リアンは俺に視線を向けて来た。

「心配せんでも、不敬罪にはならんよ。レンは気に入った者にしか名を名乗らん、うちの副団長には家名しか名乗らなかった」

「副団長と言いますと、メリオネス侯爵家の?」

 困惑の色を濃くするリアンに、レンは苦笑いだ。

「ロロシュさんは良い人なのですけど、色々あって・・・でも今は私の事をちびっ子って呼ぶんですよ?」

「ちびっ子・・・ですか?」

 困惑の中に、ロロシュに対する非難の色が見える。

 確かに、ちびっ子呼ばわりは失礼すぎる。
 だが、相手はロロシュだからな・・・・仕方がないよな。

「そうなの。だから気にしないで、レンと呼んでくださいね?」

「分かりました。ではレン様とお呼びいたします」

「ジェイドもよ?分かった?」

「えっ? はっはい!」

「じゃあ、これで私達はお友達ね?今日はたくさんお友達が出来そうで嬉しいです」

福々と満足気に笑うレンに、アーノルドも嬉しそうだ。

「レン様が喜んでくれて僕も嬉しいです。でもあまり友達を増やすと、兄上が嫉妬するので程々に」

「おい!余計な事を言うな」

「ほらね。兄上が甘いのはレン様にだけなんだ」

 やれやれ、と肩を竦めて見せる弟が小憎らしい。

 不毛な争いをする、俺とアーノルドをレン達が生温い目で見ている。

「ほらほら、喧嘩しない。アーノルドさんに話しかけたそうな人達が、沢山こっちを見てますよ?あの人たちに捕まったら長そうだから、今のうちにリアンと踊ってきたら?」

「えっ? あ・・・本当だ。あの中に僕が紹介したい人はいなさそうだ。では、オーベルシュタイン令息、一曲いかがですか?」

「皇太子殿下。喜んでお受けいたします」

 ニッコリと微笑み合った二人は、アーノルドのエスコートで、ダンスホールへと出て行き、残された侯爵とジェイドも、挨拶回りがあるから御前失礼と辞していった。
 
「リアンは良い子ですね」

「そうだな、礼儀もしっかりしているし、余計な事を口にしない賢さもありそうだ」

「それに二人は良い感じだし、当たりを引いた気分です」

「当たりか?」

「多分・・・ジェイドはオーベルシュタイン家の傍系だそうです。お父様を早くに亡くして、お母様と二人で領地を守ってきて、デビュタントも諦めていたのだそうです」

「そうか」

「でもリアンが、今後社交をしなくても、デビュタントは一生の思い出になるからって、衣装の用意もしてあげて、皇都にも一緒に来たそうなんです。リアンは周りを思いやれる良い子です。それなのに、あんなことになって・・・ジェイドみたいな若い子を怖がらせるなんて、犯人は高位貴族の癖に、やっていい事と悪い事の区別もつかないのでしょうか」

 高位貴族だからこそ、では有るのだがな。

 レンの様に正義感の強い人には、理解し難いだろうな。

「さあな・・・ちょうど捕縛するようだぞ?」

「今ですか?・・・・あっほんとだ」

 グラスを片手にニヤニヤと厭らしい笑いを浮かべる犯人は、近衛が周囲を固めていることに全く気付いていないようだ。

「騒ぎになりませんか?」

「そこを上手くやるのが近衛の仕事だ。それに今はアーノルドに注意が向けられているから、近衛もやり易いだろう」

「なるほど・・・・凄い。本当に流れる様に拘束しましたよ? 周りの人もほとんど気付いてないみたい」

 レンは感心しているが、近衛なら出来て当然だ。

「さて。彼奴はどんな汚い歌を歌うのかな」
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